---代羽有栖---
ひたぎさんを家まで送り、帰ろうとした時、何者かに襲われた。気配を感じて、避ける。攻撃速度は人間では無い。オーラを探ると、低級な悪魔のようだ。
「おい、アガレス家の者と知っての狼藉か?」
僕は、低級な悪魔に声をかけた。僕の発言に一瞬怯む悪魔。しかし、再度攻撃を仕掛けてきた。
『ホーリーレイン』
聖水の雨を悪魔の頭上に降らせた。苦しむ悪魔。
『ホーリークロス』
聖なる十字架を放つが、腕で弾いた。うん?片腕は悪魔ではないのか?ダメージを受けた素振りがない。蹴り、突き、引き裂きなど、攻撃のラッシュを放ってきた。なんだ、この悪魔…
『ダイヤモンドダスト』
闇のオーラを微粒子状にして放つ。撃ち抜いているはずなのに、怯ますに、ラッシュを続ける悪魔…マズい。このままじゃ…
『ウルティマウエポン』
防御力無視で相手の弱点属性の魔法を放つ、僕にとっての必殺技を放ち、その場から転移して逃げた。
家に転移した僕…たぶん、傷だらけの僕の姿に驚いたのだろうか、シーナが悲鳴を上げた。
---シーナ---
ひたぎさんを送りに行った有栖が、ボロボロになって転移してきた。全身に切り傷が有り、一部は引き裂かれていた。
「どうした?有栖!」
私の顔を見て安心したのか、意識が飛んで倒れた。
「有栖、誰にやられたんだ?」
姉さんも声を掛けるが、返事はなかった。直ぐに回復魔法を掛けていく。
「なぁ、誰にやられたんだ?」
「悪魔…」
えっ?悪魔?なんで?悪魔属性の強い有栖が、普通の悪魔に、ここまでボコられることはない。それは、私も姉さんも知っている。
「この世界の冥界が相手かぁ…私だけじゃ無理だな。援軍を呼んで来る」
姉さんは転移していった。翼さん、真琴さん、あゆさんが有栖に声を掛けているが、意識が戻らない。これってエネルギー切れ?アレを使ったのかな?で、この有様って何で?
アレとは、父様の作り上げた禁術『ウルティマウエポン』。相手の防御力を無視して、相手の弱点属性の魔法を叩き込む、鬼畜な魔術。しかし、消費魔力が多い為、魔力が少ない部類の有栖には使いにくい術である。たぶん、ソレを使って、エネルギー切れを起こしたのだろう。
いずれにして、エネルギー補填をしてもらう為には、完全に回復させないとダメだな。私は私にできる回復魔法を掛けていった。
◇
翌朝、有栖の容体はまだ良くない。翼さんを、どうこうできる状態ではないので、エネルギー補給はまだ先になる。忍さんと交代で、回復術を掛けているのだが、思っていた以上に深い傷だった。急遽、父様の本隊からアーシア・アルジェントさんというヒーラーの方に来て貰い、ヒールをしてもらった。
姉さんと兄さんが、この世界の魔王をボコって来たようなんだが、魔王の強さから見て、有栖を単なる悪魔が襲えるとは思えなかった。本当に悪魔だったのか?
父様が来てくれた。
「傷から悪魔のオーラは感じられるが…あっ…そうか…悪魔であって悪魔でない者なんだ」
父様が何かに気づいたようだ。
「そうなると…」
携帯電話で誰かを呼び出す。誰を?
しばらくすると伊豆湖さんが来た。
「伊豆湖…この世界にも、遠江の猿の手はあるのか?」
「あります…それが何か?」
「息子がそれにやられた。どう、落とし前をつけてくれるのかな、伊豆湖?」
伊豆湖さんの顔からみるみる血の気が引いていく。
「まさか…遠江は既に亡くなっています」
「誰か、受け継いだ、もしくは相続した者はいるか?例えば、神原駿河とか」
父様は死を感じさす目付きで、伊豆湖さんを追い込んでいく。
「いや~、そっ、そんな目で見ないでください」
混乱寸前の伊豆湖さん。
「だから、こうなる前に、お前の血縁者も出せと言ったのに…」
「あっ、あれは…そういう意味だったんですか…」
「そうだよ。前もって、予防をしようと思っていたのだが…伊豆湖には失望したよ。何でも知っているなら、こういう事態を防げよな」
伊豆湖さんは…恐怖のあまり失禁をして、意識を失った。
「父様、遣り過ぎですよ」
「だって、有栖が…伊豆湖を信用しすぎたよ。こういうことの予防を、してくれると思ったのになぁ」
「世界によって、人格が少しずつ違うんですから、父様は人間を信用しすぎるのが欠点ですよ」
いや、信用するのは良いことだと思う。でもなぁ、父様の判断基準は、腹黒かどうかであって、姉さんのようなおバカな者でも信用してしまう。なので、姉さんがトラブルを起こすまで、気づかないこと度々だった。
「父様、猿の手とは?」
問題になっているアイテムに付いて尋ねた私。
「僕達の世界に『神器』という物があるだろう?あれは、何かの魂を器に封じ込み、宿主に力を授ける。一方、この世界の『猿の手』は、術者が作り上げた悪魔を封じ込めた器なんだが、契約した者を宿主として、その宿主の命と引き換えに、願いを叶えられる力を与えるんだ。今回の宿主は、有栖を殺したいと願ったのだろう。だから、有栖はあそこまでやられたんだ」
「悪魔と契約した者がやったと?」
「身体の一部は悪魔が宿り、報酬としてまだ差し出していない部位は悪魔ではない。たぶん、有栖は敵を悪魔と断定して、聖なる攻撃でしのごうとしていたが、悪魔ではない部位で防がれた可能性はあるな。で、最終手段を発動して逃げた。エネルギー切れを起こしても、ここに逃げ込めれば、どうにかなると思ったのだろう」
「また、襲撃してきますか?」
「してくる。宿主の願いを叶えないと、悪魔は報酬を貰えない。そして、報酬をもらうまで、宿主を死なせない。宿主は不死だってことだ」
「どうすれば良いんですか?」
「願いを成就できなくして、悪魔に完敗だと思わせるんだ。ただ、不死相手は厄介なんだよ。例えば、阿良々木暦を例にすると、シルキーの『ダイヤモンドダスト』を喰らっても、ピンピンしている。まぁ、アイツは吸血鬼もどきの不死、再生治癒能力に、フェニックスの再生治癒能力が付加した、化け物になるけど」
「今回の相手は、再生治癒能力は、無いってことですか?」
「たぶんなぁ。悪魔で再生治癒持ちって、フェニックス家くらいだが、術者が上級悪魔家の者を作り上げることは無理だと思う。あいつらは血筋が大事だから。せいぜい作っても、低級悪魔のはずだ。なので、宿主は怪我を負っている可能性はある。だけど、術師の能力によっては、宿主には怪我などのリスクを与えないようにしている可能性もある。油断は禁物だ。とりあえず、シーナ達は有栖の手当を優先してくれ。現場となった場所には調査チームを派遣してある」
父様は、そういうとお帰りになった。頻繁にこの家に来てはいるが、結構忙しい身なので、長居はできないみたいだ。
「シーナ…」
伊豆湖さんが意識を取り戻して、私に声を掛けてきた。
「あなた達のお父様の思惑通りに動けなくて、ごめんなさい」
伊豆湖さんの顔色はまだ優れなかった。父様のあのオーラを喰らって、この程度でいるのは凄い。父様の買っている人間ではある。
「姪の様子を見て来ないと…」
立ち上がろうとするが、下半身に力が入らないようだ。
「調査チームの報告待ちをしましょう。闇雲に動いたら負けですよ、伊豆湖さん」
---神原駿河---
憎い憎い憎い憎い憎い…戦場ヶ原先輩と仲睦まじいアイツが憎い…
なんで、アイツなんだ?私は…本来なら私が隣にいるはずなのに…
アイツは、羽川先輩ごと戦場ヶ原先輩を、私から奪った…
憎い憎い憎い憎い憎い憎い…どうやって、戦場ヶ原先輩の心に入り込んだのだ?私は先輩の病気もすべて受け入れる覚悟で、告白をした…なのに、完全拒否されたのに…
アイツがいたからなのか?戦場ヶ原先輩と羽川先輩が付き合っていることは知っていた。なのに、なんでアイツは、二人とも手に入れているのだ?羽川先輩だけでは、満足できないのか?
憎い憎い憎い憎い憎い…私から総てを奪い去るアイツは、消えるべきだ…
---代羽シーナ---
調査チームから報告が上がってきた。現場の残留オーラから、有栖は、父様の言うように聖なる攻撃、ダイヤモンドダスト、ウルティマウエポンを放っていた。しかし、相手の低級悪魔には、効いていないようであった。
「考えられるのは実体を伴った幻影である可能性です。団長からもらった資料から、悪魔の本体である猿の手以外は、実体を伴った幻影の可能性があります。宿主へリスクを与えない配慮のような感じです」
調査チームのリーダを務めているギャスパー・ヴラディさんから、報告がなされた。あ、団長というのは父様のことである。
「そうなると、闇の世界に取り込めば良いのかな?」
「まぁ、それも手ではありますが、それでは封印するだけで、倒すことにはなりません」
「猿の手だけ、聖なる攻撃で叩くとか?」
「願者の身体とどのくらい癒着しているかが、問題ですね。願者を殺しても良いなら簡単ですが…」
ギャスパーさんが伊豆湖さんを見た。
「団長から、神原駿河を殺さないで救済をしろと、指令を貰っています。う~、どうしましょうね」
ギャスパーさんは困った顔をされた。ギャスパーさんは、人間とバンパイアのハーフであり、父様の本隊の団員であり、チームバンパイアの隊長でもある。チームバンパイアの主な任務は、索敵、調査など、作戦を考える上での準備などをする部隊である。
「僕のチームであれば、団長がいなくても、甦らせることは可能ですから、強引に分離させて、甦らせる手が一番だとは思うのですが…」
「妖刀心渡で分離させることは可能だ」
私達の世界の忍さんが、会話に割り込んできた。彼女もギャスパーさんのチームの一員である。
「それも手ですよね。問題は、誰が斬り掛かるかです。今回の参加メンバーで、妖刀使いと言えるのは有栖君だけですが、彼が斬り掛かるタイミングをつかめるかが問題です。彼の怪我の具合を見ると、攻撃を避け切れていないようで、その状況下で怪異の部分に斬り掛かるのは困難でしょう」
たしかに、傷の一部は裂けていた。有栖自体、戦闘員向きではないとは言え、それもでも、魔王クラスを相手に戦える力量は持っている。それを凌ぐ戦闘能力となると、他の者でも、防御しきれるか問題であった。
「なぁ、私が盾になる。それでどうかな?」
伊豆湖さんが会話に入って来た。
「怪異相手なら、そこそこ攻撃を耐えることはできる。今回の件は、私が姪を庇うことをした為に起きた案件だ。私に尻ぬぐいをする機会をもらえないだろうか?」
「尻ぬぐいするなら、まず、ヤラせてもらえないかな…」
ヘロヘロ状態の有栖が這って、伊豆湖さんに抱きつきにきた。をい…
「戦うのにエネルギーが足りない…んだ…」
そう言うと、有栖は電池切れを起こした。はぁ…
「まだ、出来る状態でないでしょ、アンタは!」
姉さんに引き摺られて、治療している部屋に運ばれていった。
「とにかく、有栖君の回復が第一です。僕の部隊の回復要員も投入します。有栖君が動けるまで待ちましょう」
---阿良々木暦---
真宵との生活は、幸せであった。一点を除いて。俺にはアレがない。なので、交わることが出来なかった。が、無いはずのアレが真宵には見えていて、ある日ついに結ばれた…らしい。らしいというのは、俺的には実感がないから。アレは見ないばかりか、感覚もないのだ。でも、真宵を悦ばすことは出来るようなので、単純には喜べない状況ではあるが、まぁ、当面はこれでいいと思っている。
もし、アレが元に戻った場合、その反動で真宵が消えたら、困るので…バランスが大事だ。真宵がここにいるのは、罰に対するお釣りである。もし、その罰の部分が消えたら、お釣りは存在しないことになる。
一応、忍野に相談してみたが、俺の出した結論の通りと言われた。罰が無かったことになれば、それに対するお釣りも無い訳で…
そうして、身体のハンディはあるものの、俺の幸せな日々は、続いている。