※この作品はR-18です。

神器なき男 (再編集版)   作:もっち~!

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初登校

 

うっそうとした森を抜けると、少し開けた場所に出た。大きくて太い幹を持つ大木が1本、そびえ立っている。その枝の1本に少女が座って、そこから見える景色を楽しんでいるようだった。

 

「遅くなって、ごめん~」

 

先程の少年の声が聞こえた。少女は少年の姿を捉えて、

 

「遅いよ~祐一君」

 

と、声を掛けた…その瞬間、太い枝が前触れ無く折れた。落下して地面に激突する少女。駆け寄り、変わり果てた少女の姿を見て、逃げ去っていく少年…逃げると言うより、助けを呼びに行ったのかな?

 

僕達は少女の元に向かい、二人で治癒回復の術を施していく。

 

「大丈夫か?なぁ、意識はあるか?」

 

僕は声を掛けながら、治癒の術を施す。

 

「祐一君は…」

 

少女は少年の姿を探しているようだった。

 

「祐一君は戻って来ない…」

 

あゆさんが俯いて呟いた。

 

「あなた達は?」

 

少女が僕達の存在に気づいたようだった。

 

「通りすがりの者だよ、今救急車を呼ぶから…」

 

とは、言ったものの、この時代に携帯電話という物はまだなかったのか、通じない…あっ、どうしよう。

 

「ねぇ、病院に直接運んでください」

 

あゆさんに言われた。そうだよね。そうしよう。僕とあゆさんで、怪我をしている少女を、病院まで運んだ。

 

「手当が早かったので、大事には至らないと思います」

 

と、手当をした医者の話。頭蓋骨が陥没して脳に損傷があったけど、それは治癒の術を施して治してある。僕達は、命にかかわりそうな箇所だけは治した。病院に運び込む予定だたので、全部治すと不自然だから。

 

僕達は通りすがりの第三者ということで、その場を後にした。長居をすれば、警察の事情聴取とかでアレコレ聞かれるから。まさか、別世界の未来から来たとは言えないしねぇ。

 

◇

 

そして、家に戻ってきた。

 

でも何で、あんなに太い枝が前触れもなく、折れたのだろうか?あの箱もそうだ。あんなに底の深い箱で蓋付きじゃ、出られない気がする…何かの悪意を感じられる。

 

「有栖…何をさっきから考え込んでいるの?」

 

あゆさんが心配そうに尋ねてきた。

 

「いや、不可思議だったんで…あんなに太い枝が、前触れもなく折れるものなのかなって」

 

「そうだよね…毎日同じ枝に乗っていて、あの日も違和感なかったんだよ。それが、いきなり折れるんだもの…」

 

あゆさんも不思議そうだった。

 

「真琴さん、箱は底の深い蓋付きの箱だった?」

 

もう1つの違和感を確かめる。

 

「うん。ブラウン管テレビの箱だから、デカくて…暗くて…寂しくて…」

 

その当時の事を思い出したのか、泣いてしまった。あゆさんと忍さんが宥め始めた。

 

「どう思う?」

 

僕は見て来たことを、翼さん、ひたぎさんに話して意見を求めた。

 

「有栖くんの疑問…確かにそうよね。箱は、小さい箱が無かったのかしら?」

 

翼さんも不思議がっている。

 

「箱といえば、ミカン箱が便利よ。机にもなるし」

 

と、ひたぎさん。

 

「なんで、私には意見を求めてくれないのですか。ねぇ、先輩」

 

と、ポージングをしながら話す駿河。スルーしておこう。

 

あっ、明日から学校に通うんだ。準備しないと、僕は学校へ教科書とかを貰いに行った。

 

◇

 

学校に通うのは、僕と駿河、あとあゆさんだ。僕は高校2年、駿河は1年、あゆさんは、中学1年で、あゆさんには代羽姓を名乗ってもらうことにした。「月宮あゆ」という名前が、同じ時間軸の同じ学区に二人存在するのは、おかしいから。

 

後の者は家に待機してもらう。翼さんもひたぎさんも高卒レベルの学力だし、了承してくれた。その代わり二人には、家事をお願いしてある。

 

そして、転校当日。クラス担任に紹介されて、無事に編入した。昼休み、僕に興味のある者が近寄り、自己紹介をしてくれた。

 

「俺は、北川潤だ。よろしく」

 

明るそうな男子。

 

「私は、美坂香里。こっちの眠そうな子は、水瀬名雪よ」

 

香里さんは姉御タイプで、名雪さんは…本当に眠そうだな。

 

「私は…月宮あゆです。あの…どこかで会いませんでしたか?」

 

うちのあゆさんより乙女を感じる女のに成長したあゆさん。

 

「小さい時に、会ったかもな…7年くらい前に、この辺りで旅行したはずだから」

 

と、お茶を濁す。

 

「有栖って…女性みたいな名前だな」

 

って、北川。

 

「それってセクハラだと思うが…」

 

と、指摘すると

 

「そうだ、北川。それはセクハラだ」

 

と、乗っかった香里さん。この女の子、心に闇があるなぁ…

 

この4人とは、帰宅時までに友達になれた。

 

「部活はどうするの?」

 

放課後、香里に訊かれた。

 

「帰宅部かな…香里さん達は?」

 

「名雪は陸上部で、私とあゆと北川は帰宅部だ。じゃ、帰宅部の部活をするか。街を案内してやる」

 

と、香里さん主導で、街を案内してくれるみたいだ。

 

商店街をぶらつく。たい焼き屋の前で立ち止まるあゆさん。僕は彼女と香里さんに、たい焼きをプレゼントした。

 

「「ありがとう♪」」

 

「なぁ、俺には無いのか?」

 

北川も欲しいみたいだが、

 

「男を餌付けしない」

 

と、断言。

 

「えっ?!私とあゆを、餌付けしようとしているのか?もっと、高い物じゃないと、ダメだぜ、有栖」

 

と、香里さん。そう来るよな…で、香里さん主導でパーラーに入った。

 

「な?俺も頼んでいいのか?」

 

「北川は自払いで頼む」

 

しょんぼりする北川。その姿を笑って見ている香里さんとあゆさん。そうか、あゆさんは元気でいたのか。

 

香里さんはパフェ、あゆさんはプリン、僕はコーヒー、北川は紅茶を頼んだ。

 

「で、有栖の両親は何をしているんだ?」

 

父様は絶対神、母様は悪魔の名門家の次期当主で、戦士養成学園の副園長とは言えないので、

 

「父様は社長、母様は…入院している」

 

母様は精神を病んでしまって、未だに次期当主のままだった。学園の方は、休職扱いになっているそうだ。

 

「家は父子家庭ってことか?」

 

香里さんの質問が止まらない。転校生が少ないのだろうか?やけに僕の事に、食いついている。

 

「父様は単身赴任で、家は知り合いとシェアハウスしています」

 

などと、ウソとは言い切れない嘘を並べておく。

 

「シェアハウス?なんか、都会みたいな感じね」

 

都会?アウロスに比べたら、ここも都会だと思うんだけど。

 

「これから来ます?北川はダメだけど」

 

「なんで、俺はダメなんだ?」

 

「男嫌いがいるから、僕以外の男性は、ボコられるぞ」

 

などと、ウソをいっておく。いや、ボコられる程度で済まないかもしれないし。

 

「ふ~ん、じゃ私とあゆで行こうかな。北川、明日報告してやるから、我慢しろよ」

 

と、姉御肌の香里さんが北川を気遣う。

 

そして、パーラーを満喫して、僕達3人で家へと向かった。

 

◇

 

「ここって、名雪の家の近くじゃん」

 

って、僕の家の前で香里さんが言った。そうだよとも言えず、

 

「そうなんですか」

 

と、言っておく。そして、家の中へ…

 

「あら、早かったのね。そちらの二人は?」

 

と、ひたぎさん。

 

「同じクラスの美坂香里さんと月宮あゆさんだよ」

 

香里さんの肘鉄が腹部へ…痛いって。

 

「ねぇねぇ、あの美人のお姉様は?」

 

「戦場ヶ原ひたぎさんだよ。失礼があるとボコられるから」

 

「有栖、失礼な言い方ね、私はボコらないわよ」

 

って、ボールペンのペン先を、僕の額に突きつけてきたひたぎさん。

 

「瞬殺だから…」

 

そういうと、奥へと消えていった。恐怖を感じたあゆさんは、僕の背中に隠れ、香里さんは、固まっていた。

 

「北川を連れて来なかった理由はこれだよ…寸止めはしてくれるけど、初めての人だと、むやみに動くから、たまに刺さるんだよ」

 

そういいながら、二人をリビングに案内した。キッチンには翼さんがいた。

 

「有栖君、今お茶を淹れるから」

 

と、声を掛けてきた。

 

「お願いします」

 

「ねぇねぇ、あの巨乳のお姉様は?」

 

香里さんが訊いてきた。

 

「羽川翼さん。僕の家庭教師もしてくれているんだ」

 

「いいなぁ…」

 

香里さんって、ユリなのか?翼さんを見る目が明らかに違う。

 

「ただいま♪」

 

あゆさんが帰ってきたようだ。あゆさんの声に反応したあゆさん。

 

「あっ…あのときの天使さんだよね?」

 

って…その発言に固まるあゆさん。あゆさんが怪我を負って、病院へと運ぶ時、天使モードになった僕とあゆさん。まさか、覚えているのか?

 

「有栖くんもだよね?声を覚えているの…大怪我をした時に、助けてくれた天使さん達の声を…ねぇ、あの時の通りすがりの天使さんだよね?」

 

って…唖然としている香里さん。いや、それは正しい反応だと思う。

 

「あの時はありがとうございました」

 

って、正体がバレバレなのか?嫌な汗が出て来た僕。

 

「ねぇ、有栖…あゆの言っていることって、戯言だよね?」

 

って、香里さん。あゆさんが何かを見つけて、近寄り抱き寄せた。

 

「あの時の狐だ…ねぇ、私の事を覚えている?」

 

幼い狐は、あゆさんの匂いを嗅ぎ、あゆさんの顔を舐め始めた。

 

「え?ねぇ、あなた達は何者?」

 

パニくりはじめた香里さん。どうすれば良いんだ?

 

『正直に言っちゃえ。ここまでバレたんだ。仲間に引き込んだ方が良い』

 

と、父様から念話が飛んで来た。そうしよう。用心の為、家に結界を張り巡らせてから、正体を名乗る。

 

「僕達は別世界から者です、香里さん、あゆさん」

 

僕とあゆさんは天使の翼を展開した。

 

「やっぱり、あの時の天使さんだぁ~♪」

 

あゆさん…紛らわしいからあゆちゃんにしよう。あゆちゃんが僕達に頭を下げた。

 

「で、彼女は、別世界のあゆちゃんだ」

 

と、あゆさんを紹介した。

 

「別世界の私…別世界では私は助からなかったの?彼女は、私の小さい頃に似ているし」

 

「そうだよ。別世界では植物人間になってしまったんだ。その後、訳有って、天使見習いになったんだ」

 

「ねぇ、あの時の怪我って酷かったの?」

 

綺麗な瞳に涙を溜めて、質問してきたあゆちゃん。

 

「あぁ、頭蓋骨が陥没して、脳が損傷し、脊髄もボロボロだった。だから、別世界のあゆちゃんは植物人間になってしまった」

 

「私は?」

 

「僕と彼女で命に関わりそうな怪我は治癒させた。だから、今ここにいるんだよ」

 

「ありがとう…」

 

あゆちゃんが、あゆさんに縋りついて、お礼を何度も言っていた。ここまで蚊帳の外状態だった香里さんが口を開いた。

 

「ねぇ、どんな病気でも治るの?」

 

「精神を著しく病んでいる場合は駄目だよ。僕の母様がそうなんだけど」

 

少し考えて込んでから

 

「私の妹…原因が不明なの。医者には次の春は来ないかもって…」

 

栞ちゃんだっけ?別世界では父様が治したはず。なら、僕でも出来るかな?

 

「試してみる?原因不明なのが気がかりだけど…」

 

そして、香里さん、あゆちゃんは仲間になり、僕は僕達がこの地に来た理由を話した。

 

「悪意が渦巻いているの?この街には?」

 

驚いたような表情の香里さん。

 

「まだ、調査段階なんだけど、不可解な事があるんだよ」

 

幼い狐の事、あゆちゃんの事故のことを話した。

 

「確かに、不可解よね。でね、あの木は今は無いのよ。事故があったので切り倒したの。そうか、事故ってあゆの事故だったんだね」

 

って、香里さん。切り倒したの?死んだ木だったのかな?

 

『死んではおらん。ご神木といっても良いレベルの大木だったようじゃ』

 

現場へ調査に行ってくれている忍さんから念話が届いた。僕の心の中の推理は、忍さん達と共有していた。

 

そんな大木の太い枝が前触れ無く折れるものなのか?柔軟性もあるだろうし。

 

「そうなると、妹の病気も?」

 

香里さんが心配そうに言った。

 

「かもしれない。なんらかの悪意に触れてしまったのかもなぁ」

 

共通する人物はアイツだと思うが、現段階でこの地にはいない。遠隔でどうのこうのできる能力者なのか?身辺調査をさせた方が良いなぁ。

 

「で、香里さん。僕はどうやって栞ちゃんと接触すれば良いかな?」

 

「あぁ、そうだね…突然来られても…そうだ。妹の散歩コースを教えるから、散歩の途中で、知り合いになれないかな?」

 

う~、それも手ではあるが、

 

「栞ちゃんが寝入った頃に、お邪魔して、徐々に治癒させるのは?」

 

「妹の部屋に夜這い?」

 

『夜這い』という単語に反応して、一瞬殺意の渦が生まれた気が…ひたぎさんかな?

 

「夜這いじゃなくて、天使なんで、人間技じゃない方法で、先ず心の汚染状態を調べて、原因を探らないと、治癒の方針が決まらないからね」

 

「妹には手を出さないで」

 

「には?」

 

語尾が気になり、何の気なしに、訊いてみた。僕の疑問に、頬を赤らめた香里さん。

 

「もう、意地悪ね、有栖は…」

 

うっ…またも、良い角度で香里さんの肘鉄が、僕の腹部に叩き込まれた。

 

「香里さん、有栖君は鈍いのよ。ふふふ」

 

って、翼さん。父様同様、僕にとっても、女心は不可解です。

 

そして、話している間に、夜が更けてきたので、あゆちゃんと香里さんを、夜空の空中散歩で家まで送り届けた。

 

 

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