---有栖---
翌日、舞と香里のおかげで、どうにか動けるレベルには回復した。でも、戦うのはきついかな。下手すると、人化が解ける気がする。
未だに、家の周囲には式神が、うようよいる。通学が出来るのか?
『今日は全員、家から出るな!』
父様から念話が届いた。父様が首を突っ込むって、結構ヤバい状況のようだ。
「みんな、すまないが、今日は学校を休んでくれ」
ガイア兄様が、みんなに父様からのメッセージを伝えた。みんなの顔が青ざめた。
「それって…すごく深刻な状況なんですか?」
声を振り絞ったのだろうか、少し裏返った声で、香里が質問をしてきた。
「そういうことだ。昨晩のうちに減らすことが出来なかった。寧ろ、増えている。九重さん、真琴でこの家の結界を維持している。この家の中なら、当分安全だよ」
当分?どういうこと?
『ロスヴァイセさん、ルフェイさんは重体だ。式神が、口と鼻を塞いだようで、脳が酸欠状態だ。今回の敵はマズイぞ』
ガイア兄様から念話が届いた。え?元人間の転生ドラゴンはダメなのか?
『あぁ、俺達悪魔とかじゃないと無理だ。九重おばさん、真琴もダメかもな』
式神恐るべし…そう言えば、濡らしたティッシュペーパーで人を殺せるとか聞いたことがあったっけ。
『一反木綿みたいに長いヤツだと、絞め殺される可能性もある。紙は厄介だよ』
珍しく兄様が、泣き言のように言っている。それだけ厄介な敵なのか。
『この局面を打破できる者はいるんだけど…呼吸しなくても大丈夫な人…』
あぁ、ダメだろ。また、ペナ喰らうって…手加減は出来ると思うけど、暴走しまくるからな…父様は…
『ラスボス様は、来る気が満々だよ。どうする?暴走したら…シルキーもシーナも療養中だし』
シルキーは僕の姉で、シーナは僕の双子の妹だ。イッセさんは?
『この世界を崩壊させていいなら呼ぶけど』
だよね。ラスボス対決は無理だな。イッセとは最強の部類に入るハーフドラゴンである。そうだ、白音さんは?
『別案件でいない。でも、万が一に備えて、呼び出しは掛けたよ』
白音さんは、父様を無力化できる唯一の人だ。父様は彼女の笑顔を弱点に上げているし。
『父さんが、乱入する前に、こっちでどうにかするしかないだろ?』
そうだね。どうするか…
---相沢祐一---
以前、来た時と何かが違う水瀬家。なんだろうか?そう言えば、一度もおじさんに会ったことが無い。名雪の父親に当たる人。何をしている人なのかな?いや、死別の可能性もあるよね。で、遺産でこの家を買ったのだろうか?母娘の二人暮らしには不釣り合いすぎる大きな一軒家なのが、不思議だけど。やっぱり、おじさんはいるって、思うのが普通だよな。
いや、もっと根本的なことが…僕は両親とこの家に来たことが無い。なんでだ?僕の記憶が消えているのだろうか?全く以て思い出せない。そもそも水瀬家って、母方なのか、父方なのかが分からない。
僕は、知っているようで知らないことが多いことに、気が付いた。そして、問題にも…名雪と結婚は出来る。だけど秋子さんとは法律上はアウトのはずだ。なのに、僕は秋子さんの中に出しまくった…ダメだろうに。いや、抜け道というか、未だ見ぬ叔父さんが、僕の両親の兄弟の場合なら、血縁上は問題は無いか。
そもそも名雪は、母親と僕との関係は問題にしていない。それも、おかしい気がする。彼らに相談してみようかな。
って、学校に行くと、彼らは全員、欠席していた。なんでだ?何か遭ったのだろうか?
◇
放課後、名雪は部活に行き、僕一人で帰宅することにした。校門を出た処で呼び止められた。
「相沢祐一君…だよね?」
声を掛けてきた人達を見ると、大学生くらいの男女だった。
「そうですが、あなた達は?」
「君の疑問を、一緒に解消しようと思ってね」
男の人が答えた。僕の疑問?なんで、この人達は知っているんだ?
「僕達は心が読めるんだよ。僕は…太郎、彼女は…豆子だ、よろしくな♪」
この人達と一緒にいると、暖かい気分になる。悪い人では無いようだ。怪しいけどね。
「僕も豆子も陰陽師の家柄でね。君に纏わり付いている物が、気になっちゃって」
僕に纏わり付いている?何が?
「う~ん。何って…ここじゃ、危険だ。場所を移動しよう。あぁ、僕達と一緒なら安全だよ。結界を張って君も含めて、防御しているからね。あと、さっきも言ったけど、僕達は心が読める。だから、君は声に出さないでも、心で思えば、会話が出来るからね」
そうか、結界内だから、この人達のオーラに包まれて暖かいのかな。
「うん♪理解の早い子は好きよ♪」
彼らと一緒に場所を移動した。ここは?『月宮神社』と書かれている。神社なのか。こんな場所に神社があるとは。
「ここなら、しばらくの間は、安全だと思う。君の疑問の一つ、おじさんの存在だけど、役所で調べてみたが、水瀬秋子は未婚だ」
えっ?じゃ、名雪は…
「父親に認知されていないとか、娘が生まれる前に死んだ可能性も、否定はできないけど。まぁ、役所に残っている書類を見る限りは、そういうことになる」
あぁ、そうですよね。調べようがないですよね。
「次に家の登記簿を調べてみた。これが不思議なんだけど、登記されていなかった」
どういうこと?
「本来、あそこには家が無いってことだ。家を建設したなら、登記すべきことなんだけど」
でも、現実に家はあります。
「そう、だから、不思議な事なんだ。次に調べたのは娘の出生の記録だ。戸籍にはあるけど、どこで産まれたのか不明だった。本籍は二人共、最初からあの家の地番だけど」
言っている意味がわからない。
「登記上、何もない場所に、あの二人は産まれた時から住んでいるってことだ。君の両親は、どちらかがあの場所に住んでいたのかな?」
どうなんだろう?
「記憶を消されているのか…それとも、記憶に元々無いのか…判断は難しいな」
「来たわ!」
豆子さんが声を上げた。僕達の周りで、火花が飛んでいた。
「結界で防御しているから、大丈夫。敵の攻撃が結界に当たって、火花が飛んでいるだけだ。心配しないで大丈夫。祐一君、神社にいる間は君を護るから」
神社から出たら?
「護るのは難しいかな。結界を張った神社に、アイツらは侵入できるんだから、神社を出たら、今周囲に張っている結界だけでは難しいかな」
そんな…
「うざいな…『ファイヤーウォール(火の壁)』。結界の外を火の壁で覆った。これで結界に火花は飛ばないはずだ」
太郎さんは魔法が使えるようだ。僕を護ってくれる、この二人って何者だ?
「僕達か?クラスメイトに有栖っているだろ?その関係者だ」
「そうだ、有栖君達は、今日はなんで欠席したんですか?」
今日の不思議な出来事の真相を、確かめようとした。
「あぁ、家から出られないんだ。さっきの火花の原因に、家を包囲されてね。香里くんやあゆくん達も一緒に有栖の家に避難していたので、全員欠席になったんだよ」
僕だけでなくて、有栖君達も襲われているのか…
「この街では何が起きているんですか?」
「う~ん、この街ではかぁ…事実を知ると、君はこの街に、いられなくなるかもしれないが、それでも知りたいか?」
どういう意味だ…
「この街の秘密になるのかな?って、来ちゃったよ~」
って、誰が…え?火の壁は消えていた。そして、目の前には名雪がいた。
「祐一…その女は誰?ねぇ、私の祐一を返して!いや、返しなさい!」
何かが振動する音がしている。
「マジかよ…僕の結界が破られそうだ。まいったなぁ…」
困った風なことを言いながら、笑みを浮かべる太郎さん。次の瞬間、僕達は違う場所にいた。
「あぁ、月宮神社を壊滅か。やることがひでえな、祐一君の従兄弟は」
窓の外を見ている太郎さん。僕も見てみると、煙がもうもうと上がっていた。え?ここって空の上?
「そうだよ。浮遊する城なんだ。ここは。アイツらはここまで上昇出来ないはずだ」
見下ろすと、僕達が居たであろう神社は、クレーターのようにえぐれていた。
「まさか、結界の外周に沿って、抉るとは思わなかったよ」
地面が抉られたのか。結界には入れないから、名雪は…え?名雪?
「そういうことだ。雪、氷系統の魔法が使えるようだよ、君の従兄弟は。僕の火の壁を容易く結界の外から消すって、有り得ないなぁ。これは強敵だ」
「ここは安全なんですか?」
「安全なはずだ。でも、わからない。侵入してくるかもしれないな。親玉の方は」
親玉?まさか、秋子さん?
「そういうことだ。娘の方は上空には来られないけど、親玉はここを見つければ、来るだろうな」
なんか危機的な状況に聞こえるけど、太郎さんは笑みを絶やさない。
「上空なら、コチラも攻撃できるから、少し安心していいよ。問題は有栖達だな。どうするかな」
---有栖---
家から避難しようにも、転移ができない。転移をすると、時空の揺れを察知して、忍び込んで来る可能性があるから。困った。兄様も困っているし。
「結界がいつまで保つかが勝負かな」
と、九重おばさんが呟いた。
「真琴は限界だし」
真琴さんは、電池切れでダウンしていた。少し復活したロスヴァイセさんが、真琴さんの代わりに結界を張り続けてくれている。
「兄様、どうします?」
「どうするって…有栖は戦えないし、真琴もダメだろ?あゆは回復要員だし、あとはルフェイさん次第かな」
兄様は時折り家の周囲に、『滅びの霧』を発生させて、敵を排除しているのだが、湧き出るように集まってくる式神達の前に、ダウン状態だった。
「なんだろうね、こんなにこざかしい敵も珍しいよ。見えない上に数がトンでもなくいるし」
敵の本体を叩かないとダメみたいだ。でも、それをできる者は、ここにはいない。防御に魔力、妖力を集中しないと、危険な状況であった。
『第一ラウンド、僕も敗退だよ~♪』
って、父様の念話が届いた。え?参戦しているの?いつの間に…
『父さんは何と戦っているんですか?』
兄様が尋ねた。
『娘の方…僕の火の壁を、伊豆湖の張った結界の外から消したよ。なんだ、あの紙っぺらは?で、僕の張った結界を揺さぶってきた。あっ、月宮神社は壊滅したよ。あゆちゃんに謝っておいて…』
え?なんで…
『伊豆湖の張った結界の外周から、地面を抉りやがった。尋常じゃ無いぞ、今回の敵は』
え?膨大な敷地をまるごと抉ったのか?鎮守の森もまるごと…
「あゆちゃん…言いにくいことだけど…ごめん、月宮神社を護れなかった」
僕はあゆちゃんに頭を下げた。
「えっ…有栖君達が懸命に結界を張ってくれたのに…それでもダメだったんだ…ねぇ、頭を上げて、有栖君…相手が悪かったんだよ、きっと…」
『有栖…父さんの方に娘が行ったってことは…』
兄様から念話が届いた。そうですね。こっちには…まずいなぁ…娘ですら、父様を敗退させる力なんだよな。
『う~ん、相手は私よりも上なんだよね。どうする有栖?』
九重おばさんも弱気になってきている。どうするよ。この戦力で…
「私が戦おうか?」
舞が戦う意欲を表明した。
「ダメだ。舞さんの身が危ない。僕は、みんなを護りたいんだよ」
戦力になっていない僕が言っても、意味をなさないけど。
『最終手段…兄様、後のことはお任せして良いですか?』
最後の悪あがきをして来ると、兄様に伝えた。
『死ぬなよ、アリス』
僕は、翼とひたぎにアイコンタクトで合図を送ると、二人とも了解してくれたようだ。
「戻って来てよ、有栖」
「有栖…」
二人から…僕の知らないうちに婚姻をした妻達から、声がかかった。さて、行って来るかな。父様は母様に、別れの言葉を言えないで出征したけど、それに比べれば僕は少し幸せかな。