出逢い
魂が受精卵に着床した。それと共に見知らぬ老人が話し掛けたきた。
「それがお前の新しい器だ。これより産まれ出るまで、勉強漬けじゃ~♪」
勉強って何だ?新しい器って?よくわからないまま、色々な知識を叩き込まれていく。産道を通るまでの十月十日の間…
そして、神代亘として産声をあげた…
---亘---
無邪鬼なる鬼の退治の依頼が、神代家に舞い込んできた。当主と総代3名と僕が討伐隊として、その鬼退治に向かうことになった。
「亘、あんたで大丈夫なの?」
姉ちゃんの神代綾香が、心配そうに言った。
「どうだろう?僕はまだ正式な陰陽師では無いからねぇ」
僕達、姉弟の生まれた神代家は代々陰陽師を輩出している家である。神の代理人といわれる程、強力な術を使える者を多数輩出していた。
姉ちゃんもそれなりに、能力が高いのだが、女性は陰陽師になれないしきたりであり、今回の経験を積む為の参加枠は、僕に白羽の矢が立ったのだった。
「姉ちゃんが参加すればいいのに」
「したいけど…私は経験を積む必要が無いし、何よりも山籠もりに近い生活なんて耐えられ無いわ~」
陰陽師の家の娘とは言え、普通の女の子である。トイレの無い現場は嫌いらしい。
「まぁ、お札作りは手伝うわよ」
姉ちゃんとお札作りをする。清めた材料で作り上げた固めの和紙に、魔法陣を描いていく。使う時に、お札に念を込めれば術が発動する。
「鬼退治って、桃太郎みたいだね」
「一寸法師って言うのもあるよ」
姉ちゃんとの楽しい日常は、これからも続くと思っていた。なのに…
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情報を元に、山へ分け入る。崖を登り、道無き道を進む。川沿いの谷間に出た。パワースポットとして、有名な場所である。
総代3名が呪文を唱える。空間に揺らめきが生じた。
「おったな」
当主の声。目的の鬼を見つけた。総代3名が術で鬼を拘束した。総代の作った封印のお札を鬼に放ち、僕と総代で念を送り付ける。お札を貼られた鬼は光の渦に飲み込まれて行く。
『お父さん…』
僕の脳裏に誰かの声が響く。誰だ?惑わしの術か?しかし、懐かしいオーラを感じる。どこか懐かしい。昔に感じたオーラだった。でも、僕はまだ生を受けてまだ日が浅い。小学生目前である。お父さんと呼ばれる道理は無い。
「何?封じ込めないだと?」
総代から驚きの声が漏れた。お札が燃えていく。お札よりも鬼の方が強かったのだ。
「おい、拘束は解くな!」
2枚目のお札を放つが、結果は同じである。最初の1枚目が一番強力なお札だったのだから、2枚以降は通用しないはずだ。
「くそっ!どうするか…う~ん…」
総代達の顔には疲れの色が浮かんでいる。相当な念を込めて、鬼を拘束しているのだろう。役に立ちたいと思った僕は決断をした。
「父上、今までありがとうざいました」
はっとした当主。
「亘…何をする気だ?」
僕は禁断な術が書かれた巻物を取り出した。
「おい、それは使うな!」
「父上、姉ちゃんをよろしくお願いします」
「ダメだ!お前のような若輩者が使う物では無い。それは人間を辞める術だぞ」
僕は当主の声をスルーして、術の発動を始めた。ここで逃がしたら、二度とチャンスが無い気がした。あの鬼と一緒に生きたい…そんな気持ちにもなっている。
巻物に書かれていた呪文を全て唱え、最後に描かれている魔法陣に、僕の持っている念を全て注ぎ込んだ。魔法陣は発光をし、巻物が燃えていく。僕の周囲に魔法陣が展開され、鬼の身体とリンクした。
『おいで、僕の身体に…』
鬼は光の粒子に分解され、僕の身体という器に吸い込まれて行く。そして、鬼はお札に封じ込めた。紙のお札では無く、僕の身体を使った人札に…僕の身体の中で藻掻いている鬼。僕は使える物を全て使い、鬼を完全に封じ込める。僕の感情を総て鬼に供物として捧げる。見返りには、大人しくして欲しいことを願った。僕の願いが通じたのか、鬼は藻掻くことを止めた。
「亘…」
「わかっています。もう、陰陽師は出来ません。僕は人間では無いですから」
身体を器にしたことで、僕はアイテム属性の人間となった。
「若…」
総代の方々が、僕に対して涙を流してくれている。
「泣かないでください。僕は生きています。大丈夫ですから」
「亘…何を供物に差し出したのだ?」
当主に訊かれた。
「僕の感情を総て差し出しました。無くても生きていけますから」
「そうか…すまぬ…私は未熟な為に…」
当主は僕に頭を下げた。
「頭を上げてください。僕は役に立ちたかっただけですから。悲しみも苦しみも何も感じません」
感情を無くした僕には、そのような感情は無かった。
「お前…わかったいるのか?お前はもう、愛することも出来無いんだぞ!」
当主は怒っているようだった。
「どの道、僕は人間として生きていないでしょ。愛なんかささいな…」
パシィ!
当主の平手が僕の頬を叩いた。
「亘…お前は愛の大切さを軽んじていたのか?」
「すみません…愛って何ですか?」
「お前…そうだな…大切な者を護ることだ。いいか、この先、大切だよと思った者は護れ。それがたぶん、お前にとっての愛情表現なのかもしれない」
「はい、肝に銘じておきます」
案件が終わり、帰途についた。僕はたぶん、家の敷居を跨げない気がした。きっと、あの人は僕を許さないと思うし。しかし、今後のことを相談する為に、家へと僕は持ち帰られていった。
家の門の前に着いた。そこにはあの人がいた。
「亘…魔物に身を落としたのか?」
僕の大好きだったあの人は、鬼の形相をして僕に対峙した。
「綾香、これには理由が有るのだ」
当主が間に入るが、
「どんな理由が有ろうと、魔物に身を落とすような、心の弱いヤツは神代家には必要有りません。私の手で消し去ります」
姉ちゃんには当主の言葉は届かない。まぁ、こうなるだろうと僕にはわかったいた。この後の選択をどうするかだ。姉ちゃんに消されるか、それとも無邪鬼とともに生きるか。
「化け物よ!いかなる理由であれ、神代家の敷居を跨ぐことは許さない!」
僕が考えている間に、姉ちゃんは術を発動して、放ってきた。存在を消し去る系の術のようだ。僕は後者を選択して、間一髪、その場から専用フィールドへ転移をして逃げた。
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逃げたのびた先は祖母の家だ。現状の僕の能力では、そこと専用フィールドと神代家本邸にしか転移できなかったから。この家には、祖父はもういない。祖母だけが、世捨て人のような生活をしていた。そんな祖母が僕の気配を察して、僕を見つけてくれた。
「亘…あぁ、何も言わないでいい。なるほど…」
祖母には相手の記憶を読む能力があった。男に生まれていたら、素晴らしい陰陽師になっていたと言われるくらい能力が多彩らしい祖母。僕の事情を読み取った祖母が、僕を抱き締めてくれた。以前だったら、嬉しい行為であったのだが、今の僕には、どうしていいのかわからない。
「感情が無いとは、悩ましいものだな。問題はこの先だな。このまま亘を放置は出来無い。どこかに預けるかな」
僕の行く末を案じてくれた祖母は誰かと念話で会話をしだした。
「亘、私の古い友人が預かってくれるようだ。名前は神内亘を名乗りなさい。もう神代家には戻れないだろうから」
「はい」
神内は祖母の旧姓である。祖母のおかげで、今後の住処が確保できたらしい。ここにいつまでも居られない。姉ちゃんがやって来たら、祖母に迷惑を掛けると思うし。祖母の友人が迎えに来るまで、祖母の家で生活することになった。
---神代綾香---
弟を本気で殺そうと思っていた。だけど…冷静になって当主の話を聞き、早まった判断をしたことに気づいた。後の祭りであるけど。弟は弱くなかった。当主でさえ、人間への執着心から使えなかった神代家の奥義、『人札の術』を迷うこと無く使ったそうだった。これを使えば、人間であることを止めないといけない。禁断の術として、本家筋の者には、言い聞かせ、絶体絶命と思える局面でしか使うなって習ってきた。それを、あの局面で使ってしまったそうである。
「家の者達に別れを言いたかっただろうに…」
当主…私達の父上は上を向き目を軽く閉じている。目尻に輝る物が見える。母上は別室に籠もってしまった。啜り泣く声だけが聞こえる。総代や分家筋の者も、亘の行く末を案じ、皆何かに耐えているようだった。
「世間体もあるので、亘は禁を破り、破門ということにする。表向きだ。裏では支援をしてやってほしい。頼む、みんな…」
父上…頭を下げるなどしなかった当主が、みんなに頭を下げた。
「頭をお上げください。若は我らの誇りです。躊躇なく使われたそうじゃないですか。煩悩がある我らには出来ぬ行為です。頼まれなくても支援しようと思っていました」
若頭の者が当主に、皆の総意を伝えていた。
こんなに思ってくれているのに…私は…謝りたい。いや、弟に謝らないといけない。どこにいるのかな?
---亘---
祖母の古い友人だという、ストラーダさんとバチカンという国に来た。ここにある教会戦士育成機関で、僕の能力が活かせるらしい。
「ここで剣の扱い方や、聖書の教えを勉強してもらう。上級以上の聖戦士になれば、案件をこなしてもらうことになる。基礎、基本をじっくりと学んで、上を目指しなさい」
と、お言葉を頂いた。ここは寮生活で、中級戦士になるまで、ほとんど自分の時間は無いらしい。四六時中、勉強だそうだ。まぁ、神代家でもそうだったので、苦では無い。いや、感情が無いから苦ではないのかもしれない。
陰陽師が使う日本刀とは違い、剣は重い。斬り裂くというより、叩き切るという表現が合うかな?剣術は身体が覚えているのだが、剣を扱う筋力と体力が足り無いもで、長時間戦は苦手だ。
育成機関では剣術だけでの戦闘訓練なので、術は使えないみたいだし。結構、苦戦中だ。みんな僕より身体が大きいし。う~ん…
「亘…お前はいくつなんだ?」
ストラーダ先生に訊かれた。祖母に聞いていないのか?
「たぶん…7歳かな?」
ここにいると時間の経つのが分からない。昼も夜も、窓の無い部屋での鍛錬、勉強だし。
「え?そんなに幼いのか?陰陽師見習いと聞いていたが…」
僕の返答に驚く先生。
「3歳の時から見習いです。15にならないと陰陽師にはなれませんから」
何かを考え込む先生。そして、
「これを使ってみなさい」
バトンリレーで使うようなバトンを手渡された。
「これは?」
「バトンソードだ。握って念を送ると、剣になる。幼子なら、練習用の剣では重いだろうから」
そうです。重すぎです。剣の重心バランスが、良く無いし。言われた通り、握り締めて念を送ると、バトンソードの先から刃が発現できた。
「練習無しに使えるのか…」
先生は何か恐ろしい物を見るような目つきになった。『ホーリーソード』と念じると、刃は聖剣のように変化していった。
「何?!聖剣だと…」
突然、先生が斬り掛かってきた。剣で受けとめる。
「デュランダルの破壊力を受けとめるだと…」
先生の剣の刃の腹部分に峰を滑らせていき、先生の懐に張り、足技で体勢を崩させて、顔の前に剣先を向けた。僕のことを周囲の皆が、注視している。何か得体の知らない物を見るような視線である。
「剣を引いてくれ…亘、明日から最上級クラスへ編入だ。ソレを使えるなら、ここではダメだ」
と、クラス替えを言われた。剣に念を込めるのを止め、バトンを先生へ返した。
「いや。これは亘へやる。後…ちょっと来てくれ」
先生の後を付いて行く。武器庫らしい部屋へ通された。
「ここにある剣で、使えそうな剣を選んでみてくれ」
目利きのテストだろうか?一番端にある。綺麗な鞘の剣を手にした。綺麗ってことは、誰も使っていないと思うから。
「まさか…それを選ぶのか…」
その剣を腰に下げ、鞘から剣を抜いた。
「抜けるのか…使い手を選ぶその剣を…」
見た目より軽い。軽く素振りをする。うん、狙った剣筋を通れる。これは使い易いな♪
「これ、使い易いです。これ、使って良いですか?」
先生の顔は変な汗で塗れている。
「あぁ、お前が使え…それを使える者は誰もいないから…」
あぁ、誰もいないから綺麗なんだね。それが、僕とエクスカリバーの出逢いだった。