---シュウ---
放課後、リアスとヴァイラは理事長室に呼び出され、僕は朱乃さんと帰宅をしたのだが、
「シュウ君…寄りたい場所が有るんだけ…」
朱乃さんは、何かを思い詰めた表情をしている。
「朱乃さんに、おまかせします」
特に用事が無かったので、朱乃さんのお供をすることにした。彼女は、家とは違う方向へと歩き出した。そして、来た事の無い場所に着いた。目の前には長い石段がある。
「ここを登り切った場所なのよ」
と、二人で石段を登っていていく。半分くらい昇ると、赤い鳥居が見えてきた。神社のようだ。それも廃れているのか、神格性がまったく感じられない。
昇り切り、鳥居を潜ると、本殿が正面に見えた。朱乃さんは。本殿には向かわずに、裏へと進む。そこには住居部分のような家があった。
「ここよ」
僕と朱乃さんは、その家に入っていく。家に踏み込むと、良く無い気が充満していた。僕は咄嗟に、浄化術を発動した。濁っていた空気が清々しくなっていく。そんな僕の行為に驚く朱乃さん。
「シュウ君…一体、君は…」
朱乃さんの質問はスルーした。それよりも気になるオーラを感じ取ったからだ。僕は、朱乃さんより前を歩き始めた。強い無念さを感じる。その残留オーラから。一番強く感じる部屋に、足を踏み入れると、一瞬何が起きたかの映像が断片的に見えた。無念だったろうな…
部屋の中を見回ると、乾燥した血だまりが有ったり、襖、欄間などは破壊されていた。断片的に見えた映像通りだ…
「シュウ君…お願いが有るの」
朱乃さんが、絞り出すような声で言った。
「お母さんの遺品はある?」
断片的に見えた映像から、朱乃さんのお願い内容が分かり、彼女に訊いてみた。
「えっ?」
「無念の内に殺されたお母さんを、甦らせたいんでしょ?」
「どうして、それを…」
秘めた願いを言い当てられ、驚いている朱乃さん。
「何も無い?」
「うんうん、有るわ」
部屋に有ったタンスから装束を出した。
「お母さんの巫女装束なの。これでいい?」
「いけると思う。儀式を行うから朱乃さんは、身を清めてきて♪」
朱乃さんは頷き、身を清めに行った。そんな必要性は無いんだけど。禁術の場に立ち会うことで、彼女を巻き込みたくなかったから。大罪を背負うのは僕だけでいい…
---朱乃---
シュウ君は何者だろうか。心の内を読まれてしまい、思わず動揺してしまった。井戸の前に、巫女装束を持っていき、濡れない場所に置いた。着ている物を総て脱ぎ、井戸水で身を清めていく。そして、身体の水気を拭い、巫女装束に着替えた。儀式の準備が終わり、部屋に戻ると、シュウ君の姿は既になかった。そこには、彼の代わりに…
「朱乃?朱乃なの?」
あまりの事で声が出ない。私は頷いた。
「そう…大きくなったわね…」
「お母さぁ~ん!」
既に、母は甦っていた。母に抱きつき、母の温もりを感じ、母の身体の感触を感じ、母に泣き縋る私。
彼は禁術の儀式に、私を関わらせない選択をしたようだった。
「彼に、お礼をしないとね…朱乃」
「うん♪」
---リアス---
放課後、理事長室に呼び出された私とヴァイラ。理事長室に行ってみると、そこにはお兄様他3名の魔王様、大天使のミカエル、堕天使総督のアザゼル、八重垣牧師と知らない女性がいた。
「これで関係者は皆、集まったな。では、お願いします」
アジュカ様が、見知らぬ女性を促した。
「初めまして、この世界でシュウと名付けられた者の姉です」
と、自己紹介をされた。シュウの姉?いるなんて聞いていないけど。
「弟が今回、やらかしてしまった件に関して、関係者の方々には知ってもらいたいことがあり、地上に降りて来ました」
地上に降りて来た?それって、天界とか天上界の者なのか?えっ…だとすると、シュウって…
「まず、シュウの産みの親ですが、今世においてはおりません。リアスさん達は転生をして、今世にも産まれましたが、シュウは前世において死んでおりません」
うん?前世において死んでいない?って?
「それは、前世から今世に、やってきたという理解でよろしいですか?」
アジュカ様が質問をされた。
「そうです。今度こそリアスさんを護る為に」
今度こそ私を?それって、シュウの願い…
「前世の終わりに、弟はやらかしてしまいました。リアスさんを護り切れず、彼女の願いである消し去ることを実行したのですが、消し去ることで転生が出来なくなることに気づき、彼女の魂を護る為に、弟は魂の一部を除いて、総てをロストしました」
私の魂を護る為に…ロストした…その言葉により、私の目から涙が零れ出て来た。私の為に、シュウは前世で消え掛かったようだ。よろけた私に気づいたヴァイラが、肩を貸してくれ、どうにか立っていられるけど、足や膝が震えていた。
「無邪鬼の願望遂行能力は、願者の願いをストレートに叶えます。なので、彼女の願いを彼女のロストだと思ったようで…その事に気づいた弟は、必死で護ったようです」
私の願いのせいで…シュウは…
「無邪鬼との関係は、星の記憶とか伝承の通りで良いのか?」
アザゼルが質問をした。
「まぁ、あんな感じです。無邪鬼自体は害の無い魔物ですが、宿主次第でラスボスになり得る能力を持っていました。退治をしにいった時は脅威ではなかったのですが、将来的な不安から、各神格筋より、封印の依頼が来たのです。そこで、私達神代家では、5名のトップクラスの陰陽師を派遣しました。派遣されたのは、当主、総代3名に加えて、次期当主候補になるのだろうと言われていた弟が、参加しました。しかし、持ち込んだ封印の札、その世界では一番強力な封印札だったのですが、無邪鬼には効果が無く、総代3名が無邪鬼の動きを封じるのが精一杯だったそうです。事態は最悪な方向へ向かっていました。総代のうち1名でも体力を無くし離脱すれば、無邪鬼は逃げてしまう局面になったそうです。そこで、弟が禁断の魔術を発動して…うっうっ…」
シュウの姉は、嗚咽を漏らした。記憶が甦り過ぎたのだろうか。しばらくすると立ち直り、話を続けた。
「すみません。取り乱して…私もまだまだ修行が足りません。感情が残っているんですから…」
感情が残る?その表現に、違和感を感じた私。
「弟が発動した術は、生物としての人間を辞め、アイテム属性の人間になり、自らの身体を封印札…人札に変え、無邪鬼の封印に成功しました。その結果、弟は色々な物を無くしました。次期当主の座、生業にしようと思っていた陰陽師の地位、神代家の一員であること、何よりも総ての感情すらも無くしました」
愛しているのに、愛せなかった…感情が無いから、愛せなかったのかな…シュウ、どうなの?
「そう、リアスさんの考えの通り、弟は愛したくても、あなたを愛せなかった、その為に、あなたを護り切れなかったと、思い込んだようなの。今世においても、弟は感情が上手く機能しません。精神は既にボロボロです。後、膨大な術式を覚えている為に、記憶領域が少ないです」
だから、ストレスに弱い。いや、溜め込んだことに気づかなくて、吐き出し方も知らないのかも。だから、暴発し易いのか?そもそも、ストレスをストレスとして、認識できていない可能性もある。
記憶力が悪い原因も分かった。彼は、どれだけ多くの術式を覚えているのだろうか?
「一番の問題点ですが、先程、弟は魂の一部以外をロストしたと申しましたが、そのロスト分を補填する感じで、無邪鬼の物を使用しています。徐々に弟の物が再生していけば、無邪鬼の割合は減っていくと思いますが、今世において、弟1%、無邪鬼99%って感じです。今、弟が持っている創造能力は無邪鬼の能力です」
「シュウ君の本来の能力は何ですか?」
お兄様が質問をした。
「『安堵』…触れ合う者に安堵感や、安心感を与える能力です。あと…すみません、時間切れです。また、お会いしましょう…」
お姉様は消えてしまった。触れ合う度に落ち着くのは、シュウの能力のおかげなのか。だから、交わっても、誰からも文句は出ない。不安やストレスを癒やしてくれるのかもしれないな。でも、そのシュウのストレスは、どうすれば癒やせるのだろうか?
「時間的に制約があるんだよ。2柱1対なんだけど、1柱は使い物にならないから、彼女が一人で切り盛りをしているそうで、長い時間に渡って、仕事場を空に出来ないそうだ」
っと、アジュカ様。うん?使い物にならない1柱って…シュウなの?前世の私のせいで、彼を不完全すぎる神にしてしまったのかな…
「リアス君、背負うな!これは、前世で彼らに丸投げした各神格筋の問題なんだから」
と、アジュカ様が私を気遣ってくれた。
「でも…」
「頼む…俺の息子を頼む…」
アジュカ様に頭を下げられた私。
---シュウ---
感動の親子の再会に水を差すのは、良く無いと思い、退室したのだが…身体が重い、意識が飛びそうだ。う~ん…恰好を付けずに、隣の部屋で寝ていれば良かったのか?もう石段は降りきってしまった。また、昇るのはつらすぎる。
ヘロヘロな状態で、家を目指した。転移術を使えるだけのエネルギーさえも残っていない。マズい…あぁ、ヴァイラに伝えておけば良かった…会話用魔法陣すら開けない。手遅れだあぁぁぁ~
目の前に、夢で見た姉がいる。彼女に縋り付くように倒れる。
「姉ちゃん…」
---リアス---
シュウに、会話用魔法陣で連絡を取ってみるが、応答は無い。何かをやらかしたのか?エネルギー切れの可能性が有る。一緒に帰宅したはずの朱乃へも連絡をした。
その朱乃の口から驚愕の出来事を聞いてしまった。それは理事長室にいた者全員の耳に届いた。朱乃の母親が甦ったってことが…
「そうなると、エネルギー切れで、どこかに倒れている可能性があるな」
アザゼルがグリゴリに連絡をして、シュウの居場所を探し始めた。ミカエルは天界に帰り、善後策を練るという。天界として、シュウのサポート要員を出す方向だと言う。
しばらくすると、グリゴリより先に、黒歌が見つけたそうだった。シュウは知らない女性に保護されているという。知らないっていうには語弊があるかな。先程お会いした彼のお姉さんに似た知らない女性のようだ。
現場に踏み込むと、シュウを追い込む可能性があるので、彼の周囲で様子を覗う程度にした。
----シュウ----
意識が覚醒してきた。睡眠を取ったおかげで、エネルギーもそこそこ溜まってきたようだ。で、ここは、どこだ?
隣に知らない緑髪の少女が寝ていた。僕を包み込むように添い寝をしてくれているようだ。うん?下腹部の肉体の一部も、彼女の中に包み込まれているようだ。あれ?何で交わっているんだ?記憶を呼び起こすが、まるで思い出せない。僕の貧弱な脳細胞には困ったなぁ。
「うん?起きたのか?大丈夫?」
少女が目を醒ました。
「ここは?」
「私の部屋だ。驚いたよ。姉ちゃんって言って、私に抱きついて、意識を飛ばすんだもの」
あ…朱乃さんの処からの帰り道で、やらかしたのか。
「で、何で交わっているの?」
やらかしてしまった過程を訊いてみた。
「君と接していると安堵感が…気のせいかと思ったんだけど、君と肌を合わせてみたら、肩から重荷が下ろされた気がした。それで、エスカレートして…すまない、承諾も無く、こんなことをして」
彼女に謝られた。でも、
「謝らないでください。僕の方が助けられたんですから。ね♪」
彼女と唇を重ねる。その瞬間、彼女の悩みや不安が、僕の脳裏に流れ込んで来た。寂しい、哀しい思いが伝わってくる。涙が出てしまった。
「どうしたんだ?どこか痛いのか?」
僕を心配してくれる彼女。
「違う…君の心の叫びが聞こえた。もう、悩まないでいいよ。もう、不安に感じなくていいよ。今、楽にして上げるから」
彼女の問題…見えてはいけない者が見えてしまう。所謂、霊視能力ってヤツだ。そのせいで、家族に気味悪がれ、その結果、このアパートに一人で住むハメになったようだ。
「僕のお守りを入れるけどいい?」
「入れる?どうやって?」
拒否をされない。では、空間から僕の『兵士』の駒を1つ取りだし、彼女の身体に入れ、
『可視選択』という術を駒に掛けた。脳裏に浮かんだ説明書によると、見たい時だけ霊視や索敵が出来るようになるらしい。駒に掛けたのは、彼女自体は普通の人間なので、術を受け入れることが出来ない気がしたからだ。
「これで、見たいと思った時にしか、見えなくなったはずだよ」
彼女は周囲を見回して、確認をした。
「あ…本当だ…ありがとう…」
僕に泣き縋ってきた彼女。こちらこそ、ありがとうだよ♪
---リアス---
シュウが帰宅した。お姉様似の少女と共に…顔だけ見ればそっくりであるが、髪型、髪の色、体型、胸の大きさに違いがある。シュウは曖昧な記憶だろうから、ヘロヘロな状況下で、判別は出来なかったのだろうな。
「リアス、あのね。頼みが有るんだけど」
「うん?彼女の部屋は用意してあるよ。あと、転入手続きもしているわ」
「あっ!名前を聞いていなかった」
おい…私達は調査済みで知っているのだが、シュウ自体が知らないって…
「僕、シュウ・ヨハネです」
え?名乗ってもいないのか?
「私は、由良翼紗です。皆さん、よろしくお願いします♪」
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その夜、シュウはヴァイラに説教をされた。私がするとシュウを追い込むからと、ヴァイラが嫌われ役を引き受けてくれた。
「言ったよね?やらかす前に、私に言ってねって!」
「ごめん…ヴァイラ達は、理事長室に呼び出されていたから…」
「うん?理事長先生は、シュウのお兄様のような感じだよね?何で、言えないの?」
「ごめんなさい。言おうと思った時には、既に会話用魔法陣すら開けなくて…」
平謝りのシュウ。反省しているようだったが、シュウの手がヴァイラの手を握ると、形勢は逆転してしまう。『安堵』スキル恐るべし…
「うぅん…いいのよ、わかってくれれば♪今度からは声を掛けてね♪」
激怒モードで押し切る予定だったヴァイラは、借りて来た猫のように甘え始めた。ダメじゃん…
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「ごめんね、リアス。こんなはずではなかったんだけど…」
あの後、口づけから交わりまで発展してしまったことを、反省しているヴァイラ。
「しょうが無いよ。あの能力は危険だよ。女性にとっては脅威な能力だと思う」
ある意味『魅了』よりタチが悪いと思う。『魅了』の場合は、逆らえないとか、命令を効くなどの効果でストレスが溜まるが、『安堵』は、ストレスが減る上、自発的に交わってしまう。その上、交わった後でも後悔すらしないのだ。
「そうね、あれは危険かな。ライバルを増やし続けるよね?」
って、苦笑いするヴァイラ。シュウの場合は、敵意を持った女性向けに『催淫』もあるし、女性の敵になると厄介である。まぁ、どっちにしろ悦びを与えてくれるから、少しはマシであるが、男性が敵の場合はもっと酷い。『四肢損壊』『男根喪失』など、生きる苦しみを与える系のようだし。
「性格が歪んでいるのは、感情がうまく機能してないからかな?」
たぶん、愛し方、愛され方も知らないのだろう。普通は親子関係で学ぶのだろうが、彼にはそういう意味の親はいなかったから、
「そうだね。クレーリアさんがあんなことになって…まぁ、感情が機能しなかったから、復讐しようって気も起きなかったのだろうけど」
それは、不幸中の幸いだろう。復讐に走った時点で、この世界は終わっていそうだ。
「接し方を考えないと…」
ヴァイラは考え始めた。