---サーゼクス---
「古文書の類は、何も残っていないんです。レヴィアタン様、どうか教えてください。あなた方が知っている真実を」
僕はレヴィアタン様に懇願した。
「知ってどうするんだ?今更知っても、混乱を起こすだけだと思うんだけど」
「真実を知ると混乱するのですか?」
「とても、難しい問題だわね。たぶん、受け入れられない者も、出るであろう。そうだ、ジズを連れて来てくれたら、話すって事で良いかな?」
「なぜ、その魔鳥にこだわるのですか?」
「私達は三頭一対を成す存在だから」
「三頭一対?」
聞き慣れない言葉だが…
「そう。三頭揃わないと意味をなさない、そういう存在なの。だから、ジズも近くにいて欲しいのよ」
「レヴィアタン様は、一体何者なんですか?」
「私は初代魔王レヴィアタンよ。とにかくジズが来たら、話すわよ。約束するわ」
「では、あなた方はどんな存在なのですか?」
「私達はマスターのシュウ君を守り、トライヘキサに対抗する存在とでも、言って置きましょうか」
「トライヘキサですか!あれは聖書の神が、封印しているはず」
レヴィアタン様は笑みを返して来た。違うのか?。
「無知は恐ろしいわね。その封印された者は、誰が作ったか考えた事ある?」
「え?」
それは考えた事は無い…天界でのことだし…我々悪魔の知ることでは無いから。
「無いんですね。これで、このお話は終わりよ。後はジズが仲間になってからでも遅くないからさぁ」
そう言うとレヴィアタン様は、シュウ君の方に近づき、優しく抱きしめているようだった。
「シュウ君、まだ怒りのオーラが、残っているわね。ごめんなさい、護りきれなくて。本当にごめんなさいね」
レヴィアタン様は、シュウ君の怒りを宥めようとされいる。彼は、本当にただの人間なのか?初代魔王様が、あそこまで大切に思う存在…そこにも秘密があるように思えた。
「1つ解った事は、この天使の羽は、初代アガレス様の物で有る事」
「収穫としては大きいけど、受け入れきれない事実が、たくさん出てきそうだ」
アジュカの言う通りだ。
「後は、アザゼルを問いただすか」
会談が終わり、僕達は帰路に着いた。
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やっと、アザゼルに会えた。
「どうした?お前から連絡が来るなんて、珍しいじゃねぇか」
「アザゼル、君に聞きたい事が有るのだが」
「知っている範囲でなら答えるぜ」
早速、僕は本題を切り出した。
「先の三大勢力戦争で、生き残った君ならば知っているはず。あの戦争の、本当の開戦理由を教えて欲しい」
「言葉通りの勢力争いだよ」
表情を変える事無く答えたアザゼル。
「表向きの理由はだろう?」
「どうしたんだよ。他に理由が有る訳無いだろう」
ここで切り札を1枚切ってみる。
「大天使サマエル様って、知っているか?」
僕の言葉に反応して、アザゼルが遠くを見つめ、何かを思い出しているようだ。目には、うっすら涙みたいな物が見える。大きく息を吸い込み、話始めてくれた。
「慈悲深くて優しい方だったよ。俺がまだ天使の頃、よくかわいがって貰ったよ。俺が人間の女性の乳首を押しまくって堕天した時も、『お前らしいなぁ』って、笑って送り出してくれたんだ。神におべっかを使って、昇格する天使が多い中、あの方だけは、神の理不尽さに怒りを持っていた。ある日、それが原因の行動を取り、神の怒りに触れて…」
アザゼルが悔しそうに手を握りしめている。アザゼルの目からは悔し涙があふれているようだった。
「コカビエルもシェムハザもバラキエルも…堕天使の上層部、幹部は皆、あの方にかわいがってもらった。自分の心に正直が一番ってなぁ。天使の頃より、皆生き生きしているかも…って、なんで大天使サマエル様の事を聞く?お前は接点がねぇだろう?」
怒りの表情を見せたアザゼル。サマエル様に関して、思い出したくない過去が、遭ったのだな。
「それが、最近出会ったのだ」
「出会った?あの戦争の前にコキュートスに封印されたはずだぞ」
僕の言葉に驚くアザゼル。事実を知らないようだった。
「大天使サマエル様は、仲間の手引きにより、コキュートス送りは免れたそうだ」
「嘘だろ?生きているのかぁ。どこにいらっしゃるのだ?」
目を見開いて、僕に訊いてきたアザゼル。こんな表情の彼は見た事が無い。
「僕の義弟の家だ。」
「義弟?妹の婿か??」
「そうだよ。アザゼル、一緒に来てくれないか?」
僕はアザゼルと共に、シュウ君の家に引き返した。
---シュウ---
僕の怒りのオーラは消えたようだ。皆が心配してくれて、オーフィス、アポ、黒歌、白音、リヴァさんが、一緒にいてくれている。悪魔属性の者は、僕が暴走した時に危険なので、今日は近くに来ないらしい。そんな僕の元に、帰ったはずのお兄さんと、久しぶりに会うおっさんが転移してきた。
「お兄さん?おっさん??」
「ボウズ?」
驚いた顔のおっさん。
「アザゼル 久しい」
「オーフィス?」
「あら、アザゼルじゃない」
「おいおい、レヴィアタンもかぁ」
「なんだ、知り合いが多いようだなぁ、アザゼル」
おっさんを知る者が多かったので、お兄さんが驚いている。
「懐かしい顔が揃っている上、なんだこの家は?ドラゴンのオーラが多すぎないか?」
おっさんが部屋の中を見回す。
「あぁ、最強クラスばかりがいる」
「ところで、ここは誰の家なんだ?サーゼクスよ」
お兄さんが、僕を指して
「彼、シュウ君の家だ」
「そうなるとボウズ、サーゼクスの妹の婿になったのか?」
「婚約者だけど、婿入りはしないよ」
と、否定する。
「婚約者?ボウズは人間だろう?おい、良いのか、サーゼクス」
「いいんだ。彼なら。なんたって、アジュカの養子だし」
お兄さんは、ちょっと苦笑い。
「ボウズ、暫く会わない間に、随分と出世したなぁ」
おっさんに話し掛けようとした時、お兄さんが言葉を発した。
「大天使サマエル様に会いたいのだが、シュウ君会わせてくれるかな?」
でも、僕が召喚するまでもなく、サマエルは大天使姿で出てきた。
「アザゼル、久しぶりだな。ずいぶんと老けたなぁ」
「サマエル様?よくぞ、ご無事で」」
おっさんは、突然のサマエルの出現に驚いている。
「何を言っている?ずっと、お前の傍に居たぞ」
「えっ?!」
更に驚く、おっさん。
「お前がシュウにあげた、あの白いロザリオの中に、封印されていたんだ。封印が解ける前は、龍喰者サマエルだったけどな」
「ほぇ??」
顔が青くなっていく、おっさん。
「あの当時は、お前のところが一番安全だったからなぁ」
「ずっと、そばにいらしたんですか??すみません。気づかなくて…」
いきなり汗が噴き出してきた、おっさん。
「しょうがないよ。アザゼルには封印が解けなかったのだから。それに、簡単に気づかれたのでは、逃がしてくれた仲間に申し訳ないしな…で、サーザクス、お前とは、話は済んだはずだが、どういう趣向だ?」
おっさんへ発していた優しい声が、お兄さんには冷たい声へと変化した。
「アザゼルが真実を知っていると思って、彼を連れて参りました」
「戦争になっても良いなら話そう」
「戦争は困ります」
少し困った顔のお兄さん。
「では、話すことは何も無い。レヴィアタンが、さっき言ったであろう?条件が揃えば話すと。純粋な悪魔は、本当に欲深いなぁ。欲しい物を、直ぐに欲しがる」
「その言い方は、純粋ではない悪魔も、いるって事でしょうか?」
お兄さんの問いには答えず、サマエルはロザリオに戻っていった。
「サーゼクス、くどいぞ!!」
リヴァさんが、引き下がるお兄さんに、キレ始めた。
「先送りにしてはいけない重要な事です」
「重要?何も疑問を持たず、何も考えない者に、重要な事なぞ無い。そうだろ?アザゼル」
「それは、知恵の果実を食べてない悪魔には、無理だろ?レヴィアタンよ」
「そう、無理なんだよ。だから、これ以上話しても無駄なんだよ。サーゼクスよ。もっと知恵を使え!そうすれば、見えない事が見えるぞ。祖先が何であれ、現状の冥界には、関係が無い事だ。先代の血縁者が、魔王にいないんだからな」
「先代の魔王に、秘密が有るんですね?」
「天界と戦争になっても良いなら、天界に聞け!ルシファーの名を継ぐ者よ。それだけ機密性の高いことだ。覚悟が有るのなら、天界で聞いて来い!」
怒りのオーラに飲まれ込み始めたリヴァさん。僕は彼女の傍に行って、頭を撫でてあげる。そして、リヴァさんを闇の海に堕とした元凶のお兄さんを睨んだ。
「僕だけで無くて、リヴァさんまで、怒りのオーラに染まらないで。お願いだから」
「あっ、シュウ君、ごめんね。そうだったわね。怒りに飲み込まれちゃダメだって、私が言ったはずなのに。サーゼクスよ、この話はこれでお仕舞いだ。帰ってくれ!」
お兄さんとおっさんは無言で転移して行った。
---サーゼクス---
戻って来てから、アザゼルは無言のままだった。昔を思い出しているようだった。遠くを見つめていた彼の瞳が僕の瞳を見た。
「で、何を知りたいんだ?」
彼は意を決してくれたようだ。
「まず、初代ルシファー様について。あの方は一体何者だったのか?」
「それを知ってどうするんだよ?」
「知っておいた方が良いかなって。我々、悪魔は何者なんだ?」
「う~む…」
この男の口が重い。こんな彼を見るのは久しぶりだ。言葉を選んでいるのだろうだろうか?
「天界の黒歴史に触れるぞ。レヴィアタン達も言っていたが、表に出せば、戦争の原因になるぞ。いいな」
「あぁ、私の胸の内にだけ、仕舞っておくよ」
僕は頷いた。
「グリゴリ、神の子を見張る者は、神の子、天使達の動きを見張るために結成した。それは、俺達、堕天使全員の恩人のサマエル様の意思を継ぎたかったからだ」
「サマエル様の意思?」
「そうだ。全知全能なる神、彼だけが天使を作ることが出来た。しかし彼は、彼の正義とは、天使以外は悪ってことだった。知恵を持たない者は悪なんだよ。サマエル様は、そんな神が暴走しないように、抑えてくれていたのだ。神がトライヘキサを作った時は、サマエル様が封印していたし。現在、天使が新たに産まれないのは、全知全能なる神、創造神を封印してしまったからだ。それをしたのは、天界の神である維持神と現在の天使長ミカエルだ」
「神って横暴だな。え?トライヘキサは神が作ったのか?」
「その通りだ。神は天使では無いから、欲に塗れても堕天しない。天使だと俺達みたいに堕天するけどな。天使には欲を持たないようにして、欲は独り占めみたいな感じだった。トライヘキサは、創造神の意思で作られた天界の最終兵器さ。ただ、作ったのは創造神で、運用しようとしたのは維持神だけどな」
「まるで悪魔だな」
「そんな維持神を良く思わない天使がいた。サマエル様だ。サマエル様は、天使だけで無く、俺達…堕天使にも、ドラゴン、色々な種族の者にも良くしてくれた。ただ、天使の中には、サマエル様の事を良く思わない者もいた。維持神の教え、天使以外は知恵なんかいらない。ソイツらには、サマエル様が、維持神の教えに逆らっている様に見えたのだろう。現在、残っている天使達は、そういう輩だけだ」
「現在、残っている?残りの、天界に残らなかった天使達は?」
嫌な予感がしてきた。
「それが、お前の知りたかった事だ。答えは、そこにある」
「まさか…」
「そういうことだ。信じられないだろ?」
「あぁ」
「神に逆らった、サマエル様を慕っていた天使達は、サマエル様が処刑されると、天使の翼をもがれて魔界、今で言う冥界に落とされた。魔界には、元来の悪魔や魔族がいたが、組織だって戦えないので、落とされた元天使達の組織だった攻撃に歯が立たなかった。そして、魔界を統一して魔王になったのが、サマエル様の側近だった初代ルシファーだ」
「なんて事だ…」
「お前の家系のグレモリー家は純血の悪魔の家系だ。歴史を遡っても無駄なんだよ。ただ、お前の母親のバアルの血には、天使の血が混じっているけどな。もしかすると、お前達の持っている滅の力って、天使バアルとしての力かもな。今となっては、わからないけど…」
聞かなきゃ良かったのかな。でも、もう後には引けない。
「時期が来れば、サマエル様が話してくれると思う。たぶん、今はまだ天界からの攻撃を避ける術が無いのだろう。だから、昔の仲間を探しているのかもしれない」
「天界との戦争を起こす為か?」
「逆だと思う。天界よりも戦闘力があれば、迂闊に手を出して来ないからな。奴らもバカではない」
「アザゼルは、これからどうするのだ?」
「俺達、グリゴリは、サマエル様サイドにつく。恩を返さないといけないからな。寧ろ、お前ら、悪魔達こそどうするんだ?」
「この件は私の胸の内に仕舞っておく。無闇に、冥界を混乱させたくないから。時が来るまで、サマエル様が口を開いてくれるまで待つとする」
「それが良いって。サマエル様の事は、天界に知られないようにしないとな」
「あぁ。そうだな。」
「それより、あのボウズは何者なんだ?不可視な結界で、人間には見えないはずの俺の店に通っていたし」
「シュウ君かい?純粋で不思議な子だよな」
彼は、本当に何者なんだ?彼の実の両親の情報が、まるで無いし…
「本当に不思議なボウズだ。色々な縁を紡いでいるように見えるし。あの家のドラゴンのオーラも異様だったぞ」
「ありえない伝説級が多いよ。『無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)』オーフィス、『真なる赤龍神帝(アポカリュプス・ドラゴン)』グレートレッド、『天魔の業龍(カオス・カルマ・ドラゴン)』ティアマット…」
「グレートレッドだと?おいおい。最上位クラスばかりじゃないか。あと、『龍喰者(ドラゴン・イーター)』サマエル、『海の帝王』リヴァイアサンがいるしなぁ。あの家は、ドラゴンオールスターズかよ」
アザゼルの顔色は青醒めているが、瞳が輝いているように見える。シュウ君と同じで不思議大好きだものな、こいつは。うん?僕の知らないドラゴンがいる?なんで、アザゼルが知っているんだ?
「ちょっと待て!リヴァイアサンって?」
「レヴィアタンの真の姿だ。三頭一対のうちの一頭だよ」
「おいおい、あの方は、悪魔でも天使でも無いって事?それに三頭一対とは?」
「リヴァイアサンは、創造神が天地創造の5日目に造りだした魔物だよ。いかなる武器による攻撃が、一切通用しない最強の生物だ。でだ、三頭一対とは、旧約聖書に出てくる、陸海空を制圧する魔物のことだ。陸はベヒモス、海はリヴァイアサン、空はジズが最強の魔物になる。獣の数字を除けばな」
「え?」
「でも、そんなレヴィアタン達は、聖書の神が支配する、トライヘキサの餌になる。三頭一対はな。さっきも話したが、聖書の神、維持神は自分が一番偉い存在になるために、創造神をも封印してしまった。創造神の配下で、維持神にとって敵になりそうな三頭一対を、食べて消し去る為に、使役されそうになったのがトライヘキサなんだ。だから、サマエル様はトライヘキサを封印した。そんなつまらない理由で命を粗末にすることが許せなかったんだと思う。三頭一対は、空、陸、海を制するための創造神の兵力って、さっき言ったけど、トライヘキサは、三頭の能力を総て持ち合わせている化け物らしい。本来は、世界の終末にな、三頭一対と共に戦い、彼らがトライヘキサへの最後の食事として供されることになっていたんだが、創造神封印後は、維持神がトライヘキサの目的を、三頭一対と共に戦うから、三頭一対を含む総ての生物を食べるに、変えてしまったのだ」
「そんな…」
確かに闇歴史だな…
「サマエル様が、サマエル様の身に何かあったら、三頭一対のうちの一頭を逃してほしいと、ルシファーに頼んでいたみたいなんだ。神の横暴と戦ったルシファー達は、リヴァイアサンを守りながら一緒に魔界に落ちて行った。魔王となったルシファーは、リヴァイアサンに人化してもらい、魔王レヴィアタンとして、自分の傍に置いて守ろうとした。サマエル様との約束だから」
アザゼルは泣いていた。
「でもよぉ…あの戦争で…俺達、堕天使はレヴィアタンを守りきれなった。そればかりか、ルシファー達の命さえ守れなかった。だから、今度何あったら、今度こそ守りきろうと思っている」
「アザゼル…」
私は、アザゼルの熱い想いと、もの哀しい真相を聞いてしまった。目頭が熱い。一人の天使との約束に応える為に、その天使からの恩義を感じていた堕天使、悪魔達。サマエル様を知らない純血の悪魔達は、自分達には関係の無い戦いに、巻き込まれたのか。聞かなければ良かった。私は、もの凄く後悔した…
サマエル様の「時がくれば話す」とは、こういう事だったのかと。