血塗れの子どもが居なくなった後、他の生徒数名と合流することが出来たアテランシア、士郎、凛。
合流した生徒の中に後輩である紫がかった長い黒髪の少女、間桐桜がいることに思わず彼女を抱きしめた凛を、士郎とアテランシアは微笑ましそうに見守る。
が、いつまでもそうしている訳にもいかず、サンソンに促されて一同は食堂の中へと入るのだった。
***
「…化物に魔術、サーヴァントねぇ…」
食堂に入ってからまずアテランシア達がしたのは情報交換だった。
三人が今までのことで分かったことを話し、それを聞いてから最初に沈黙を破ったのは青みがかった黒髪をウルフカットにした男子生徒だ。
もともと細い銀の瞳を更に細め、男子生徒は頭の後ろで腕を組むと言った。
「とりあえず、そっちの状況は分かった。こっちは大学部の三階から高等部の校舎に移動して、そこで間桐達と会ってから二階に下りて中等部に来た」
「それで安全な場所を探して教室を見て回った後、此処に来たって感じかな」
ウルフカットの男子生徒の後を継いで説明したのは茶髪の男子生徒。
その隣に酷く疲れた様子の髪が短い女子生徒と、サンソンに手当てをしてもらっている短いポニーテールの女子生徒が座っている。
桜は男子生徒達の向かい側に座る凛の隣におり、その横に士郎とアテランシアがいる状況だ。
女子生徒の手当てが終わったサンソンは彼女から礼を言われた後、アテランシアの隣に移動してから男子生徒二人に言った。
「なるほど…でも、よく無事でしたね。この学園には化物達が徘徊している筈ですが」
その問いに女子生徒二人と桜は顔を見合わせ、茶髪の男子生徒は苦笑いを浮かべると全員が同じ方向を見る。
視線の先にいたウルフカットの男子生徒にアテランシア達が首を傾げれば、彼はとんでも無いことを告げた。
「あぁ、ぶん殴った」
「………は?」
さらりと言われた言葉に理解が追いつかない士郎。
凛とアテランシアも呆然となり、驚愕で目を見開いたサンソンが男子生徒を見つめる。
その反応にウルフカットの男子生徒は特に思うことはないようで、あっけからんとした様子で言った。
「なんかゾンビとか、白い甲冑の化物とか追いかけて来たけど、全部俺がぶん殴って仕留めた」
「う、嘘でしょ?!あんなのに向かってくとか、あなた正気!?」
「あー…ごめんな。劉の奴、自覚無いけど、こう…戦闘狂みたいなところあるから」
ウルフカットの男子生徒の言葉に思わず凛がそう叫べば、フォローのつもりなのか茶髪の男子生徒が言った。
そこまで聞いてアテランシアはあることに気が付く。
「…そういえば、名前を知らない人もこの中にはいる、よね?」
「あ、確かにそうだな」
アテランシアの言葉に士郎が頷く。
桜は三人とも知っているが、他の四人のことは全く知らなかったからだ。
それを彼らも思っていたようなので遅くなったが皆で自己紹介をする。
最初に口を開いたのは士郎だ。
「俺は衛宮士郎、高等部二年で弓道部だ」
「遠坂凛よ。同じく高等部二年」
「間桐桜です。高等部一年生で弓道部に所属しています」
「えっと、アテランシア・フェリスと言います、高等部二年です。呼びにくければ、アーシェと呼んで下さい」
「私はシャルル=アンリ・サンソン、
士郎に続いて凛、桜、アテランシア、サンソンが名乗る。
その次にあのウルフカットの男子生徒が名前を告げた。
「…新島劉、高等部の三年だ」
「えっ、三年生!?」
「別に三年生だからって敬語とかいらないぞ、面倒だし」
ウルフカットの男子生徒、新島劉が年上だったことに驚くアテランシア達だが、本人に軽く手を振りながらそう言われれば頷くしかない。
それを見て次は茶髪の男子生徒が苦笑しながら名前を言う。
「あはは…俺は岸波白夜、劉と同じく高等部の三年なんだ。よろしくな」
「わたしは金田沙都子…高谷さんと同じクラスの中等部三年生です」
「アタシは高谷奈緒です、中等部三年で陸上部に入ってます」
劉に続いて三人がそれぞれ名前を言い、やっと一同は今後について話し始めた。
「それで、これからどうするんだ?金田さんは俺達に会うまでにだいぶ疲れてるし、高谷さんは怪我してるからあまり動けないよ」
「そうね…こっちもあまり身体が強くないフェリスさんがいるし、全員で動くのは危険だわ」
「…幸いなことに此処は化物が既にいません。食堂を拠点として校舎内を探索、生存者を探す方がいいと思います」
茶髪の男子生徒…岸波白夜の言葉に凛もアテランシアのことを言い、サンソンが提案する。
それを聞いて劉が頷くと無気力そうな瞳で尋ねた。
「なら三人は此処に残す。俺は校舎の探索に行くけど、白夜以外で行く奴いるか?」
「あ、俺は確定なのね…」
がく、と肩を落とす白夜になんとなく彼の立ち位置を理解した士郎が、なんとも言えぬ目で彼を見る。
それに気付いているのかいないのか、白夜は士郎やサンソンを見て言った。
「出来れば、サンソンさんは残って衛宮に来て欲しい。もし何かあったら、サンソンさんがいれば大丈夫だろうし」
「そうですね。私もあまりマスターから離れたくはないので、それがいいでしょう」
「分かった。じゃあ、桜と遠坂も残って」「私は行くわ」
白夜の言葉に二人は納得し、同意する。
しかし次に名を挙げられた凛ははっきりと言い切った。
それに全員が驚く中、表情を変えることなく劉が問う。
「…わざわざ危ないところに行くなら、足手纏いにはならない自信があるんだよな」
「これでもあなた達と会う前に化物を倒してるわ。それに、妹を捜す為ならやってやるわよ」
「ふーん…なら良いけどよ」
震える手を握りしめて凛が言うと、興味なさそうに劉は頷いた。
どうやら凛も探索に行けるらしい。
どこか居心地の悪い空気の中でわりと必死に白夜が言った。
「そ、それじゃあ探索メンバーは俺、劉、衛宮、それと遠坂さん。食堂に残るのはフェリスさん、サンソンさん、間桐さん、高谷さん、金田さんでいいな?」
「だ、大丈夫です。…そう言えば、どの辺りを探すんですか?あまり長い時間は危ないと思うんですけど…」
「そうだな…まずは食堂のすぐ近くの中等部、その後に余裕があれば他のとこでいいだろ」
そう言って劉が立ち上がり、白夜や凛、士郎も椅子から離れる。
アテランシアや桜が不安げな表情で四人に言った。
「気を付けてね、みんな」
「何かあったらすぐに戻って来て下さいね、先輩」
「あぁ、分かった」
二人の言葉に士郎が頷き、四人は食堂の外へと足を踏み出した。
***
食堂を出てすぐにあるエントランスに出た士郎達は、周囲に注意しながら言った。
「それで、どこから見て回るんだ?中等部だけでも結構な広さがあるけど」
「何かあってもすぐに戻って来れるよう、一階から見ていくのがいいと思う。もう何があってもおかしくないんだから」
「そうしようか。衛宮達はどっちから来たんだ?」
「高等部の校舎からだけど、教室まで見て回る余裕はなかったな…」
「なら、そっち側は後回しにして、誰も行ってない方を見てこようか」
四人がいるエントランスは食堂からまっすぐ行くと中央玄関に行き、士郎達が来た高等部の校舎側には一年三組の教室と、廊下を挟んで向かい側に音楽室と音楽準備室がある。
その先には旧体育館があるが、古くて床が抜けているなどの理由により数年前から閉鎖されている。
士郎達がこれから向かう方には一組、二組の教室があり、向かい側にはトイレの他に理科室と理科準備室があった。
高等部の校舎で準備室から化物が出て来たことを思い出し、士郎と凛は渋い表情で廊下の先を見る。
その先を曲がればすぐに初等部の校舎になるが、今回はそちらには行かずに中等部だけを見て行くつもりのようだ。
先頭を劉が歩き、そのすぐ後ろに白夜、凛、士郎と続く。
体育館であの化け物に襲われてから、よくよく考えればまだ一日と経っていない状況に士郎は気付いた。
こんな短時間でこれだけ過酷な環境にいて、自分だけでなく他の皆は大丈夫なのだろうか。
そう思うのはお人好しである衛宮士郎だからこそなのだが、それを見抜いたように凛が彼の頭を引っ叩く。
声を出さぬそのやり取りに白夜はひっそり笑い、手に持った竹刀を握り直す。
一年二組の教室の前を通り、後ろ側の扉を少し開けて教室を覗き込む。
特に変わった様子は見受けられなかったが、劉にとっては違ったようだ。
銀色の目を細めると三人に手で扉から離れるよう合図する。
首を傾げる二人を白夜が背中を押して下がらせ、劉も素早い動きで一息に後ろへ跳ぶ。
その瞬間、先程まで
大きく目を見開く士郎達を気にすることなく、劉が拳を構える。
テーピングで覆われた拳を構える姿は慣れており、今更ながら士郎と凛は彼が武術をやっているのだと理解した。
そして目の前の教室から、ずるり…と何かが這い出してきた。
こげ茶の髪を所々赤く染めた白い肌の女性が出てきたと思いきや、その上半身は何も纏わず、代わりに爬虫類のような皮膚が見える。
そして腰から下は3m以上ありそうな赤茶色の蛇の下半身をしていた。
凛が思わず悲鳴を上げようとした瞬間、劉は身を屈めると一瞬で蛇女の方へと飛び出した。
「「新島先輩!?」」
「劉!そいつ1匹だけみたいだ!!」
劉の行動に士郎と凛が叫び、周囲を見ていた白夜が竹刀を握り締めながら言う。
自身の方へと飛び込んでくる人間に蛇女は爬虫類のような瞳を細め、蛇のような牙を向けて威嚇する。
普通ならその威嚇だけで動けなくなるのだが、劉にとって関係ない。
「っぁりゃあああ!!」
構えた拳を握りしめ、大きく踏み込むと蛇女が鋭い爪を振り下ろすより先に、気合の声と共に敵の腹目掛けて振り抜く!
お世辞にも背が高いとは言えない身長の劉から繰り出された拳は、見事に倍以上ある体躯の蛇女を吹き飛ばした。
それを見た士郎と凛は間の抜けた表情で劉の背中を見つめる。
劉は拳をグッパッと開いたり握ったりしながら、眼光鋭く吹き飛ばした蛇女を睨みつける。
未だ警戒する同級生の姿からまだ倒されていないと判断した白夜が、竹刀を構えて二人の前に出る。
「…劉、どうだ?」
「あ?俺はいつでもいけるぞ」
目を合わせることなく言葉を交わす劉と白夜。
吹き飛ばされた蛇女は体をくの字に曲げたかと思えば、起き上がるなり憤怒の表情で襲いかかる。
即座に飛び上がり、劉は蛇女の顔面に蹴りを喰らわす。
目潰しも兼ねたその攻撃は確かに命中し、怒りの雄叫びを上げながら蛇女が暴れる。
その時に劉の表情が一瞬、僅かに歪むが士郎達は背後にいた為に気付かない。
彼もすぐに表情を元の無表情に戻し、空中一回転しながら蛇女の側面に着地。
直後に尻尾を叩きつけて暴れる蛇女の攻撃を身軽に避け、背後からその頭部を力一杯蹴り飛ばした。
一年一組の教室へと叩き込まれた蛇女はしかし、頭部を床に叩きつけられて破損したらしく動かなくなった。
「…や、った…のか?」
軽い音と共に着地する劉を見つめ、やっと
凛はずっと士郎の後ろで彼の制服の裾を掴んでおり、その表情はやはり良いとは言えない。
そんな二人を庇うように立っていた白夜も漸く竹刀を下ろし、ズボンのベルトを少し緩めて竹刀をそこに通すと立ち竦む劉に駆け寄った。
「お疲れ、劉。化け物はまだいそうか?」
「…いや、なんとなくだが此処にゃ居ねえよ。先に進むが、お前らはどうする?」
無言で己の右手を見つめていた劉だが、すぐに白夜の方を向き直るとなんて事ないように告げる。
そして緩く首を傾げながら士郎と凛に尋ねるが、二人は頑として首を振らなかった。
それを見た劉が今度は白夜に視線を向け、彼も苦笑いをしながらも頷くので納得したようだ。
四人は一組の教室も覗いた後、理科室の方を覗こうとして遠くから凄まじい音を聞いた。
「!っ今のは?!」
「初等部の校舎からだわ、…どうするの?」
「…行ってみるか」
「あぁ、誰か生存者がいるかも知れない。行こう」
士郎が音のした方を勢いよく向き、青褪めたままではあるが凛が冷静に答える。
そのまま劉がぽつりと呟くと白夜も頷いて賛同した。
士郎や凛も異論はないようで、四人は音のした方へと駆け出すのだった。
現在の状況
*アテランシア
サンソン、間桐桜、他女子生徒ニ名と共に食堂で待機
*新島劉
衛宮士郎、遠坂凛、岸波白夜(ザビ男)と共に中等部一階を探索
異変に気付き、初等部校舎に向かう