これからどんどんキャラが増えていくので、更に不定期更新となりそうです…
アテランシア達を食堂に残し、生存者を探して探索を始めた士郎と凛。
新しく合流した岸波白夜と新島劉と共に中等部一階を探索していると、初等部の方から凄まじい音が聞こえ、四人はそこに向かった。
***
足音を出来るだけ立てないように走り、四人は理科室を通り過ぎて廊下を曲がった先…初等部の校舎に足を踏み入れた。
初等部の校舎は入ってすぐに二年生の教室が二つ、その隣に一年生の教室が並ぶ。
校舎の角である二年二組のすぐ向かいには中等部の校舎に続く廊下と、壁に沿って階段があった。
一年生の教室の向かい側にはトイレを挟んで家庭科室、家庭科準備室があり、一番端は誰も使用していない空き教室だ。
そして一年生の教室の角を曲がり、廊下の先を進むと第二体育館、その更に奥にはプールへと続くが割愛する。
しかし角を曲がり切ろうとした時に劉が勢い良く止まり、それにぶつかりそうになりながら三人も止まる。
凛が文句を言おうとした瞬間にズガァンッ!!と凄まじい破壊音が響いた。
次いで銃撃が聞こえたかと思うと、獣とはまた違った低い唸り声が士郎の耳に飛び込んでくる。
その先に
即座にそう判断した劉が後ろ手に待機を指示し、廊下の角から僅かに顔を出して様子を伺うと息を呑んだ。
廊下の先には
苔生した灰色の石のような肌に、トランプのキングを模したような風貌。
手には岩で出来た無骨な剣を持ち、憤怒の表情を浮かべて己の体により狭い廊下の中を暴れている。
そんな巨人に向かって奮戦しているのが白髪に褐色肌の青年と、艶やかな黒髪をポニーテールにした女子生徒。
この学園の制服を着た女子生徒は学生鞄を肩から下げているが、邪魔だったのか背中側に回して両手にライフルと言われる銃火器を構え、巨人に向かって発砲し続けている。
褐色肌の青年といえば教会の神父が着るカソックを身に纏い、指の間に細い剣を数本挟んでいるかと思えば、暴れる巨人の攻撃を当たる寸前で躱して剣を投擲していた。
しかしどちらの攻撃も決定打に欠けているようで、二人の舌打ちが劉達の所にまで聞こえた。
時折、こちらにまで巨人が暴れて砕けた瓦礫が飛んできて、劉は顔を覗かせるのを止めて三人を見た。
「ど、どうだったんだ?」
「…体が岩で出来てるっぽい巨人が廊下で暴れて、女子生徒と知らん奴が交戦中。正直言って俺らが出て行っても、手も足も出せねえ」
正直に自分達の戦力と現在戦ってる女子生徒達の戦力を加えても、あの巨人には敵わないと結論を告げる。
それを聞いた士郎と凛が見捨てるのか、と無言で訴えてくる。
二人の無言の訴えを首を振って否定する劉だが、打開策がある訳ではない。
万事休すかと思われたが、白夜が何かに気付いて言った。
「…なあ、あそこに転がってるやつって使えないかな」
白夜が指差す方を見れば、ちょうど目の前にある二年二組の扉の隅に丸い小さな物が転がっていた。
よく見ればそれは手榴弾のような物で、安全ピンが抜かれていないので使えそうだ。
劉が取りに行こうと姿勢を低くするのと同時に、四人の後ろから重い金属音が聞こえてくる。
その音に聞き覚えがあった士郎と凛が勢いよく振り向けば、後方からあの甲冑の化け物が三体、彼らに向かって来ていた。
こんな時に…と顔色を悪くしていると、舌打ちが聞こえたかと思えば二人の横をすり抜け、劉が化け物三体に向かって駆け出す。
「「新島先輩!?」」
「白夜!頼んだ!!」
「っ分かった!」
士郎と凛が思わず叫ぶと同時に、白夜も劉が取りに行こうとしていたそれ目掛けて勢いよく走り出す。
白夜が数mも離れていなかった手榴弾らしき物を拾い上げ、安全ピンを抜いて投擲する為に顔を上げると声が聞こえたのだろう女子生徒がこちらを振り向き、目を見開いていた。
大振りな巨人の攻撃をかわしたあの青年も目を見開き、瞬時に女子生徒の方へと駆け出す。
白夜は叫びながらソレを巨人目掛けて思い切り投げた。
「避けろぉっ!!」
「っ閃光弾!?」
「危ない、
投げられたソレを女子生徒は理解できたようで、叫ぶと同時に青年に抱え込まれると手近にあった教室へと転がり込んだ。
白夜も投げてすぐに士郎達の所へ転がるように飛び込み、次の瞬間には巨人の手前の床でソレが目も絡むほどの閃光を放つ!
突然視界に広がった暴力的な閃光に巨人が怒りの咆哮を上げ、やたらめったらにその場で暴れ出す。
近くの教室に転がり込んで回避していた女子生徒と青年は、その隙を逃さずに撤退を選んだ。
女子生徒を抱きかかえた青年が、暴れる巨人の攻撃を避けながら士郎達の所まで駆けてくると、息を吐く暇もなく三人に言う。
「助太刀、ありがとうございます。あの巨人が回復する前にこの場を離れたいのですがいいでしょうか?」
「こっちも同感だ。ひとまず、拠点にしてる食堂に行こう」
「新島先輩!撤退します!!」
青年の言葉に白夜が頷き、凛が後方で甲冑の化け物と交戦していた劉に対して叫ぶ。
振り向けば劉は既に化け物を床に沈めており、倒した内の一体に片足を乗せて凛達の方を見ていた。
その光景に青年は表情を僅かに引き攣らせていたが、抱きかかえられたままの女子生徒が青年の顎を押し退けるように下から押して言う。
「…歩けるから下ろしなさい」
「ちょ、いたた、ま、マスター!そんな時間も惜しいので大人しくして下さい!」
「と、とりあえず急ごう!」
絶対痛いと分かるほど押している女子生徒に対し、痛がりながらも下ろさずにいる青年を見て、士郎が冷や汗を流しながらも声を掛けて走り出す。
光で目を潰された巨人が暴れ狂いながら近付いてくるのを察して、一行は来た道を戻って行く。
走って食堂へと向かいながら凛が抱えられたままの女子生徒に尋ねる。
「また後で聞くと思うけど、名前を聞いてもいいかしら」
「…高等部一年、凪崎朋枝」
抱えられていることへの不満を一度抑えつつ、女子生徒はそう告げるのだった。
***
広い校舎…その初等部の三階の廊下で足音がする。
酷く慌てているのだろうその音に、知らずに呼吸を止めていたらしい。
意識して微かに息を漏らし、肩に掛けた鞄の紐を握り締める。
自分の背後で複数人の生徒達が震えながら息を潜める様子を見て、凪崎朋枝は手にしたサブマシンガンを構え直した。
足音はだんだんと大きくなり、彼女達の近くまで来ているのだと分かる。
それと同時に声も聞こえた。
「ハァ…ッハァ…!だ、誰か!だれかいないの…!?」
きくちさん…と酷く掠れた声で誰かが小さく囁く。
どうやら知り合いのようだが、今の彼女達に助けに行く余裕はなかった。
足音が朋枝達の隠れる教室を通り過ぎると、数秒遅れでぺたぺたぺたべた、と裸足で誰かが歩くような音が聞こえる。
その音を聞いた瞬間、朋枝は言いようの無い悪寒を感じた。
足音は逃げている女子生徒を追いかけているようで、だんだんこの教室にも近付いている。
しかし、その音が聞こえる
嫌な予感がした朋枝が後ろを振り返ると、学生服の中で一人だけ私服の女と目が合った。
震えている生徒達の中で青褪めながらも冷静さを保っている女に、朋枝は人差し指を口元に寄せると教室の扉と扉の間、ちょうど壁となっている場所を指差した。
朋枝の意図を理解した女は頷き、生徒達の肩を軽く叩くと静かに移動するように促す。
女の指示に従って急ぎ足で全員が動き、壁の所で固まってしゃがみこんだ所で朋枝はソレの正体を見ることになる。
ソレは六本の人間の足を持ち、どんな原理かなど全く分からないが、天井にぶら下がるような形で移動していた。
獣のように動くソレはタコのような頭に四つの目を
ひゅ、と無意識に息を呑む。
朋枝達が隠れている教室をソレが通り過ぎると、女子生徒の悲鳴が聞こえた。
初等部の校舎は一階を除き、行き止まりとなっている。
しかし女子生徒はそこに辿り着く前に化け物に追いつめられてしまった。
音を立てずに朋枝は教室の黒板側の扉に移動し、約50mほど先で起こるであろう惨劇を目の当たりにする。
「い、いや、こないで…イヤよ、嫌イヤイヤいヤいやいやいやいやいやぁぁああぁあああああぁあああああああああ!!!!」
滝のように涙を流し、力なく首を振って化け物から逃げようとする女子生徒だが、その足は震えて力が入らず、ただ壁に己の体を寄りかからせるのみ。
その必死な様子を、まるで滑稽な劇でも見ているかのように化け物は体を揺らし、女子生徒の頭上から見下ろす。
そして次の瞬間、タコのような頭が中心から裂けて巨大な口となると、女子生徒の頭から襲いかかった。
女子生徒の断末魔の悲鳴が上がり、生徒達の体が硬直する。
しかしその瞬間を見逃さずに朋枝は立ち上がると、声を抑えながら言った。
「…化け物が
「で、でも、」
「急ぎなさい!次に狙われるのはあんたになるわよ!?」
朋枝の言葉に顔を真っ青にしながら生徒達が頷き、よろよろしながら立ち上がると彼女の周りに集まる。
それを横目に確認した後、朋枝は女の方を見て合図をすると軽やかに廊下に飛び出すなり、手にしたサブマシンガンを化け物に向けて発砲した!
その時に目に入った光景はあまりにも酷い。
朋枝が廊下に飛び出した際の音で此方に気付いた化け物の口からは大量の血が付着し、六本の足で押さえつけ、文字通り貪り食われた女子生徒はもはや肉塊と化していた。
唯一生徒だったと認識出来そうな制服ももうズタボロで、見る影も無くなっている。
確実に銃撃が効果があるのだと確信したところで朋枝は叫んだ。
「っフィロ先輩!!」
「みんな、こっち!下の階に逃げるよ!!」
名を呼ばれた女、フィロ・ペンタグルムが腰を抜かしそうになっている三つ編みの女子生徒を支え、男子生徒三人に言った。
五人が空き教室から出て、中等部へと繋がる廊下を挟んですぐの階段に向かうのを、サブマシンガンを発砲して朋枝が援護する。
今まで優勢だったはずの化け物は銃弾を受け、怒りの咆哮を上げると朋枝に向かって突進してくる。
約50mあった距離はあっという間に詰められ、六本の足が朋枝を捕まえようと襲いかかった!
「凪崎さん!!」
階段から身を乗り出して叫ぶフィロ。
その声に応じることはないが、朋枝は冷静に銃を構えると発砲。
六本の内、二本の足を撃ち抜くとバックステップで後退し、大きく開けられた口に今度はブレザーの裏から取り出したハンドガンで何度も撃つ。
口の中を撃ち抜かれた化け物は聞くに耐えない絶叫を響かせると、その場に崩れるように動かなくなった。
それを確認したところで朋枝は大きく息を吐き出すと、乱れた呼吸を出来るだけ戻そうと深呼吸をした。
階段の所で待機していた全員が心配そうに朋枝を見つめる。
「凪崎さん、大丈夫?」
「…大丈夫です。それよりも早く移動しましょう」
数回深呼吸をして落ち着いた朋枝は肩に学生鞄を掛け、ハンドガンに弾薬を詰め込みながらフィロ達の元へ歩く。
あまり顔色は良いとは言えないが助けてもらっている以上、フィロ達は何も言えない。
大丈夫と言う言葉を信じて下の階にやって来た六人だが、そこでも化け物が徘徊していた。
腐り落ちた身体で廊下を動き回るゾンビを数体確認した朋枝が、舌打ちをしてフィロ達に言う。
「私が奴らを引き付けます、その間に先輩達は中等部の方へ逃げて下さい」
「な、凪崎さんはどうするつもりなの?」
「先輩達とは別ルートを使って逃げますので、ご心配なく…行きます」
ガチャン、とハンドガンに弾薬を詰め込み終えた朋枝は、フィロに止められる前に階段から飛び降りると発砲。
すぐ近くにまで来ていたゾンビの頭を撃ち抜くと叫ぶ。
「早く行って!!」
「…っ気を付けてね!!」
ハンドガンを発砲しながら朋枝が叫べば、苦虫を噛み潰したような表情でフィロが答え、四人の生徒と共に渡り廊下へと駆けて行く。
大勢の獲物が走って行く方向へゾンビも行こうとするが、その眼前に朋枝が立ち塞がる。
遠くへ行ったフィロ達よりも目の前の
そしてハンドガンが弾切れを起こすと、すぐさま鞄の中に放り込み、鞄から二つのパーツを取り出しながら身を翻して階段を駆け下りた。
撃ち漏らしたゾンビのいくつかが動かない同胞を踏みつけ、超えながら朋枝の後を追いかける。
それを横目に確認した後、パーツを組み合わせてライフルを作り出すなり、初等部の廊下で撃ちだした。
ダンッ!!!とすごい音を立てて撃たれた弾は、寸分違わずにゾンビ達を撃ち抜いた。
ゾンビ達が動かなくなるのを確認した朋枝は、荒い呼吸を繰り返しながら僅かに震える腕を見て唇を噛み締めた。
そうなるのも無理はない。
逆にそれだけで済んでいる彼女がある意味では異常なのだ。
しかし朋枝にとって、それでは彼女のプライドが許さなかった。
凪崎朋枝の祖父は国に仕える軍人である。
そんな祖父に憧れ、軍人を目指す朋枝は幼少期から彼に軍人として訓練されて来た。
だからどんな時も動揺を表さず、常に冷静に対処せねばならないと、彼女はいつも考えている。
それはこのデタラメな状況下でも当てはまるが、まだ齢15、6歳の娘にとって冷静でいるというのは酷というもの、誰も責める人間はいないだろう。
ライフルを抱きしめるように震える体を抑えるが、不意に背後から影が覆い被さった。
大きく目を見開く朋枝は、訓練の賜物かすぐさま転がるように横へ回避。
先程まで朋枝がいた場所に巨大な何かが振り下ろされた。
初等部一階の階段前の廊下は何かによってコンクリートが隆起し、細かい礫や砂埃が視界を塞ぐ。
転がるように回避することが出来た朋枝は襲って来た何かにライフルを構え、その姿に顔色を悪くした。
そこにいたのは苔むした体をした、トランプのキングを思わせる風貌の巨人だった。
巨人の顔には赤が飛び散り、足下も赤くなっていたので逃げていた誰かを追いかけて来たのだろう。
そいつがいるのは中等部の校舎へと続く廊下で、巨大な体により塞がれていて通れそうにない。
朋枝は舌打ちをするとライフルを発砲、行き止まりになりそうだが第二体育館への廊下がある初等部一年生の教室側へと後退する。
撃たれる弾丸は巨人の顔面に命中するが特に痛がる様子もなく、逃げようとする朋枝に向かって丸太よりも太い腕を伸ばしてくる。
伸ばされる腕をバックステップや、時に転がって回避する朋枝に巨人は焦れたのか、怒ったように咆哮するとやたらめったらに手に持つ鉈のような無骨な石剣を振り回す。
ソレが艶やかな黒髪の先に掠り、ハラリと数本が散るのを冷や汗をかいて視界に入れた朋枝だったが、今度は脳天を割ろうと振り下ろされる石剣をすぐ横にあった教室に転がり込んで避けた。
すごい音と共にまた砂埃が舞い上がり、廊下側の視界を悪くさせた。
間一髪で石剣を避けることは出来たが、今度は回避した際に教室に並ぶ机などを巻き込んだことで、体中が打撲で強く痛んだ。
痛みに顔を顰める朋枝はよろめきながらも立ち上がり、転がった際に振り落とされた鞄やライフルを掴んで、飛び込んだ入口とは反対側のドアから素早く出て行こうとした。
しかし、それを阻止するようにたった今飛び込んだ入口が破壊される。
目の前で破壊された扉の破片などが飛んできたので、顔に当たらぬよう腕で庇う。
それが大きな隙となり、次の瞬間には朋枝は伸びて来た巨人の腕に捕まってしまった。
「ぐぅっ、ぁ、ああぁああああ!!」
巨人が獲物を捕まえたことによって歓喜の咆哮を上げる。
ミシリ、と己の体が軋むのが朋枝は嫌でも理解出来た。
あと数秒もしないうちにこの巨人は、華奢な少女の身体を小枝を折るようにして握り潰すか、その岩のような口に放り込んで噛み砕くだろう。
そう思うとゾッとすると同時に今まで軍人のように冷静であろうとした彼女の、まだ年相応の少女としての願いが脳裏に浮かぶ。
まだ、やりたいことがたくさんある。
性格故にあまりいないが、友人と買い物や出かけたりしてみたい。
憧れる祖父のような立派な軍人になりたい。
父や母の代わりに面倒を見てくれた祖母に、親孝行ではないが何も返せていない。
…無理かもしれないけど、恋というものもしてみたかった。
しかしそれも、今にも消えそうな灯火同然。
どんどん強くなる力に苦悶の表情を浮かべ、それでも朋枝は身体を捻ってなんとか抜け出そうともがく。
巨人はそれが鬱陶しかったようで、一思いに握り潰そうと反対側の手が朋枝に向けられた。
彼女の心に絶望が押し寄せる。
真っ青な顔をして、脳裏に先ほど別れたフィロや学生達、両親や祖父母の顔が走馬灯のように流れる。
その流れてきた祖父の顔を見て、朋枝は泣きそうになりながらもせめて軍人のように…と気丈に振る舞って巨人を睨みつけた。
そして偶然にも握り潰されそうになっていた朋枝の手が、スカートのポケットに入れられていたある物に触れた瞬間、目を焼きそうなほどの光が教室内を照らす!
咄嗟に顔を背けて目を瞑った朋枝の体が、巨人の悲鳴と共に僅かな浮遊感を感じさせるとそのまま落下する。
握り潰されそうになっていた所為で呼吸もままならなかった朋枝は、床に体を打ち付けるのと同時に転がると、離れた所に放り出されていた彼女の鞄にぶつかったことで漸く止まり、噎せながら巨人の方を見た。
「…ご無事ですか?マスター」
そこにいたのは先ほどの光によって怯んだ様子の巨人と、朋枝に背を向ける形で立つ白髪の青年だった。
真っ黒な服を着たその人は朋枝の姿を僅かに振り返って確認した後、何処からか取り出した細い剣を幾つか指に挟み、巨人の方へと注意を向ける。
見たことも無い初対面の人間に、いきなりマスター呼びされた事に戸惑いがない訳でもないが、一先ず朋枝は忘れることにした。
今重要なのはこの
とりあえず鞄とすぐ近くに転がっていたライフルを掴み、朋枝は握られて痛む体に鞭打ちながら立ち上がった。
それが判った青年が剣を構えると同時に、巨人は怒りの咆哮を上げると石剣を大きく振り上げて彼目掛けて叩きつけた!
石剣が叩きつけられる前に朋枝は教室の中を駆け出し、飛んでくる机や椅子を飛び越えたりしながら躱して廊下へと転がり出た。
巨人の体は教室の中へと完全に入っているのを確認すると、朋枝は直ぐ右手側にある第二体育館ではなく、巨人が塞ぐようにいた中等部の校舎へと向かって走り出す。
体の節々が痛いどころではないほど軋んでいるが、そんな事を気にしている暇はない。
急いで朋枝が巨人のいる教室から離れた所で凄まじい破壊音と共に、あの青年の声が聞こえた気がした。
思わず振り向けば、教室の壁を巨人が破壊して出てきた所で、青年は破壊された壁の瓦礫と共に吹き飛ばされたらしい。
幸いというべきなのか、青年が吹き飛ばされた方角はちょうど朋枝がいる方向で、コンクリートの粉を被りながら彼は立ち止まっていた朋枝の前に立つと言った。
「ぐ…っ、申し訳ありません、マスター。やはり戦闘向けではない私では、足止めが精一杯のようです」
多少申し訳なさそうに眉を下げてそう告げた青年は、もう一度あの細い剣を指に挟むと構える。
流石にこのまま
そんな朋枝を横目に驚いた様子の青年だったが、困ったように微笑むと巨人へと注意を向け、彼女が発砲すると同時に駆け出したのだった。
***
「……それが、あそこで戦闘をしていた経緯です」
そう締め括った朋枝に、食堂に集まっていた面々は様々な反応をする。
あの後、無事に巨人から逃げ切ることが出来た一行は劉が主となって徘徊する化け物を掃討しながら、拠点としている食堂まで戻ってくることが出来た。
扉をやや乱暴に叩けばすぐに開き、鍵を開けたサンソンが少しばかり驚いた様子で立っていたが、青年に抱えられている朋枝の姿を見てすぐに応急処置を施した。
その間に凛が彼女からこれまでの事を尋ねたのだが、これが一部を除いた面々にとって規格外だった。
普通に銃火器を扱える学生がいることに唖然としたり、戦える人が増えたことで多少安堵したり、特に興味がなかったり…。
その
「ふーん…で、あんたがこのチビのサーヴァントか?」
「ち……!??」
「おぉい!!?劉おま、バッカじゃないの?!!」
ごめんね凪崎さん!!と叫びながら謝る白夜が、スパァンッ!!と良い音を立てながら
チビと言われてショックを受けた様子の朋枝がプルプルと震えている姿に、質問を投げかけられた青年は戸惑いながらも頷いた。
「え、あ、はい…
「えっ!?天草四郎時貞って、天草・島原一揆の…」
「その首謀者、ですね」
青年…天草四郎の言葉にアテランシアが驚きの声を上げれば、彼は困ったように微笑みながら頷いた。
日本史を勉強していればすぐに分かるような人物に、他の面々も驚きの表情を浮かべる。
朋枝も目を見開いていたが、頭を振るとすぐに士郎達に言った。
「…兎も角、私は回復次第、中等部の校舎に逃げたフィロ先輩達を探しに行きたいです。ついでに私の教室や図書室に隠してある銃弾なんかも、今のうちに回収した方がいいと思うので行けたらと」
「おいまて、さらっとこいつとんでもないこと言ってるぞ」
「ちょっと衛宮くん、気持ちは分かるけど黙ってて」
すごく真剣な表情で言った朋枝だが、その内容は一般人からすればとんでもないことで、思わずツッコミをいれる士郎を凛が制する。
その隣でアテランシアがおろおろしていれば、高谷、金田の二人も困り顔で顔を見合わせている。
言いたいことは物凄く分かるが、一先ず白夜は
「えっと、凪崎さんと一緒にいたのはそのフィロさんっていう大学部の人を含めて五人。それと体育館から逃げる際に確認されている、間桐さんの双子の妹さんを探すのが第一目的…でいいんだよね」
「ってぇ…、白夜お前思い切り叩きやがって…」
「だって劉が悪い」
白夜の言葉に全員が頷いていると頭を叩かれた劉が、左手で叩かれた場所を押さえながら白夜の方を向く。
それに対してジト目で返した白夜を見ながら、苦笑を浮かべてサンソンが残りを引き継いで話す。
「その次に武器や物資の回収、でしょうか。此処には食料はあれども、それ以外の物資には乏しいので…」
「あと、出来るなら外部との連絡手段を何とか探るべきかと。毎日行っている、お祖父様との定時連絡が途絶えて発覚すればいいですが、少なくとも三日は経たないとお祖父様も動かないと思うので…」
「じゃあそれの他にあの黒服達の言ってた実験のこと、これも調べないと結局は解決しないんじゃないかしら」
サンソンに続いて朋枝、凛からの提案にアテランシアは悩む。
どれも大切だとは思うが、一度にこなすのはとても難しいと感じたのだ。
それを士郎も考えたのだろう、手を上げながら全員に言った。
「とりあえず、一度に全部は無理があると思うんだ。まずは仲間を集めて、それから
「それが最善かもしれませんね、第一に生存者の探索。第二に物資の回収及び連絡手段を探る。これでどうでしょう?」
「は、はい…!」
「問題は探索に行くメンバーだけど…」
「私は行きます」
士郎の言葉に賛同しながら天草がまとめ、それにアテランシアが頷く。
やっとまとまったことで密かに安堵しつつも白夜が言いかければ、間髪入れずに朋枝が手を上げた。
彼女の戦闘能力を考えれば反対はないのだが、巨人に捕まって握り潰されそうになっていた為に身体へのダメージが大きいのだ。
僅かに眉を顰める白夜を見て朋枝は言う。
「生存者の探索を行うならば、ある程度戦闘の出来る人間は必須です。それに私の弾薬の保管場所は、私以外には見つからないように細工をしているので他の人では見つからない可能性の方が高いかと」
「うーん…それはそうなんだけど…」
「行くっつってんだからいいだろ、悩まなくても」
「でもなぁ、劉…」
「朝礼の時間であった騒動から、もう半日近く経ったんだ。暗くなってから探索するのは得策じゃないと俺は思うぞ」
劉にそう言われて、一同はハッとすると食堂の外に目を向けた。
晴れていた外はだんだん太陽の位置が低くなってきており、あと数時間もすれば完全に夜の帳が下りるだろう。
そんな時間帯での探索は確かに危険だと全員が頷き、完全にダメージが回復した訳ではないが、朋枝と彼女のサーヴァントである天草を加えた六人で探索を行うことになった。
食堂への扉に向かうメンバーにサンソンが声をかける。
「いいですか、危険だと判断したら生存者がいてもすぐに引き返して下さい。自分達が生き残ることを大前提にしないと、全員が死ぬかもしれませんので」
「分かってるよ」
「すいません、サンソンさん。こいつが無茶しないように俺が見ておきますから…」
心配から告げられた言葉に素っ気なく劉が答え、それをフォローするように白夜が言うとサンソンは気にしていないという風に首を振った。
鞄の中身を確認していた朋枝はハンドガンに弾薬を補充した後、制服の内ポケットに入れる。
それを見ていたアテランシアがおずおずとしながら朋枝に言った。
「あ、あの…凪崎さん、」
「…なんですか、フェリス先輩」
「その、大したことじゃないんだけど…制服の内側に、武器を入れやすくするようにポケットじゃないけど、そういうのを付ける?って聞きたくて…。私、小物作るの趣味で、身体が弱いからそれくらいしか出来ないから…」
「……なら、裁縫セットも探してみます。戻ってきたらお願いします」
「!わ、わかった…!!」
俯きがちに告げられた言葉に面食らった表情をしていた朋枝だが、少し考えた後に淡々と提案を受け入れた。
それに驚いたアテランシアだが、自分にも出来ることがあると思うと照れたようにはにかみながら頷く。
アテランシアと朋枝の和やかな雰囲気に士郎もほんわかとなるのだが、これから命の危機と隣り合わせの探索に行くのだからと気を引き締める。
「まだあの巨人がいるかも知れないから、初等部の方は行かない方がいいわよね…」
「そうだな。行くなら凪崎と別行動になったっていう奴らが向かった、中等部の二階以上を探した方がいいだろ」
「他の化け物とも鉢合わせしないように、気をつけて行きましょう」
凛が支給された拳銃を持ちながら言うと劉が頷き、ある意味すぐに戻ってこれる中等部の校舎内を探索する事を提案。
全員が頷いたところで天草が注意を促しながら、先頭として食堂の扉を開き、士郎達が続くのだった。
現在の状況
*アテランシア
引き続きサンソン、間桐桜、他女子生徒二名と共に食堂で待機
*新島劉
衛宮士郎、遠坂凛、岸波白夜達と共に中等部校舎の探索を開始
*凪崎朋枝
初等部校舎一階にてサーヴァント、天草四郎時貞を顕現する
新島劉達と合流後、共に中等部校舎にて生存者の探索を行う
*フィロ
凪崎朋枝と別れてからの生死は不明