視点・場面変更多すぎてすみません。
「で? オタク今度は何をしたわけよ?」
軽薄を装っているが内心は気が気でない。漏れた言葉は疑問と焦燥に負けた証明とも言える。
電子の海からBBとアルターエゴを連れて帰ってきただけでも既に青天の霹靂だった。それに加えてこの女まで着いてきたともなれば悪夢以外の何物でもない。いよいよ持ってカルデアの危機かと冗談半分真剣半分だったが、今となってはその天秤は凄まじい勢いで傾きつつある。
逆ならばわかる。マスターである藤丸立香が泣いているのならばまだわかる。マスターである藤丸立香が踏みにじられているのならばまだわかる。
(マジでなんだっつーの……)
ダ・ヴィンチから無貌の王の準備を通達された時は何事かと不安を抱いたが、連絡を受けた現場に到着してみれば更に何事かと愕然とした。
清姫が現場にいるのは納得できる。
このサーヴァントは日本とかいう天然の蠱毒の壺が生み出した一級品のキワモノだ。
ロックがかかっているはずのマスターのマイルームに自室感覚で侵入し、マスターの童貞をさも当然のごとく奪いにかかる己が伝説を多角的に上回る女だ。挙句、失敗しても生活用品やゴミ箱の中身を確実に回収していくなど、その素行の怖ろしさには枚挙に暇がない。またぞろストーカーをこじらせて無用な不和を招いたのだろう。釈放から都合数時間で
だが、それ以上に何故、この女が、殺生院キアラが、マスターの腕の中で、無理やり純血を散らされた生娘の如く泣いているのか―――
確認と同時に無貌の王を展開。
赤黒い情念と殺意を撒き散らす清姫から二人を隠し、今に至る。
「いや、その……」
「立香さんは悪くないのです、ただ」
「アンタにゃ訊いてねえよ」
諸悪の根源らしきこの女を引き剥がそうにも、マスターは首を振るばかりで事態はまるで好転しない。
……向かう先はマスターのマイルームだ。これから何が起こるか想像したくもないが、もはやセーフハウスはここしかあるまい。
---
「んじゃ、気ぃつけなよ?」
「ああ。ありがとうロビン」
清姫にではない。この女にだ。
多くを識っているわけではないが、この女の本質が決して善ではないくらいは理解している。
この女は人間を誘い、奪い、堕とし、嗤う。人類史に刻まれるド級のサゲマンだ。
約束された不安がある。避けられぬ不幸がある。しかし、手は既に打った。
避けられぬならば和らげるまで。証拠が上がれば実力行使に異を唱えられるものなど誰もいないだろう。例えそれがマスターであっても。迂遠で危険な手段であるが、あのお人よしの方針上、これが最善だと判断した。
「仕込みは上々ってね」
マスターのマイルームを後にする。
後は事情を知っており、且つまともな神経と発言力を持っているヤツに報告すれば終わりだ。
残業が無いことを祈るばかりだがそうもいくまい。報告の後は早々に自室に戻り準備を始めなくては。だが――
(なんだ?)
言い表せぬ不安が残る。タスクは可能な限り片付けたはずだ。考えられる限りの罠を張ったはずだ。なのに何故不安が消えるどころか先程より増している?見落としは無かった、無かったはずだ。無貌の王の展開から今に至るまでを洗い直す。とは言え、あの二人からは事態を好転させられるきっかけになるような情報など出てこなかったはず――
「おいまさか」
汗が額を伝う。全身に怖気が奔る。
そうだ、あの女はマスターをこう呼んだのだ。立香さん、と。
駆られる焦燥は先程の比ではない。
ロビンフッドはダ・ヴィンチのマイルームへと全力で駆け出した。
「ん、じゃあ事態が動いたら呼ぶからスタンバっててね。そして、くれぐれも……」
くどいくらいに念を押す。この件は他言無用であると。
ロビンフッドから報告と受信機を受け取り、退室を促す。
近頃、マスターがあの殺生院キアラと共に外出することに違和感を感じていたが、まさかこんなことになってしまうとは。多少慣れたとしても監視を解除せずつけたままにすべきだったと今になって後悔する。
事情を知っているらしき者は自分を含めて5人。
清姫、源頼光、静謐のハサン、ロビンフッド。
(どれも信用できないんだよなー)
あの三人組は恐らく吹聴しないだろう。
イマイチ理解できないが、清姫を筆頭にこういった事柄には奇妙な矜持を感じられる。だが、あの三人組は導火線と火種がほぼワンセットなのだ。このあまりにも親切でありがたくない抱き合わせ商品は暴発する可能性が限りなく高い。まして事情を知らぬ者がそんな危険信号を見たら余計な波紋が広がるのは必定。そこから芋づる式に問題が掘り起こされてカルデアに激震が走るのは想像に難くない。
彼も彼で問題だ。
何せ彼は週刊カルデアアンケートのクッソチョロい男性部門で常に上位に食い込む程の逸材だ。アウトローを気取り、それを必死にアピる根拠に裏打ちされた、悪辣極まる手練手管は紛れもない本物。どこに出しても恐ろしい一級テロリストといえる。
だが、性根があまりにも善人なのだ。
この偽悪気取りとお人よしと実力が結びついているクソチョロ三位一体がとにかく曲者なのだ。
さながら
とは言え、彼本人はともかく彼の策は現状を打破するには良い手段といえる。もっとも、問題がまったくないわけでもないが。
彼も熱く語っていた通り、殺生院キアラの改心はまず不可能だろう。多少の心変わりは今日を見る限りあるのかもしれないが、情報通りならば性根が変わることはまずない。ならば、どうあっても彼女を排除するしかないのだが、それはマスターに大なり小なり瑕がつく。それも今日を見る限りわかったことだ。
目論見通り上手くいったとしても、その後のマスターへのフォローはどうすればいいのか。
いや、率先してフォローに回る輩は現れるのだろうが、そんな輩の性根と行うであろうフォロー内容を鑑みるに、第二第三の殺生院キアラ……翻って、また同じような
(もう一つだけ手を打とうか)
脳裏に浮かぶのはカルデア最古参のひとりでもあるハンス・クリスチャン・アンデルセン。
奇しくも今回の重要人物と接点がある彼ならば有益な情報が得られるだろう。事情を知るものを増やしてしまうのはよろしくないが、得られるであろう情報はマイナスを打ち消してお釣りが来るほどだろう。なにせ風のうわさでは初恋のラブレターをマスターに見せてやったとも聞く。そのマスターのためになるならば、訪問しても無碍にはされず、皮算用にもなるまい。
「さて」
時間はあまり残されていない。急ぎアンデルセンのマイルームへと向かわなくては。
今後を想定しながらも受信機にプラグを繋ぎ、イヤホンを片耳に挿し込んで廊下を駆け出した。
意識が浮上し始める。
もっとこの心地よい微睡に溺れていたいのに、そう思うほど意識は少しずつ鮮明になっていく。
目の前には瑞々しくも雄々しさを秘めた男の胸板。その胸板にぴったりと重なっている自分の頬。
重なっているのは頬だけではなかった。むしろ重なっていない部分のほうが少ないくらいだ。ほぼ全身にじんわりと伝わる熱と、ゆっくりながらも力強く上下する揺れが心地よい。何故今日の目覚めはこんなにも安らぎと充足感に満ちているのか。何故他人の人肌がここまで心地よいのか。不思議に思っていると意識が完全に覚醒した。
(そうでした)
昨夜、彼と繋がることができたのだ。自分の欲を知ってもらえたのだ。彼の答えを聞けたのだ。
お互いそれを明確に言葉にすることはできなかったけど、それでも伝わったのだ。
そう、自分と彼は――
途端、顔に熱が集い始める。高ぶる感情と熱を冷ますように彼の胸板に顔をぐりぐり擦り付けて熱を引かせようとしたが逆効果だった。
昨夜は嵐のような感情と官能に振り回されて、うまく考えがまとまらなかったけど、まさか第二波が行為が終わった朝に襲い掛かってくるとは思ってもいなかった。この熱と感情をベッドの中で転がって発散したかったが、あいにくベッドは彼が占拠している。ほぼ彼の体の上に乗っているような状況でそのようなことでもすれば、まず確実に彼を起こしてしまう。
そうだ、起こすといえば今の時刻は。寝坊してしまった感覚はあるのだが。
この体勢では時計が見えない。彼を起こさないようにゆっくりと身体の上からどき、床に足を下ろそうとして、ぐい、と腕を引っ張られた。
「あら」
彼が自分の手首を握っている。
呼吸音に乱れはなく、上下する胸の間隔も変化はない。筋肉もこの手をのぞき弛緩している。まぶたを開いて眼球運動を見るまでもなく、彼はまだ眠っている。
(――――)
自分の手首を握っている指を名残惜しくも解いていき、掴んだ張本人の頬に軽く口付けてシャワールームに向かう。
時刻は4時半と少し。彼や大多数の者にとってはまだ眠っている時間帯だが、一部の者はそろそろ起き出し何かしらの行動を起こすはずだ。その中でもフローレンス・ナイチンゲールは朝に見回りを行っていると聞く。彼のマイルームに直接上がり込んでくるとまでは聞いていないが、それがないとも限らない。
まずは軽く部屋の換気を。そして最低限の身だしなみを整えた後に、彼にシャワーを浴びさせて自室に戻さなくては。自分がこのカルデアで大多数の者から目をつけられていることは自覚している。今まではさして気にすることでもなかったが、今となっては話は別だ。くだらない追求でこの
「んっ――」
膣内から垂れてきた彼の精液を掬い、舌にのせてゆっくりと味わう。
ベッドの上で睦言を交わすことができなかったことを残念に思いつつ、シャワールームに足を踏み入れた。
足速くも音を立てずに廊下を歩く。
こんな時間に起きている人なんていないだろうが、言われた通りに素早くこっそりとマイルームに向かう。
本当は駆け出したかった。歓喜の声を上げたかった。この溢れる嬉しさを抑えるなんてしたくなかった。
しかし、彼女の言う通りだ。何より朝っぱらから叫んではみんなに迷惑がかかってしまう。
---
「いけませんよ立香さん」
やさしくも窘める声。
「これは秘め事なのですから」
彼女の顔が近づく。びっくりして反射的に顔を引こうとするが、彼女の伸ばした指がそれを阻む。
唇が重なる。ぷに、と柔らかく甘い感触。そして熱く濡れた強い――
(え? これ、舌?)
舌が自分の唇の隙間をなぞっている。それはまるでジッパーを開くかのように。
昨夜、自分が彼女に同じことをしたということも忘れ、その催促に答えようと舌を伸ばすと、それはあえなく空振ってしまった。
彼女の唇が離れる。
「今日のお昼、お時間ありますか」
「は、い」
「またあの喫茶店に行きませんか」
「はい」
「ふふ。ではまた、お昼に」
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足を先程より速める。
自分の顔がとんでもなく赤くなっていることがわかる。
こんな顔、誰にも見せられない。彼女以外には見せられない――
始めて見たときから気に入らなかった。
聖女のような野良犬の微笑み。媚薬臭い躰。命を嘲笑う眼差し――
おおよそここに相応しくない。我が子に並び立つなど以ての外。人を人とも思わぬ外法の化身。
それが殺生院キアラへの第一印象だった。それは今も変わらない。
癇に障る。あの毒虫が我が子の好意を足蹴に愉しんでいるのが気に入らない。近頃では自重を忘れ、共に外出にまで及んでいると聞く。ただ潰すのは容易だが、ここカルデアの秩序に則って為すのは容易ではない。
そして、今その毒虫が目の前にいる。勤めから開放されてようやく我が子に逢えると胸弾ませていたのに、とんだ出鼻を喰らったものだ。
「お早うございます。頼光様」
「ええ、お早うございます。キアラさん」
「お勤めご苦労様です」
「あら、お恥ずかしい」
この感情と共に目の前の毒虫を闇に葬ろうとも思ったが、それよりも。
「どうなさいました?」
「……いえ」
「では、失礼致します。本日も健やかにお過ごしになられますよう」
(何故)
去っていく背中を睨む。何故あの毒虫から。
---
「洗濯物ですか?」
「おわっ! ら、頼光さん!?」
「どうしたのです。そのように慌てて」
「い、いや、そう! 洗濯物なんだ! だから失礼するね!」
「あらあら、その程度母に言っていただければ。ささ、こちらに……あら?」
「まって! やめて! 返して! ホントマジでやめて!」
「まぁ……粗相をしてしまったのですね。まったく、
「ああああぁぁぁぁぁあああぁああ!!」
---
我が子を探さなくては。一体何があったのか訊かなくては。
奇しくも昨日と同じ席。
残念なことに視界の隅にカップルは映らなかったが。
「いきなり嗅いできたんだよ。いつもと様子も違ってさ」
「愛されていますのねえ」
「ビックリして振り切ってきちゃったよ。だから、帰りが怖い」
「ふふ、それは観念したほうがよろしいかと。帰ったらたっぷりお説教ですね」
――そう、自分のような魔性と繋がれば。
もっとも、バレている筈がないのだが。
彼はもう少しあしらうことも学んだ方がいいと思う。だが、そうはならないでいてほしいとも思うのもまた事実。何せそれこそが彼の
早朝の約束のおかげで今日は随分と余裕がある。昨日に続き、今日も自戒を込めたタンポンをつけているが、出番はなさそうだ。おかげでゆっくりこのやさしい時間を過ごすことができる。
「そ、それでさ、キアラさん」
「はい。なんでしょう」
「あ、あーん」
――来たか
予想はしていた。むしろ待ち望んでいた。そうでなければ昨日と同じ喫茶店を指定した意味がない。
そう、今日の真の狙い。それはやり直しだ。昨日は遅れを取ってしまったが、今日はそうもいかない。今の自分ならばやれる。やりきれる。乗り越えてみせる。
「あーん」
串に刺さった白玉を口に含む。彼の好意も合わさり、なんとも嬉しい味だ。もにゅもにゅと白玉を口の中で転がす。
果たして目的は完遂した。何か一つ、先に進めた手応えがある。
サンキュー立香、フォーエバー藤丸。吸水ポリマーの根性も真に迫っている。なにせ昨日に匹敵する愛液を受け止めてなお余裕があるのだから。この調子ならば、まだまだやさしくもあたたかい時間を、彼とゆっくり過ごすことができる。そして、今こそ昨夜言いそびれた言葉を――
「あーん」
「――――」
バカな。
完璧な受けだったはずだ。
そうだ。完璧に失念していた。これは食べさせあいだった。食べさせられれば、食べさせなくてはならない。そんな単純なことさえ見落としていたとは。この殺生院祈荒一生の不覚。
「あー」
彼は口を開いたままだ。応えなければならない。ここで応えずしていつ応えるというのか。
白玉に串を刺す。かろうじて指は震えていないが、胸の高鳴りが止まらない。鼓動の伝播を無理やり筋肉で抑え、刺さった白玉を彼の口へと――
「う、ぅ」
顔に熱が集う。視界が歪んでいく。いけない、これは。
「執筆中だ!! 邪魔をするな!!」
「ぐあぁー! 目がっ、目がぁーー!」
ノックに対する返礼はインクのダーツだった。アンデルセンはペンを手首だけで振るい、私の眼にペン先のインクを寸分違わず飛ばしてきたのだ。あまりにも予想外な攻撃に回避行動を取ることもできず、まともに眼球で受け止めてしまった。あまりの刺激に目を押さえてごろごろ転がる。来室した女性になんてことをするのだこの童貞は。
「ま、待って! 事は緊急を要するんだ!」
「知っている」
「まだ何も言ってないだろう!? いいかい、立香くんと殺生院キアラが――」
「識っていると言っている」
「え」
既に知っていたのか。いや、ならば、どうしてそんなにも。
「知っていて、キミは一体何をしているのかな」
「見ての通りだ。本ッ当に無粋だなお前は」
そう言うアンデルセンの顔は真剣そのものだ。いつものニヤついた笑みが口元にない。
コツコツと、彼が近づいてきて私の目の前に腰を下ろす。
「三度目はないぞ? 邪魔をするな」
取り付く島もなく私はマイルームから追い出された。
---
(なんだっていうんだい)
マイルームへと戻るために廊下を歩く。
有力候補だと思っていたアンデルセンに無碍に扱われとても腹立たしい。あのうわさはデマカセだったのか?
プラマイゼロどころか時間をロスしてマイナスだ。一刻も早くマイルームに戻らねば――
「ッ!」
ざざ、と右耳に音が聞こえる。まずい、動きだした。
歩いている暇などない。早く戻らねば。
ダ・ヴィンチは焦燥を胸にマイルームへと駆け出した。
彼女の涙を見るのはこれで二度目だ。
つい先程までロビンと一緒だったが、今はマイルームのベッドの上。
喫茶店で泣きだしてしまったキアラさんを抱きかかえ、急いでカルデアに戻ってきた。
途中ダ・ヴィンチちゃんと清姫に見つかり一悶着起こってしまったが、それはもう仕方ない。今はキアラさんのほうが重要だ。
彼女はまだ自分の腕の中でひんひん泣いている。
(――――)
つい、と彼女の頬を伝う涙を指で拭う。ぴくり、と彼女の身体が震える。
涙を晴らしたいと思うのは昨日に続いて二度目だ。だが、不謹慎ながら自分は。
(なんて可愛い
彼女の背中を持ち上げ顔を近づける。
彼女は目元を覆う指を外し、まだ涙を流す顔をこちらに向ける。
自分は彼女の頬を伝う涙を舌ですくった。
(なにやってるんだオレは)
反射的にやってしまった。そう自責しながらも舌先は止められない。理性が身体を抑えられない。
もっと気の利いた言葉があるだろうに。もっと求められる行動があるだろうに。
しかし、知らない。知らないことをできるはずがない。だからこの失敗こそが正解だ。
我が事ながら酷い開き直りだ。所詮昨日童貞を卒業した程度ではこれしかできないのか。
でも、なにかをしてあげたかった。
いま、なにもしないなんてできるわけがなかった。
胸が高鳴る。喉に力が入る。言葉が勝手に口から漏れる。
「好きです。キアラさん」
(ずるい)
自分が先に言うつもりだったのに。
自分の躰に誘われたくせに。
自分より年下のくせに。
(このひとはずるい)
昨日もそうだ。日中いきなり不意打ちをしてきた。
昨夜もそうだ。予想を超えて自分の
今日もそうだ。あれだけ心構えをしてきたのに――
そして、今も。
「貴女が好きです。オっ、オレと、つつ、付き合って――」
彼の背中に手を回し、遠心力をかけてベッドに押し倒す。
「わたくし、も」
鎖骨の近くに手をおいて、彼の顔を真正面から見る。
「好きっ! 好きですっ、大好きっ! 貴方が、とても――」
続く言葉は昨日と同じく彼の唇に阻まれた。
もっと
(ほんとうにずるい)
二人は昨日と同じく
「盗聴器?」
「そ。あのオッサンに教えてもらってね。これなら魔力で感知されないっしょ?」
「あまりいい趣味とは思えないなぁ……」
「そこはほら、マスターのためだと思ってさ」
---
ロビンフッドの策は実にシンプルだ。盗聴器を仕掛けてこれぞという証拠を掴み、弾劾する。
マスターが重度に惑わされているのならば、即時マイルームにロビンフッドと共に突撃する。
しかし、だが――
「なんだかなぁ……」
動きがあったかと思えば、まさか告白し始めるとは。
マスターはわかる。あのクソチョロアンケート不動のランキング一位に君臨し続けている彼ならばわかる。
しかし、まさか、あの殺生院キアラが、こんな声を上げるとは。
「証拠にならないよねぇ、こんなの」
焦燥は諦観に移りつつある。正直に言えば勝手にしろよとしか言えない。
こんなもの聞かせて私に一体何をしろというのか。だが――
「えっ、嘘っ」
なにが嘘なものかと自分の声に内心反論する。
清姫の言が真実ならば彼は既に童貞を失っているのだ。ならばこの流れは当然の帰結。
「えっ、待って、ちょっと、って速いな!? え、どうすればいいのコレ!?」
ロビンフッドに報告すべきなのか。静観すべきなのか。
既に事は始まっており、佳境に入っては出てを繰り返している。
まさかここに呼ぶわけにもいかないだろう。だってこれはあまりにも内容が……
「そうだ、なら」
その時、
宝具威力と防御力上昇にガッツまでついた今、正解を導き出すなど実に容易。
脳裏に浮かぶは酔いも回りに回った妖弦使いの顔。
「録音すればいいんだ!」
静観しつつも万が一があれば事後報告もできる。アドリブでさえも天才の所業。
私は今年度最高のドヤ顔で自画自賛しつつ、続きを聞き始めた。
下半身がなくなってしまったかのようだ。
彼女に全身全霊で
既に自分はこの短時間で二度の射精を迎えている。
一度目は亀頭が彼女の膣内に入った瞬間。
亀頭に食らいつきしゃぶりつくすような感触に、あっさりと射精した。
二度目は亀頭が彼女の子宮にぶつかった瞬間。
膣内がわなないたかと思えば陰茎全体に膣肉が余すところなく絡みつき、陰茎はおろか頭までも融かし吸い尽くされたかのような感触に、あっさりと射精した。
三度目も近い。そして彼女も。
「んぅっ、あ゛っ、あ゛ァ――」
精液と愛液が混ざりあった結合部からは、重い水音と肉がぶつかりあう音が鳴り響く。
こんな音が自室に響くとは夢にも思っていなかったが、この強烈な官能が夢ではないと実感する。
「もっと、もっとっ、シてっ♡ シてぇっ♡」
そう、これは夢を超えた何かだ。彼女と一緒に見る、夢の先だ。
目の前の淫らで美しい
「む、胸っ、掴んでっ、握りつぶしてぇっ♡」
大きく重くも、優しく柔らかい淫らな胸。
それを、そそり立つ乳首を押し出すかのように全力で握る。
「もっと、強くっ、そうっ♡ わたくし、を――」
限界が共に訪れる。
目の前が白く霞んでいく。官能は腰から上り、背中へ伝い、全方向に拡散していく。
頭がおかしくなっていく。三度目に差し掛かる今でもなお新鮮な官能だ。こんなものに耐えられるはずがない。
しかし、彼女と一緒なら。今に相応しいピリオドを打つのならば。
「メチャクチャにしてぇぇっ♡」
それは爆発に限りなく近かった。
腰の奥から何か重いものを無理やり引き抜かれたような。
今までの人生の絶頂が過去からまとめてやってきたかのような。
そんな暴力の極致とも言える官能に、しかし、心は穏やかだった。
広く暖かく透き通った海の中に唯一人いるような。
沈没でもなく浮上でもない。揺蕩う心地よさが全てを支配していた。
意識が消えていく。
自分はいま何を見ているのか。
視界は白とも黒ともわからない。ただ、何かを見ていることだけは確かだが。
力が抜けていくこともわからず、ただ自分の意識は消えていった。
「フー……」
なんと豊かな交わりか。
終わったことが嬉しくもあり残念でもある。
ロビンフッドも気が利かない。いっそ割り切ってビデオカメラでも良かっただろうに。
終わったのならば片付けよう。ロビンフッドへの言い訳も考えなくてはならない。
しかし――
「なぜ人理は脅かされるのだろう――」
私は
濡れた右手もショーツも、今はどうだっていい。しばらくこの
そんなに時間も経過していないのだ。ならばさらに数分伸びたところでどうということもあるまい。
さて、この音声データはどうしたものか。
何せ内容が内容だ。ラベリングから気を使いたくもなる。
万が一に備えてスタンドアローンのPCにデータ保存をしていてよかった。何かの間違いが起きないように、イヤホンジャックの付いた小型端末にでも移動して、自分の枕元にでも厳重に保管しなくては――
そして、ピリオドを一つ。
「フー……」
首を回すと凄まじい音が聞こえる。
なんとも気分が清々しい。難産だったが、なんとか形にすることができた。
時計を見れば日が没するまでにまだ時間がある。この余韻を、約束された満足な睡眠を残したまま味わえるとは。この時間はいい酒で飾ろう。何せ最近全く呑んでいなかったのだ。
「っと」
忘れていた。自分の心にもピリオドを一つ。
「出来た!」
タイトルは――そう――