視点・場面変更多すぎてすみません。
今回エロはちょっとしたギャグでしかありません。
「――ということです」
「迂遠では? 今もマスターは年増に嫐られているというのに」
「ですから、どうかお二方は深呼吸を」
やはり頼光さんは頼光さんか。
こういう時は真っ先に鉄火場にカッ飛んでいくクセに、急に策を練ろうなどと珍しく冷静かと思えば。やはり内心は嵐のように吹き荒れているらしい。公園に戦術核を打ち込むかのような容赦の無さに感嘆すればいいのか、カルデアの
マスターの前ではせいぜい性癖を踏み外させる程度の優しいおっぱいさんだというのに。
まぁ、今回はそのマスターの問題だ。日頃マスターを我が子と呼ぶ溺愛ぶりを鑑みるにこの荒れ具合は必然か。
源頼光。
修羅の国にて無双を誇りしサムライ一族の祖。
この母性だかママショタだかにドハマりした対魔忍は、当時クッソHOTなホラースポットであるHEY-ANにて最強と謳われた筋金入りのデビルバスターである。音さえ追いつかぬ技の冴え、防御すら許さぬ神力魔腕、アラミド繊維の強度を超えるクーパー靭帯。そのどたぷん揺れる無窮の武練は、数多の魔と男の腰を引かせたという。
しかし、この対魔忍の真の恐ろしさは武力のみに非ず。げに恐ろしきはそれを動かす精神性。目的のために常識や道徳を捨てるのではなく、ケースバイケースで入れ替える積み木感覚の割り切りの良さだ。第三者から見れば佳境のジェンガですら舌を巻く心の
そんなキ○ガイに刃物を地で行く頼光さんにプランニングを任せるのはあまりにも危険だ。
「私の策の何処に不備が?」
「迂遠だと申し上げたつもりですが」
「情報の不足です」
清姫さんにもはや言葉は通じまい。
なにせ己が眼前でマスターが連れ去られたのだ。しかも本人はダ・ヴィンチに
「これ以上なにが必要だというのですか」
「そうです。既に証拠は出揃っているではありませんか」
「殺すことは何時でもできます。ならば被害をどう抑えるかをまず考えるべきです」
二人の言に間違いはないのだろうが、日頃の行いを鑑みるに周囲への説得力はまだ浅いだろう。むしろ私達への奇異の目が強まり、自分の首が締まる公算のほうが高い。そもそも私達が直接手を下せば次の矛先が何処へ向くかは自明の理である。ここは外堀を埋めるのが先決なのだ。そして外堀を埋めた後に、私達に被害が及ばぬように事を治めるのが上策といえよう。トロフィーとはこの手に抱いて掲げることにこそ価値があるのだ。
「一理ありますが……」
「では、今後の方針はどうするのです」
「しばらくは様子見でよいかと。そもそも、お二人は殺生院がボロを出す可能性をお忘れでは?」
あの女の召喚直後の素行の悪さは記憶に新しい。
何か問題が挙がりそうになるたび、アンデルセンがミキサーしたカメムシを口に流し込んだかのような表情で擁護していたことを思いだす。当然あっさり進退窮まるのだが、突如全裸にタブレット一丁で廊下を笑いながら全力疾走し始めるその姿に、すわ新時代の
マスターの童貞が奪われたことは少々残念だが、逆に言えば賽は投げられたのだ。放っておけば勝手に自爆して事が治まる可能性のほうが高い。むしろそのほうが望ましいだろう。マスターには気の毒だが、あの女をダシに使うほうが余程リスク・リターンが釣り合っている。
「流石の目敏さですね」
「策士ですね、静謐さん」
「いえいえ」
小学生から九九の暗算を褒められたに等しい屈辱を感じるが顔には出さない。
女の友情などこの世に存在しない。あるのは連帯感のみだ。
「では」
「ええ」
「はい」
「「「KENZEN!」」」
抜け駆け禁止の誓いを立てて散開する。
さて――
「フゥ……」
シミュレーションを終え、シャワーを浴びる。
今日も技のキレが良い。これならばどのような敵であろうと遅れは取るまい。
---
「ふざけているのか?」
「俺は真面目だ! だからその肛ゲイ剣をしまえ!」
少々力みすぎていたか。
そろそろ勇猛も切れる頃合いだろう。手近な椅子に腰を下ろす。
「しかしなぁ、よりにもよって何故……」
「なんだ? 流石の元アルスター王もキアラは手に余るか?」
「流石の俺も食虫植物に突っ込む気にはなれん」
躰と香りは素晴らしいと言わざるをえまい。だが、メイヴとは決定的に異なる。
自身の向かう先がウツボカズラとわかれば話は別だ。味わっている最中に溶かされるなど、パイプカットの方が余程慈悲深いと言えるだろう。
「ほう、お前は穴がついていれば花瓶にでも突っ込む男だと思っていたがな」
「はっはっは、花瓶よりもいいものが目の前にあるだろう?」
「悪かった! 流石に今のは俺が悪かった!」
童貞より先に処女を散らされたいのかこの童話作家は。
いや、幼い躰から漏れる低い喘ぎというのも、これはこれで……
「もういいだろう? さっさと出て行け。俺はこれから執筆作業にはいる」
「こんな時にか? やはりふざけているのではないだろうな」
「こんな時だからだ。その大股を閉じてさっさと失せろ」
「そうしよう。だが、忘れるなよアンデルセン」
――万が一があれば、あの魔性の血に我が虹霓は映ると
---
「……なんともまぁ」
まるで父親にでもなった気分だ。
そうか、思えばあいつとの付き合いも長くなったものだ。
ならばここは父親らしくドンと構えていようではないか。
この世全ての欲があいつを堕とそうというのならば、俺はそれを晴らす虹となろう。
「ごめんね、痛かった?」
こんな彼の顔を見るのは始めてだ。
涙を流す紅い瞳はそれでも自分を力強く睨み続けている。
「そんなに泣かないで。これでも悪いと思ってるんだ」
紅い瞳に更に力が宿る。
天の鎖に縛られ無抵抗の身体を弄ばれても、なお輝きを失わないこの眼差しが心地よい。
こんな気持ちになれるのならもっと早くに済ませておくべきだった。
「お詫びに、僕のはじめてもあげるよ」
前布をたくし上げる。
自分からは見えないけれど、今の気分に相応しい躰に変容しているはずだ。
「まずは同じこちらからだね。ああ、そんなに暴れないで」
彼の態度とは裏腹に控えめなものを握る。
後ろの穴ににあてがおうとするも、重心と角度から意外と面倒なんだとわかる。
これなら先に一度、前の穴で慣らした方が良かったのかもしれない。
「僕も
そして腰をゆっくりとおろしていき――
それ以来、縛られることに親友との情交と昏い悦を思い出してしまうギルガメッシュ。しかし、その悦楽も長くは続かなかった。二度目の涙を流し、悲しみに明け暮れるギルガメッシュは、悲観からか幸福にも偽りの奇妙な運命と相対してしまう。マスターをかばい二つの性器を濡らしたギルガメッシュに対し、天の鎖、両性クソサドエルキドゥが言い渡したプレイの条件とは……
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「なんだこれは」
「最近スランプでしてな。適当に筆を走らせてみたのですよ」
「そうか。朝刊デビューおめでとう」
遺影は記事の被害者写真で十分だろう。さて、香典と線香の用意など自室にあっただろうか。
スランプとは恐ろしい。一度かかれば偉大な劇作家も己が命をチップにするスリルジャンキーと化す。終点はメロンゼリー以外の何物でもないこの
それにしても何が適当に筆を走らせた、だ。『
「なに、こうしてしまえばいいのですよ」
そう言うとヤツ――ウィリアム・シェイクスピアは紙を二つに折った後こよりにし、火をつけパイプに近づけた。
なんとも汚い種火があったものだ。例えExpが10万得られると言っても使いたくない。
あぁ^~と煙を吐くヤツに魔力弾をぶつけてやりたいところだが、酒をねだりにきた身としてはここはスルーすべきだろう。何よりここまでヤツがイカれているのも珍しい。流石にこれ以上の刺激は腐ったニシン以上のことになるだろう。
「そちらは随分筆が進んでいるようで」
「今しがた終わったところだ。だから酒を取りに来た」
「セラーは自室にあるのでは?」
「ただ酒よりも旨い酒があるか」
それもそうですな、と腰を上げ奥に進むヤツを尻目に、今後のことを考える。
不安がまったくないわけではない。何せアレの性根など自分が一番よく識っている。
だが、アレは都合二度も破れたにも等しいのだ。あれだけ派手に負ければそれが何かもわかり始めることだろう。
ならば、うまい立ち回り方も自ずと――
ごとり、と目の前に安物のシュナップスが置かれる。
「一つ、知りたいものですな」
「俺に聞くことか」
「それもそうでしたな」
空手で席を立とうとすると、瓶を手に押し付けられる。
「おい」
「好みではないので」
よく言う。
パイプをくわえ執筆作業に移るヤツを一瞥し、瓶の首を持ちドアに向かう。
もうここに用はない。安物とは言え酒も手に入った。後はツマミを調達して自室に戻るだけだ。
何より先程の題材に低年齢化を加え始めたヤツの執筆を邪魔する気にもなれない。世界最古のインピオなど一体何処の誰が得をするというのか。いよいよもって追い詰められた物書きの業と闇の一端を見なかったことにしつつ。
「ただの流行りだ」
ヤツの自室を後にする。
なんて絵になる
髪をかきあげシャワーを浴びる彼女を見て、ただそう思う。
流れる黒い髪は水で飾られ、美しさをあざといくらいに強調する。
その髪は淫靡な躰を覆い隠しているようでその実まったく隠していない。まるで淫らな躰を際立たせる玲瓏なカーテンだ。そのカーテンの下もつい先程見たばかりか触れたばかりだと言うのに、もうこんなにも――
「まあ」
身体と視線をそらす。
昨夜も含めれば都合四度も射精したにも関わらず、自分のものはまたしても屹立し始めた。
ぴたぴた、と彼女が後ろから近づいてくるのがわかる。流石にこれはない。何もかもがぶち壊しだ。だってさっきしたばかりで、終わったばかりなのに。
むにっ、と自分の背中に重そうで柔らかいものが押し付けられる。
うなじの近くにぺたりとくっつく感覚がある。
後ろから手が回され自分の腹の近くで指が組まれる。
「あんなにしたばかりなのに」
「あ、いや、あの」
「意地悪な人。またわたくしをいじめようとするのですね」
「えっ、いや」
その言い回しは卑怯だ。確かにそうだけど、だって、キアラさんだって。
すす、と。自分の腹で組まれた指が解かれ下がっていく。指は自分の両腰を伝い、腿で止まった。背中に押し付けられる重さが増したのがわかる。今、自分はキアラさんにしなだれかかられている。
「でも、これ以上されたら、わたくし泣いてしまいます」
「――――」
「ですから。また、明日」
「は――」
「今度はどちらにいたしましょう」
「え?」
下がった指は自分の両腿をさすり続けている。
中心には痛いくらいに怒張したものがあるのに。彼女の指は自分の両腿をさすり続けている。
「昨夜と同じ? それとも」
「あ、の」
「また、ここで?」
「う、ぅ」
背中が軽くなる。
柔らかい感触が夢のように消えていく。彼女が離れていく。
「ふふふっ」
振り向くと彼女はとても面白そうに笑っていた。
まるでいたずらが成功した子供のように。
けれど、揺れる大きな胸と、くびれた腰は、彼女が決して無垢な子供なんかではなく――
「さあ、立香さんの番ですよ。流して差し上げます」
自分は頷くことしかできなかった。
言葉にできた。言葉にしてもらえた。
またも泣いてしまったけど、予定とはだいぶ変わってしまったけど、自分たちは通じ合えた。
――好きです。キアラさん。貴女が好きです――
にへら、と自然に釣り上がる口角を抑えられない。
激しい絶頂で身体は疲労しているにも関わらず走り出してしまいそうだ。
こんな気持ちになったのは初めてだ。刺激が強すぎて心に体がついていかない。
ここに喚び出された時にはこんなことは夢想だにしていなかった。
いつ折れて諦めるのかと楽しみにしていた。いつ苦悩の果てに壊れていくのかと楽しみにしていた。
覗き込むような彼の眼を鬱陶しく感じたこともあった。自分に靡かない彼に冷めたこともあった。
それがまさか、天上解脱に
今なお微かに残る甘い痺れが心地よい。
この痺れが夢ではなかったことを教えてくれる。先程の交わりを実感させてくれる。
重く甘い痺れが五体の隅まで響くあの感覚が。
全てが浮上して粉々に壊れるようなあの心地が。
好きなだけ壊れていいと囁いてくれる彼の躰が。
力強く自分を抱きしめて守ってくれる彼の腕が――
快楽には違いない。
だが、今まで貪ってきたものとは全く違う。
いくら喰らえども最後は花火のように消えていくだけだったものではない。
まるで全てが満ちたかのような暖かい充足感。全てを識れたかのような澄んだ安らぎ。
もっと自分を知ってもらわなくては。もっと自分に溺れてもらわなくては。
もっと彼に伝えなくては。もっと彼に教えなくては。
そうでなければ不公平だ、とても釣り合いが取れない。
なにせ、ここまでされてしまったのだから。
彼と辿り着いた絶頂の果てになら、彼になら殺されてもいいなどと思わされてしまったのだから。
自分の今までを根こそぎ使って彼を抱きしめ続ける。
逃さない。そう、魔性菩薩である自分からは逃れられない――
「どこまで逃げてもオンザてのひら……」
いけない。何か少し乱れた。
やはり疲れはごまかせないか。自室に戻って夕食まで少し睡眠を……
「あら」
「きゃっ」
(そろそろ戻ってきているでしょうか)
先輩はこの頃、少しおかしい。
キアラさんと頻繁に話し合うようになってから、何か少しずつ変わってきているように思える。
今日の朝もそうだ。明確に何がとはわからないけれど、いつも以上に何か違った。何かこう、いつもとは違う何かを見ているような。そんな漠然とした不安を感じた。今日も予定があると言っていたけれど、多分またキアラさんと外出したのだろう。
「……っ」
キアラさんはいい人だ。
セラピストである彼女は日々サーヴァントやスタッフの悩みを聞いているという。
そのカウンセリングは時には理論で、時には心情で。その柔らかな物腰と受け答えをする彼女と話すと、とても気分が安らぐという。電子の海で戦った時とはまるで別人のようだけど、多分こちら側が本当の彼女なのだろう。
(私では、不足なのでしょうか)
私も先輩の相談に乗ってあげたい。力になってあげたい。
私の世界を彩ってくれた先輩に何か返したい。
守られてばかりだった自分が。だからこそ自分が、先輩を守ってあげたい。
「いけない」
これから先輩に会いに行くのに、こんな気持ちじゃ心配をかけてしまう。
夕食までまだ時間もあるし、できればそれまでゆっくりお話したい。
(戻ってきていますように)
少し足早に歩こうと気持ちと顔を上げた瞬間、誰かとぶつかってしまった。
「きゃっ」
「あら」
倒れこそしなかったものの、たたらを踏んでしまう。
「す、すみませんっ。お怪我はないでしょうか!」
「いえ、こちらこそ不注意でした。マシュさんこそお怪我は?」
目の前には奇遇にもキアラさんがいた。二重の意味でびっくりしたけれど、それよりも。
(?)
いつもと違う匂いがする。いつもは何かのお香みたいな匂いがするキアラさんなのに、今日はどこかで嗅いだ匂いがする。どこだっただろうか。いつもどこかで嗅いでいるような気がするのだけれど。そう、どこか身近で――
「マシュさん? やはりどこかお怪我を? それとも何か持ち物でも?」
「い、いえっ! 大丈夫です。少し、呆けてしまって」
「そうですか……では、失礼いたします。本当にごめんなさいね」
去っていくキアラさんを眺める。
気になる匂いは既に消えていたけれど、違和感はこびりついたかのように消えない。
(あれは一体……)
考えていても仕方ない。それよりも先輩の部屋に行かないと。キアラさんが戻ってきているのならば、先輩も戻っているのだろう。
気を取り戻して足早に歩く。先輩の部屋はこの先だ、あと少し歩くだけで先輩に会える。
「本当に大丈夫なんですかねぇ? 俺にはとてもそう思えないんですけど?」
「大丈夫だよ。少なくとも殺生院キアラに悪意はない」
納得いかない顔だ。
それもそうだろう、なにせ殺生院キアラは悪意さえも純粋な外道だ。無条件に信じろという自分が如何におかしいかは重々承知している。だが、先程の音声の前ではこうせざるを得ない。殺生院キアラに思い入れなどないが、マスターである藤丸立香は話は別だ。今ここで事を詳らかにすれば余計な瑕がつくというもの。瑕の問題で言えばむしろ手遅れなのかもしれないが、先走って大きい瑕を付ける必要はどこにもない。
「そうですかい……じゃあ、今回はアンタを信じますがね? もしまた何かあれば」
「大丈夫だって。それに今回の件は別に殺生院キアラが引き起こしたものではないだろう?」
「そりゃそうだが、これから起こるかも知んないでしょうよ。むしろ関係を持った以上、今からでも」
「それは野暮だよ」
はーっ、と大きいため息をついて懐から紙巻きを取り出し火をつけるロビンフッド。
断りもない上に禁煙である私の部屋で失礼極まりないが、ここは心情を汲み取って何も言わないでおく。
「へーへー。んじゃ、俺はこれで」
「うん。ポイ捨てはダメだからねー? それと、この件はくれぐれも」
わかってますよー、と言う言葉とともに退出していく。
(行ったか……)
一先ずはこれでいいだろう。
少々やきもきするが、これ以上こちらから行動を起こすと変にこじれるだけだ。行動を起こすにしてもそれはあの二人に対してではなく、情報の拡散防止と万が一を考えた時のフォローに労力を費やした方がいい。知らぬ間とは言えカードは既に切られたのだ。今更流れにケチを付けてもろくな結果になるまい。
「さぁて」
一段落付いたのだ。
ティータイムも近いし、一つ息抜きでもしよう。
食堂に誰かいたらいいなと思いつつ、自分も続くように部屋から退出した。
「先輩? いらっしゃいますか、先輩?」
返ってくるものは先輩の声ではなく、無音。
(おかしいです)
キアラさんが戻ってきているのなら先輩も戻ってきているはずなのに。
まだ外出中なんだろうか。それともカルデアのどこかにいるんだろうか。
「……」
ロックがかかっていれば、それはそれで。
いなかったら、それはそれで。
いるならばそれに越したことは……
私は一体何を考えているんだろう。こんなことしちゃいけないのに。それでも、ここまで来たのに。
ドアが開く。ロックはかかっていなかった。
「せん、ぱい?」
入り口から覗き込むようにして部屋を見渡しても姿が見つからない。ロックを掛けずに外出してしまったんだろうか。と、ベッドに膨らみと黒髪が。
(おやすみでしたか)
ほ、と複雑な安堵を一つ。
それにしてもお昼寝とは珍しい。目に見えないところで疲れでも溜まっていたのだろうか。
眠っているのなら邪魔をしてはいけない。お話できないのは残念だけど、先輩に会えただけでも十分。お話ならまた夕食時にでも――
「……」
思考の波が収まったおかげなんだろうか。それともただ思い出しただけなんだろうか。
(違う)
いつもの先輩の部屋と違う。この違和感は一体。
いや、違う。これは違和感ではなく、既視感――
歩幅を広めにとって先輩の眠るベッドに近づく。
確認しなくてはいけない。このいつもの空気に混ざるものが何であるか。何故そんなものが混ざっているのか。どうやって確認すればいいのかわからないけれど、先輩に訊いて確認しなければいけない。
眼下には眠る見慣れた先輩の顔。いつも着ている制服の襟元。嗅ぎ慣れた先輩のシャンプーの匂い。
さっき、キアラさんからも漂った、同じ匂いの――
「ッ!」
咄嗟に足を引く。
先輩に何かを訊かなくてはいけないのに、足は勝手に入り口に進む。
今こみ上げているものはなんなのか。涙なのか、吐き気なのか。それとも。
先輩の部屋を後にし、駆け出す。
まだ何も解っていないのに、違和感が形になりつつある恐ろしさを払拭するかのように。