エロ無いです。下品なだけです。
タイトルが付いていますが、ぐだおとキアラの設定と同じです。
「――では、見かけたら連絡をお願いします」
「うん、わかったよ」
要件を伝えると無駄なく踵を返すナイチンゲールさん。
恐らく自室に帰って資料整理をしつつ待機するのだろう。その後姿をしばし見送ってから、自分も自室に向かって歩を進めた。
(ナイチンゲールさんも大変だなぁ)
彼女が言うには、ギルガメッシュが定期健診に姿を見せないらしい。見かけたら医務室に来るように伝えてほしいとのことだが、ギルガメッシュが素直に応じてくれるだろうか。まぁ、頼まれたからには伝えるだけは伝えるつもりだけど。
(王様も忙しいとは思うけど)
ギルガメッシュにはクォンタムピースと各種素材の管理、並びにそれら活用のアドバイザーを行ってもらっている。
以前は自分とマシュとダ・ヴィンチちゃんの三人合同で担当していたが、ギルガメッシュが召喚されてからは彼が進んでその役目を買って出た。
ギルガメッシュ曰く――
「ままごとでもあるまいに無駄が過ぎる」
あくまでアドバイザーなので、こちらの采配に応じてくれはするけど、代わりに無駄遣いの類は一切できない。
しかし、これ以降は実に効率的な資産の管理と運用が行われるようになった。後に召喚されたエルキドゥも協力し、資材管理は盤石の体制が確立されはしたけど……
(働きすぎなんだよなぁ)
そう、働きすぎなのだ。
過労の一言で済ませられないほどの連続勤務時間は正しくブラック。
労基法に真っ向からガンを飛ばすその勤務態度は、こちらからすれば感謝と心配の二律背反で実に
加えて、いくらサーヴァントになろうとも疲労で脳は鈍るのか、疲労がたまり始めるとしばしばギルガメッシュは突飛な事を口にしはじめるのだ。本人は至って大真面目なのだろうが、その態度と言葉の乖離は見るに堪えない。本人は休んでいると言うものの、実際それが真実かは火を見るよりも明らかだ。
(なんとかしたいなぁ)
以前から思っていたが、やはり分業にした方がいいだろう。
夕食までまだ時間もあることだし、丁度いい機会だから草案でも作ってみようか。
そう思いつつ自室のドアを開けると、
「遅い。我を待たせるとは随分と偉くなったものだな、立香」
「王様?」
噂の人が自分のベッドの上に仁王立ちしていた。
(名前呼びってことはこりゃ相当疲れてるな)
「どしたの王様。あとベッドに立つのはやめて」
「たわけ、王が臣下と同じ目線で言葉を交わすなどありえぬわ」
そう言って腕を組みこちらを見下す。
身体は随分と反っており、もう少し反らせば見下しすぎて見上げてしまう状態になりかねない。
と、本人も疲れた身体にその体勢は辛いのか、身体を元に戻す。
「まぁよい。我が今日この見窄らしい寝所に出向いてやったのは他でもない。カルデアの戦力についてだが――」
「セックスしながらは戦わないよ」
先手を打つ。
自分の記憶が確かなら、先週に先の切り口から件の突飛な戦略を口にされたばかりだ。
「ほう……我が決定を遮るとは。いい度胸だ雑種」
「先週も言ったじゃん! そりゃ出力は上がるかもかもだけど、倫理的にも動作的にも無理があるんだよ!」
そう、先週に伝えたはずだった。
---
「雑種、ふと思ったのだが」
「なに、王様」
「マスターとサーヴァント、彼我の距離でサーヴァントの出力が変わるのであれば……」
「うん」
「まぐわいながら戦えば最大出力を発揮できるのではないか?」
「何言ってんの?」
---
先週でその話題は終わっていてほしかったけど、どうやらギルガメッシュの中では保留に過ぎなかったらしい。
思えば、あの時点でナイチンゲールさんかエルキドゥに報告しておくべきだったのか。
「たわけ、無策で話題を蒸し返すわけがなかろう。まぁ、黙って聞いておけ」
そう言うとギルガメッシュが顎をしゃくる。
座ってよしのサインが出たので、来客用の椅子をクローゼットから取り出して、ギルガメッシュの目の前にかけた。
「まずセックスから離れようよ。仮に倫理に目を瞑ってもだよ? サーヴァントが激しく動いたら抜けちゃうでしょ」
「黙って聞けと告げたはずだがな。……まぁ、貴様が上下前後どうなろうと、結局サーヴァントが動けば肉は
先週に四十八手をプリントして議論を重ねた結論をギルガメッシュが繰り返す。
考えずともわかることなのだが、先週の時点でギルガメッシュは相当キていたらしく、この結論に至るまでに多大な時間と労力を費やした。
「でしょ? だから――」
「ゲート・オブ・バビロンを使う」
「は?」
無意味だからやめよう、と続けようとするも、更なる突飛に打ち消された。
「ゲート・オブ・バビロン内部に貴様を放り込み、貴様のその粗末なモノだけを外に出すのだ。それを女の膣に収めさせた後に、現出空間を対象の相対位置に設置する。そうすればいくら動こうと抜けることはあるまい」
「あ……? あ……?」
「何だその高層ビルから落下しそうな貌は」
烈風拳を飛ばす方なのか、顎が鋭利な方なのかを尋ねる余裕すらなかった。
『何だ』はこちらの台詞だ。確かに無策ではなかったけど、こんな案が飛び出てくるなら無策のほうがまだ良かった。
「先程、貴様は倫理に目を瞑ると言ったな。ならば早速テストを始めるぞ。立て」
無駄に豪奢なSEが鳴り響くやいなや、目の前に人がひとり通れるほどの空間が現れる。
まだ中に入ってもいないのに、空間から漏れ出すきんきらな光が拡散して眩しくて仕方がない。
あまりの展開に頭が追いつかない。
まさか本当にやるのか。テストとは言えこんな頭悪い戦術を……したところで一体何が得られるというのか。
「えぇ……」
しかし、自分が口に出来たのは困惑の呻きだけだった。
「調子はどうだ、立香」
「うん……空間の境界部分がなんかムズムズするけど、大丈夫そう」
「前半の感想はいらん。が、であればよい。しかし……」
「女性サーヴァントの協力は得られなかったね。まぁ残当」
綺麗な紅葉が頬にこびり付いたギルガメッシュにそう返す。
このあまりにも情けない秋の風情は、ゲート・オブ・バビロン内部で自分がスタンバイしている最中に、ギルガメッシュが自室付近を歩いていた女性サーヴァントをスカウトした結果だ。
「まったく嘆かわしい。人類最古の壁尻を味わえるのだ、名誉であろうに」
「どこの誰が名誉に思えるんだよ! えっ、ってかこれ壁尻の原典なの!?」
「我の
「えぇ……」
驚愕の事実だが埋もれていてほしかった事実だ。
この世の快楽を極めたなどと言っていたけど、まさか己が宝具でそんなとんでもないことをしていたとは。
鍵剣って、まさかそういう意味だったのか……?
「宝具をそんな異常性癖に使うとか……王様何やってんの」
「たわけ、ウルクでは一般性癖だ」
そんなわけがあるか。
自分の心の反論など当然知らず、ギルガメッシュはさぞ落胆したかのように頭を振る。
ついでに自分も心のなかでそれに匹敵するほどの落胆を覚える。
「まったく、この程度で騒ぎ立てるとは……貴様の性癖にタグがあればさぞや味気無いのであろうな。男子たるものこの活用は当然であろうに。現にシドゥリめなどは――」
「この流れで出していい名前じゃないだろ!? ホントマジでやめてよそういうの!」
何か尊いものを守るために声を荒げる。
今のは流石に危なかった。見逃していればこれから先バビロニアにレイシフト出来なくなっていたところだった。
「立香」
「……なに」
途端、声のトーンに真剣味を帯びさせたギルガメッシュに、警戒して返事をする。
「壁尻は嫌いか?」
「真顔で訊くのやめてくんない?」
若干軽蔑の視線を混ぜて返すと、ギルガメッシュを眉を寄せてむぅ、と唸る。
まさかとは思うが同調してほしかったのだろうか。であれば、まずはこちらの心情を先に同調してほしかったんだけど。
しかし、過労の席とは言えとんでもない事実があらわになってしまった。できればこのまま歴史の闇に埋もれて欲しい系の事実が。
ギルガメッシュの経歴を調べるにあたって参考にした資料に、『初夜権』なるものがあったけど、まさかこれを活用していたんじゃないだろうな。だとしたら、多角的なクレームに頭を悩ませるシドゥリさんの心労は、それはそれは並大抵のものではないだろう。
「ねえ、もうこれやめない?」
「何を言う。カルデアのため、ひいては貴様のためになるのかも知れんのだぞ」
(なりそうにもないから言っているんだけど)
これは事を治めるに時間がかかるな、と心のなかで嘆息する。
更にはギルガメッシュをナイチンゲールさんに診せなくてはならないというタスクも生まれてしまった。
これは骨が折れるぞ、と諦め半分で心ごちると――
「やはりスケベ会議ですか。いつ再開いたします? わたくしも参加いたしましょう」
「うわっ!」
「殺生院」
シャワールームから突如現れたキアラさんに、ギルガメッシュが視線を移す。
一体いつの間に自室に入りこんだのか。全く気が付かなかった……
「何やら楽しそうな声が聞こえましたので、仲間に入れていただこうかと思っていたのですが」
タイミングを逃してしまいまして、と頬に片手を当てて微笑むキアラさん。
声は漏れないはずなんだけどな……それともギルガメッシュの紅葉狩りの最中にだろうか。
そんなキアラさんにギルガメッシュは眼を細めた。
「疾く失せよ。……と、普段なら言うところではあるが、丁度いい。テストへの協力を許すぞ」
「ちょっ、王様」
「お断りいたします」
「なに」
「なに、と仰られるとわたくしも困ってしまいます」
すわ紅葉狩りの再来かと肝を冷やしたが、キアラさんには余裕があるようだ。
話がわかる
「は、悪食が食器と雰囲気に拘るか」
「そうでもありますし、そうではないのですが。まず常識的に考えていただけませんでしょうか」
「常識と来るか。貴様のような
「休養はおろか常識までお忘れになられるとは。過労よりも痴呆を憂いたほうがよろしいのでは?」
(まずい)
ギルガメッシュは地雷原を凱旋する気満々だ。
これはまずい、三度の無礼は釈迦でもキレる。いくらキアラさんとは言え限度というものが――
「たわけ、四週間程度の連続稼働で回らなくなる頭など持ち合わせてはおらぬわ」
「……これは驚きました。噂以上のワークホリックですのね」
痴呆をスルーするギルガメッシュにも驚きだが、連続稼働時間には更に驚きだ。
口だけで休憩なんてロクに取っていないだろうと踏んでいたけど、まさか四週間もぶっ続けとは。
そこまでの仕事量とはとても思えないけど、ギルガメッシュからすればそうではないのだろうか。
しかし――
「ああ、道理で……」
それだけ続けばギルガメッシュとは言えこうもおかしくもなるだろう。普通の尺度で考えれば過労死してない方が驚きなのだが。
休憩時間の有無はさておき、半年以上も過労死に耐えた実績があるせいか、妙な耐性でもついてしまったのだろうか。
「道理で、なんだ? 雑種」
「いや、なんでもないです」
何故痴呆はスルーしてこちらは見逃さないのだろう。
それとも、異常な連続稼働時間の証明が痴呆を否定していたのだろうか……
キアラさんが座る椅子をクローゼットから取り出す。
ここからはキアラさんも交えての議論となるが、一体どう転んでしまうのだろうか。
キアラさんには以前ギルガメッシュの過労について軽く言及してはあるけど……
椅子を置くついでにキアラさんに視線を向けると、キアラさんはウィンクを返してきた。
(これは)
大丈夫、なのか?
丸く収めてくれると期待していいのだろうか?
自分の懸念を知ってか知らずか、キアラさんは用意した椅子に腰掛けると口を開いた。
「さて、わたくしが助力できることと言えば、そう。賢王様が立案なされたプランへの指摘です」
「ほう。我が徹夜で考え抜いた戦略に口出しする腹積もりか」
とうとう無休憩を隠しもしなくなったギルガメッシュ。
その立ち振舞たるや、支配者の鑑とも言える風格が震える膝からにじみ出ている。
立ち続けることさえ辛いのなら座ればいいのに。疲労は隠してもプライドを隠す気は毛頭ないらしい。
「交合による出力増加。……ええ、一端の興味はございますが、賢王様のプランでは本末転倒かと」
「なに?」
「女性からの協力が得られないという問題は今更なので省略させていただきます。それを除いて、問題が二つ」
「許す。申してみよ」
キアラさんは指を二つ立てると一息置いた。
個人的には女性から協力を得られないという時点でこの上なくご破算だと思うんだけど。
「まず一つ目。このプランでは出陣枠がほぼ固定されてしまいます」
「ふむ」
「出陣できるのは賢王様と女性の皆様のみ。これでは編成の自由度が下がってしまいます」
それはそうだ。
出力向上がどの程度かまだ不明瞭ではあるが、編成の自由度を極端に下げてまで行うこととは思えない。
ことサーヴァント戦では相性というファクターは特に重要だ。不確定要素を残したままとは言え、それを無視してまで行う必要があるかは怪しいところだ。
「続いて二つ目です。よしんば女性の皆様の協力を得られたとしても、湧き出る官能を堪えながら戦闘を行うのは難しいと存じます」
「……」
当然と言うべきか、サーヴァントの負担は考えていなかったのだろう。それはギルガメッシュの頬を彩る紅葉が証明している。
ギルガメッシュに言葉はない。かく言う自分も、己が男性器と倫理が全く考慮されずに問題点の指摘が終わってしまったことに言葉がない。
だが、果たして結論は導き出された。
これでギルガメッシュもいい加減納得してもらいたい。期待を込めつつ、返答はいかにとギルガメッシュに視線を向けると――
「――業腹だが、道理ではあるか」
四十八手のプリントを目の前にして導き出した結論と同じことを言うギルガメッシュ。
どうやら納得してくれたようだ。というか、これに食い下がられてはどうしようもなかった。
……まぁ、当初はてっきり数時間は拘束されるものかと覚悟していたけど、なんとも早く終わってくれて助かった。
さて、虚しい議論も終わったことだしギルガメッシュを医務室に送り届けなくては。
既に限界を超えてオーバーヒートの域に達しているのは今までが証明している。言って聞くようなサーヴァントでもなし、キアラさんに協力してもらって無理矢理にでもナイチンゲールさんに診させないと。
「そこでわたくしの提唱するプランがこちらです!」
「えっ」
重い腰をあげようとした途端、底抜けに明るい声が自室を支配した。
このうきうきとしたトーンは聞き覚えがある。これはキアラさんが悪いことを発表するそれだ。
ここ最近では鳴りを潜めていたと言うのに、安堵が支配していた脳内は一気に警笛を鳴らし始めた。
ちょっと待ってほしい、もうこのへんでエンディングでいいんじゃないのか……!?
「
どこからともなくA4用紙を取り出し、自分とギルガメッシュに配布するキアラさん。
十数分での精一杯って、まさかシャワールームに潜んでいた最中にこれを書いてたのか……
プリントを眺めると、今までの説明と改善策が図解入りで記載されていた。
見る限り筆か何かで書いたようだ。わかりやすい図と見事な達筆が目と脳にとてもやさしい。
―――ただ一つ、自分のチンコがギルガメッシュに連結されている図さえ除けば。
プリントに顔を埋めぷるぷる震えているギルガメッシュと、それを見てにっこにこ笑うキアラさん。
と言うかマジかこれ。いったい何考えてんのキアラさん……!
自分の焦燥を他所にプリントから顔を上げるギルガメッシュ。それに応じるかのように、今度はキアラさんがその様子を見て震えだした。
殺生院祈荒 ―絶頂―
「殺生……院……」
出所不明な男性の声をかき消す、大気すら震わせるギルガメッシュの声。
それは憤怒、恥辱、憎悪、屈辱のいずれか、あるいは全てを表す感情の波紋。
いかん、危ない、危ない、危ない、危ない……!
「
裂帛の気合と同時に放たれる天の鎖。
それはまるで鉄砲水のごとくキアラさんに猛然と襲いかかった。
抵抗らしい抵抗の素振りも見せず、鎖を受け入れるキアラさんの表情は変わらず笑顔のまま。
「そしてくらえっ! 我が集めたコレクション! 『射出』ッ!」
またも自室に響く豪奢なSE。
空間から鎌首をもたげるは吸血鬼ですら滅ぼすであろう宝具の原典。
それが揃って今まさにキアラさんへと牙をむく――!
「ストップストップ! 王様ストップ!」
「ええい! 離さんか雑種ゥ―――!」
たまらずギルガメッシュにしがみ付く。
「待って! 悪気は――」
「120%悪意しかないであろうがァ―――ッ!」
悲しいかなまったくもって否定できない。
それはまるで、エンディングを迎えるであろう直前に電源ケーブルを引っこ抜くが如き所業。
いや、ギルガメッシュの怒りを鑑みるにそれすら生ぬるいだろう。もはや説得はおろか場を治めることさえ難しい。
「キアラさん! 逃げ――」
「失礼します」
事の収拾を諦めて問題の先送りにシフトしようとした瞬間、新たな来訪者がそれを阻んだ。
ふと視線を向けるとそこには、
「え、ナイチンゲールさん?」
「はい。突然の来訪申し訳ありません。今日は彼に用がありまして」
(彼……?)
彼……口調から自分ではないのは確かだが。
それに該当する人物など……あ、いた。
「我は忙しい! 後にせんか女ァ!」
「そうもいきません。貴方は定期健診を長いこと受けていらっしゃらない。今日は力づくでも受けさせます」
「なッ……! ええい、離せ! 離さんかゴフゥッ」
炸裂するナイチンゲールさんのショートアッパーじみたボディブロー。
ドズッ、という凄まじい打撃音の発生源であるギルガメッシュは、さながら糸の切れた人形のように崩れ落ちた。
ある程度予想はしていたとは言え、これから定期検診を受けさせる上に、過労が確定している人物に行っていい対処なのだろうか……
だが、こちらの心配などどこ吹く風で、ナイチンゲールさんは軽々とギルガメッシュを肩に担いでドアへと歩き出す。
と、キアラさんの目の前で歩を止めた。
「ご協力に感謝します」
「お気になさらず。なんでしたら、医務室を一晩ほど貸していただければ」
「お断りします」
にべもなく自室から退出するナイチンゲールさん。
見送ろうとする暇もなく、ギルガメッシュを担いで廊下の奥に消えていってしまった。
(ご協力に感謝します、って)
「ひょっとしてキアラさんが呼んだの?」
「ええ、わたくしもナイチンゲールさんから申し付けられておりましたので」
「いつの間に……」
「最初からですね。何やら立香さんの部屋の前で騒がしかったので、内線を通じて」
「なるほど。何にせよ助かったよ」
お気になさらず、とキアラさんが微笑む。
紆余曲折したが、改めて。
果たして一つの問題は解決した。だが、新たな問題がまた増えてしまった。
一つは資材管理の分業、もう一つはギルガメッシュの機嫌だ。
前者は以前から薄々思っていたことでもあるし、着手に全く当てがないというわけではない。
引き継ぎなどに少々時間がかかるだろうけど、それさえ乗り越えてしまえば軌道に乗ることだろう。
問題は――
(メチャクチャ怒ってたからなぁ……)
さて、どうしたものか……
資材管理とは違ってこちらは明確な解決法など思い浮かばない。
元々ギルガメッシュの突飛な話は過労から来るものであり、それの原因であろう自分が強く言える立場ではないのだ。ギルガメッシュの話に付き合ったのもそれがあるからであって……
ギルガメッシュにも過労で我を失っていた自覚はあるだろうが、かと言ってそれを省みる性格でもない。
「賢王様の件でしたら、お相子だと思いますが」
思考に耽っていると、キアラさんに呼びかけられた。
考えを見透かされて少々気恥ずかしいが、それ以上にお相子という言葉が気になった。
「お相子?」
「ええ、わたくしは平手を返しておりませんので」
「……ああ」
流しているように見えて怒ってたんだ……
それもそうか、いくら前後不覚に近い相手からとはいえ、あんな言葉を受けたのであれば。
……あ、むしろあの場面は自分が代わりに怒っておくべきだったのか。これはダメだ。
「ごめん、キアラさん」
「? 何も負い目に感じる必要はありませんよ。当事者はわたくしなのですから」
「そう、かな……」
「そうですよ。わたくしも胸が晴れましたし」
それはあのとても面白そうな笑顔でわかる。
だとしても、それなら時系列がおかしいような。仮にギルガメッシュが特に言わなかったらどうしていたのだろうか……それとも元からギルガメッシュに何か思うところでもあったんだろうか。
「だとしても、これはちょっとやりすぎじゃない?」
「しかし一般的に男性へと挿れる箇所は――」
「そういう意味で言ったんじゃないよ!」
今の会話において『やりすぎ』というのは行為の図であって行為の強弱ではなく、『一般的に』と『男性』という言葉に親和性もないはずだ。
まず第一に同性に挿入しているという問題に着目してもらいたい。
「……ああ! 同性には抵抗がありますものね」
「そんなようやく気づいたみたいな」
「ようやくだなんて、そんな。これは事故です、事故」
あわや免停レベルの事故だった。
ある意味畏敬すら覚えてしまったけど、こういった類の尊敬はしていいのか悪いのか。
「ええ、ええ。立香さんが興味があるのは異性のお尻ですものね?」
「え」
……しまった、言葉に詰まった。
途端、内心を察知してかキアラさんの指が頬に迫る。
「ありませんか?」
「いや……そんなの、無い、よ」
「本当に?」
「……う、う」
キアラさんがこちらを覗き込む。
顔を逸らそうにも頬を抑えられていて、視線を逸らしてもキアラさんの瞳が追いかけてくる。
顔に熱が集うのがわかる。急にそういう話をしてきて、逃げ道を塞ぐのは、ずるい。完璧に遊ばれてる。
恥ずかしさと共に手も払いのけたいけど――払いのけられない。興味なんて、そんな――
「ふふ」
キアラさんの指が、頬から離れる。
それは今度は、肩の上に。
「わたくしはいつでも構いませんよ」
「……」
「立香さんが望むのであれば、今夜にでも」
返答をしようにも声がでない。
肯定するには恥ずかしすぎて、否定するにも期待が邪魔をして……
ここから一体どうすればいいんだ。何か動かないといけないのか? だとしても、何をすればいいんだ?
情けない葛藤に没入していると、肩から離れた指が自分の手に重なる。
「では、参りましょうか」
「え、あの」
「お夕飯の時間ですよ」
「あ、うん……」
一瞬肩透かしを食らってしまったが、それすら救いに思ってしまった。
まったくなんとも情けない……こういうのって慣れるものなんだろうか。
思えば自分はリードされてばかりだ。これは流石に男の沽券に関わるだろう。
引かれる手に足を動かし、ドアをくぐる。
くぐった際に思ったことは、入室の時のそれとは全く違っていたものだった。