聖女(性女)様と一緒 ~悠々自適の一人旅が、波瀾とエロに満ちた珍道中に~ 作:ぐうたら怪人Z
「だるーい。
足疲れたー。
おんぶー。
だっこー」
「……黙って歩きなさい」
駄々をこねる少女――エルミアを宥めながら。
青年――ヴィルは、自分の中の少女像が脆くも崩れ去っていくのを感じた。
彼女は、さっきからずっとこの調子だ。
数歩歩いては泣き言を漏らし、数歩歩いては我が儘を言う。
そこに、出会った当初(本当に最初だけだったが)の面影は残っていない。
(俺のときめきを返して欲しい……)
勝手にときめいたのだから、彼女に責任は無いとはいえ。
それでも、この変貌っぷりはあんまりだった。
誰が、あの“聖女”然とした姿から、この有様を想像できるというのか。
「あー、もう足が棒になっちゃった。
ねえ、困ってる女の子を放っておいてもいいのー?
少しは助けてあげようって思わないのー?」
「……黙って歩きなさい」
ヴィルの口調には大分疲れがでてしまっていた。
ちなみに散々文句を言われているが、彼女の荷物が入った大袋はヴィルが持たされている。
いったい何が入っているのか深く詮索するつもりはないが、結構な量と重さだ。
いま彼女が持ってるのは、愛用しているという杖一本だけ。
しかし、荷物持ちだけではエルミアを満足させるに足らなかったようだ。
(……そういえば、墓を作った時も働いてたのは俺だけだったような)
思い返す。
あの時は特に気にしなかったが、エルミアは指示を飛ばしていただけだった。
まあ、指示というよりお願いに近い形ではあったが。
(力仕事だし、親しい人が亡くなったショックもあるだろうからと、俺一人でやることに異論はないが)
その時既に、“このこと”の片鱗を見せていたのかもしれない。
(まさか、あの覆面連中が義の勇士で、エルミア達が聖女の利権を欲していた、なんてことは無い、よな)
不安がよぎる。
無い。
いくら何でも、それは無い。
奴らはいきなりヴィルを殺そうとしたのだから。
きっと無い。
無い、はず。
(無いと、いいなぁ)
最後の方は希望を込めて、そう願う。
そうこうしてる間にも、エルミアの愚痴が耳に入ってくる。
「ていうか、考えてみればこんな可愛い女の子を背負えるとか、ご褒美と言ってもいいんじゃないかしら?
ほら、報酬の前払いってことで私を背負ってよー」
「 黙 っ て 歩 け 」
ここのやりとりだけ切り取ると、まるでいたいけな女の子を無理やり歩かせている冷血漢に見えるかもしれない。
弁解しておくと、別にヴィルとて“本当に”エルミアが疲れているのであれば、ちゃんと配慮するつもりなのだ。
しかし様子を伺い見るに、あれこれ文句を垂れているものの、彼女はまるで疲れている様子は無かった。
足取りもしっかりしているし、顔色も良い。
つまりエルミアは、“ただの我が儘”で駄々をこねているというわけで。
(……我が儘に付き合う気にはなれない)
仮定の話だが。
もし、エルミアが“最初のまま”であったならば、むしろ喜んで背を貸していたかもしれない。
ヴィルとて健全な男性である。
合意があるのであれば、多少そういう“恩恵”に預かりたい気持ちだってある。
――ただ。
今の彼女相手にそれをしてやる気持ちは、失せ果てていた。
(猫を被り過ぎだろう、この女)
そして猫被りを終わらせるのが、早すぎだった。
いっそ、ずっと猫を被っていて欲しかった。
そうであったならば、彼女を王都は届けるという目的へもっと意欲的に取り組めただろうに。
……この時、ヴィルは知らない。
エルミアはこれでもまだ、自分の本性を明かしていないのだ、ということを。
「……今日はここで一休みするとしよう」
荷物を降ろしながら、ヴィルはエルミアに話しかける。
ここは、簡易な休憩所だ。
そんな大層なものではなく、雨風がなんとか凌げる程度の、安い作り小屋といったところ。
この国の街道にはところどころ、こういう建物が設置されている。
まだ明るくはあるのだが、ここより先の休憩所には日が暮れるまでにたどり着けないだろう。
「結局おんぶするんだったら、最初からしてくれればよかったのに……」
横ではエルミアがぶーたれている。
そう、ヴィルは最終的に根負けし、彼女を背負うはめになったのだ。
やはり男という生き物は女に勝てないものなのか。
(……まあ、ひょっとしたら。
ひょっとしたら、俺が気づけなかっただけで本当に歩けない状況だったのかもしれないし)
そうやって、自分を誤魔化す。
背負った時の彼女の感触が、未だ鮮明に残っているのも内緒だ。
……実に柔らかく、すべすべして、暖かい手触りだった。
(忘れろ! 忘れろ! 忘れろ!!)
エルミアに気付かれぬよう、心の中だけで自分を叱咤し、必死にその時の“思い出”をかき消す。
彼は邪なことを目的に少女に随行したわけではないのだから。
心を落ち着かせる意味も込めて、ヴィルはテキパキと宿泊の準備をする。
休憩所は余程人通りの多い街道にある物を除いて、メンテナンスなんてされていない。
埃塗れなのは当たり前。
下手するとよく分からない――
ヴィル一人であれば気にしないのだが。
(今は、女の子がいるからな)
ベッドも布団も用意されていない場所だ。
箱入り娘(明言されたわけではないが、そうとしか思えない)のエルミアには、かなり辛いはず。
せめて、清掃くらいはしておこうと考えたわけで。
ヴィルは道具袋の中から掃除に使えそうな布切れ等を取り出しながら、エルミアに告げる。
「今から掃除をする。
少しの間外で待っていてくれ」
「ん? 別にそれ位なら私も手伝うわよ。
これから寝るところだしね」
「……そうか?」
打って変わって、エルミアは協力的だった。
汚いところで寝ることへの嫌悪感が、掃除の面倒くささを上回ったのか。
(……まあ、女の子だからなぁ)
男である自分とは、感覚が違うのだろう。
寝床の清潔さには譲れないものがあるのかもしれない。
日が沈みかけ、そろそろ辺りが暗くなり始めた頃。
元々小さい小屋であったため、そう時間はかからず掃除は終了した。
それでも、辺りは大分暗くなってしまっていたが。
小屋には簡易な暖炉のようなもの(暖炉と断言するにはお粗末過ぎる)があったので、そこに火をくべて灯代わりにしている。
「こんなものでいいか?」
「うん、まずまずね」
エルミアからも許しが出た。
2人でやった甲斐もあってか、それなりに小奇麗にすることができた。
根本的におんぼろなのは直しようが無かったが。
「さて、適当に寝床を用意するか」
ヴィルは道具袋を探り、毛布を取り出す。
これを床に敷けば、寝床の完成だ。
エルミアが眉をしかめた。
「何それ、薄いしぼろっちぃし」
「ほっとけ。
これがあるだけでも大分違うんだ」
「ふぅん」
生返事をすると、エルミアはエルミアで自分の荷物を漁り出す。
取り出したのは、直方体の白い物体。
それを床に置き、何やら呪文を唱えると、みるみる物体が膨らんでいく。
そして、見るからにふかふかとした、マットが出来上がった。
「……なんだそれ?」
「何って、マジックアイテムの携帯用ベッド」
「そんなものが入っていたのか……」
高価な魔法の品で、寝具を用意しているとは。
流石、聖女様といったところか。
(色々物申したいところだが――まあ、寝る場所にもアレコレ注文つけられるよりましか)
夜が更けてきたこともあり、ヴィルは自分の敷いた毛布に腰を下ろすと、
「さて、そろそろ休もう。
早朝から出立しなければ、次の街に着けないからな」
就寝をエルミアに促す。
彼女は驚いた顔をして、
「え、貴方、
「ん?」
ヴィルは聞き返す。
「おいおい、まさか、君はこっちの毛布を使いたいとでも言うのか?」
「まっさかー。
私は断然こっちよ」
「そうだろう」
だったら、ヴィルは毛布を使うしかない。
話を終わらせて寝そべろうとした彼に、しかしエルミアはなお食い下がった。
「ヴィルは、ベッドを使いたくないの?
凄く寝心地いいのよ、これ」
「使いたいかどうかと言われれば、そりゃ使ってみたいが」
柔らかいベッドというものには、ここ最近まるで縁がない。
久々にそれを味わってみたいという思いは一応ある。
「だが、それは君が使うんだろう?」
「ええ」
「だったら、私は毛布だ。
何の問題もない」
言い切る。
だが、彼女は不思議そうに疑問符を浮かべる。
「どうして?」
「いや、どうしてって」
どうにも話が嚙み合わない。
結論はとうに出ているはずなのだが。
「君は、ベッドを使う。
俺は、毛布を使う。
お互いそれに不満がないのだから、この話はこれで終わりだ」
「でも、ヴィルはベッドの方がいいんでしょ?」
「ベッドは君のだろう」
「2人で使えばいいじゃない」
「…………は?」
一瞬、エルミアの言ったことが理解できなかった。
一方で彼女はベッドをぽふぽふと叩いて、
「貴方と私で使っても、狭くは無いでしょ、これ。
毛布とか窮屈でしょうがないんじゃない?」
「……大きさだけで見ればそうだが」
エルミアのベッドは大人が2人寝ても十分な広さだった。
それこそ、毛布で寝るよりもスペース的には大きい位だ。
しかし――
「だ、駄目だろう、それは!」
「なんで?」
「なんでって!
ほら、あれだ、年頃の男女がだな、同じ寝床で寝るというのは――」
言ってて、恥ずかしくなる。
まさかこんなところでこんな内容の説教をすることになるとは思わなかった。
ヴィルの言葉を受けて、エルミアは少し俯き――
「――私と一緒が、嫌ってこと?」
「そんなわけないだろう!――――あ、いや、違う」
つい、本音を漏らしてしまった。
そりゃあ、こんな可愛い美少女と一緒に寝られるなんて、男として嬉しいに決まっている。
嬉しいんだけれども、そこは大人として踏みとどまらなければならないのだ。
しかし、エルミアにその理屈は通じないようで。
「だったら、いいじゃない」
笑いながら、そんな言葉を投げかけてきた。
「……うっ」
その笑顔に、ヴィルは何も言えなくなってしまう。
この一日で散々我が儘言われて振り回されたとはいえ、一度は本気で恋に落ちかけた少女の微笑みだ。
どうしたって、心が高鳴ってしまう。
(――ひょっとして、俺が気にし過ぎなのか?)
エルミアは、“男女の関係”についての知識が無いのかもしれない。
彼女の境遇から見れば、ありうる話だ。
教会では、淫らな行為を厳しく制約されていると聞く。
男と一緒に寝るということの意味自体が分からず、ただ純粋な厚意で自分にベッドを勧めているのか。
(彼女からしてみれば、俺は無碍に厚意を断っているように見えているのかも)
だとすれば。
一緒に寝た方がいいのだろうか。
(実際問題として、そうしたところで彼女に危険は無いわけだし)
当然である。
ヴィルは、指一本エルミアに触れようとは思わない。
いや、彼女を背負った時にはあちこちに触れてしまったが、アレは不可抗力だ。
自分からそんな卑猥なことをすることなど無い。
ヴィルは、それ程愚かな男では無いのだ。
「……分かった。
じゃあ、お言葉に甘えて俺も使わせてもらおう」
「はいはい。
全く、面倒な男ね。
素直じゃないんだから」
呆れた口調で言い放つエルミア。
ヴィルはそれに肩を竦めつつ、ベッドの上に座る。
すると、ベッドは彼の身体を包み込むように優しく変形した。
「おお。
確かに、いい塩梅だ」
寝心地もさぞかしいいことだろう。
早速、ごろんと横になってみる。
(……ほう)
案の定、全身がふかふかの感触に包まれる。
これで寝れば、一日の疲れなどすぐに取れそうだ。
「どう?
いいでしょ、このベッド」
「ああ、最高だ」
嘘偽りなく、そう思う。
「うんうん。
じゃあ――」
エルミアはヴィルの言葉にこくこく頷いてから。
「…………はい?」
状況が理解できない。
ヴィルは今、ベッドの上に仰向けで寝ている。
その
互いに見つめ合いながら、身体を密着させている。
絹糸のような銀髪がヴィルの顔にかかり。
澄んだ瞳が間近に迫り。
瑞々しい唇が、すぐ傍にある。
女性特有の甘い匂いが、鼻孔を刺激した。
身体全体に、彼女の“柔らかさ”が伝わってくる。
胸の、お腹の、腰の、太ももの。
ベッドの感触とは、比較もできない“気持ち良さ”。
ヴィルの心臓が、どくんどくんと音を立てる。
頭に血が集まり、顔がぐんぐん熱くなっていく。
「お、おい、エルミア。
何の、つもりだ……?」
「何って……分からないの?」
分からない。
いや、違う。
ここから想像できることは、ある。
だがそれは、通常ありえないことなのだ。
「ば、馬鹿なことは、止めて――早く、どきなさい。
お、俺を、からかうのも、ほどほどに、しろよ?」
窘めようとするも、言葉が上手く出ない。
彼女の吐息が顔にかかる程、接近しているのだ。
しかし、エルミアの方は実に平然としていて。
「何よ、本当に素直じゃないのね。
したいんでしょ、セックス」
「セッ――!?」
いきなり出た単語に、心底度肝を抜かれた。
「き、君はいったい何を言って――!?」
「はいはい、皆まで言わなくとも分かってるって。
貴方が、私の身体目当てにしてるってことは」
小悪魔めいた笑みを浮かべて、少女はそう言った。
「ち、違う、俺は――」
「へえ、違うんだ?
だったらさ――」
彼女はヴィルの上で、もぞもぞと動いた。
「どうして
股間を、エルミアが触ってくる。
青年のそこは、言い訳不可能な程に強く勃起していた。
「うわぁ、ズボンの上からでも熱くなってるのが分かっちゃう。
私を犯したくて仕方ない、って感じ?」
優しい手つきで愚息を擦る少女。
ヴィルは、掠れた声でどうにか言葉をひねり出す。
「エルミア、何で、急に、こんなことを――?」
「んー?
ほら、私って教会育ちだから禁欲生活が長いの。
エッチなこととか、ぜーんぶ禁止にされちゃってんのよ?
せっかくその束縛が無くなったんだから、この機会にそれを堪能しなくちゃ損でしょ」
「そ、損って――!?」
急に喋れなくなる。
エルミアの唇が、ヴィルの口を塞いだのだ。
「んっ…んっ…んんっ…ちゅっ…んぅう…」
激しく吸い付いてくる。
瑞々しい感触が口周辺に広がる。
さらに彼女は、口の中に舌を潜り込ませてきた。
「ん、んっ…ちゅるっ…れろ…ん、んんっ…」
ディープキス。
ヴィルの舌が、エルミアの舌と絡まる。
凄く繊細で、滑らかだ。
2人の唾液が混ざり合い、ぴちゃぴちゃと音を立てる。
それが、数十秒、続く。
「……んふぅ」
ようやく彼女は、口を離した。
満足げに、舌で唇を舐める。
その姿は、酷く妖艶だった。
「どう? その気になった?」
言いながら、エルミアはヴィルのズボンに手をかけた。
慣れた手つきでベルトを外し、彼の股間を露出させる。
「あはっ、おっきぃー。
何よ、こんなに興奮しちゃってたの?」
直に剛直を触りながら、エルミアはにんまりと笑う。
――そこが、我慢の限界だった。
「――きゃっ!?」
身体をブリッジし、無理やり彼女を除ける。
マウントを取られていようと、所詮は少女の体格。
行為の実行は、いとも容易いものだった。
「ちょ、ちょっと――」
戸惑うエルミアをベッドに転がし、両手で彼女の身体を抑えつけ、上に覆いかぶさった。
先程とは、上下が逆になった形だ。
ヴィルは、少女の目を覗き込みながら、言う。
「……そっちから、誘ってきたんだからな」
「――あ」
彼女が何か言うよりも早く。
ヴィルは、エルミアの唇にしゃぶりつく。