聖女(性女)様と一緒 ~悠々自適の一人旅が、波瀾とエロに満ちた珍道中に~ 作:ぐうたら怪人Z
イェンズ家族と別れてから、幾日か過ぎた。
今、ヴィルとエルミアは山道を歩いている。
この辺りは岩肌が多く、ちょうど山と山との谷間に道が作られているようだ。
そのため街道の両端は、岩が壁のように切り立っている。
(挟み撃ちされたら逃げるのが難しい場所だな)
ヴィルはそんなことを考えていた。
グレッグの件は片付き、今はもう命を狙われる立場にないとはいえ、魔物だの山賊だのが襲ってくる可能性はある。
――
「――んん?」
「どうしたの、ヴィル?」
前方に、“変なモノ”が見え、思わず声を出してしまう。
目を凝らしてよく見ると――
「――アレは、岩か?」
「岩?」
巨大な岩が、街道を塞いでいた。
「いや、悪いな、兄ちゃん達」
左右にそびえる崖に挟まって、道に鎮座している大きな岩石。
その撤去工事をしていた担任者の一人が、そう言ってヴィルとエルミアに頭を下げる。
見たところ青年よりも年上の無骨な男性で、自分達が来るまでは作業者達へきびきびと指示を飛ばしていた。
「数日前にこの辺りで結構でかい地震があってよぉ。
その時、山の上の方から、コレが落ちてきちまったみたいなんだわ。
幸い、怪我人はいなかったんだが――撤去には大分時間がかかっちまっててなぁ」
「お仕事中に大変申し訳ありませんでした。
差し支えなければ教えて頂きたいのですが、工事はあと如何ほどで終了の見込みでしょうか?」
聖女に戻ったエルミアが尋ねる。
担任者は頭をポリポリと掻いて、
「このデカさだからなぁ、まだまだ終わりがみえねぇんだ」
岩を見上げながら、言う。
つられてヴィルも岩を見る。
――確かに、大きい。
青年の身長の5倍以上――10m近くはある。
(飛び越えられなくもないが……)
他の通行人の障害となる物を放置し、自分達だけ先へ進むというのは気が引けた。
少し考えてから、口を開く。
「爆薬は使えないのか?」
「ああ、オレも最初はそのつもりだったんだ。
まず爆破してから、破片を片付けようってな。
だが――」
男性は、道の端にそびえる岩肌を叩く。
小さな石がパラパラと落ちてきた。
「これも地震の影響のようなんだが。
この辺、地盤が緩んじまってるみてぇなんだ。
下手に爆薬使っちまったら、壁が崩れちまうかもしれねぇ」
「――そうか」
専門家の判断だ、間違いないだろう。
「……私の魔法で破壊するのも、止めておいた方がいいようですね」
誰にも聞かれないよう、小さい声でエルミアが呟く。
まったくもってその通りなので、思いとどまってくれて助かった。
前に見たような攻撃魔法をここで使われた日には、土砂崩れで下手したら街道そのものが消える。
「そういうわけなんで、すまん!
前の宿場町に戻って、待ってちゃくれねぇか」
「他の道は使えないのでしょうか?」
「……山自体を迂回するしかねぇだろうな。
かなり、遠回りになっちまう。
ただ、工事の遅れを考えると、迂回路も検討しといた方がいいとは思う」
「そうですか……」
エルミアが肩を落とした。
ここを通れないと、王都への旅に大幅な遅延が生じてしまうというわけか。
「――分かった。
俺がなんとかしよう」
「はぁっ!?」
ヴィルの言葉に、担任者が素っ頓狂な声を出した。
「おいおい、止めとけ兄ちゃん。
腕に覚えがあるのかもしれねぇが――」
「――いえ、お待ち下さい」
男を止めたのは、エルミアだった。
少女はヴィルを指さし、
「御覧頂けませんか、露わになった彼の腕を」
「――っ!?
ヒュー、すげぇ筋肉だ!
ただのトレーニングで作ったわけじゃない、ナチュラルな筋肉に覆われてやがる!!」
「ええ。
それに加えて、あの手!」
「おおおっ!?
なんだあの頑強な手は!
まるで、鍛錬によってできたタコを、さらなる鍛錬で潰してきたかのような、武の求道者にのみ許された手!!」
「一目見るだけで、“強さ”に疑いは無くなるでしょう。
――彼なら、必ずややり遂げてくれます」
「……いやまさかよ。
この岩石相手には無理だろうぜ」
「ですが、試す価値はあるのでは?」
「――そう、だな」
担任者は、ヴィルへと向き直る。
「あんたの申し出、受けよう。
少し待ってくれ、作業者を下がらせる」
「――え? あ、はい」
作業員が全員退去するのに、ものの1分も掛からなかった。
「――ふぅぅぅぅ」
岩を前にして、ヴィルは息を整える。
その姿を、エルミアや工事担任者が後方からじっと見つめる。
……正直、ちょっとやりづらい。
(いかんいかん、集中集中!)
手の平を岩に当てる。
肩を引き、腰を捻り、身体のバネを引き絞っていく。
そして――
「――ふっ!!」
呼気と共に、解放。
全身の力を岩へ向けて走らせる。
――手応え、有り。
「――うおぉぉぉ」
「――ま、マジか」
作業員達が、口々に驚嘆の声を上げ始めた。
青年の後ろでは、巨大な岩石が
誰もが呆然とする中、担任者の男が目を見開いて、
「あれは――まさか、“震撃”!!」
「知っているのですか、担任者さん!?」
何故かエルミアが食いついた。
「ああ、ありゃあ十中八九間違いなく、“震撃”と呼ばれる技だ。
帝国の名門
「なん、ですって――」
少女が絶句する。
(え、何で知ってるの?)
ヴィルも絶句する。
工事担任者に知られるような話でもないはずだ。
驚く青年を知ってか知らずか、エルミアと担任者の会話は続く。
「その“震撃”とは、いったいどのような技法なのですか?」
「――そう、だな。
打撃ってぇのは、力の伝達が
例えばパンチは、踏み出した脚の力を腰から背中、腕へと伝えて破壊力に変える。
普通、これをスムーズに行えば行う程、威力が増える」
「はい」
「で、端的に言やぁ、震撃はこの“力の流れ”を僅かに
その
それを叩き込んで、振動で対象を内部から破砕するってぇ寸法さ」
すらすらと、技の原理を説明する担任者。
どうして把握しているのか。
「だが“震撃”は、帝国でも一部の軍人にしか教えられない技術と聞く。
それを使える――しかもあんな大岩を粉々にするたぁ。
あの男、いったい何者なんだ!?」
「それはこっちの台詞だ」
ヴィルはツッコミを我慢できなかった。
その後、撤去作業は滞りなく進み、3時間程で完了した。
砕いて運びやすくしたとはいえ、膨大な量の砂をそれだけの時間で片付けるあたり、相当に優秀な人達だったのだろう。
彼らに別れを告げ、その先の宿場町に辿りついたのはもう日が暮れる寸前だった。
すぐに宿を取り、現在は部屋でくつろいでいる最中だ。
「――ねえ、ヴィル」
エルミアが口を開く。
2人きりだからか、性女モードになっている。
「あの“震撃”って技なんだけど」
「なんだ、興味があるのか?」
意外に思いながら、しかしエルミアに仕込むのも有効かと考えた。
何せ、聖職者達は基本的に刃の付いた武器を使えない。
聖堂騎士などの例外はあるものの、職業的に接近戦は苦手な部類となる。
勿論、聖女は基本的に後衛であり、彼女が敵に近づくという事態は可能な限り避けなければならないのだが。
切り札として持っておく分には悪くない。
“震撃”は帝国軍が所有する技術なので、本来外部の人間に教えるのは望ましくないが、
(エルミアなら問題ないだろう。
……将来、“
ヴィルはそう判断した。
そして彼がそう見做した以上、それは“帝国軍部の判断”なのだ。
……正直な話、かなり古い技術なので既にあちこちへ流出している、という事情もある。
工事の担任者も知っていた位なのだから。
「身に着けたいというのなら、教えるぞ。
コツさえ掴めば、習得に然程時間はかからないからな」
「え?
嫌よそんなの。
面倒臭い」
「――ああ、そう」
ヴィルの企みは一瞬で崩壊した。
「じゃあ、何で聞いてきたんだ?」
「アレって振動を伝える技って聞いたんだけど、加減とかはできるの?
「まあ、できなくはないと思うが。
どうして
「私、考えたんだけどね――」
一拍置いて、
「――あの技術、“バイブレーター”替わりに使えるんじゃないかと思った訳よ!」
「…………」
ヴィルは無言でエルミアの頭を引っ叩いた。
「いきなり何すんのよっ!?」
「それはこっちの台詞だ!!」
痛みから回復し激高するエルミアへ、昼間工事担任者へ言った台詞を繰り返す。
一応説明しておくと、バイブレーターとは魔力を込めることにより自動で振動する、大人の玩具の総称である。
昔は貴族御用達の品だったが、最近は一般市民でも買える値段帯の製品が出回り始めた。
「そこまで誇示するつもりもないが!
“震撃”は、先達が幾度もの度重なる試行錯誤の末に考案し、それを長い時間をかけ磨き上げたことで完成した術理だ!
そんな代物を、遊びのために使うなどと――」
「――遊びですって!?」
しかしエルミアも負けていなかった。
「貴方ねっ! バイブレーターの開発にどれだけの技術者が心を砕いたか知っているの!?」
「知るわけないだろう!!」
「そう、だったら教えてあげる!!」
少女は唐突に語りだす――
きっかけはある貴族の男だった。
年老いた彼は、若い妻を娶る。
歳の差はあれど、2人は愛し合っていた。
しかし老齢というのは残酷なもの。
男のイチモツは十分な勃起が保てず、妻を満足させられなかった。
老いた貴族は願った。。
なんとかして妻を満足させたい、と。
手や舌だけでは、所詮前戯に過ぎず。
男性器を形どった張り型を使っても、不足。
これ以上の刺激が、どうしても必要だったのだ。
……その男の絶望に、技術者達が立ち上がる。
――プロジェクトB(←バイブレーターの略)
――B――B――B――(←エコー)
~~♪~~♪~~~~♪(←突如響くBGM)
何度にも渡る検討。
女の快楽の追及。
質感。
形。
だが、上手くいかない。
失敗。
挫折。
世間からの嘲笑。
何やってんだお前等という侮蔑。
絶望。
奮起。
画期的なアイディア。
自動で動く、震えるという発想。
……ゴールが、見えた。
仕組みの構築。
形になっていくバイブレーター。
しかし再度立ちはだかる障害。
手に入らぬ部品。
動かない駆動部。
積まれた失敗作の山。
不安が技術者達を押し潰していく。
それでも、諦めない。
希望の光。
魔力によって振動する石の発見。
再設計されるバイブレーター。
そして、完成。
貴族へ届けられる試作品。
――皆が見守る中、とうとう絶頂に達する、貴族の妻。
歓喜に沸く。
落ちる、感動の涙。
抱き合う、貴族と技術者達。
この日、革命が為された。
「ぜぇっ、ぜぇっ――わ、分かって貰えたかしら!?」
「わ、分かった。
分かったから、とりあえず水を飲んで落ち着け」
興奮して息を荒くするエルミアに、ドン引きしてしまう。
ただ、まあ、熱意は伝わったような気がする――いや、そうでもないか。
「というか、普通にバイブレーター買えばいいだけの話なんじゃ?」
「何言ってんの。
ヴィルの身体がバイブレーターになることに、意味があるんじゃない」
きょとんとするエルミア。
少女にとっては、あくまで“ヴィルありき”らしい。
(……悪い気は、しないが)
彼女に対して、どんどん甘くなっていっているのを自覚する。
仮に“部下”がこんなこと言おうものなら、夜通し説教しているところだ。
「そういうわけで、やってみましょうよ!
別に減るもんでも無し」
「いや、それはその――――まあ、いいか」
結局、エルミアの熱意に押し切られる形で。
ヴィルは、とうとう頷いてしまったのだった。