聖女(性女)様と一緒 ~悠々自適の一人旅が、波瀾とエロに満ちた珍道中に~ 作:ぐうたら怪人Z
① 賢者の学院※
順調に旅を続けるヴィル。
隣にいるエルミアも、足取りはしっかりしている。
しかし。
ヴィルには、どうも気がかりなことがあった。
ここ最近、ずっと感じている、なんとも拭えない不安。
「なあ、エルミア」
思い切って、少女に聞いてみる。
「――俺達、本当に王都へ向かっているのか?」
「え?」
ヴィルは、どうしても自分達が王都に近づいているとは思えなかったのだ。
何故なら、王都という最も栄えているであろう街へ向かっているはずなのに、周囲はどんどん辺鄙になっていく。
今歩いているのは、寂れた山道である。
エルミアを信じていないわけでは無いが、ひょっとして道に迷ったのでは?
そんな青年の不安をエルミアは笑い飛ばし、
「何言ってるのよ、ヴィル」
「あ、ああ、そうだよな。
道は間違っていないはずだよな」
「今頃気付いたの、それ?」
「――――あ?」
突然の告白。
ヴィルは二の句が継げなくなる。
「今向かっているのは、賢者の学院よ」
「賢者の、学院――?」
確か、“王国”における魔法使いの育成機関だったはず。
国中の才能ある若者を集め、高度な教育を施す、名称通り巨大な“学校”のような街だ。
魔法は機密の多い技術なので、人気の少ない場所に施設をつくること自体には疑問は無いが――
「な、なんで、そんなところへ行こうとしているんだ?」
「行ってみたかったから」
「え?」
「行ってみたかったからよ、悪いの?」
「え?」
悪いに決まってる。
“勇者の一団”へ参加するため、早く王都へ行かねばならないのではなかったか。
「ほら、魔法使いのエリート達が集まる街と来ればさ。
最強の攻撃魔法の使い手を目指す私としては、避けて通れない道というか」
「……君、自分が聖女だってことを忘れてないか?」
がっくり肩を落とした。
今から引き返すのはもう無理だろう。
前の宿場町から既に3日は歩いた。
少女の思惑通り、先へ進むしかない。
「しかしだな。
そういう場所は、普通部外者立ち入り禁止だろう」
「何言ってんの?
私、聖女よ?
顔パスに決まってんじゃない!」
「そうかぁ?」
自信満々なエルミアに対し、半信半疑のままヴィルは“賢者の学院”へと歩を進めた。
「駄目です」
「……そ、そうですか」
学院の入り口で、エルミアは素気無く入場を断られていた。
隣に居たヴィルはどや顔で彼女に告げる。
「ほらみろ」
「――うぅ」
しゅんと縮こまる少女。
その姿を見て、心が痛んでしまうのは流石に甘すぎるか。
「その、少しだけでいいので、見学はさせて貰えませんでしょうか?」
「聖女様の頼みですし、こちらも考慮したくはありますが、規則なのです」
受付の人は、エルミアの頼みをピシャリと断る。
(――凄いな)
この態度、見習いたいものだ。
自分は、なんだかんだで彼女に流されてしまうから。
特に今のように、聖女モードで迫られると本当に弱い。
「さぁ、もう分かっただろう、エルミア。
さっさと宿を探しに行くぞ。
色々備品を買い足さなくちゃならないしな」
“賢者の学院”にも、一般人が入れるエリアはある。
そこに、宿や雑貨屋など、旅人に必要な施設は一通り揃っているのだ。
立ち入りが禁止されているのは、魔法の教育が行われている施設のみである。
……“のみ”と言いつつ、この街の大部分がその施設なのだが。
「ま、待って下さい、もう少しだけっ!
あの、上の方にお話だけでもして頂くわけには――」
「駄目ったら駄目です」
受付は鉄板対応だ。
しかし、ここまで粘るエルミアというのも珍しい。
“賢者の学院”に来たかったというのは、彼女の偽らざる本音だったのだろう。
聖女としてそれはどうか、というツッコミは置いておいて。
とはいえ、流石にそろそろ迷惑に過ぎる。
引っ張ってでも連れ出そうかと、ヴィルが考えた矢先。
「どうしたんじゃ、随分と慌ただしい様じゃが」
「――学長!?」
「――っ!!」
受付の奥から、一人の老人。
彼を見て、受付の人の目の色が変わった。
そしてその様子を見て、エルミアの目も変わった。
(――っ!?)
ついでに、ヴィルも顔色を変えた。
この老人は――
「騒いでしまい申し訳ありません。
その、聖女様がどうしてもこの学院を見学したいと言っておられまして――」
「聖女殿が?」
受付の返答に、老人は目を大きく見開いた。
そこへ、エルミアが割り込む。
「お初にお目にかかります。
“賢者の学院”の学長様でしょうか。
私、エルミア・ウォルストンと申します。
恐れ多くも此度の聖女に選ばれた身です。
この学院のことは前々から噂に聞いておりまして、是非一度訪れてみたく考えていました。
規則で禁止されていることは重々承知しておりますが、どうか見学の許可を御一考頂けませんでしょうか」
よくぞここまですらすらと台詞を出せるものだ。
対する老人は、
「なるほどのぅ。
なあ、聖女殿がこうまで言っておるのだ。
規則に拘らんで、中に入れてもいいのではないかな?」
意外なことに好感触。
「し、しかしですね、学長」
「ぬぅ、頭が固いのぅ、お前も」
ただ、受付も譲らなかった。
学長に抵抗する辺り、案外高い立場の人なのだろうか。
エルミアは2人のやり取りをはらはらと見守っている。
「――――ん?」
ふと。
学長が、こちらに気付いた。
「――――――っ!!?」
目を大きく見開く。
そしてじぃっとヴィルの方を見てきた。
次の瞬間、口を広げ――
「――ヴィ、ヴィルバ」
「
聖女の聖堂騎士をやっています」
相手が最後まで言うより先に、台詞を被せる。
「――――――――」
「――――――――」
見つめ合う2人。
さて、どう対応すればいいものやら。
そのまま数秒、見つめ合ってから、
「――――レンス君」
「なんでしょう?」
受付に話しかける学長。
どうも、受付の人はレンスという名らしい。
「このお2人を、すぐに応接室へ案内しなさい」
「――え?
いや、しかし――」
「――これは学長命令じゃっ!!」
「は、はいっ!!」
渋る受付を一喝。
あれよあれよという間に、ヴィル達は学内へと通されることになった。
「――学長と知り合いだったなら、先に言ってよー」
「いや、“王国”に帰ったことは知っていたが、賢者の学院の学長になっているとは知らなかったんだ」
学院の中を歩きながら、エルミアとヴィルは雑談を交わしていた。
あの老人の名は、エゴール・カシジャスという。
極めて優れた魔法使いであり、ヴィルとはかつて――3年程前に
“王国”から派遣された軍隊の一人だった。
優れた英知を持つ賢者で、随分と助けられたものだ。
こんなところで再会するとは、露にも思っていなかったが。
「学院内を自由に見学していい、なんてねー。
いや、学長ってば太っ腹だわ。
持つべきものは、いい友人を持った恋人ね」
「そりゃ良かったな」
「お礼に――今夜は、貴方の言うこと、なんだって聞いてあげる♪」
「……お、おう」
どもってしまった。
エルミアの可憐な顔で、背中がざわつく程色っぽい囁きをされればそうもなる。
「でも、流石に“学院”って言われてるだけあるわね。
若い子ばっかり」
きょろきょろと周囲を見渡すエルミア。
彼女の言う通りだった。
学院の施設内では、すれ違う人のほとんどが学生風の若者なのだ。
偶に見る大人は、教官だろうか。
「なんだか、修道院を思い出すわ。
あそこは、女の子しかいなかったけど」
「俺も士官学校時代以来だな、こんな風景」
少女の呟きに、なんとなく返事をする。
そんな時、
「―――んんっ!?」
エルミアが変な声を出した。
視線がある方向へ固定されている。
「どうした?」
彼女が見ている方へ目をやってみれば。
そこには一人の学生服を着た女の子が歩いていた。
(……うーん?)
何の変哲もない女性――に見えるのだが。
いや、可愛らしい子ではある。
肩まで伸ばしたセミショートの赤毛に、あどけない造りの顔。
幼さを残す愛らしさだ。
ただ、視線を下に移すとその幼稚性とは真逆な身体。
歩く度にゆさゆさと揺れる巨乳が――
(待て待て。
余りジロジロ見てはいかん。
失礼だろう!)
慌てて自戒する。
思考を誤魔化すため、エルミアの方に顔を向ける。
すると少女は何かを考え込んでいるような表情で、
「あの子――」
「彼女がどうかしたのか?」
ヴィルには感じ取れない、“何か”があるのだろうか。
魔力――なら、青年にも分かるので、“神の加護”とかそういうものが?
疑問に思っているうちに、エルミアが口を開く。
「――おっぱい、おっきいわね」
「おい」
何を言ってるんだこの女は。
「いや、だってアレはあり得ないでしょ!?
私より年下っぽいのに、あんなたっぷんたっぷんさせて!」
「こ、声!
エルミア、声を抑えて!」
いきなり大声で女学生の肢体を品評し出す少女。
抑制を試みるも、興奮しだした彼女は止まらない。
「ウェストもほっそいのよ!?
信じらんない!
しかも下の方見てみなさい!
スカート短くて、太ももめっちゃ出てるし!
お尻もなんかぷりっぷりしてそうじゃない!?」
「大きい!
声、大きいから!」
必死に押し留めようとするも、
「ヴィルはなんとも思わないの!?
あんな、とんでもないスタイルの女の子を目にして!
貴方、本当に男!?」
「む、無茶苦茶な論法をするなよ。
まあ、確かに凄いとは思うが――俺は、エルミアの身体の方が好きだぞ?」
「…………あ。
そ、そう?」
一気にトーンダウンした。
「ヴィルは、私の方がいいんだ?」
「あ、当たり前だろう!?
俺は、お前が一番好きなんだから!」
「ちょっ、そんなこと大声で言わないでよ!?」
今度はエルミアが慌てる番だった。
とはいえ、ヴィルも言ってから大分恥ずかしくなったが。
「…………」
「…………」
二人して沈黙。
例の女学生は、もうどこかへ行ってしまった。
「……その。
さ、早速、学院の講義を見に行きましょうか!
うん、どんな授業なのか、すごい楽しみ!」
「そ、そうだな!
俺も、“王国”の魔法技術には興味あるし!」
羞恥心をかき消すためか、多少大仰に会話をしてから。
ヴィルとエルミアは、学院回りを開始した。