聖女(性女)様と一緒 ~悠々自適の一人旅が、波瀾とエロに満ちた珍道中に~ 作:ぐうたら怪人Z
① 相談受付
「あ、これ美味しいですね」
「ええ、ミルクの旨味を十二分に生かしています」
「素朴だが何度も食べたくなる味だ」
イーファ、エルミア、ヴィル。
3人揃っての朝食だった。
場所は立派な屋敷の中。
豪奢な造りのリビングで、一行はテーブルを囲んでいる。
ここがどこかと言うならば――
「――でもセリーヌさん、こんな良いところで暮らしていたんですね」
「確かに、育ちは良さそうな人ではあった」
ヴィルはイーファの言葉に一つ頷く。
彼女の言う通り、この屋敷はセリーヌの生家だそうだ。
この町一番の商人の一人娘だったとか。
イーファは部屋の中を一度見回すと、
「立派な屋敷の生活を捨てて、何で辺鄙な田舎なんかに――」
「イーファ、そのようなことを言うものではありません。
これまでの生活よりも優先したいと思えるほど、愛する相手をセリーヌさんは見つけたのですから」
軽口をぴしゃりと窘めるエルミア。
こういうところを見ると、どことなく聖女に見えなくもない感じがする。
「でも結局先生に乗り換え――」
「言葉が過ぎますよ」
今日のイーファはなかなか攻めていた。
何故だろうか。
……ひょっとしたら。
この町に来るまでの間、セリーヌとはすぐ別れてしまうから、という理由で“夜の順番”が下げられたことが原因、かもしれない。
ちなみに、1番はエルミアで不動である。
それはさておき。
ヴィル達は昨日から、セリーヌの実家へと厄介になっているのだった。
ここまで送り届けてくれたお礼として、彼女の両親からも是非にと頼まれてのこと。
おかげで豪勢な食事に有り付けたし、快適な休みも得られた。
(改めて感謝しておかないとな)
そう思いながら、ヴィルはスープをひとすすり。
美味しいコクが口いっぱいに広がる幸せを噛み締める。
そんな食事の最中、
「楽しんでいらっしゃいます?」
「ああ、セリーヌさん」
現われたのは、艶のある黒い髪を長く伸ばした妙齢の美女。
この家への誘いをしてきた当の本人、セリーヌだ。
手には、追加の料理を抱えている。
朝からそんなに多くは食べられない――と思いつつも、胃はもっと美味いものをよこせと主張していたり。
「はい、楽しませてもらってます!
こんな美味しいもの食べるなんて久しぶりですっ!
ここでセリーヌさんとお別れだなんて、寂しいですねー」
「……イーファ」
ニコニコ笑いながら(余り寂しそうでは無い)そう言うイーファに、若干引き気味なエルミアだった。
しかしセリーヌは聊かも気にした様子はなく。
「それは良かったですわ。
腕によりをかけて作らせて頂きましたの。
お昼も期待してて下さいましね」
「セリーヌさん自ら料理下さったのですか。
朝早くからお手間を取らせてしまい、申し訳ありません」
聖女が礼儀正しいお辞儀と共に感謝を述べる。
「……意外と料理上手だったんですね」
「イーファ」
と同時に、また変なこと言ったイーファを牽制する。
(おお、なんか今日は聖女っぽいぞ!?)
そして変なところに驚くヴィル。
正真正銘の聖女様相手に随分な感想と思われるかもしれないが、彼女の正体を知っている人ならコレを咎めることはないはずだ。
いつもこんな感じだと嬉しい――のだけれど、性女な彼女も決して嫌いなわけではないヴィルである。
「ところでヴィルさん、この後お時間頂いてもよろしくて?」
「ん、俺か?」
「ええ、ご相談したいことがございますの」
「ほう」
別段断る理由は無かった。
宿を提供して貰った手前、相応の礼は返そうと思っていたところでもある。
「朝っぱらからヤるつもりですかー?」
「いい加減にしないと怒りますよ」
後ろでそんな会話が交わされるのを聞きつつ、
「どんな話なのか、少し聞いてもいいだろうか?」
「詳しくは後でお話しするのですが、
幼馴染と言っても
「そうか。
まあ、俺でいいなら、幾らでも相談に乗ろう」
「頼もしいお言葉、嬉しいですわ」
笑顔になるセリーヌを眺めつつ、まずは目の前の料理を片付け始めるヴィルであった。
なおイーファとエルミアのやりとりは、
「早速若いツバメを捕まえたんですか?」
「……お仕置き決定ですね。
今夜は少々辛い目に遭うことになりますから、覚悟しておいて下さい」
「え?」
どうもそういうところに落ち着いたらしい。
食事は終わって、小一時間。
ヴィルはセリーヌの屋敷のリビングに案内されていた。
目の前には、一人の少年――いや、ギリギリだが青年と表現した方がよい顔つきか?
「この人が?」
「ええ、
「ど、どうも」
紹介され、ぺこりとお辞儀をする青年。
その少しおどおどとした態度からも、若さが伝わってくる。
(なるほど、確かに年齢が離れているな)
ともすれば失礼な感想を抱いてしまう。
無論、間違っても口には出さない。
「それで、相談とは?」
「え、ええっと、その――」
「ジット君、言い難いのでしたら私が説明しましょうか?」
「い、いや、大丈夫、セリ姉。
自分でやれるから」
ジット君からはセリ姉と呼ばれているらしい。
なかなか仲の良い二人のようだ。
「えーとですね、いきなり変なこと言っちゃうんですが、僕には好きな子がいるんです」
「――まさか、俺に恋愛相談しようってことじゃない、よな?」
「ち、違います違います!」
「そ、そうか、それならいいんだ」
嫌な予感がしたので一応聞いてみたが、否定して貰えたほっとする。
青少年の恋愛問題なんて、流石に扱ったことが無い。
「それで、覚悟決めてその子に告白したらOK貰えたんですけど――その、お父さんに大反対されて」
「君の父親に?」
「あ、違います、その子のお父さんです!」
「なるほどなるほど」
好きな女性に告白したはいいが、相手の父親に反対されたわけか。
まあ、よく聞く話ではある。
娘を持つ父親は何かと面倒臭いのだ。
「それでも何とか食い下がっていたら、交際を認めてくれる条件を出してくれたんです」
「ほうほう、どんな条件だ?」
「最近、この町の近くに強い魔物が現われたんです。
アームドエイプっていう猿型のモンスターで――人の被害は無かったんですが、田畑がかなり荒らされてしまって。
それを討伐してきたら、その子との仲を認めてくれるって」
「……そういうことか」
合点がいった。
魔物退治が絡むのであれば、ヴィルの得意分野だ。
「要するに、君がその魔物を倒す手助けをすればいいんだな?」
戦闘のサポートをしてもいいし、この青年を鍛えてもいい。
(うん、身体つきも悪くない)
体格は標準程度だが、頑強そうな造りをしている。
見れば手には剣ダコができており、腕や足腰など、戦いに必要な箇所にはしっかり筋肉がついていた。
前々から戦いの訓練を行ってきたようだ。
(この分ならアームドエイプの一匹程度、少し鍛錬を積ませれば十分狩れるようになるだろう)
と、ヴィルはこれからの算段を見積もっていたのだが――
「…………」
「…………」
――セリーヌとジットが、少し冷ややかな視線を自分に送っていることに気付く。
「あれ、違うのか?」
「――ヴィルさん、分かってらっしゃいませんの?」
慌てて尋ねてみるが、セリーヌは寧ろヴィルが何故理解できていないのか不思議な様子。
「ど、どういうことだ?」
「そのアームドエイプ――ヴィルさんが倒してしまわれたではありませんか。
町に来る途中で」
「…………あー」
そういえば、そんなこともあった気がする。
ちょっとうざかったので、つい、ぷちっと。
「き、記憶にすら残ってなかったんですね。
正規の兵隊ですら手を焼くような魔物のはずなのに」
「……まあ、さくっと蹴倒してましたものね。
ジット君から話を聞くまで、私もその魔物を見掛け倒しの弱いモンスターなんだと勘違いしてた位ですから」
慄くジットと、どこか冷めた感じのセリーヌ。
一応ヴィルへの弁解もしておくと、幾ら彼だって倒した魔物を早々忘れることは無い。
ただ今回の場合、タイミングが非常に悪く――要は、“夜の行為”の最中に襲撃されたのだ。
しかもエルミアとの。
当然ヴィルは出てきた魔物を瞬殺し、行為を続行したわけで。
つまり、倒したモンスターのことなど大して確認していなかったのである。
「ヴィルさんにこの件をご相談したのも、そういう経緯があったからなのです」
「獲物を横取りしてしまっていたわけか――すまない」
知らず知らずのうち、ヴィルはこの青年の恋路を邪魔していたわけである。
せめて事前に知っていれば、魔物を倒したのはジットである、と口裏を合わせられたのだが。
そういうことであればなおさら、助力を惜しむわけにはいかない。
一方、謝られたジットは、
「あ、頭なんて下げないで下さいっ!
僕が早く動かなかったのが原因なんですから!」
「しかし、その魔物を倒さなければ君と恋人の仲は認められないのだろう?」
「い、いえ、その件については、代替案を出して貰ったんです。
居ない魔物を倒すことはできないだろうってことで。
ヴィルさんには、そちらでお手伝い頂けないかな、と」
「……そうだったのか。
色々早とちりしてしまったな」
バツが悪くなって、ポリポリと頬をかく。
「それで、代替案とはいったい?」
「はい、実は二日後にこの町でちょっとした“大会”があるんです。
そこで優勝すれば、僕達の仲を認めてくれる、と」
「ほうほう、なんの大会なんだ?」
「ええ、それは――」
少し間を置いてから、ジットが答える。
「――あやとり大会です」
「え?」
「あやとり大会です」
「いや聞こえなかったわけではなく」
「あやとり大会なんです」
「……へー」
あやとり大会だそうだ。