聖女(性女)様と一緒 ~悠々自適の一人旅が、波瀾とエロに満ちた珍道中に~ 作:ぐうたら怪人Z
「あーあー、面倒なことしてくれちゃってさぁ。
ホント、ふざけんのも大概にして欲しいんだけどな、メイヴィル」
「…………」
黙り込む老侍女をふてぶてしい口調で りつける褐色肌のメイド。
昼間は愚痴を零しながらもメイヴィルの命令に従っていたラティナだが、今はその面影を微塵も見せない。
「裏で糸を操っていたのはやはり君だったか」
「そうだよ、その通りさ。
まさか最初っから見破られてるとは思わなかったよ。
分かってれば、あんな小芝居しなかったのに」
ヴィルの言葉に、ラティナは軽く肩を竦めた。
そう、彼は最初から彼女の意図を見抜いていたのだ。
つまるところ、ラティナが
そもそも、最初は嫌悪感を露わにしていた相手に色仕掛けを仕掛けてくるなんて、怪しいにも程がある。
加えて、
日中、ラティナの身体をジロジロ観察したのは、何も目の保養
他にも細かい点は色々あったのだが、ラティナを怪しいと睨んだのはこの辺りが理由だった。
故にヴィルも彼女の芝居――ヴィルの注意を惹きつけようという算段だったのだろう――に乗った
監視の目を止めた状態でメイヴィルと接触するために。
ただヤりたいからヤったわけではないのである。
――ちょっと嘘臭いが。
「ま、つってもボクはあくまで
頭を振りながら、ラティナ。
その台詞もまた予想の範疇ではあった。
「では君の上に居るのは――」
「そう、“王国”だよ、決まってるだろ。
あれ、メイヴィルはそこまで説明してなかったっけ?
まあいいや、考えればすぐ分かることだし」
「……確かに」
“神”の監視など、下手な組織が行えるわけがない。
しかも小規模とはいえ、こんな辺鄙な場所で村まで運営している。
相応のバックが存在することは想像に難くなく、そしてその候補として真っ先に挙がるのは“国”だ。
「で、君はこれから俺達をどうするつもりだ?」
「別に何も?」
「ん?」
思わぬ返答に聞き返すもラティナは涼しげな顔で、
「何もしないよ。
素直にお帰り願えればね」
「……いいのか?
そうなれば――」
「報告したけりゃすれば?
どうせ何も変わらないから」
「なっ!?」
最後、驚きの声はメイヴィルのもの。
ヴィルにとっては想定していた返答の一つだった。
といっても、想定していたというだけでそれに対する明確な対策などは考えていないのだが。
「国王はこのことを既に知っている、と?」
「そりゃモチロン。
ボクは忠実な下働きなんでね、しっかり報告してますとも。
そこのババアは情報が握りつぶされてると思ってたみたいだけどさ」
「…………」
嘲笑うラティナに、老いた侍女は押し黙ってしまう。
「ま、だから。
聖女や魔女がどう動こうと全然かまわないワケ。
直接邪魔さえしてこなけりゃね。
ボクが気にしてるのは――」
黒髪のメイド少女から笑みが消える。
真剣な目で、こちらを睨んできた。
「――オマエだよ、
「…………!」
その一言で、彼女が全て把握していることに気付く。
まあ、“王国”が後ろ盾になっているというなら、ヴィルの情報が伝わっていてもおかしくはない。
つまりラティナは――
「――君、俺が何者か知っていた上で、あんな態度とってきたのか?」
「なに? もっと恭しく接して欲しかったのか?」
「……いや、いい。
面倒だからそのままで」
「あ、そ」
素っ気ない返事。
ヴィルの正体を把握してなおこの対応を貫く辺り、見上げたものだ。
仕えるべきは“王国”であり、それ以外は眼中にないというわけか。
本来腹を立ててもいいところだが、その一貫した姿勢は寧ろ好感がもてる。
「…………ちなみに、侮辱罪が適用されちゃったりは?」
「しないから安心しろ」
「そ、そう」
少し声が震えているところを見ると、単に頑張って演技しているだけかもしれない。
ヴィルからの好感度がちょっと下がった。
こちらの視線に気付いてか、ラティナは一つ咳払いすると、
「とにかく!
こっちの心配事はオマエが要らんちょっかい出してくるかどうかってことなんだよ!」
「そうは言ってもなぁ。
話聞いてる限り、魔物とそう大差無いみたいじゃないか、その“神”は。
しかも相当悪質な類の」
「……やっぱり退治する気だったのか」
「放置しておく理由も無いのでね」
正直なところ、ちょっとやそっとどころでない魔物であっても、倒せる自信がヴィルにはあった。
手を出すのは危険とされる存在であっても、
と、そんな青年の言葉に老侍女が反応した。
「……退治?
何を言っているのですか、守護騎士殿!
個人で“神”に手を出そうなど、無謀もいいところ――」
「あー、うっさい、ババアは黙れ。
話がややこしくなる」
呆れた表情のラティナが手をパタパタとふって台詞を遮った。
酷い扱いだが、今からメイヴィルへ事情説明するは確かに色々と面倒だ。
改めてメイド少女はこちらを向き直ると、ため息を吐く。
「……あーあ、ここでアレコレ話したって埒が明かないな。
いいさ、百聞は一見に如かずともいうし、見せてやるよ」
「何を見せてくれるんだ?」
「決まってんだろ、その“神”を、だよ。
ちょうど今は、
そう言って、ラティナはニヤリと嗤った。
「……嘘」
「……おいおい。
まさか
“それ”を見た、エルミアとヴィルの第一声がコレだ。
ここに居るのは、ヴィル達3人とラティナだけ。
メイヴィルや他の村人は付いてきていない――この場所への立ち入りをラティナが許可しなかったのだ。
4人は崖の間際にて谷を見下ろしている。
山を
だが今は、煌々とした“光”で照らされていた。
その谷の合間で、一匹の虎が身体を横たえていた。
当然、ただの虎ではない。
特筆すべきは、その巨体。
でかい。
とにかくでかい。
身体を横たえている今でも、崖の中腹まで頭が届いている程。
立ち上がれば谷に身体が収まらないのではないだろうか?
山のような大きさ、という言葉が比喩として機能しない。
しかも毛並は燃え盛るように赤く――いや、実際に
放つ炎が、周囲を赤く染める。
前述した谷を照らす“光”は、この虎から発せられているものなのだ。
「え、えーと。
ず、随分とおっきな虎ですね……?」
エルミアやヴィルと違い、少し震えているもののどこか気が抜けた声でイーファが呟いた。
“目の前の存在”が何者なのか、気づいていないが故か。
その反応にエルミアがぎょっとした顔をする。
「大きな虎って貴女――」
「ど、どうしたんですか、エルミアさん?
なんか、いつになく真剣な顔してるんですけど」
「どうしたもこうしたも――“アレ”は、正真正銘の神!
六神獣の一柱、炎虎“ズィーガ”ではないですか!!」
「え、ズィーガ?
ズィーガっていうと――」
イーファの目が泳ぐ。
「元々は大昔に王国の一地方に住んでいた巨大な虎だ。
性質は酷く狂暴かつ残虐で、その地方に住む全ての生物を食いつくしてしまった。
その余りの暴れっぷりを神に見咎められ、直々に調伏される。
以後は神の代理として人々を守る神獣となった」
説明したのはラティナだった。
すらすらと教本でも読むような口調で語る。
実際、何度も教わったのだろう。
(こうなると――本当に本物の神獣なのか)
ヴィルにも、神獣に関する知識はある。
故にあの“虎”を見てなんとなく正体を察したわけだが――神獣はあくまで伝説上の存在。
一見しただけでその真贋は定められない。
(しかし、聖女がここまで断言してしまうとなぁ)
認めざるを得ない。
目の前の超常的な生物は、間違いなく神獣なのだと。
「これで、どうして王国が手を出さないか分かっただろ?
マジモンの神に反抗するなんて愚行、犯せるわきゃない」
ちなみに神獣を神とみなすかどうかには教会内でも色々と考えの違いがあるそうなのだが、エルミアの所属する一派では神の一柱として認めているそうだ。
どちらにせよ、手出しできない存在なのには変わらない。
ただ、気になることはあった。
ヴィルはラティナに向かってその疑問を投げてみる。
「何故、神獣が生贄なんて要求するんだ?
人間を守る神なんだろう、あいつは」
「ボクに聞かれたって困る。
アレが生贄寄こせっつってるのは事実なんだからさ。
ま、元々は狂暴な魔物だったわけだし?
十年に一回、一人の人間を捧げる程度でいいなら、十分心変わりしたって言えるんじゃないか?」
「……そう、かもしれないな」
引っかかるものが無いわけでも無いが、納得はできた。
確かに、目の前の“怪物”がその気になれば一人どころか数百人、数千人を殺戮できるだろう。
10年と言わず、1日で。
(そりゃ生贄で済ませたくもなる)
“コレ”が一人の少女の命で大人しくしてくれるというのであれば、敢えて退治しようとは思うまい。
国軍を動かすより、遥かにコストパフォーマンスが良い。
……人の命をコストと考えることに異論はあろうが、しかしそう考えねばならぬ時もあるのである。
「ついでに言っとくと」
ラティナが言葉を続けてきた。
「ズィーガは神獣としての務めもちゃんと果たしている。
この地方を水害が襲った際には炎を持って雨雲を吹き散らし、蝗害が起きた際には虫を全滅に追い込んだ。
それ以外にも大規模な被害が出る災害を、ヤツは鎮めてきたのさ」
「……尚更、生贄の件だけで目くじらを立てるわけにはいかない、ということか」
「そうそう」
我が意を得たり、という顔で褐色の少女が頷く。
(……参ったな)
ヴィルは胸中で舌を巻いた。
状況が出来上がり過ぎている。
相手は正真正銘の神獣。
国は生贄を、その
神獣はその役目を遂行しており、少なくとも一人の命に見合う利益を提供している。
(これじゃ俺が手出しできないじゃないか)
自分の“立場”を考えれば、この状況で動くことは
いや、せめて――
「――サーラは?
彼女は、自分が生贄になることを知っているのか?」
「当ったり前だろ?
ま、
ちゃんと、生贄になるため育てられていることは教えているし、本人も心得ているよ」
「む、むぅ……」
サーラ自身に問わねば本当のところは分からないが。
彼女を助ける、というお題目で動くのも、なかなか難しそうだ。
「ああ、それとさ。
サーラはもう助けられないよ?」
「何!?」
「だってあの子が生贄になるまで、
仮にオマエが国王にかけあって無理やり軍を動かしたとして、もう間に合わないだろ?」
「メイヴィルはそんなこと言ってなかったぞ」
「隠したんだよ。
あのババアとしては、この生贄を作り続けるこの在り方さえ壊せりゃそれでよかったんじゃないの?」
「……むむ」
「それとも、まさかオマエだけで戦うつもりか?
そんな二束三文で買えるような剣ぶん回して?
ここには
……いや、本気でそれだけは止めろよな。
オマエに死なれでもしたら、国際問題待ったなしなんだから」
「むむむ」
詰んだ。
これは詰んだ気がする。
なんというか、動きようがない。
「……分かった。
君の言う通り、俺はこれ以上関与しない」
「そりゃ良かった。
いやぁ、閣下の物わかりが良くて安心したよ、ホント」
コロコロと笑いだす。
その笑顔だけ見れば、歳相応に可愛らしい女の子なのだが。
「……ヴィル」
「……先生」
それまで黙っていたエルミアとイーファが、心配そうに声をかけた。
彼女達にしてみれば、あまり愉快な結果ではないだろう。
露骨に不満を顔に出している。
――だから。
「但し、条件がある」
「む」
ラティナの顔から笑みが消えた。
「一つ。
この件に関して、メイヴィルを罪を問わないこと」
「……ああ、いいさ。
実質、何もできなかったわけだしね、アイツは。
ちょっとした“おいた”位、黙認してやろうじゃないか」
「もう一つ。
あと4日間、俺達がこの村へ滞在する許可をだすこと」
「おい」
メイド少女が険しい顔つきに変わる。
「そんなこと、ボクが許すとでも思ってるのか?」
「勘違いするな」
「あん?」
「主導権を握っているのは、あくまでもこちらだ。
俺が本気で動こうと思えば、君は何もできないだろう?
まさか、あの村の人数程度で俺を止められると思っているのか?」
「……ぐ」
ヴィルの“凄み”に、ラティナが一瞬怯んだ。
かなり強引で好みでないやり方ではあるが、この案は通したかったのだ。
一見してつけ入る隙が無いように見えるが、そうであっても足掻いていれば案外糸口が見つかることも多い。
(とにかく、今は時間を稼ぐことを考えよう)
この場での解決は不可能と判断し、そんな風に頭を切り替えたのである。
一方でラティナはと言えば、しばらくの間難しい顔をした後に、
「……いいだろう、認めてやる。
だがな、オマエは軟禁させて貰うぞ!
この件には“関与しない”んだろ!?」
「ああ、そうだ。
俺
だが――」
「ふんっ! 聖女と魔女は別ってことか!
ああ、ああ、いいさ、それ位!
こんな小娘共に何ができるってんだ!」
ヤケクソ気味に、ヴィルの条件を飲んだ。
……小娘と言いつつ、ラティナ本人もエルミアとそう年齢変わらないように見えるが。
(まあ、この辺りが落としどころだな)
元々無茶な内容なのである。
2人が自由に動ける約束を取り付けられただけで、御の字というものだ。
ただ、エルミアやイーファと相談することもままならないのは少々辛いところだが――
「お待ち下さい」
――と、そう考えていたところへ、エルミアの声が響く。
「ラティナさんの話しぶりから察するに、その4日間、私達はヴィルと接触ができない、ということですね?」
「当たり前だろ。
オマエらに指示飛ばされちゃ、軟禁してる意味がないからな」
「それは困ります」
「困ろうが知ったこっちゃない。
せいぜい2人で無い知恵絞ってみろよ」
「いえ、そういう意味では無く」
「ん?」
訝しむラティナに対し、エルミアは毅然とした態度で話を続ける。
「こちらのイーファは、将軍を
4日の間とはいえそれができないとあっては、契約違反となってしまいます」
「え」
「え」
とんでもない発言に、ヴィルとイーファの目が点になった。
「は? よ、夜伽?
オマエ、嘘も大概に――」
「証拠はここにあります。
彼女の祖父でもある賢者の学院の学長エゴール・カシジャスが作製した契約書です」
言いながら、懐から一枚の羊皮紙を取り出した。
ラティナはその書面を確認すると、
「……た、確かに。
本物だ」
絞り出すように声を出した。
無論、ヴィルの与り知らない代物である。
「ええええええ、お爺ちゃん!?」
イーファが素っ頓狂な声を上げるのも無理はない。
こんなものいつ作っていたというのか、あの爺さんは。
「……魔女を夜伽に使ってたのか。
サイテーだな、オマエ」
ラティナからの視線が痛い。
だが耐えねばならない。
これは、自分とイーファが滞りなく接触できるようにする、エルミアの策――のはず。
「如何でしょうか、ラティナさん。
炎虎ズィーガの件は確かに国の一大事。
しかし、
「ぐ、ぐぐぐ――」
褐色の少女が歯ぎしりし出す。
ふざけた話ではあるが、学長が結んだ正式なものである関係上、放り捨てて良い案件ではない――と、彼女は考えているのだろう。
(意外と真面目な子なんだな)
神獣に対応する組織において高い地位を与えられているのだから、当然かもしれないが。
ともあれ、たっぷり悩んだ末にラティナは結論を出した。
「わ、分かった――夜伽相手が欲しいってんなら、用意してやる!」
「では――」
エルミアの顔が輝く。
しかしそれに対し、ラティナは意地悪く笑った。
「但し、その相手はこのボクだ!
これでも男を悦ばせるテクには自信がある!
この魔女の弛んだ身体と比べてボクの身体が劣ってるだなんて言わせないぞ!?」
「弛んだ!?」
変なところでショックを受けるイーファ。
完全にとばっちりだった。
しかし事の発端を作った聖女は落ち着き払い、
「――分かりました。
ラティナさんがイーファの“代わり”になって頂ける、ということですね」
「そ、そうだ」
その態度に、ラティナが気圧されているようだった。
エルミアはさらに続ける。
「代わりになるというのであれば。
もしその務めを
「そ、それは――」
褐色肌のメイドがちらりとこちらを見てきた。
その顔は一目で分かる程に上気している。
いったい、ナニを考えているのか。
「――い、いいだろう。
そんなこと、あるはずないけどな!」
「はい。
確かにその言葉、頂きました」
エルミアが薄っすらと微笑んだ。
聖女モードだというのに、その顔には邪な気配が見え隠れしている――ような気がする。
(ま、まあ、しかしこれで――)
ラティナが夜伽を
そしてヴィルは既に彼女を攻略しているのだ。
かなり不利な条件だというのに、それが受け入れられたのは――
「…………」
――ラティナがこちらを、何か
“震撃”は彼女の奥底に致命的な痕を残したようだ。
ともあれ。
こうしてヴィル達の神獣ズィーガを巡る戦いが幕を開けた。
(これが終わったら、エゴールとはじっくり話をしなければ)
そんな決意も心に刻みつつ。