聖女(性女)様と一緒 ~悠々自適の一人旅が、波瀾とエロに満ちた珍道中に~ 作:ぐうたら怪人Z
「……話とは、何でしょう」
苦々しい顔をしながら、この“村”の長ダンマスが口を開く。
ここは村長の自室であり、今は“調査”を始めてから3日目の夜。
ラティナとの約束でこの村を退去するまで、あと一日だ。
そのタイミングで、イーファとエルミアは村長との直談判へ踏み切った。
「単刀直入に申し上げます。
サラさんを助けるべく、私達に協力をして下さい」
「余計なことはするな、とあれ程言った筈ですがね」
エルミアの言葉に対する村長の態度は固い。
はなからこちらを拒否すると決めつけているようだ。
しかしその対応に聖女はまるで動じることはなく、
「余計なことではありません。
いえ、余計なことでは
私達にとっても、貴方達にとっても」
「……無くなった?」
思わせぶりなエルミアの口調に、村長が食いついてきた。
「詳しいお話をする前に、こちらの資料に目を通して頂けませんでしょうか?」
「これは?」
「私とイーファとで、この付近を調査した結果です」
「今更、そんなもの――」
「まずは、お読み下さい」
「――む、むぅ」
眼差しと口調とでかけられた圧力に、ダンマスは屈した。
ぶつぶつ言いながらも、渡された資料を読み込んでいく。
(結構、迫力ありますよねー、エルミアさんの問い詰めって)
なまじ、容貌が完璧なまでに整っているせいで、彼女の“真剣な顔”には人を射竦める力があるようだ。
実際、イーファも説教を受けるとたじろいでしまう。
それはさておき。
「なっ……!?」
読み進めるにつれ、村長の顔色が変わっていく。
具体的には、血の気が引いてきた。
「……いや、そんな、まさか……こんなことがあるわけ……」
「予め補足しておきますと、その資料の内容は『賢者の学院』学長であるエゴール様より誤りがないことを保証頂いております」
「う、ぐっ!」
異議を唱えようとたダンマスに先立ち、エルミアが牽制を入れる。
流石にエゴールの名前を出されては、そう簡単に否定できないようだ。
何も言えなくなった村長は、何度も何度もその資料を見返している。
その都度、顔色が青くなっていく。
自分でもその調査資料に間違いはないと、理解できてしまったのだろう。
「お分かり頂けたようですね、村長」
「……せ、聖女様。
これを――これを認めてしまえば、私達は勿論、教会だって――」
「事実です」
ぴしゃり、とダンマスの台詞を遮るエルミア。
「私とて教会に身を置く立場。
仮にも“神”の一柱として信仰の対象にすらなっている神獣が“こんなこと”をしていたとは考えたくありません。
ですが、事実なのです。
認めなければならないのです」
彼女の声には苦々しい色も混じっている。
聖女である彼女にとっても、この調査結果は受け入れ難いものだったのだ。
実際、イーファから資料を受け取った際、今の村長以上に幾度も幾度も確認をとっていた。
そんなエルミアが、重々しい口調で断言する。
「――過去に炎虎ズィーガが鎮めた災害は全て、ズィーガ自身が
「……っ!!」
改まって告げられ、村長の顔が引き攣る。
そのタイミングでエルミアから目配せがあった。
促される形で、イーファが後を継ぐ。
「おかしいと思ったんですよ。
43年前の水害も、26年前の蝗害も――ズィーガが解決した災害は皆、
どれもこれも、この地域を中心としたものばかり。
神獣のおかげで被害が広がらなかったと考えるにしても、ここでばかり災害が起こり過ぎです」
大雨にせよ飛蝗にせよ、もっと広い地域に影響があって然るべきなのだ。
そう推察できる程、当時記録されていた災害状況は酷いものだった。
……とはいえ、当初感じていたのは違和感程度であり、この仮説はヴィルの指摘があってようやく気付いたわけだが。
「だから、調べました。
各災害が起きた時、特に被害の大きかった場所へ赴き、その地の霊脈を徹底的に洗い出したんです」
霊脈とは、過去から現在にかけてその土地に様々な形で積み上げられた魔力の“総量”であり“記録”である。
それを調べることで、昔そこで何があったか、大よそではあるが類推することが可能なのだ。
考古学者が地質調査などと併用してよく使う手だったりもする。
イーファは、そんな霊脈を過去50年を遡って調べ上げたのだ。
彼女が霊属性に特化した魔法使いだからこそできた芸当である。
「で、分かったんです。
災害が起きた年に限り、土地へ“異質な魔力”が流れ込んでいたことが。
どの災害でも、どの場所でもその“魔力の波長”は同じものでした」
世界に存在するあらゆるモノが、量の大小こそあれ保有する“力”である魔力。
そして魔力には、それを持つ個体特有の“波長”というものが存在する。
“波長”は親子などの近親者同士であっても微妙に違いがあり、個人の特定等にも使われている。
「調査の仕上げに、神獣が持つ“魔力の波長”を調べました。
出鱈目に強大な魔力だったから、そう近くに寄らずとも調査はできましたよ。
最後に行ったのは、波長の照合です。
……“異質な魔力”と“神獣の魔力”の波長は、見事に一致しました」
そう締めくくる。
聞き終えた村長はおずおずと手を上げ、
「待って欲しい。
その“魔力”は、ズィーガ様が災害を鎮めた際に残したものなのでは……」
「それはアタシも考えました。
でも、
勿論、災害を解決する時に使った時のものもあるようでしたが――多くの場合、魔力流入は災害が起こる直前に発生しています」
資料にも記載してあることではあるものの、質問された以上しっかりと説明する。
村長とてそれは理解しているのだろうが、断言されたことでがっくりと項垂れた。
「……炎虎ズィーガは自分が発生させた災害を自分で鎮めていた――これまでの行動は、全て自作自演だった。
そういうことなのですね?」
「はい」
絞り出した村長の言葉に、エルミアが頷く。
「だが、何故こんなことを……?」
「2つの理由を推測しています。
一つは信頼を得るため。
神は人からの信仰によってその存在を確立させている、という学説があるのです。
もう一つは、己の破壊欲求を満たすため、ではないかと。
ズィーガが残虐の趣向をしていることは既に明らかです。
災害に対しても、ある程度被害が出てから解決へ乗り出しています」
「それがもし確かであれば――最悪だ」
とうとう、男は頭を抱えだした。
今まで信じていたものが瓦解したのだから、当然の反応だろう。
(……でも、結構あっさり信じてくれましたね。
エルミアさんの言う通り、やっぱりこの仕事に疑問を持っていたってことでしょうか)
となれば、あと少しで村長を説き伏せられる――と、イーファが希望を抱いたところで。
「い、いや、それでも――それでも、駄目だ!
貴女達の提案に乗るわけにはいかない!
生贄によってズィーガが抑えられているのは間違いなく事実!
サーラの命によって、より多くの命が救えることに変わりはない!」
「ちょ、ちょっとぉ!?」
イーファは反射的に声を挙げてしまう。
「この期に及んで何言ってんですか!?
お子さんの命なんですよ!?
ズィーガに生贄を捧げる正当性だってもう無いじゃないですか!
今は皆で協力してサーラさんを――」
「連れて逃げるとでも!?
それが成功するかどうかは分からない!
少なくとも娘が犠牲になれば、向こう十年は平穏が約束されるのだ!
ズィーガへの対処方法は、その間に検討すればいい!」
こちらの剣幕を押し返す勢いで、村長が喚きたてる。
「そも、私は国より直々にこの仕事を任命されている。
私には、この任務を遂行する義務がある!
私個人の意思で、それを捻じ曲げることは許されない!!
でなければ――でなければ、
血反吐を吐きそうな絶叫であった。
“あの子達”とは、これまでに犠牲になった少女達のことか。
そんなことにまで言及するところを見るに、村長は大分追い込まれているようだ。
……いや、前々からずっと、思い詰めていたのかもしれない。
「ダンマスさん」
と、そんな時に声が響く。
凛としていて、静かであるにも関わらず不思議と耳に残る声。
エルミアのものだ。
「己に課された義務を全うしようという貴方の覚悟は、お見事という他ありません。
心より、賛辞をお送りいたします」
「……え? は、はい」
一礼をする聖女の姿には、裏があるように見えなかった。
本当に村長を称えているように感じる。
それが当の本人にも伝わったのか、ダンマスは一瞬でクールダウンしていた。
「ですが、ダンマスさん。
貴方には国から与えられたものとは別に、もう一つ義務があるのです。
貴方は“それ”を蔑ろにされている」
「な、何を――?」
聖女の言葉一つ一つが、
言葉の抑揚、視線の向き、何気ない身振り。
そういったものが緻密に組み合わさり、彼女の台詞につい聞き入りたくなる“魅力”を生み出している。
カリスマ、とでも言えばいいのだろうか?
「いったい何を仰っているのかさっぱり分かりません。
この上、私にいったい何の義務があると言うのです……!」
投げかけられた疑問に、エルミアは明瞭と答える。
「それは生きとし生ける者であれば誰もが平等に課されている義務。
――親は子を守らねばならない、という義務です」
「……あ」
村長の口から、息が抜ける音がした。
「親が子を守ることに理屈をつける必要など無いのです。
それは極当然の行動であり、恥じ入るようなものでは無いのですから。
確かに、貴方には村長としての責務が与えられました。
幾人もの罪なき命が散る様を見届けてきたのでしょう。
ですが――それは親としての義務を放棄してよい理由にはなりません」
「…………」
ダンマスは無言だ。
じっと、エルミアの瞳を見つめている。
「ダンマスさん、貴方に“義務”を遂行する覚悟があるのでしたら、どうか成し遂げて下さい。
私はそれを切に祈っております」
最後にまた頭を下げた聖女へと、村長が零すように言葉を返す。
「……少し、時間を頂けませんか」
肯定の返答ではない。
しかしその顔は、憑き物がとれたように落ち着いていた。