聖女(性女)様と一緒 ~悠々自適の一人旅が、波瀾とエロに満ちた珍道中に~ 作:ぐうたら怪人Z
『……ふ、何を言うかと思えば』
ヴィルの言葉を聞いた炎虎ズィーガは、鼻を鳴らす。
おそらく、嘲ったのだろう。
『人が、神獣たる我に歯向かうなど。
ましてや命を奪うなど、到底不可能な――」
「御託はいい。
ここでは村に被害がでかねないからな、少し遠くへ移動して貰うぞ」
そう宣言するや否や、青年は
『――あ?』
「――へ?」
「――え?」
「――は?」
その場に居た誰もが――当のズィーガすら、呆気にとられた。
炎虎の体が。
比喩でなく山のような、見上げるばかりの巨躯が。
その“蹴り”で
それも、優に数十mも。
『……な、何なのだ、お前は?』
上手く着地をしながらも、“戸惑い”を隠せないズィーガ。
(いや、ホントに何なんだよ!?)
それはラティナも――というか、その場にいるヴィル以外の全員が同感であった。
無理がある。
いくら何でもおかしい。
常識的に考えて有り得ない。
何をどうすれば、自分の数十倍以上の巨体を蹴り飛ばせるというのか。
「……あれ?」
と、そこで気付く。
ヴィルに“異変”が起きていることを。
炎だ。
まるで炎虎のように、青年の身体から炎が
(な、なんだ?)
それを尋ねるよりも先に。
「よっ!」
掛け声とともに、彼がまた
これまた、異常な飛距離。
ズィーガを蹴り飛ばせたのだから当然これ位はできる――と頭で理解しても、心がついていかない。
納得がいかないまま、しかしヴィルは遠く離れた神獣の傍らに着地した。
直前まで彼が居た場所には、炎の残滓が。
『――調子に乗るなっ!!』
近寄ってきたヴィルへ、神獣はその鉤爪を振り下ろす。
その巨大さ故に猛烈な速度で迫る鋭い刃。
誰かが声を上げる間もなく、2つは激突し――
「――っ!!?」
ラティナ達は息を飲んだ。
衝撃で周囲に爆風が広がり、大地は大きな亀裂が走っている。
『な、に――!?』
神獣が目を見開く。
受け止められていたのだ。
ズィーガの爪が。
それより遥かに小さい、人よって。
ヴィルは両腕で虎の爪を挟み込み、その動きを止めたのである。
爪の大きさは、青年の身長よりも大きい。
加えて神獣自身の火炎により、触れるだけでモノを燃やす程の高熱を帯びている。
なのに、彼は“素手で”“挟み”“止めていた”。
それだけではない。
青年の身体から一際強く“炎”が噴き出すと、
「ふんっ!」
『なぁっ!?』
余りにも見事な“一本背負い”。
互いのサイズ差を一切無視した暴挙。
一回転したズィーガは、背中から大地に叩きつけられた。
倒れた神獣に対し、ヴィルはさらに飛び掛かり――
(え? え? え? え――!?)
そんな彼らの戦いを見て、ラティナは呆然とするしかなかった。
状況はしっかり把握しているのに、頭が追い付かない。
現実離れし過ぎた光景に、脳が理解を拒否しているのだ。
(あ、いや、でも人の
幾ら悪竜ベルトルを討ち取った大英雄ヴィルバルトであっても、そこまで人間離れしてはいない、と信じたかった。
(ってことは、魔法で
アイツが纏ってる“炎”に何か絡繰りが?)
どうにかその結論へ辿り着く。
まあ、思い至ったところ彼の強さの秘密が分かるわけでも無いのだが――と、そんな時。
「……<
ぽつりと呟いたのは、聖女エルミアだ。
彼女はヴィルの方をじっと見ながら、身を震わせている。
「な、なんだ、<炎身>って!?
知ってるのか、エルミア!?」
詰め寄るラティナ。
しかし――
「はぁぁぁぁぁ♪
ヴィルってば、<炎身>が使えるだなんて♪
もう、素敵すぎぃ♪」
「…………」
――とても、話が聞ける状態では無かった。
聖女は完璧にトリップしていた。
瞳が完璧にハートマークになっている。
震えていたのも、恍惚状態になった結果のようだ。
そこには、ここ数日見せていた凛とした姿は微塵も無かった。
「だ、大丈夫、か?
なんか、ヤバいことになってるぞ?」
「あー、平気ですよ。
寧ろエルミアさんはこっちが平常モードです」
何事があったのか心配するラティナに、イーファがのほほんと語りかける。
「え? これが普通?」
「はい、村で見せてたのが異常な状態なんです」
はっきりと答える魔女。
ともすれば聖女に対してとてつもなく失礼な台詞を吐いている。
色々と納得はいかないが、追求する程のことでも無いように思った。
なので代わりに、イーファの方を問い詰める。
「じゃあ、オマエは知っているのか、その<炎身>って魔法を。
一応は魔女だろ」
「なんかラティナさんの中で、アタシ凄く軽くありませんか?
……ま、まあ、一応、お爺ちゃんの書いた本で見たことはありますけど。
でもあれって確か――」
「ごちゃごちゃ言ってないでさっさと説明しろ」
「わ、分かりましたよぉ。
<炎身>は火属性の強化魔法で、“窮極呪法”の一つとされています」
「窮極呪法? またいかつい単語だな」
「理論的には確立されているけれど、技術面とか色々な問題で実現できてない最高位魔法群を賢者の学院ではそう呼んでるんですよ。
で、話戻して<炎身>っていうのは――」
魔女の言うことには。
従来の火属性強化魔法の原理は、魔力によって自身ないし他人の運動能力を増進させるというものだ。
しかし、<炎身>はその“強化”を行うプロセスが根本的に異なる。
自身の体内を流れる魔力を一旦塞き止め、
これがどういうことなのかと言うと――
「――常に体内で“攻撃魔法”を炸裂させてる、みたいな感じですか」
「その魔法考えたヤツ、絶対に頭おかしい」
説明などするまでも無いかもしれないが。
普通の人間は、身体の中で攻撃魔法が発動したら吹き飛ぶ。
バラバラになる。
要するに死ぬ。
「だから、絶大な強化効率を誇る魔法ではあるんですけど、身体が耐えられないんですよね。
尋常じゃない程、
「……あいつは、ソレを持ってるのか」
流石は大英雄。
普通の人間なら即死しかねない魔法を、限界にまで高めた“耐久力”でもって無理やり行使している、ということなのだろう。
先程から彼の身体より噴き出ている“炎”は、<炎身>の余波によるもののようだ。
“王国”の工作員として、ヴィルバルトの戦闘技術を盗んでやる腹積もりでいたのだが――実は先程から、“知覚強化魔法”を使用し青年の言動を細部まで観察していたのだ――それは相応に難しい行為だと悟らされた。
「でも前から思ってましたけど、先生って凄いですよねー。
帝国に居たって聞いてますけど、何者なんでしょう?」
「いや何物も何も、悪竜殺しの大英雄ヴィルバルト様だろが」
「――――へ?」
何気ないイーファの呟きに対し、ほとんど無意識にツッコミを入れたのだが。
どうしたわけか、魔女の目が丸くなった。
「え、えぇぇええええええっ!!!!?
先生って、
「遅いっ!!!?
知らなかったのかよ!!!
さっき名乗りも上げてただろ!!?」
「いえ、なんだか先生が来てくれて気が抜けちゃってて。
あんまり話聞いてなかったんですよね」
「こ、コイツ……」
ある意味、大物だ。
こんなのに“王国”の未来がかかっているのかと思うと、絶望したくなる程に。
頭を抱えそうになるが――それは、とてつもない“爆音”、そして吹き荒れる“熱風”で妨げられる。
「な、なんだぁっ!?」
魔女との会話で、戦闘から注意が外れていた。
肌を焼く“風”を手で防ぎながらそちらを見てみると――
――戦場が様変わりしている。
神獣の周辺一帯が煌々とした炎に包まれていた。
ズィーガの仕業だ。
極大の“燃える吐息”を吐き、周囲を炎の海へと変えたのである。
土が溶け、溶岩へと変貌していくその光景は、さながら灼熱地獄のよう。
『手間を、かけさせおって――!』
“地獄”の中心で、炎虎が叫ぶ。
体から昇る火炎が天にも届く程に大きくなっていた。
ヴィルの姿は見えない。
この炎の海に飲まれてしまったのか。
『お前が如何に強かろうと、人の身でこの業火には耐えられん!!』
肉弾戦では分が悪いと見て、戦法を変えたようだ。
火の神獣であるズィーガはどれ程の熱量であろうと炎によって傷を負うことは無い。
しかし、人であるヴィルは違う。
魔法である程度は防げるだろうが、それでも限度がある。
ここまで炎で囲われては呼吸もままならないし、ただそこに居るだけで体力は削られ――いずれ力尽きることは明白。
その事実に気付いた次の瞬間、
「確かに、
……こちらが危機感を覚えるよりも前に、灼熱の炎は
豪火をものともしない“剣風”。
立ち昇る炎が吹き散らされたソコに立っていたのは、
その手には、長大な
『な、なんだその姿は……?」
「ちょっとばかり
神獣相手に出し惜しみするのも失礼かと思ってな」
ズィーガの声に応える青年。
虎は一つ吼え、
『たわけがっ!!
剣と鎧を取り出したところで何ができる!!』
怒号と共に、燃え盛る炎を吐き出した。
それ自体がヴィルの10倍近い大きさのある、極大の“火球”だ。
「はっ!!」
しかし青年は焦り一つ見せず、巨大剣を一振り。
光の軌跡を残す斬撃は“火球”を切り裂くだけに留まらず――
『ぬぅっ!?』
――その“剣圧”はズィーガにまで
自らの生み出した成果を確認したヴィルはニヤリと口角を上げ、
「……
ふてぶてしい台詞を吐き捨てるのだった。
「……あれはまさか、<
「知っているのか、エルミア!?」
1人と1柱の戦いの中、聖女が零した呟きにラティナは食いついた。
戦闘のレベルが高次元過ぎて、戦況を理解するのもやっとなのだ。
せめてヴィルがどんな技を使っているのかは把握しておきたい。
……まあ、英雄ヴィルバルトの戦闘技法を少しでも解析しておきたい、という本音もあったりするが。
しかしそんな思いも空しく、
「ああぁぁぁ――やっぱりヴィルって凄い♪」
聖女は変わらずダメダメな状態なのであった。
「意味深なこと呟くだけ呟いてトリップすんなぁ!!
発言したからには説明責任を果たせやっ!?
おい魔女! <輝具>ってなんだ! どんな魔法だ!」
「なんだか、アタシを体のいい説明要員にしようとしてませんか?」
魔女から非難の声が上がるが、ラティナ的に魔女と聖女は同じパーティーの一員同士なのだから連帯責任である。
「ま、まあいいですけど。
<輝具>っていうのは光属性の窮極呪法で、練り上げたエネルギーを極限まで凝縮させることで、魔力を
要するに武具を創る魔法ですね」
「へぇ、なかなか便利そうな魔法じゃないか。
<炎身>と違って」
潜入任務もこなす必要がある自分のような立場からすると、覚えられるなら是非覚えたい魔法だ。
「そう思いますよね?
ところがどっこい、開発の最中に致命的欠陥が見つかってしまったそうで」
何がおかしいのか、笑いながら説明を続ける魔女。
「<輝具>で作られる武具は術者の魔力量に応じて性能が高まっていくんですけど、普通の魔法使いが使ったところでせいぜい“普通の武具”しか作れないってことが分かっちゃったんですよねー。
しかも、技術的にも相当難易度が高くて、習得にはかなりの修練が必要だったり。
それなら、お金払って買っちゃった方が全然楽ってことで、開発が中止になっちゃったんです」
「へー、上手くいかないもんだな――って、待てよ?」
そこまで聞いて、ラティナは
「……だったら、人類史上他に類を見ない魔力の持ち主が<輝具>を使ったらどうなるんだ?」
「そりゃあまあ――人類史上他に類を見ない程の伝説級武具が出来上がるんじゃないですかね……?」
イーファの方も理解したのだろう。
額には一筋汗が流れていた。
「……そうか、そういうことか」
大きく息を吐く。
つまり、今ヴィルが装備している大剣や全身鎧は
最初彼に会った時には、仮にも将軍職に就く人間が、手ぶらで旅行など不用心とせせら笑ったものだが。
(要するに、アイツには武器も防具も持ち歩く必要は無いってことか)
自分で最強の武器防具を創れるのだから、運ぶ手間をかける必要など無いというわけだ。
そのトンデモ
あんまりにも無茶苦茶過ぎる代物だった。