※この作品はR-18です。

聖女(性女)様と一緒 ~悠々自適の一人旅が、波瀾とエロに満ちた珍道中に~   作:ぐうたら怪人Z

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⑭ ヴィルバルト・グルムバッハ(Ⅱ)

 無茶苦茶(・・・・)なのは、今繰り広げられている戦いにも言えた。

 剣戟が起きている。

 見上げんばかりの巨体を誇る虎の、その鉤爪と。

 大きいとはいえ、携帯武器の範疇を出ないサイズの大剣(グレートソード)と。

 本来であれば渡り合える筈の無い2つの得物が、幾度となくぶつかり合っている。

 それも、信じられない速度でだ。

 

(遠目で見てるからなんとかなる、けども)

 

 ラティナの動体視力をもってしても、目で追うのがやっとだった。

 ズィーガの、その身体に似合わぬ敏捷性も驚嘆に値するものだが、目が釘つけになるのはヴィルの動きだ。

 <炎身>により極まった身体能力を十全に発揮し、地を駆け空を跳んで神獣へと斬り付けている。

 その立体機動のスピードは、幾つもの残像を残す程。

 

(実際に分身してても、もう驚かないぞ!)

 

 その程度の技術は習得しているようにすら思う。

 だから、青年が空中で(おもむろ)に進行方向を変えても、斬撃が山を切り裂いても、平静を保つことにした。

 炎虎が劣勢に立たされている(・・・・・・・・・・)など、何をかいわんや、だ。

 

 ――そう。

 戦いは、ヴィルが優勢であった。

 

 ここまでかの将軍の能力に驚き続けてきたが。

 ラティナの心の底では、それでも神獣と戦えるのかどうか、疑問が燻っていたのだ。

 当然だろう、何せ相手は神。

 人知の及ばない存在である。

 どれだけ英雄ヴィルバルトが強くとも、その上を行かないとは限らない。

 ……だが、それは杞憂であった。

 

 天を裂かんばかりの、強烈な斬り上げ。

 大地を叩き割る、猛烈な斬り降ろし。

 薙ぎ払いは周囲の森を、大地を、地形を吹き飛ばす。

 ヴィルの放つ攻撃を、ズィーガは爪で、炎で、どうにか防御しているが、少しずつその身を削られていった。

 

 逆に炎虎の繰り出す攻撃は、青年に危なげなく対処されている。

 鉤爪は大剣で受け捌き。

 炎は斬撃によってかき消し。

 その巨躯で体当たりを仕掛けても、身をかわして華麗に回避。

 稀に掠ることはあっても、鎧によって完全に防がれている。

 

『ぬ、あ、あ、あ、あ――!!』

 

 苦し気な、それでいて苛立ちの籠った神獣の呻き声。

 無理も無い、己が防戦一方になるなど、欠片も想像していなかっただろう。

 

(もうすぐ、決まる――!?)

 

 この均衡は長く続かないと、ラティナは見積もった。

 いや、この戦いを眺める者のほとんどがそう感じていることだろう。

 じわじわと、確実にヴィルがズィーガを追い詰めている。

 刻まれる傷は次第に深くなり、そのダメージによるものか動きも僅かに鈍くなってきた。

 炎虎には、今の状況を維持し続けることすら難しい筈。

 そんな思いは――

 

『がぁあああっ!!?』

 

 ――呆気なく実現した。

 ヴィルによって腕を斬り飛ばされた(・・・・・・・)神獣が、無様に大地をのたうち回る。

 

(や、やりやがった……!)

 

 心で喝采を上げる。

 ただの“人”が、“神”を地に伏せさせたのだ。

 ラティナでなくとも、感極まるのは免れまい。

 実際、聖女も魔女も、村長も老侍女も、他の村人たちも、程度の差こそはあれその表情から険しさが抜け始めている。

 ……訂正、聖女は最初からずっと顔が蕩けっ放しだった。

 

 倒れたズィーガへ、ヴィルが一歩一歩近寄る。

 その表情に油断は無い。

 確実にトドメを指す気だ。

 しかしその直前、巨虎が動く。

 

『……ま、待て!

 我を殺すと、後悔することになるぞ!』

 

 態度こそ尊大であるものの、それは紛れも無く命乞いだった。

 “神獣”が、“人”相手に斯様な態度をとるとは――

 

「ほう。

 お前が死ぬと、俺にどう不都合があるんだ?」

 

 興を示したのか、ヴィルが会話に乗る。

 

『お前達は知るまい、何故神々が我を神獣としたのかを。

 全ては、ある“存在”と戦うためなのだ。

 神さえ容易く手出しできぬ“存在”を屠るため、我々神獣は存在している!』

 

「ふむ、その存在とは?」

 

『耳にしたことはあろう。

 その名はベルトル――悪竜などという俗名でも呼ばれておるか。

 この世界そのものを破滅させかねん、漆黒の邪悪よ!』

 

「…………」

 

 青年が口をつぐんだ。

 まあ、彼にしてみればそんな態度をとるしかないだろう。

 しかしズィーガはそれを勘違い(・・・)したようで、饒舌に話を続ける。

 

『よいか? ここで我が居なくなれば、神獣を1柱欠いた状態で彼奴に挑むこととなる。

 そうなれば、ベルトルに抗することは難しかろう。

 その後待っているのは、人の世の終わりだ』

 

「…………」

 

 ヴィルがなんとも言えない顔をしていた。

 横から聞いているラティナでも、心中は察して余りある。

 

『そしてベルトルは近く復活するのだ!

 となれば、如何に神とて代わりの神獣を用意は間に合わぬ。

 よいか、小さき者よ。

 我をここで殺してはならぬ。

 滅びの道を歩みたくなければ――』

 

「殺したよ」

 

『――む?』

 

 ぼそっとした一言に、神獣が台詞を止める。

 その隙にヴィルは言葉を紡ぐ。

 

「ベルトルなら殺した。

 もう3年も前の話だ。

 今の話が本当だとしたら、神獣とは随分と怠けた連中だな。

 俺はお前達から何の援助も貰った覚えはないぞ」

 

『――――え?』

 

 炎虎の目が点になった。

 そんな表情もできたのか。

 ズィーガはしばし呆然とし、その後喚きたてる。

 

『馬鹿な! ありえん!

 ベルトルは神を滅ぼすために生まれた殺神兵器!

 ありとあらゆる武器、魔法で奴を傷つけることは不可能!

 人がどうあがいたところで、そもそも勝負にすらならぬ!!』

 

「ああ、こっちが用意していた作戦が悉く無駄になってかなり焦った。

 伝説の武器だの窮極の魔法だの、何をどう仕掛けてもかすり傷一つ付かんし。

 仕方がないから、最終的にこう――首をきゅっと」

 

 鶏の首を絞める(・・・・・・・)ような仕草をするヴィル。

 

『―――――は?』

 

(―――――は?)

 

 ズィーガと全く同じ反応を、ラティナもしてしまった。

 周りをちらりと見れば、全員が同じ顔をしている。

 

(嘘だろ?)

 

 あの男は。

 ヴィルバルト・グルムバッハは。

 武器を何も使わず、素手でベルトルを(・・・・・・・・)絞め殺したのか(・・・・・・・)

 

(は、は、ははは)

 

 なんというか、もう笑うしかなかった。

 完璧に理外の存在だ。

 本当にアイツは同じ人間なんだろうか。

 ラティナの頭が思考することを止め、ひたすら渇いた笑いを零し続ける。

 

『――――ひっ』

 

 しかし、笑えない(・・・・)立場に居る者が、一人――いや、一柱いた。

 そのヴィルバルトを敵に回している、ズィーガである。

 

『ひ、ひぃいいいいいっ!!?』

 

 神獣は、逃げ出した。

 恥も外聞もかなぐり捨て、敵である青年に背を向けて全力疾走で逃げ出したのだ。

 

『嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!

 死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない!!!』

 

 木々を薙ぎ倒し、丘を跳び越し、山を駆け抜け。

 凄まじい速度で逃げていく(・・・・・)

 あっという間に、姿が小さくなる。

 そう遠くないうちに、こちらの視界から消えることだろう。

 ……だが。

 

「良くないな、それは。

 生き延びたいのであれば、お前は降伏しなければならなかった。

 戦術的撤退は敵意の維持有りとみなさざるを得ない」

 

 ヴィルは、ズィーガの逃亡を良しとしなかった。

 彼は腰を深く沈め、大剣を大きく振りかぶる。

 まるで肉食獣が獲物へ飛びかかる直前のように。

 まるで弓の弦を限界まで引き絞っているかのように。

 限界まで、力を溜めていく。

 

「ふっ!」

 

 吐き出される息。

 <炎身>によって噴出する炎。

 射出される(・・・・・)身体。

 ヴィルは正しく弾丸のような速度で一足飛びにズィーガへ迫る。

 そして――

 

(――え? ブレた(・・・)?)

 

 空駆けるヴィルの姿に、上手く焦点が合わなくなる。

 魔法で強化したラティナ視覚をもってしても、どこかズレた(・・・)ように見えるのだ。

 察するに、

 

(“振動”している、のか?)

 

 それも恐ろしい程の高速で。

 

 ……聞いたことがあった。

 それは、“帝国”の名門グルムバッハ家に伝わる破壊技法。

 それは、攻撃時に生じる“力の流れ”を敢えて歪ませることで、物質を崩壊させる“破壊振動”を生み出す奥義。

 ――即ち“震撃”。

 

「おおああああっ!!!」

 

 響く、雄叫び。

 <炎身>によって極限まで高まった身体能力で生み出された超振動を、<輝具>によって創られた最強の武具に乗せて撃ち放つ。

 いかなる結果が、それによって生じるか?

 

『――――っ!!?』

 

 “断末魔”は、無かった。

 何か、甲高い共鳴音(・・・・・・)のようなものが耳に響くだけ。

 

(う、そ……)

 

 ラティナもまた、言葉が出せなかった。

 こんな“光景”、初めて見る。

 

(……消えていく)

 

 ヴィルを中心として。

 いや、彼が振り下ろした大剣を中心として、物質が消滅していった。

 土も、木も、岩も――大地も山も。

 果ては、神獣ズィーガまで(・・・・・・・・)

 ありとあらゆる全ての存在が、姿を無くしていった。

 

(いや、違う。

 消えたんじゃなくて――)

 

 ――正確には、(ちり)に還っているのだ。

 超振動により分解されて、塵々(散り散り)になったのだ。

 余りにも細かく。

 余りにも美しく粉々に砕けた(・・・・・・)ので。

 ラティナの目には、消えたように見えただけ。

 

 炎虎は、何も残さず、何も残せず。

 遺言も怨嗟の叫びすら許されず。

 極小の粒子となって、この世から去った。

 

「……さらばだ、ズィーガ」

 

 周囲に何も無くなった“クレーター”の中心。

 そこには黒い鎧を纏った青年が、一人静かに佇んでいる。

 

 

 

 

 

 

「――あれが、本当の“震撃”なのですね」

 

 三度、聖女が呟く。

 しかし今度ばかりはその顔に“おふざけ”は欠片も存在しなかった。

 感慨深げに、それでいて心底嬉しそうな視線で、青年を見つめている。

 

 彼女だけでは無い。

 今日、この戦いを目にした全ての者が、あの青年の雄姿を目に焼き付けようとしていた。

 自分達は今、“伝説”の生き証人となったのだから。

 

 ラティナも、隣にいるイーファもそれは同じだった。

 ヴィルから視線を外さないまま、2人は震える唇で同時に言葉を零す。

 

「……震撃って、エロい技じゃないかったんですね」

「……あんなもの、ボクの中にぶち込んでたのか、アイツ」

 

 俄かに信じられなかった。

 あんな超破壊を齎す必殺技を、あの男は女体の最も敏感な場所へ撃ち放ったのである。

 

 常軌を逸している。

 まともな思考でできる発想じゃない。

 どうしたら、長く受け継いできた誇り高き技をエロに転用しようと思えるのか。

 技を開発した祖先に申し訳が立たないとは、考えなかったのか?

 

(……変態だ。

 紛うこと無き、変態だ――!!)

 

 確信する。

 神獣を倒し、なんか格好良い雰囲気出しているあの男が、どうしようもない変態であることをラティナは確信する。

 

 実際、自分がアヘアヘになっても責めの手を全然緩めてくれなかったし。

 あそこまでの痴態を人に見せたのは、アレが初めてである。

 何故、彼程の英雄が“帝国”を出奔しているのか不思議でならなかったが、きっとこの性癖が原因なのだろう。

 

(ヴィルバルト・グルムバッハ――なんて恐ろしい男! 色んな意味で!!)

 

 ラティナは、この男だけは決して敵に回してはならないと心に決める。

 その“果てしない勘違い”にツッコミを入れてくれる人物は、残念ながらこの場に居なかった!

 

 

 

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