聖女(性女)様と一緒 ~悠々自適の一人旅が、波瀾とエロに満ちた珍道中に~ 作:ぐうたら怪人Z
「なんか、オマエやつれてないか?」
「そ、そんなことは無いぞー?」
クリスに会った第一声がそれであった。
しかし、“連戦”の疲れが無いとは言い切れない。
今はギルド内に設けられた待合所で座っているのだが、正直、ちょっと腰が痛い。
流石にヤりすぎたと反省することしきり。
ならばもう止めるのかと言えば――誘われたら、またヤってしまうかもしれない。
(……意志力弱くなってきてないか、俺?)
精神鍛錬が必要かもしれないが、それはまた今度。
「えー、それで、だな。他のパーティーメンバーというのは、どこに居るんだ?」
「露骨に話題を逸らしに来やがった……」
呆れ返るクリスに、心の底から謝罪する。決して冒険者稼業を軽んじている訳ではないのだが――こんなコンディションで顔を出してしまえば、そう思われても仕方がない。
「まあ、いいさ。今日はそんな大層なことをするつもりはないからね。
で、待望のお仲間はもう少しでここに来る予定――と、ほらきた!」
「むむ!」
その言葉通りギルドの扉が開き、外から一人の“黒髪の少女”が入ってくる。ヴィルはその顔を見て――
「……え?」
そんな呟きを漏らしてしまった。
人形のように整ったその容貌に、心当たりがあったからだ。
他人の空似を一応気にかけ、恐る恐ると話しかけてみる。
「……まさか、ロアナ、か?」
「――どうもご無沙汰してます。まさかこんなところで再会するとは思いませんでした」
あっさりと頷かれた。
少女は、本当にロアナであった。
以前――まだエルミアと会ったばかりの頃――遭遇した事件で関わった少女である(※第4話参照)。
「そ、そうか。うん、久しぶり、だな……」
とりあえず挨拶はしっかりと返しつつ、顔をクリスの方へ向ける。
「お、おい、クリス?」
「何だい?」
「君は――彼女が何者なのか、知っているのか?」
ヴィル自身、別段ロアナに対して悪感情は無い。
ただ、少女の立場を考えると“はい、そうですか”と流すこともできない。
「ああ、知っているとも。
教会の重要参考人だろ?
保護観察対象になってるやつ。
流石に守護騎士やってるだけあって、アンタも知ってたんだな」
「知ってたんだな――って。
君の方こそ、そこまで知っておきながら何故この子を仲間に引き込んだんだ?」
この物言いにロアナが気を悪くしないかと、横目で少女の方を見やるが――少なくとも彼女の顔に変化は無かった。
「いやぁ、面倒な事情抱えてるのを差っ引いてもさ、お得だったんだ、彼女」
「お得?」
理解しがたい言い回しに聞き返すも、返事をしたのはロアナの方。
「――要するに教会は持て余していたのですよ。
――だから、“貸し出す”ことにしたんです」
「貸し出す?」
「――はい。信頼の置ける冒険者にわたしを預け、監視を代行して貰っているのです」
また思い切ったことをしたものである。まあ、教会としても罪を犯したわけでも無い少女を、長く拘束することに抵抗があったのかもしれない。
しかし仮にも聖女(とついでに帝国の将軍)を巻き込んだ事件の関係者である以上、安易に自由の身にすることはできない。
貸出というのはその妥協案か。
「それはまあ、なんというか……ご愁傷様」
「お気遣い無く――別段、不自由していることもありませんから。教会で軟禁されるより、ずっと気楽です」
「そうなのか」
本人が納得しているというなら、ヴィルがどうこう口出しする話でも――いや、さっさと少女を解放するよう教会に掛け合うべきか?
(難しいところだな……)
下手を打つと帝国と教会の問題にまで発展してしまう可能性がある。
自分の立場を利用した行動は、ギリギリまで保留しておくべきだ。
そんな考え事をしていると、クリスが説明を補足してくれた。
「ロアナってばこの年齢で熟達した聖職者でさ、治癒魔法はなんでもお手の物なんだ。
しかも教会が色々特典も付けてくれて――どこからでも教会に通信飛ばせるマジックアイテムだとか、離れていてもこっちの位置が分かる護符だとかを無料で貰えたのさ」
「それ、もしかしなくてもロアナを監視するためのものだろ」
「勿論そうなんだけど、冒険者にとっては凄くありがたいぞ?
万一迷宮で遭難しても、助けを呼べるんだから」
「……そういう捉え方もできるか」
教会が悪意を持って監視しているのではない以上、いざという時の命綱として活用できると判断したのだろう。
一通り説明が終わったところで、ロアナが改めて顔をこちらに向けてきた。
「――わたしがここに居る理由は納得頂けましたか?」
「ああ、納得できた。君とこんなところで再び会う偶然以外は」
「――そこは、人と人の奇妙な巡り合わせということで」
「縁か……まあ、そんなものかもしれないが」
王都に着いてから、知人と出会うのはこれで2人目。
「ま、ともあれ、アンタ達が知り合い同士で良かったさ。
アレコレ自己紹介する手間も省けそうだし。
お互い、実力の程も分かってるんだろ?」
「――ええ、物凄く」
クリスの台詞に、ロアナが深く頷いた。
正確に言えばヴィルはこの少女の力量を目にしたことは無いのだが、聖女の有力候補にまで挙がっていたのだから問題あるまい――
(――いや、待て、本当に大丈夫か!?)
脳裏に
「それでクリス。君のパーティーはこれで全員なのか?」
「そうさ。体調崩してる奴を除けばな。
教会の守護騎士にシスター、そしてオレ様は軽戦士。
なかなか堅牢で悪くない組み合わせじゃないか?」
「
「そこはほら、アンタに期待してる」
「俺に? ある程度なら真似事はできるかもしれないが……」
「いや、期待してるのはアンタの頑丈ささ。漢探知って知ってる?」
「罠を踏み抜けと言っているのか!?」
「ジョーダンジョーダン! こう見えてもオレ様、そっち方面も結構得意なのさ。銀クラスは伊達じゃないってこと」
「そ、そうか。ならいいんだが」
世の中にはあらゆる罠に自ら突っ込み、敢えて引っかかることによって仲間の安全を守るという男気溢れた者がいると耳にしたことがある。
しかし、残念ながらヴィルにそこまでの気概は無かった。
「じゃ、顔合わせも終わったところで、早速行こうか」
パンっと手を打ち鳴らして、クリスがそう宣言する。
「早いな!? もっとパーティ内での分担をしっかり確認しておいた方がいいのでは!?」
「大丈夫さ、いきなりそんな危ないとこには行かないから。
アンタは勿論、ロアナもまだ迷宮潜ったこと無いし。
野外の冒険とは色々勝手が違うから、まずはそこに慣れて貰わないと」
「あれ、そうだったのか」
てっきり既に幾度か冒険をしていたものとばかり思っていた。
「――依頼は受けていました。害獣退治などの野外のお仕事だったというだけで」
「女の子をいきなりダンジョンに連れてくのもな。この子の実力もちゃんと確かめたかったし」
試用期間中だったということか。
「それでいくと、俺にも確認が必要なのでは?
正直、ダンジョンは余り経験がないんだ」
部隊を率いて潜ったことはあるが、少人数での探索は行ったことが無い。
しかしその質問に2人は呆れすら含んだ顔をして、
「アンタは必要ないだろ?」
「――ご自分の姿を鏡で見たことないのですか」
「…………」
何やら納得いかない物言いではあったが。
とにもかくにも初のダンジョン冒険行きが決まったのであった。
「と、いう訳で、ここが今日潜るダンジョンさー」
「……近すぎやしないだろうか」
ギルドを出発してものの1時間も経たずに到着してしまった。
というか、王都を出てすらいない。
街中にあった地下への階段を降りた先に、ダンジョンがあった。
<
そんなものに囲われる迷宮へ、辿り着いてしまったのだ。
こうもご近所感覚で来れていいものなのか。
「――この王都は遺跡の上に建設されているのです。恐ろしく巨大な地下建造物で、未だ全てを調べきれてはいないとか。一説には、太古の昔に
そんなヴィルの疑問を察したのか、ロアナが説明をくれる。
なるほど、それなら簡単に行けるのにも納得いくが――
「いや待ってくれ。
街のすぐ下に迷宮があることの理由は分かったが――そもそもこんな場所にあったら、魔物が簡単に侵入してくるのでは?」
「心配無用さ。
浅い階層には魔物がほとんどいないし、出たとしても弱いヤツばっかりだから。
鉄クラスの冒険者でも訪れることがある位さ」
「ああ、そうだったのか」
クリスの回答に合点がいった。
自分の力量に見合った階層を選べば、比較的安全に迷宮探索の練習ができる場所という訳か。
しかも街からは程近い。
話が正しいとするなら、実に便利なダンジョンだ。
「では、今日はこの辺りを探索すると?」
「いやぁ、慣らし訓練をするにしてもここじゃ流石に物足らなすぎるさ。
「ほほう」
実際問題、ヴィルは勿論のことロアナにとっても、浅い階層の探索など散歩程度にしかならないだろう。
それ位、魔物の気配が弱々しい。
「――では、下へ降りる階段へと向かいますか。ご安心下さい、この迷宮の構造は全て暗記しています。予習は完璧です。
――流石に、最深層と呼ばれる場所の地図はありませんでしたが」
これまで幾人もの冒険者が挑んでいるだけあって、この地下迷宮は既に各階層の地図が作られているらしい。
(しかし予習とは――見た目通り真面目なんだな、ロアナは)
その勤勉さに感心してしまう。
ところがクリスはパタパタと手を振り、
「あー、ごめんなロアナ。
せっかくなんだけど、普通に進むと時間がかかり過ぎてさ。
ショートカットを使うつもりなんだ」
「ショートカット?」
「うん、そう。
オレ様が見つけた時短ルートさ。
特別にアンタらにも教えてあげよう」
「それは助かる」
地図には無い独自経路を開拓済みとは、流石銀クラスの冒険者。
……ロアナは少し不服そうだったが。
そんな少女を空笑いで宥めつつ、クリスは道を先導していく。
「ほいほい、じゃあ着いてくるがいいさー。
万一も無いとは思うけど、一応迷宮内なんだから注意は怠っちゃダメだぞ?」
「分かった」
「――はい」
短く言葉を返し、ヴィルとロアナもそれに続いた。
歩くことほんの十数分。
「到着ー」
「…………」
「…………」
絶句。
「ここがオレ様専用ルートの入り口さ」
「…………」
「…………」
笑いながら語るクリス。
その笑顔は美しいが、それはそれとしてヴィル達は真顔で沈黙していた。
「これで一気に10階層は下に行けるんだ。
楽なもんだなー」
「…………」
「…………」
そろそろ、だんまりも限界か。
ヴィルは重い口を上げ、お気楽な青年に語り掛ける。
「…………クリス」
指でクリスが“入口”と言い張る場所を指しながら、
「ここは……崖だ」
端的に、事実を告げた。
崖。
そう、崖だ。
崖としか言いようが無い。
ヴィルの目の前には、底が見えない程に深く、そして垂直に切り立った、巨大な崖が広がっていた。
「――ここは、最表層唯一の危険ポイント。毎年、ここで足を滑らせて死亡する新米冒険者が後を絶たないのだとか」
ロアナが解説を始める。
「だから“この場所危険”の立て札が立っているのか」
「――しかし冒険者になる人間なんて、元々危険を顧みない者ばかり。立て札の効果はいまひとつのようですね」
「血気盛んな連中は無茶をしたがるものだからな」
少女の台詞にうんうんと頷く。
「――酷いのになると、この崖目掛けてチキンレースを始める人達もいるそうです」
「そりゃよくないな」
「――この崖を伝って下の階層に行く者もいたとのこと。その後、姿を見せなくなったらしいですが」
「勇気と蛮勇をはき違えてはいけないな」
そんなロアナとヴィルの会話が一段落したところで、クリスが統括する。
「じゃ、降りようか」
「俺達の話聞いてたか!?」
全力でツッコミを入れるが、青年は飄々とした態度を崩さない。
「ダイジョブダイジョブ、オレ様の後をついて来れば安心さ。
一応命綱も用意してあるから」
へらへらと笑うその顔が信用できなかった――が、抗議をするよりも早く、クリスは崖を降りていってしまう。
「ほらー、何してるー?
早く来ないと置いてくぞー!」
慣れたもので、彼の姿があっという間に小さくなっていく。
本当に何度もここを行き来しているのだろう。
「――どうしましょう?」
「……まあ、追うしかない、よな」
反対はしたものの、ヴィルの身体能力をもってすればそう難しい作業ではない。
なんならロアナを背負ってクライミングすることだって可能だ。
とはいえ、それとこれとは話が違う訳で――
「――欠席したもう一人のチームメンバーって、本当に体調不良だったんですかね?」
そのロアナの呟きに、ヴィルは深く同意するのだった。