聖女(性女)様と一緒 ~悠々自適の一人旅が、波瀾とエロに満ちた珍道中に~ 作:ぐうたら怪人Z
結論から言えば、誰の脱落も無く無事に下の階へ辿り着けた。
クリスはヴィル達を笑顔で眺めてから、
「じゃあ、ここからが本番さ」
「ここから、なのか……」
一歩足を踏み外せば奈落の底に真っ逆さまの極限クライミングだったのだが。
ヴィルはともかく、ロアナの精神的ダメージはなかなかもので、今なお放心しかけていたりする。
「まあまあ、安心して欲しい。
言ったろ、今日は慣れて貰うだけだって。
そんな危険なことはしないさ」
「その言葉を信じろと言うのも酷な話だぞ、おい」
ジトっとした視線を送るが、クリスは一切気にしてくれない。
「この階層の魔物はそんな大した強さじゃない――ま、オレ様にとっては、だけどさ。
だからこそ、ここでオレ様のやり方を身につけて欲しい」
「普通に倒しちゃ駄目か? 駄目なのか?」
どうもダメっぽい。
こちらの言い分など一切聞かず、クリスはごそごそと荷物を漁っている。
「そんな訳で、“コレ”さ!」
そう言って、小さな球状のアイテムを取り出してきた。
「コレは“退魔玉”といってだな、潰すと魔物が嫌がる煙を噴出するアイテムなのさ」
「ああ、なるほど。
それを使って魔物を退けながら先に進むんだな?」
「いやいや、それじゃ時間がかかり過ぎるだろ」
ヴィルの意見はあっさり否定されてしまう。
「じゃあ、どうすると言うんだ」
「こうするのさ」
クリスはそう言い放つと、玉を握り潰す。
途端に、もくもくとした煙が立ち込めてきた。突然のことだったので、少し吸ってしまう。
「ゴホッゴホッ!? おい、何してるんだ!?」
「この煙には魔物を追い払う能力がある――だったらさ、こうして持ち歩いた方が便利だろ?」
「えー?」
便利? 便利、か? そうか?
ヴィルの記憶が確かなら、魔物に投げて使うアイテムだった筈なんだが。
というか、魔物が嫌がるような煙、人が吸っても問題ないんだろうか?
様々な疑問が湧いてくるが、
「ま、論より実践! 早速やってみるさ!」
そんな言葉で押し切られてしまった。
という訳で。
「さぁ走れ! 効果時間が切れない内に!」
「――ゴホッ、ゴホッ!
おま、無茶言うなぁ!?」
クリスに先導され、ヴィル達は迷宮の中を駆けていた。
言うだけあってアイテムの効果は抜群で、魔物はこちらに近づいてこない。
おかげでヴィルは、せっかく迷宮に潜ったというのに未だ魔物の姿を見てすらいなかった。
隠密性も何もない強行軍だが、スイスイ進めてはいる。
ここだけ見れば、順調なことこの上ないのだが――
「ゴホッゴホゴホッ! おい、本当にこの煙吸って大丈夫なんだろうな!?」
「平気平気! でもなるべく肺には入れないよう注意するさー!」
「おい!?」
――健康的には余りよろしくない攻略法だった。まあ冒険者は体張ってなんぼな職業な気もするが。
冒険の初日からして、ヴィルはクリストパーティー組んでしまったことを割かし後悔し始めている。
ただ、彼はまだましな方で。
「おぅえ!? ぼえ!! うぇええええっ!!?」
ロアナである。
走り出した初っ端から思い切り煙を吸い込んでしまい、咳き込んで動けなくなってしまったのだ。
しかしクリスは行軍を中止する気はなく、仕方がないのでこうしてヴィルが少女を背負っている次第である。
ただ、自分と共にいるということは未だ煙の中に居るということであり――
「ゴボッ! ゴボッ! おぇっ!? おぅいぇえええええっ!!!」
――なんというか、もう女の子がしちゃいけない顔しちゃっている。
ヤバい。
どうにかしてあげないとこの子、ヒロイン力が底辺を割る。
「とにかく口を塞げ! 呼吸は最小限にするんだ!」
気休め程度のアドバイスを飛ばすも、
「げほげほっ!! ゴホッ!! いぇあああああっ!!」
どうにも改善できた様子ではない。
少しでも早くこの階層を走破する以外、彼女の助かる道は無さそうだ。
……手遅れかもしれないが。
で、見事に走り終わり。
次の階層へ行く手前の部屋で休憩していると、
「――なるほど、理解しました。これ処刑ですね? 冒険という体で、わたしを処刑するつもりなんでしょう?」
息を整えたロアナは、開口一番そう口にした。
「――ていうか何なんですか、コレ。わたし、せっかくの再登場ですよ? ほかの人達は濡れ場をしている中、なんでわたしはゲロで濡れなくちゃいけないんですか。
――わたしがロリだからですか? ロリだから不公平な扱いを受けるんですか。この世界、ロリに厳しすぎません?」
ちょっと意味の分からない言葉までぶつぶつ呟きだした。
錯乱しているのだろう、可哀そうに。
一応補足しておくと、彼女の吐瀉物とかはちゃんと綺麗にしてある。
「うーん、ロアナにはまだ早かったかな?」
そんな少女を眺め、クリスはそう言い放った。
早くない奴なんているのだろうか。
とりあえずヴィルは大きくため息をついてから、
「今更突っ込ませて貰うが、こんなやり方する必要がどこにある?」
「大ありさー。いちいち魔物を気にして歩いてたら、この階層の攻略には3時間かかるぞ。
それが、たったの15分ちょっとで到着したんだから、効果のほどは言うまでもないだろ?」
「ま、まあ、時間のことを言われてしまうと……」
確かに早かった。
クリスが先導して最短距離を走ってくれていたおかげで、まったく道に迷わなかったのも大きい。
ずっと燻られていたから、体感時間はやたら長く感じたけれど。
「しかしこれじゃ、迷宮内の宝も手に入らないじゃないか」
「こんな浅い階層に残ってるお宝なんてたかが知れてるさ。
金が欲しいっていうなら、オレ様がバイト代を払ってやろうか?」
「いや、そういう訳でもないんだが」
言われてみれば、ここは王都ほど近くの――というか直下の場所。
初心者が一日もかからず辿り着けるような階層など、既に掘りつくされているに違いない。
そういう意味で、さっさとお宝のある深層へ向かおうとしているのは理にかなっているかもしれない。
「あ、ちなみに言っとくけど、さっき通った道から少しでも外れたらアウトだぞ。
すぐ魔物や罠に遭遇して、タイムロスしちゃうからな。
あれは、魔物の位置とか退魔玉の効果範囲とかを計算し尽くして導き出した最適ルートなのさ」
「そういうものなのか」
「そういうものなのさー」
まあ確かに。
ただアイテムを使って走っていれば魔物に出会わず済むというなら、他の冒険者だって同じことをやる筈。
なのにそうしていないということは――少々信じがたいが――あのやり方は、クリスの磨き上げた技術あってこそ、ということだろう。たぶん。
「聞きたいんだが、なんで時間に拘るんだ?
別に、数日かけて攻略してもいいだろう」
「記録があれば挑戦してみたいじゃないか。
それにほら、オレ様、洞窟みたいな陰気な場所にそんな長く居たくなくってさ」
「そんなんでどうして冒険者になっちゃった?」
この能力と発想力があれば、クリスにはもっと他の道があったような気がする。
だがその疑問はさらっと流されて、
「ま、この方法で攻略するのはこの階層だけさ。
だからそんな顔しなくとも平気平気!」
「そ、そうか」
でも何故だろう、心からの安心ができない。
「次の階層からは
今のが大丈夫なら、行ける筈さ!」
「……やっぱり」
思った通りの続きに、ヴィルはがっくりと肩を落とすのだった。
……その後。
「こうやってギリギリで躱すのがポイントさ! ほら、やってみよう!」
小石をひょいひょい投げて魔物の注意をそらし、その間をすり抜けていくクリス。
「ひぁあああああああああっ!!?」
「ロアナが襲われた!!」
同じようにやった筈なのに、ロアナは魔物に気付かれ襲撃を受けてしまった。
「ここは全力ダッシュ! そうすりゃ罠にかかる前に駆け抜けられる!!」
宣言通り素早く駆け出すクリス。
そんな彼を追うように矢だの棘だの毒ガスだのが次々と発動するが、いずれの罠もクリスを捉えられない。
「うっきゃぁあああああっ!!!?」
「ロアナが落ちたぁっ!?」
でもロアナは落とし穴に嵌った。
「この難所はローリング中の無敵時間を利用して突破するさー!」
「無敵時間ってなんだ!?」
とうとうよく分からない技を使いだした。
「アイエエエエエエエっ!!!!?」
「ロアナぁ!!!」
「初日はこんなところかなー」
「……そいつは良かった」
息も絶え絶えなロアナの看病をしながら、ヴィルはそう返す。
疲れた。
とにかく疲れた。
冒険とはかくも大変なのか。
自分は冒険者を甘く見過ぎていたかもしれない。
しかしそもそも、この一連の流れはヴィルが知っている冒険と根本的に違っていた。
こんな冒険知らない。
「ま、今日は辛かったかもしれないけどさ、一度覚えちゃえば次は楽にこなせるもんさ」
「そうかな……そうなのかな……?」
ズタボロになったロアナ(命に別状はない)を見ると、そうは思えないが。
「うん、ロアナはちょっと厳しそうだけど、最初としては悪くない手応えだ。
これなら
「夢は夢のままで終わらせて欲しかった」
満足そうに頷くクリスへ、不安しか抱けない。
ひょっとしてまだ続くのか。
この先も、こんな曲芸じみたやり方で迷宮を探索していくというのか。
そんな内心の同様の裏付けるかのようにクリスはからからと笑いだすと、
「それじゃ、ロアナも落ち着いてきたみたいだし、復習と行こうか。
これから
さあ、今日してきたことをしっかり思い返してみるさ!」
「…………そうか」
その言葉にヴィルは一つ頷くと――
「<
――迷宮離脱用の転移魔法を唱えてパーティーを強制脱出させた。