この小説は主人公無双、ハーレム要素を含みません。主人公が敗北する展開も時としてあります
セクシャルなシーンもありますが、それがメインではありません。濡れ場には期待しないで下さい。尚、セックスがメインとなる話には※が付いています
慣れない小説故につまらないと思うかもしれません。作品が貶されることは覚悟していますが、その場合「つまらない」だけではなく「この部分がつまらないから、こうしたほうがいい」と書いて頂けるとありがたいです。作品のコンセプトを崩さない程度のものでしたら、参考とさせていただきます
冷たい。苦しい。その感覚が、徐々に薄れていく。
手も、足も、指先にすら力が入らない。
何が起こったのか、少年には分からない。
強い衝撃を受けたことを感じた時には、水底に沈んでいた
"死にたくない。生きていたい"
望んでも声が出ず、助けも呼べない。このまま死ぬしかないのか。
意識と共に、希望すらも消えていく。
そんな中、少年の耳元で、声が聞こえた。
「生きたい?」
当たり前だ。訳も分からずに死にたい人など、いる訳がない。
そう答えたくても、声が出ない。
誰の声か、なぜ水底で声が聞こえるのか、なんてことに疑問を抱く余裕もないほど、心中で焦る
「そう。って、当たり前よね。何が起きたのか分からないまま死にたい人なんていないわ。」
少年は声に出していないのに、声の主は彼の意思を拾っていた。もはや四肢を動かすどころか、何かを考える力も残らない中、その声は続けた
「いいわ。お望み通り、助けてあげる。けど…」
「何が起きても、文句は言わないでね?例え人間で…」
声が遠退き、水の冷たさも、呼吸が出来ない苦しさも、少年の体から消え、視界がブラックアウトしていく。
全てが消える寸前に、少年の唇が、何か柔らかい物に触れた。
その感覚を最期に、少年から、一切の刺激が途切れた
アキが目を覚ますと、辺りは見慣れない部屋と化していた。
都会から越してきて間もないとはいえ、さすがに自身の部屋を見間違うことはなかった。あまりにも差がありすぎるのだ。
アキの記憶にある自分の部屋といえば、それぞれ質素かつ簡素な机や椅子、ライト、ベッド、クローゼットが、5畳の部屋に収められている部屋だ。
しかし、今アキがいる部屋には、装飾が散りばめられた木目調の大きな机、椅子、クローゼットが、8畳ほどの広さの床を覆う真紅の絨毯の上に鎮座し、それを小振りながらもきらびやかなシャンデリアが照らしている。
目覚めたベッドも、アキの知るそれとは比べるまでもなく広く、とても柔らかいマットに手触りの心地よいシーツが敷かれていた。
まるで、いや、どこかの国の王家の寝室そのものだ、とアキは思った。
なぜ、こんな所にいるのか、アキは記憶を辿る。しかし、身の上は思い出すことはできても、直前のことは穴が空いたように抜け落ちていた。そこで覚えていることといえば、水底へ沈んだことと
「生きたい?」
という、女の声だけだ
辺りを見回している内に、長い脚を組んでベッドに腰を下ろしている一人の女の存在に気付いた。
黒い絹のような長い髪を腰の辺りにまで揺蕩わせ、幼さが残りつつも妖艶な顔が、こちらを見つめている。
平たい胸部は、黒革の細い帯に隠すべき部分だけ覆われており、裸とほとんど変わりない、良く言えば官能的な、悪く言えば珍妙な格好をしている。
が、アキが注目したところは、そこではなかった
「ツノ…?」
アキの視線が、女の頭。正確にはこめかみから離れない。
女の頭に山羊のような、弧を描く太く短めの角が生えていたのなら、それは自然な話である。人間にあるはずのない物が、その女にはついていたのだ。
アキにはその姿が、ある存在と重なった
「あ…悪魔…?」
「あら、失礼な子ね。命の恩人を悪魔呼ばわりだなんて、礼儀を学ばなかったのかしら?」
「すっ、すみません!」
フフッ。と、女は謝るアキに対して笑みを見せる。不快に思った様子もなく、失言に顔を赤くするアキを見て楽しんでいるようだ。
顔の火照りが収まらないまま、アキは再び女を見る。先ほどの発言からして、あの時の声の主は彼女だったのだろう。
一度深呼吸をしてから、女の目を見た。ほのかに赤い瞳が、意味深長な笑みを浮かべている
「あの…あなたが助けてくれたのですか?」
「面白いことを聞くわね。他に水の中でお喋りができた人がいたのかしら。」
当たり前のことを返され、アキは顔を伏せた。ただ、このまま照れている場合ではない。今頃、世話をかけている叔父や従兄弟達が、アキの帰りを待っているだろう。
顔は伏せたままのアキは、飛び降りるようにベッドから腰を上げた
「ありがとうございます。けど…もう行かないと。」
「どこへ?」
「どこって…家ですよ。どれだけ眠っていたかは分かりませんが、一緒に住んでいる叔父や従兄弟が心配しているとおもうんです。」
「…残念だけど、その必要はないわ。」
女の言葉に、伏せたままのアキの顔が上がる。その表情は驚きや猜疑に満ちて歪んでいる。
その反応が面白かったのか、女は瞼は細め、口の端を吊り上げた
「あなたは、あの時に死んだわ。死んで、私と同じ夢魔として生まれ変わったの。」