どれだけ眠っていたのだろうか。
アキが目を覚ますと、月のない夜空を、大きな窓が映していた。
ベッドで寝ていたと思ったが、マットにしては固めの感触が、それは違うと告げていた。
寝床に目をやると、裸のセレネが静かに寝息をたてている。
そうだ、自分は昨日、セレネと夜を共にして、女を教わったのだと思いだした。
アキの体重が気にならないのか、疲れはてた子供のように気持ちよく眠っているセレネ。
その姿が、アキの下で涎と嬌声と、淫靡な言葉で懇願するセレネとの間に、アキの中でギャップが生じていた。
彼女を抱いてからあまり時間が経っていないこともあってか、今まで少しばかり気に入らないと思っていたセレネが愛くるしく思えてきた。
少しいたずらしてやろうと考えたのか、まだ夢の中にいるセレネの胸に、突然アキは口付けを始めた。
「んっ…!」
唇で乳首を啄まれて、セレネの肩が跳ね上がった。
意識は向こう側のようだが、それでも性感帯の刺激にはしっかりと、敏感に反応してくれる。
一体、どこまで攻めたら起きるのだろうか。
疑問と好奇心が同じタイミングで浮かび上がり、それが"では試してみよう"という解答に統合される。
その答えに従って、アキは本格的にセレネの胸を愛でだした。
乳房を指先で揉み、乳首を舌で、唇で、指で、歯で軽く挟む。
その都度セレネは眉間を寄せ、肩を震わせ、声を出して反応してくれる。
アキにはその姿が面白く、そして可愛く見えた
「ぅん…ん…あふっ…ひっ…あんっ…」
(起きない…)
声も感度も高くなってきているのだろうが、相変わらずセレネは目を閉じたままで、意識はこちらに帰ってくる気配がない。
「あなたの愛撫では起きないわ、下手っぴさん。」
と、何故か馬鹿にされているような気がして、アキも少しムキになってくる。
こちらの大腿を挟める程度には、セレネの脚が開いていた。
胸が駄目なら、こちらではどうだろうか。アキの手がそちらへ伸びて、淫裂へ中指だけが入った
「んくっ!…んんんっ!」
ぬるりとした感覚と共に、無数のヒダがアキの指を追い出さんと締め付け、動き出す。
その手触りは、セレネが感じている証拠だったが、一向に彼女の目が開くことはない。
彼女の目が開いたところで、何かしらのご褒美があるわけではない。完全な悪餓鬼の悪戯にすぎない。
それでもアキは何としてもセレネを起こそうと躍起になり、大きく指を動かした。
セレネの弱点は、たしか中指の第1から第2関節辺りで沈めたところにある、腹側の窪み。
そこだけ数の子のようにブツブツしており、セレネが大袈裟に反応する。
または、そこのさらに奥、膣の終点にある壁。
指では後者には届かないため、前者を重点的に攻撃する。
引っ掻くようにそこを指で擦るたびに、セレネの体は芋虫のようによじれ、背筋に余計な力が入る。
肩も上がりっぱなしになり、酸素の切れた魚のように、口をパクパクさせる。
彼女の意識が聡明であれば、そろそろ舌が回らなくなっているところだろう。
だが、どれだけセレネの中を掻き回しても、彼女の目蓋は固く閉じたままだった。
(…まだ起きないのか。)
愛蜜でベトベトになった指を、苛立ったように引き抜く。
蜜は指だけでなく、手掌の上半分まで伝い、濡らしている。
ここまで感じても起きないのなら…と、アキには最終手段が浮かび上がった
(それなら…挿入れてみたら起きるかな?…なんて。さすがに挿入しないけど…その手前までだったら…)
セレネの体から降りたアキが、脚を開かせる。
その間で、無意識に愛密で中を湿らせる秘裂が、その口を物欲しそうにヒクヒクさせていた。
そこに、愛撫を始めてから滾っていた肉棒を当て、狙いを定めるように擦る。
「ふあぁ…!あっ…!はぁっ…!」
熱い蜜が亀頭に絡まり、壁との接触をより濃密にさせる。ただ表面を擦るだけなのに、それでも気を抜けば果ててしまうほどの気持ちよさはあった。
ここで止めるはずだったアキも、ここまでしてしまったら、引き返す気がなぜか起きてこない。
気がつけば、挿入すべき部分を見つけ、そこを前に挿入の準備をしていた。
(…起きなかったセレネさんが悪いんですからね?)
確認するように、またセレネの顔を見る。
頬は朱がかかり、肩で息をしているという変化はあるが、やはり眠ったままだ。
これでも起きないのなら仕方がない。
そう決心したアキは腰に力を入れた。
が、その時だ
「…駄目よ。」
声と共にアキの胸に手をかざして静止させた者が一人。
慌ててセレネをみると、嫌な微笑みを浮かべてこちらを見上げている彼女と目が合ってしまった。
「あ…セレネさん…」
「アキ…あなたも悪い子ね。眠ってる子に、こんなエッチないたずらするなんて…私は好きだけどね、そういうの。でも…」
そこまで言ったセレネの顔が、急に神妙なものに切り替わる。
共にいて、そう時間は経過していないが、こんな顔をするのも珍しいとも感じた。
「駄目よ。あなたはまだ夢魔になったばかり。その体でセックスをすることは、あなたのためにもならないわ。」
その態度に、アキの心の中で後ろめたさが急に膨れ上がり、セレネに対して謝罪させる。
彼女は気にしていないように笑ってくれた。
* * *
部屋を出たあとは、寝室にいても退屈だったので、アキはいつもの町へと繰り出した。
正確には寝室にチェスやオセロなどのボードゲームがあったのでスピカを相手に遊んでいた。
だが、あまりにもスピカが強く、手加減する様子もなく始終圧倒されるか、あからさまに手を抜かれて始終圧倒するかの2通りだったので、町へ出て退屈を紛らわそうとした。
館は夜であったのに対し、港は昼を過ぎたころなのか、人々は忙しそうに動き回り、海でも大小様々な船が行ったり来たりを繰り返している。
少し港を散策していたところで、少し距離の離れた教会の鐘が聞こえてきた。
この辺りは、孤児院も兼ねた教会があったなぁ、そういえば、マグノリアもそこで暮らしていたはずだ。
そんなことを考えているうちに、足は自然と教会の方へ向いていた。
いかんせん、どこを通ったか覚えていない道だ。
幾度と道を間違え、遠回りして、教会の門の前に立った時には、一時間後の鐘が鳴っていた。
道行く人も減って、辺りにはアキ以外に誰もいない。
もっとも、アキ自身人間ではないし、人には見えないのだから、誰もいないと言っても差し支えないのだが。
門を開こうとしたとき、それを待っていたかのように向こうから開いてくれた。
そして、必然的に門を開けてくれた人物と対面する。
癖のついた長い金髪に、白く濁った瞳だが可愛らしい顔の少女。
手には杖が握られていることから、目が不自由なのだろう。
それでも少女は、アキを見るなり満面の笑顔を見せて、アキに駆け寄った。
「アキ君!」
「マグノリア!昨夜は大丈夫だった?」
「平気。アキ君が守ってくれたから。」
抱きついてきたマグノリアの言葉に、アキの顔が少しだけ曇る。
自分はほとんど何もしていなくて、助けたのはセレネだ。その言葉を、なぜか口にできない。
「ねぇアキ君。これから散歩に行きましょう?この時間なら人通りも少ないし、風が気持ちいいの。」
「あ…あぁ、いいよ。あの広場かな?場所、覚えてないけど…」
「大丈夫、案内するわ。」
その言葉のあとすぐに、マグノリアの手がアキの手を握り、先導するように歩きだす。
その手に引かれて、アキもゆっくりと、マグノリアが転んでしまわないように支えながら歩いていった。
* * *
「…でも、不思議。いなくなっちゃうと思ってたアキ君と、またこうして会えるなんて。」
潮風が心地よく通る広場で、ベンチに座るマグノリアが笑って言う。
確かに、アキが儀式を受けなかったら、昨夜が彼女とアキとの最後の出会いになっていただろう。
こうしてまた話ができたのはセレネの、ひいてはアキを認めてくれたリオスのおかげだ。
「そうだね。昨夜、儀式を受けたから。ただ、もう僕は人間じゃないけど…」
「人間じゃない…?」
聞き慣れない言い回しに、んーと呟きながら、空を仰ぐ。
彼女にとって、人間でない存在といえばお化け、神様、それと…悪魔?いや違う…そんなことを考えているのだろう。
少し経って、閃いたような表情をアキに見せた。お
「そうか!アキ君は…天使様なんだね!」
天使という言葉に、アキは思わず顔を伏せた。
目が見えず、そのせいで親しい者に恵まれないマグノリアにとって、アキはそうなのかもしれない。
しかし、今のアキは人間でも天使でもなく、ただの
スピカ曰く、人間の精を糧に生きるだけの、卑しい存在だ。
その視点の差を恥に思い、マグノリアと目が合わせられない。
「あの、ちょっといいかな?」
目を伏せたアキに疑問を抱くマグノリアを呼ぶ声がした。
背は高いものの横幅は何も口にしていない日が今も続いているような、針金のような男だ。
聞き覚えのある声だが、顔を見ることは心と記憶が拒否している。
人間だったアキを皆して辱しめた、従兄弟の一人だったのだ。
男とマグノリアの声が、闇の中でアキの耳に入ってくる。
最初は親しげな様子で話していた男だったが、豹変したような言葉を一つ残して、誰の声も聞こえなくなった。
「…マグノリア?」
心配になったアキが声がしていた方を見るが、そこには誰もいない。
この辺には珍しい、大型のバンが一台、ここから走り去るのが見えただけだ。
暗くなっていたアキの顔が、鬼のような形相になる。
あの車は、家にあった車だ。
従兄弟達に拐われたことを、一瞬で断定する。
アキは無意識に走りだした。
車には追い付けないだろうことは、もちろん分かっていた。
それでも、アキには諦めるという考えは少しもなかった。