人の通りが全く無い道に出た。道と言うよりは、袋小路と称した方が正しいだろう。大通りから少し外れただけで、このような場所が散見するのは、さすがは田舎街といったところか。
「ねぇ、アキ君。まだ着かないの?もう…あたし疲れちゃったわ。」
やや息を弾ませながら、マグノリアが聞いてきた。それに対する返答はない。
普通であれば、こんな人気のない場所まで来れば気が付く筈なのだが、彼女が盲目であったことが幸いした。これだけ歩かされて、未だに教会へ送ってくれると信じているからだ。
不意にアキの足が止まり、握っていた手が離れた。
「あぁ…ちょっと気が変わったんだ。もうちょっとだけ、デートしようよ。」
「デート?気持ちは嬉しいんだけど…もうすぐ門限の時間だから、帰らないと。」
この言葉を聞いた時、アキが落胆したかのように肩を落としてため息を付くのが見えた。そして、そのままこちらを振り向く。
公園を出た時とは打って変わって、とても不機嫌そうな顔であった。今の返答に不満があるのは明らかだ。
様子がおかしい。彼の違和感にようやく気付いたマグノリアの頬を、冷や汗が伝う。
「何が門限だよ…せっかく久しぶりに会ったのに、冷た過ぎじゃない?もっと二人の時間を大切にしようよ。」
「ど、どうしたのアキ君…何だか変よ?」
「変?どこが?僕のどこがおかしいの?」
詰め寄るアキの質問に対して、マグノリアから答えが出てこない。いつもと様子が違うのは明らかなのだが、パニックに陥り言葉が出てこないのだ。
苛立ちに耐えられなくなったアキが、マグノリアを突き飛ばした。短い悲鳴を上げ、背後の壁面と背中がぶつかる。
何かとぶつかった。そう感じた直後、アキの顔がすぐ側まで接近する。顔のすぐ横には、アキの右腕が。逃げようにも、すぐにその手で捕まえられてしまうだろう。
アキの息遣いが聞こえてきた。興奮気味の呼吸が、マグノリアの耳に度々触れてくる。その度に、恐怖心がこみ上げてきた。
「門限なんて、どうでもいいじゃないか…もっと楽しもうよ。お喋りなんかよりずっと楽しい事、一緒にしようよ。」
「待って、待ってアキ君!」
マグノリアの静止も軽く流し、ショーツ越しにアキの指先が秘部に触れた。肉厚でふにふにとした肉丘の感触が、薄い布を介して伝わって来る。
「ひっ!…ちょっと、止めて!止めてよ!」
羞恥心ではなく恐怖心のみで構成された声が四方に響き、反響する。好いている人とはいえ、誰にも触られていない部分を突然他人に触られたのだ。無理からぬ心境だ。
アキの手がそこから離れた。その手をマグノリアの顎に当て、目が合うように軽く持ち上げる。
「アハハ…ごめんごめん。マグノリアはこんなこと初めてだったんだね。ちょっと刺激が強すぎたかな?」
「…ねぇ…アキ君…本当に止めて…?怖いよ…どうしちゃったの?このままだと…アキ君のこと…嫌いになっちゃう…!」
「嫌いになる?たった一人の天使様を?」
「っ!」
確かに、それはマグノリアが言ったことだ。本人も正論を聞かされたのか、動揺した。
直後、マグノリアの態度が急に変わった。今まで目を反らしていたが、視線をアキに合わせてきた。邪悪に笑うアキの眼をしっかりと見据え
「…今の…今のアキ君は…天使様なんかじゃない!あ、あぁっ、あ…悪魔!最低の悪魔よ!!」
涙目になりながらも、ガクガクと脚を震わせながらも、キッとアキを睨み、叫ぶ。
きっと心が潰れてしまいそうなほど怯えているに違いない。それを叫び声で抑えているのだろう。精一杯の強がりでアキを拒否する。
虚勢であるのは誰が見ても明らかだ。現にアキは怒鳴られたことに対して怒りを覚えた訳もなく、嫌らしい表情を崩さない。
「…初めての事だから、パニックになってるんだね。大丈夫。僕に任せて。僕に身を委ねて…」
強がるマグノリアをアキは愛おし気に見つめ、口付けをしようとさらに顔を近付ける。
しかし、キスには至らなかった。マグノリアがアキの頬を思いきり引っ叩いたからだ。予想だにもしない反撃にあ然とした様子で頬を抑える
「近付かないで!あなたなんてアキ君じゃない!あなたは誰なの!?アキ君を返してよ!!この化け物!!」
アキに気圧されないよう、できるだけ声を張り上げる。恨めしそうにアキの眼がこちらを睨むが、マグノリアも負けじと潤んだ眼で睨み返す。
意外にも、こちらに向けられていた憎悪は、すぐに失せた。その代わりに、我慢出来なかった物がついに溢れたかのように、アキは笑い出す。
笑い声を挙げながら、アキはマグノリアが身に付けているワンピースを乱雑に掴むと、左右に開くように引き千切った。ビリビリと糸が切れる音と共に、幼子の裸体が露わになる。膨らみの見えない薄い胸の先に、まだ未熟な乳首が桜色に染まっており、白い肌も相まってハッキリと強調されている。
「ふふっ…可愛いおっぱいだなぁ…スピカさんみたいな大きいのもいいけど、こっちも悪くないね。」
上半身だけとはいえ、身ぐるみを剥がされたマグノリアは慌てて両手で以て肝心の場所を隠そうとするが、すかさずアキの手に邪魔される。
「離して!離してよ!」
「まだそんなに強気なんだ。いいね、あのすぐ堕ちたメイドよりも、遊び甲斐かある。」
まだ何か言おうとしたが、その前にアキは唇でマグノリアの口を塞いだ。両手は抑えてあるので、今度は呆気なく唇を奪えた。
舌を絡めようとするが、マグノリアが歯を食い縛っているので、それ以上奥へ進めることができない。それならと、アキの手が拳を作り、軽く彼女の腹を突く。
マグノリアが眼を見開き、咳き込むような声が重なる唇から漏れた。その隙に舌が捩じ込まれる。アキにしてみれば軽く小突いただけかもしれないが、マグノリアには鈍器で直接内臓を潰されたような痛みだ。舌を
マグノリアの心が早々に折れかけたところで、接吻が突然中断された。引き剥がされるように、アキの顔が離れる。
殴られた痛みと無理矢理キスをされたショックで呆然とするマグノリアの前では、アキが自身の掌を虚ろな目で眺めていた。あれだけ執着していた事が嘘のように、もうこちらには関心がない様子だ。
マグノリアを解放して、アキは振り向く。そこにいたのは
「…ハァ…また、邪魔されるのか。」
たちまち悪鬼羅刹と呼ぶに相応しい表情に変わる。昨夜も何者かに楽しみを台無しにされたのだ。アキの怒りは相当なものだろう。
再び背中に手を回し、触れてみる。ネトリとした生暖かいものが止め処なく流れているのが分かった。言うまでもなく、アキの血だ。
「なんでみんな僕の邪魔ばかりするのかなぁ…どいつもこいつも…鬱陶しいんだよ!」
怒りに任せ、最も近い怪物に迫った。相手も爪で応戦しようと行動が、非常に緩慢な動きだ。腕を振り上げている内に、すぐ目の前まで距離を詰められる。
アキの両手が、それぞれ怪物の首と頭を掴んだ。その直後
「死ねよ!!」
という怒号と共に怪物の首が引っこ抜かれる。さながら雑草を抜いた時のような手応えが右腕に伝わった。
あと3匹ほどか。改めて数を確認した後、握っていた頭をそのまま潰す。腐ったリンゴのように頭はつぶれ、果汁のような液体が滴る。
「ハァ…流石に数が多いなぁ。武器も使えないし、それなら…」
絶命したと思われる怪物の身体を少し持ち上げる。首とは違い、こちらは流石のアキでも少々堪える重量だ。しかし、目当ては怪物の身体ではない。
おもむろに腕を持ち、そのまま引っ張る。これは微量の力で容易く千切れた。小枝を太くしたような腕を、不快感を見せることなくアキは己の手首に押さえ付け始めた。一見すれば、何をしているのか理解し難い行動だ。とはいえ彼自身、考え無しにそのような事をしている訳でもなさそうだ。
少しして、怪物の腕から手を離す。その腕は地面に落ちることもなく、アキの手首と癒着したかのように離れない。
「アハハ。見て、マグノリア。腕が増えちゃった。」
見方によっては珍妙な、あるいは猟奇的な状態の腕を見せて、無邪気に笑う。残った腕も同じように、先ほど引っ付けた腕の先に付着させた。
今、アキの手首には怪物の腕が二本分垂れ下がっている状態。即席の鞭といった所だろうか。
「さて、それじゃあ始めるか。」
一言呟くや否や、鞭を振りかざして、まだ活動を続けている怪物目掛けて思いきり振り下ろした。