先輩への異常な執着/またはぼくはいかにして心の痛みを忘れて性愛を求めるようになったか――というより、3ヶ月、2週と1日でぼくにはなにをなしえたのか 作:果肉ぬき
おもちゃのネジが緩くなっていくようにだらだらと過ぎていく毎日の虚脱感に耐えられなくなったぼくは、一人の寂しさを埋めるように生まれて初めて道行く異性に声を掛けた。
「もう……っ……そろそろ、で、お、おわり……んんっ……だねっ……」
カーテンの隙間から漏れてくる淡いネイビーブルーは、夜明けが近いことを知らせてきた。それは、再会の許された一晩があまりにも短いことを教えてくれた。
「――っ、んっ、んっ、んっ……はぁ……ゃ……はぁ……んぁっ……」
「先輩っ、先輩っ」
今晩だけ泊めてくれませんかというぼくの問いかけに淡々とした声で応じてくれたことよりも、この声の主が高校の生徒会で一緒だった憧れの雛里先輩だったことに驚いた。
人波の喧騒と夜中のネオンが届かなくなるくらい駅から離れた狭い路地で再会した先輩は、ぼくと同じくスーツを着ていた。
「ゃ、やよいって呼んでって……はぁ、はぁ……言ったでしょ」
「じゃ、じゃあ……ぼくのことも、健一って、下の名前で呼んでください」
「風見くんは……風見くんだよ」
シャワーを浴びたばかりの先輩から漂ってくる柑橘系のトイレタリーの匂いが心地よくてまるで酩酊しそうになる感覚を振り払う。仰向けだった先輩を起こしてベッドの端に腰かけたぼくと対面になるように乗せ、強く抱きしめた状態で必死に先輩を突き上げた。
「んっんっ、んっ……はぁ……いい、よっ……んっ、このテンポ、いいっ……っ……」
衣一つ纏っていないぼくとは違って、先輩の身体はベージュホワイトのミニワンピースに守られたままだった。薄いコットン素材に包まれたその身体は、永久に沈んでいたくなるくらいやわらかなさわり心地だった。脱がしたくないと思った。
「上も、下も……きゅんって、なってるよっ」
ぼくの動きに合わせて先輩は跳ねる。その先輩の動きに合わせて先輩の声も跳ねる。
いつまでも聞いていられそうな穏やかな先輩の声音と不安定に揺れる語調のアンバランスな組み合わせに、ぼくは膨張しきっていたはずのペニスがさらに硬度を増していくのを感じた。
「あったまる……はぁ、はぁ……風見くんの……んっ、んっ……」
薄手な生地の下から弱々しく主張する先輩の胸も、ブラジャーを着けていないせいではっきりと存在を確認できるその先端の突起も、レース地の裾から可憐に伸びる生足も、そのどれもが愛おしかった。ぺたんこ座りしている先輩の太ももがぼくのそれに密着していて、脳髄も体も溶けていきそうだった。
「んくっ……ぢゅる……はぁ、はぁ……んんっ……ん、ぁ……はぁ、はぁ……」
抽送を反復させる速度を緩め、先輩とお互いの口内を犯しあった。人工的ないちごの味がした。
「んっ、んっ、んっ……はぁ……ひゃんっ、ぁ……」
理性が馬鹿みたいに音を立てて崩れていくのがわかる。
ぼくは、先輩もそうであってほしいと思ったけれど、行為に及ぶ前から一貫して先輩の目は死んでいた。その事実がぼくに動物になることをかろうじて踏みとどまらせている。先輩の火照る言葉も、揺れる吐息も、わざとらしさはないのにどこか起伏を感じさせない冷静さがつきまとっていた。
「最後まで……ひぁ、んっ、は、離れないでねっ……」
だから余計に泣きたくなってくる、先輩の言葉に。それでもぼくは、先輩の黒く艶のあるウェットショートを撫で、再び唇を重ねながら先輩を突き続けた。
「もう……だっ、だめかもっ……イっちゃいそう……んっんっんっんっ」
先輩の両脚がぼくの腰に絡まる。ぼくも唇を離さないまま強く先輩を抱きしめる。
「ぃ、イくねっ、んっんっ、なかで、出して……ぁ……イっちゃうよっ、ん、ぁ、ぁ、ぁ、んっ、んんっっっ!」
白く明滅する視界が絶頂の刺激を彩った。
先輩の身体から力が抜け、キスをしたまましなだれてきた。ぼくは微かに続いている射精の感覚に意識を持っていかれそうになりながら、先輩の重さを吸い込むように仰向けになった。そのまましばらく先輩の瑞々しい唇の感触に溺れた。
いよいよ本格的に空が白んできた頃には、先輩はわずかに口を開けたまま寝ていた。有休を取ってるからという先輩の言葉を思い出し、ぼくはそっと布団をかけた。
軽くシャワーを浴び、会社に行く身支度を整える。先輩への書き置きはどうしようかと逡巡していると、玄関のドアが勢いよく開く音がした。
「ただいまー……って、あれ、お姉ちゃん誰か上げたの?」
直方体の1DKでは、隠れる場所などなかった。先輩の妹さんと思われる女性は、金髪のボブヘアをかきながらキッチンとユニットバスに面する廊下を歩いてきた。
「帰ってください。二度は言いません」
ぼくは目を合わせることもできず、すみませんと言ってそそくさと外へ出た。玄関のドアを閉じるときも、後ろを振り返ることすらできなかった。