先輩への異常な執着/またはぼくはいかにして心の痛みを忘れて性愛を求めるようになったか――というより、3ヶ月、2週と1日でぼくにはなにをなしえたのか 作:果肉ぬき
高校時代の憧れの先輩「雛里やよい」と偶然の再会を果たし肉体関係を結ぶも、「わたし、もうあといくらも生きていられないの」というやよいの言葉をどう受け止めるべきか思い悩む会社員「風見健一」。それどころか、自分にできることを模索していくなかでやよいの妹「えな」と情事を重ねてしまう。9月27日にいなくなるとされているやよいにどんな顔で会えばいいかわからず自暴自棄になった健一は、1ヶ月半の間ふたりと連絡を取らなかったが、押しかけてきたえなからの告白に応じ、再びえなとのセックス三昧の日々に溺れていった。
えなとの蜜月の日々はどこまでも続いていきそうで、つねに多幸感に満ちていた。
だから、「それ」が訪れたときは、寝起きに体中の穴という穴に溶岩を注ぎ込まれるような耐えがたい衝撃とともに、その衝撃を受けるべきはぼく以外の誰でもないだろうという運命的で自明な帰結の揺るぎなさを感じてもいた。
「それ」は、あまりにも偶然に、しかし必ず見つけてもらうことを確信していたかのように訪れた。
「健一さん……どうかしたんですか?」
ふだんはえなと先輩が一緒に使っているという雛里家のベッドの感触は、すでにぼくにとってもすっかり馴染み深いものとなっていた。
「健一さん……?」
返事もできずにただ一点を見つめているぼくの様子を怪訝に思ったえなの声が再び後ろから聞こえてきた。
そう認識していても、ぼくの口からはなんの音も出てこなかった。
「お姉ちゃんのことですか? お姉ちゃんなら、まだ帰ってきませんよ」
違う、そういうことじゃない。
「それとも、おなかでも痛いんですか?」
それも違う。痛いのはおなかではなく、どこにあるかもわからない心だ。
「水、もってきましょうか……?」
それは必要かもしれない。この1時間でえなの愛液と尿をたらふく飲んですでにぼくの身体は水分を欲してはいなかった。けれど、どこにあるかもわからない心のほうはそれを欲しているような気がした。
「健一さ~ん、なにも言ってくれなかったらわからないですよ」
そうなのだ。すべては言葉によってなりたっていると言っても過言ではない。
言葉からすべてが生まれるわけではないのだろう。
けれど、生まれてきたすべてのものは言葉を通じてぼくらの血肉となっているのかもしれない。
たとえば、えなの甘い体臭にペニスが反応する過程に言葉は必要ないだろう。だけど、えなの甘い体臭にペニスが反応したと理解するためには言葉が必要なはずだ。
なにを考えているのか自分でもわからなかったけれど、なにかは言っておくべきだと思った。
「えな……あのアルバム、見せてもらってもいい……?」
ぼくはえなのほうには顔を向けずに、そう聞いた。
「どれですか……?」
えなはぼくの肩に手をおきながら、ぼくの視線の先にあるものを探す。
「あの、背に『生徒会』って書かれたラベルが貼ってある、水色のクリアファイル」
「それは――」
えなが返事をするよりも早く、ぼくはベッドから降りて、水色のクリアファイルが無造作におさめられているひと箱の段ボールがあるほうへ向かった。