※この作品はR-18です。

先輩への異常な執着/またはぼくはいかにして心の痛みを忘れて性愛を求めるようになったか――というより、3ヶ月、2週と1日でぼくにはなにをなしえたのか   作:果肉ぬき

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▼前回までの「先輩への異常な執着」
高校時代の憧れの先輩「雛里やよい」と偶然の再会を果たした会社員「風見健一」は、やよいと肉体関係を結ぶも、やよいが約3ヶ月後の9月27日にこの世からいなくなるかもしれないという話を知って戸惑ってしまう。
自分にできることはないかと思い悩んだり、自暴自棄になったりしていくなかで、ずっと健一のことを好きだったやよいの妹「えな」とのセックスに耽溺していき、やよいのことから自然と逃げていた健一だったが、あるとき雛里家でやよいの生徒会のアルバム見つけ、自分が本当に大事にしたかったものを思い出す。
そして、アルバムに残されていたメモに従い高校の中庭に10年ぶりに戻ってきた健一はやよいと3ヶ月ぶりに会う。だが、自分の想いを健一に告げたやよいは、再び健一の前から姿を消してしまった……。


17:虚脱

 先輩が突然現れ、そして消えてしまった中庭にひとり取り残されたあの晩、ひょっとしたらまだ近くにいるんじゃないかと思ってぼくは中庭の周辺から先輩を探し出した。

 職員室の先生たちにバレないよう気をつけて校内を探しまわった。一度フェンスを登って外に出て、学校の周りを1周しては再び中庭に戻ってもう一度同じルートを駆けまわった。けれど先輩はどこにもいなかった。

 少し待っていれば「ごめんごめん、トイレに行ってた」なんて言って戻ってきてくれるんじゃないかと思って、花壇の土を元どおりに戻したり、先輩のメッセージが書かれたノートの切れ端を眺めたりして時間をつぶした。でも、先輩が戻ってくる気配は一向にしなかった。

 職員室にはまだ明かりがついていたし、警備員もいつどこから現れるのか予測できなかったけれど、先輩にもう一度会うこと以上に大切なことなんてない気がして、ぼくは危険を顧みず校舎内にも入ってみた。

 薄暗くて気味が悪かったけれど、あのころと変わらない校舎の匂いは先輩を探せとぼくを奮い立たせてくれた。職員室の横を通り過ぎないようにしながら校舎内を隅々まで歩いた。けれどやっぱり先輩はどこにもいなかった。

 生徒会室に着いたときにはまた涙が垂れてきた。でも、それを拭うのも億劫で、ノートの切れ端を入れた木箱とアルバムを抱えながらぼくはドアに顔を近づけて耳をすませた。なんの音もしなかった。

 ここで帰ってしまったら二度と会えない気がして、ぼくは三度中庭の花壇に腰を下ろした。もういっそのこと、警備員か先生に見つかるまではここにいようと思った。途中、どうしても我慢できず、えなさんに先輩が帰ってきていないかメールを送ったけれど、返事は来なかった。

 運がよかったのか、見つからずに居座り続けることができた。当然、涙なんてもう乾いていて、頬はかさついていた。空からネイビーブルーが完全に消えるころになって、ここにいるのはさすがに限界だと感じて敷地の外に出た。

 それから、学校の目の前にあるマンションの入口の階段に腰を下ろして、じっと学校のほう眺めていた。階段を歩くマンションの住人にはもれなく怪訝そうに眉をひそめられたけど、警告を受けたり喧嘩を売られたりしない限りは座り続けようと思った。夜中2時ごろには、窓を閉め忘れているのか、15分くらい強烈なあえぎ声が聞こえてきた。

 朝8時ごろになって、通学する学生の数が増えてきたところで自分が変質者で捕まりニュースになっている映像を想像して、駅へ戻ることに決めた。でも、本当に嫌だったのは自分が捕まるかもしれないことじゃなくて、女子高生たちの格好がぼくに先輩の制服姿を絶えず思い出させたことだった。

 バスに乗っていては先輩を見落としてしまう気がして、歩いて駅へ向かった。

 もう呼吸をするのもつらかった。

 なんで明日も仕事があるのか理解できなかった。

 だから、駅について9時になる直前になって会社に電話をかけ、きょうは体調不調で休むと伝えた。

 幸い金曜だったから、きょうさえ休めば土日もこの街に居続けられると思った。

 ここで帰ったらすべてが終わってしまうと思った。

 なんの根拠もなかったけれど、しょうがないよねと簡単に割り切れるような問題ではなかったから、ぼくはファミレスで仮眠を取りながら窓外をぼーっと眺め続けた。道行く人を眺め続けた。

 また、先輩におかえりなさいと言ってほしかった。

 馬鹿面のぼくが見える窓の外側からでもいい、窓のほうを向きっぱなしのぼくの背後からでもいい、結局連絡先を交換できていない携帯電話のメールでも、えなさんからの伝言のメールでもいい……。どこからでもいいから、どんな経路でもいいから、また先輩に言ってほしかった。

 夕暮れどきになっても、えなさんからの返事も来なければ、先輩の姿も見えなかった。徒労感だけが膨らんでいった。

 ファミレスからハンバーガーショップへ、ハンバーガーショップからカフェへ、カフェからファミレスへ……。夜中はどこも開いていなかったからバス停のベンチに横たわった。

 日曜の夜になってもなにも状況は変わらなかった。さすがに限界だった。

 ぼくはその街を離れることにした。

 電車に乗るまでに3本乗り損ねた。なかなかその街から離れることができなかった。

 それから、先輩たちの家へ向かった。日付は9月17日。先輩がいなくなるとされている日まで、あと10日しかなかった。

 先輩たちの家にへとへとになって辿り着き、インターホンを鳴らすも、先輩はおろかえなさんも出てくれなかった。えなさんに初めて電話をかけてみた。えなさんは出てくれなかった。ドアに耳を当てても、着信音は聞こえてこなかった。夜勤かもしれないと思った。

 さすがに月曜まで休むのは難しかったら、ぼくは家に帰り、お風呂に入り、3日ぶりにぐっすりと眠った。夢はいっさい見なかった。

 仕事なんて手につくはずがないと思ったけれど、不思議といつもと変わらないパフォーマンスを出せた。どちらかというと仕事のできないぼくはいつもどおりではだめなのだけど、無断欠勤しないだけましと思ってほしいなんてふてびてしいことを考えながら淡々とこなした。

 ぼくはあの駅から、いや、あの高校から離れた時点でもう先輩のことを心のどこかで諦めていたのかもしれなかった。

 会社を出てすぐに先輩たちの家に向かった。幸いにもえなさんが玄関先で話をしてくれた。

 ぼくは木曜の夜に急に飛び出していったことをあらためて謝ることもせずに、先輩のことをえなさんに訊ねた。えなさんは初めて会ったときのように不機嫌だったけれど、しっかりと答えてくれた。けれど、納得の行く答えではなかった。

 先輩はずっと帰ってきていないとのことだった。これまでも、別に先輩は毎日必ず帰ってくるわけではないと言っていた。そういえば、いつぞやにえなさんが先輩は神出鬼没だと言っていたなとぼんやり思い出した。

 姉妹なのに行き先もわからないのかとぼくは慎ましさも忘れ、遠慮もせずに問いただした。そんなもんなのだと答えたえなさんは、なにかわかればメールで連絡すると言って目も合わせずにドアを閉めた。

 そんなもんなのかと納得できるわけもなく、ぼくはなりふりかまわず毎晩通った。えなさんはもうドアから出てこなかった。メールも来なかった。

 ぼくは家に帰らずに会社の近くにある居酒屋で夜を明かすこともあった。

 夜だけじゃなくて、朝、出勤前にも先輩たちの家へ向かった。えなさんと遭遇することはあっても、先輩とはやっぱり会えなかった。

 

 そうしてカレンダーは、きょうが9月26日だと告げていた。

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