先輩への異常な執着/またはぼくはいかにして心の痛みを忘れて性愛を求めるようになったか――というより、3ヶ月、2週と1日でぼくにはなにをなしえたのか 作:果肉ぬき
高校時代の憧れの先輩「雛里やよい」と偶然の再会を果たし二度の快楽を貪った会社員「風見健一」。「わたし、もうあといくらも生きていられないの」と突然告白された健一はそれから数日、自分にはなにができるのか、自分はなにがしたいのかという悶々とした気持ちを抱えたまま過ごし、週末に三度やよいの下へと向かうのだった。しかし、そこで健一を出迎えたのはやよいではなく妹の「雛里えな」だった。
静かな土曜の午後の1DKに、えなさんの放尿の音が響いた。
窓は締め切られテレビもコンポもパソコンも電源が落とされているこの空間では、耳をすまさずともその音の波は届く。
窓外から射し込まれる陽光の純粋さが排泄音をよりいっそう卑しいものとして引き立てているようで、ぼくは思わず開いていた遮光カーテンを閉めた。
でも遅かった。股間の疼きが無視できないくらいに大きくなってきた。
ぼくは罪悪感を振り払いたくなって先輩が放尿しているところをイメージしてみた。なぜそんなことで罪を浄化できることになるのか自分でもわからなかったし、先輩の薄桃色の尿道口からしおらしく漏れ出てきた尿を顔で浴びているところまで想像したあたりで、いよいよ海綿体が臨戦態勢に入ってきてしまったけれど、えなさんの尿の音に欲情を抱くことに比べたらましだった――とか考えている時点ですでにアウトな気がしたけれど、ぼくは可能な限り先輩に操を立てたかった。
とはいえ、今度はえなさんが戻ってくるまでにこのバカな棒きれをおさめなければいけない。
自分の右手の甲にハスの実が等間隔に埋め込まれていて、その実の皮を破るようにしてそれぞれの実から何匹ものうじ虫が次々に飛び出してきてはぱんっと弾けるように自爆するところを想像してみる――顔中に立った鳥肌がなかなかおさまらなかった。えなさんが用意してくれた水でも飲んで落ち着きを取り戻そう。
「お待たせしました」
トイレから戻ってきたえなさんをあらためて眺めて、せっかく大人しくなっていたペニスが再び起き上がりたいと訴えてきた。
ワンショルダーのロングTシャツの効用を惜しげもなく味方につけて披露された鎖骨や、緻密にデザインされた創造物のようにすらっと伸びた生脚には吸い込まれてしまいそうだし、丈が長いだけでなく全体的にルーズなシルエットであるがために何を穿いているのかわからない腰まわりは、それゆえになにも穿いていないようにも見えて思わず鼻息も荒くなっていた。
いや、それはこの清澄な柑橘系の芳香に反応してしまっているせいかもしれない。鼻の奥から口や脳に浸透していっている感覚が、ぼくから冷静さを奪っていた。
「ベルガモットですよ」
こっちの劣情を見透かされているようで、ぼくは余計に混乱した。
「あ、いや、な、なんのことでしょうか?」
「風見健一さん、ですよね」
「は、はい……どうしてぼくの名前を――」
「姉から聞きました。さて、さっそくその姉の話なのですが、風見さんは姉にとってどのような存在なのでしょうか。もしくは、風見さんにとって姉はどのような存在なのでしょうか」
ぼくはなにも答えられなかった。客観的に事実を述べるだけならばいくらでもできただろう。けれど、ここでえなさんが聞きたいことはそんなことじゃない気がした。
「やっぱり、答えられないのでしょうか」
えなさんの勘の鋭さにはどんなブラフも通じそうになかった。
「まあよいでしょう。試せばわかること……」
独り言のようにぼそっと言うと、えなさんは突然こちらに四つん這いで近づいてきた。だらりとしたネックラインの奥には、先輩と同じく発達過程かと疑いたくなるくらい小ぶりな、なににも包まれていない乳房が下を向いていて、その先端にはピンクの突起がつんと立っていた。えなさんの作り物のような白い肌にはよく映えた。
生唾を飲み込む。ぼくは気を紛らわせるためにもう一度右手の甲に――。
「……んん――はぁ……はむっ……ん、ん、んん……舌、入れますね……んっ……ぢゅる……つ……んん……」
えなさんの唇は先輩のそれよりもぷっくりとしていてジューシーだった。
「私のオナニー、手伝ってください……」
えなさんはぼくの右手をとり、Tシャツの裾からそれを招き入れた。そのまま左の乳房に導かれたぼくの右手は知らぬうちにそこをこねていた。
「んっ……はぁ、はぁ……んん……」
子ども用のお椀よりも体積が小さいくらいなのにビーズクッションのようにやわい乳房に、ぼくの手も心もどんどん溺れていった。
えなさんに手首をつかまれているぼくの右手は、強制的に動かされているわけでもないのに一向に止まってくれなかった。
「おま×こも……」
残る左手もえなさんにエスコートされ、Tシャツに隠れていた淫部に宛がわれた。そこはいかなる布にも守られていないどころか、目の細かいサンドペーパーで丹念に均されたプラスチックのように滑らかな手触りで、食べたいと思ってしまった。
「はぁ……はぁ……動かして、いいんですよ……ん……右手みたいに……ん……ん、んんっっ――」
考えるよりも早くぼくはキスしたまま覆いかぶさるようにえなさんをカーペットに寝かせていた。
「ん……ゃ……ぃぃ……です……んっ、んっ……その調子で、続けてください……」
ズボンのなかで痛いくらい最高潮にボルテージが上がっているペニスから漏れるカウパーがパンツを汚していた。
「ぁあ……んっ、んっ……おま×こ、おま×こぃぃ……じゅんってしてます……乳首もこりこりされて……ひゃんっ――っ、ぁ……ゃんっ……もっともっといじめてください……」
気丈な言葉遣いの残光に紛れて繰り出される嬌声と悩ましげな吐息に耳まで犯された。
「んっ、んっ……はぁ、はぁ……じゅくじゅくも……こりこりも……どっちも、気持ちいいです……」
死んだ目をした先輩から発せられる落ち着いた喘ぎがどこかで聞こえた気がした。自分の不埒な行いに泣きたくなってきたけれど、脳はすでに蕩けていて思うようには働かなかった。
えなさんのピンクの突起を転がすぼくの右の指も、膣壁をなぞるように躍動しているぼくの左の指も、えなさんの手に援助されてその勢いを強めていった。
「もっと……もっとほしいです……んんっ、ん、ぁ、ん、ゃっ……」
えなさんを責めているのはえなさん自身なのかぼくなのか。この行為はオナニーなのかぼくによる愛撫なのか。それらをきっぱりと分けて対立軸を設けるなんてできない、その宙づりの浮遊感がベルガモットの香りに染まったぼくらの愉楽をさらなる高みへ連れていった。
「んっ、だめっ……私もう、イっちゃいそうです……っ……はぁ……ひゃんっ」
ぼくはふやけきた左の指がそのまま溶けてえなさんと混ざりあうイメージを思い描きながら、突き出されているえなさんの舌に舌で応えた。
「ぁ、ぁ、ぁ、ぁ……んっ、ぃ、イ、イクっ…………はぁ、ゃんっ、んっ、んっ、んっ、んっ――んぐぅぅっ!」
背中を仰け反らせて細かく痙攣したえなさんの唇を再び奪い、しばらくえなさんの味を享受することに没入した。