※この作品はR-18です。

社畜冒険者の異世界変態記   作:ぐうたら怪人Z

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第四話 ある社畜冒険者の新人教育 初日
① ギルド長からお説教


 

 

 

「失礼します」

 

 私は扉をノックし、少し緊張した面持でその部屋に入っていった。

 部屋の中には立派な机が一つ、大きな本棚が壁に敷き詰められている。

 そして、その机に座る部屋の主へと一礼する。

 

「うむ、よく来てくれたの」

 

 その主―――かなり年配のご老人が、私に話しかけてきた。

 彼は、ジェラルド・ヘノヴェスさん。

 冒険者ギルドのギルド長で、要するにとても偉いお方である。

 ここまで言えば分かると思うが、私が今いるこの部屋はギルド長の執務室だ。

 

「まあ、まずは座れ。

 突っ立ったままでする話でも無い」

 

「分かりました」

 

 言われたように、ジェラルドさんの正面に置かれた椅子に座る。

 

「さて、何故今日呼ばれたか、分かっとるか?」

 

「いえ、申し訳ありませんが、存じておりません」

 

 ギルド長から直々にお呼びがかかったからこそ私はここに居るわけなのだが。

 何故呼ばれたのかまるで見当が付かない。

 心当たりがまるで無い……すみません、嘘をつきました、心当たり多すぎるのです。

 一番、あり得そうなのは――

 

「――やはり、女性関連ですか?」

 

「違う。いや、それに関しても言いたいことは山ほどあるのじゃが、今回は違う。

 というか、今までも山ほど言ってきたじゃろ、その話。

 だというのにお主、全然改善せんし。

 本当、お主の女性への節操無さ、どうしたらなんとかなるの?」

 

 違うと言っておきながら、突っかかってくるご老人である。

 余程、私の女性遍歴――つまりはセクハラ行為に言いたいことがあるらしい。

 

「それ程、問題ですか」

 

「問題じゃよ?

 女性側から一件でも苦情が来たら即お縄じゃよ?

 奇跡的にもまだ女性から文句が出てないから、放置しとるけど」

 

「細心の注意を払っておりますので」

 

「納得いかんのぉ……世の中はどうなっとるんかのぉ……」

 

 遠い目をするジェラルドさん。

 これでも手を出す女性には気を付けているのだ。

 誰でも彼でも節操なくヤッてるわけでは無いのです。

 ――――――本当だよ?

 

「……うむ、そのことについてはいいんじゃ。

 最初に言った通り、今日は別件よ」

 

「はい」

 

 返事を返す。

 

「最近な、階層食い(フロアイーター)の出現跡が報告されたんじゃ」

 

「それはまた、剣呑な」

 

 階層食いとは、<次元迷宮>に蔓延る魔物の中では――ギルドが現在把握できている魔物の中では、上位に位置づけられる危険モンスターだ。

 巨大な体躯の蛇といった外見をしており、その体に見合った戦闘力も備えている。

 歴戦のパーティーでも後れを取ることがある程だ。

 しかし、この魔物が厄介な点はそこでは無い。

 階層食いは、その名の通り、<次元迷宮>の階層そのものを破壊してしまうのだ。

 その階層に居る冒険者が全滅の危機に瀕するのは勿論の事、階層同士の繋がりも乱れてしまう。

 要するに、今まで苦労して蓄積してきた<次元迷宮>の地図が、一部とはいえ役に立たなくなるわけだ。

 全冒険者にとっての仇敵と言える。

 

「報告には続きがあっての、どうもその階層食い、既に倒された後だったようなんじゃよ」

 

「それは良かった。

 討伐してくれた冒険者達に感謝ですね」

 

「うむ、そうじゃの。

 ところで、その階層食いが出た場所なんじゃが――」

 

 ここでギルド長、意味ありげに言葉を切って、

 

「――なんでも、白色区域だそうなんじゃよ」

 

 私をジロリと睨みながら、続けた。

 

 階層食いの厄介な点、その二。

 この魔物は、区域に関係なく出没する。

 非常に低い確率ではあるのだが、本来危険な魔物が出現しないはずの白色区域にも階層食いは現れるのだ。

 

「……………運が良かったですね。

 白色区域(そんなところ)に実力のある冒険者パーティーがいたとは」

 

「本当にのぅ、偶然って凄いのぅ」

 

 私の言葉にジェラルドさんはうんうんと頷く。

 

「話変わるがクロダ君。

 お主、ミスリルクロークを手に入れたそうじゃな」

 

「ああ、はい。

 前々から欲しかったので、少し奮発して購入しました」

 

「いやいや、大したもんじゃ、そう簡単に買える代物ではないというに」

 

 褒められて、そう悪い気はしない。

 

「おかげで貯金をかなり崩してしまいましたが。

 しかし、その価値はある装備です」

 

「そうじゃろうそうじゃろう。

 ところでそのミスリルクローク、少し前に修理に出したそうじゃな?」

 

「ええ、ボーレンクイロン・ヴァキャ・アンラマウェンスタ・ヴィーマゲウォンさんの店で直して貰いました」

 

「………よく噛まずに言えるのぅ、その名前。

 で、一つ質問なんじゃがな?」

 

「なんでしょう」

 

「――白色区域に、ミスリルクロークを壊せる魔物なんておるんか?」

 

「……………」

 

 言葉に詰まる。

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

 じっと見つめ合う二人。

 恋に落ちてしまったらどうしよう……等と考える余裕は無い。

 私の背中を、冷汗が流れ落ちた。

 

「いやその……それは、そう、転んで――」

 

「分かり切った嘘をつくな!」

 

 怒鳴られて、それ以上言えなくなる私。

 ジェラルドさんは深くため息をついてから、

 

「なぁ、クロダ君」

 

「……なんでしょうか、ギルド長」

 

「そろそろ、冒険者ランク、上げようか」

 

 そう宣告した。

 ………いやいやいや、それは困る。

 

「お言葉ですが、私はランクDに上がる資格を有していませんよ」

 

「階層食いを単独で仕留められる冒険者をランクEに留めておく理由が無いじゃろが」

 

「いえいえ、それはギルド長のご想像でしょう?

 証拠は何も――」

 

「噂が!」

 

 私の言葉を遮って、ジェラルドさんが声を張り上げた。

 

「……噂が、流れとるんじゃ。

 クロダ・セイイチがとうとう階層食いを倒した、とな」

 

「根も葉も無い、噂ですよ」

 

「本当か?

 本当に根も葉も残してないか?」

 

「無い……はずです」

 

 改めて確認を取られると、少々自信が無い。

 

「なぁクロダ君、ただでさえお主の『実力』は冒険者の間で――特に新人冒険者の間で話題になっとる」

 

「それは、まぁ……」

 

 この前、ジャンさん達との話で思い知らされたことだった。

 

「お主程の冒険者をランクEのままにするとは、ギルドの目は節穴か、と非難されることもある」

 

「そうだったのですか」

 

 それは初耳だった。

 

「そんなわけで、あんまり目立った真似はしないで欲しいのぉ」

 

「……し、しかし……放っておくわけにも」

 

 白色区域は初心者用区域。

 そこに居るのはほとんどが駆け出しの冒険者だ。

 当然、階層食いになど太刀打ちできるわけも無い。

 

「対処してくれたことには感謝しとる。

 犠牲が出ずに済んだからの。

 じゃがまあ……せめて、報告はすぐに欲しかったのぅ」

 

「……反省します」

 

 確かに、連絡を怠ったのは私のミスだ。

 

「うむ。

 ……ま、流石に階層食い討伐は眉唾に過ぎる、面白がって吹聴しとるだけじゃろう――という噂を新たに流しとる最中じゃ。

 しばらくすればこの噂は収まろう」

 

 その間は変な騒ぎを起こすなよ、と言外に言われているようである。

 

「大丈夫です、早々おかしなことは起こりませんよ」

 

 今回は不幸が重なっただけなのだ。

 

「お主が好奇心ゼロ、開拓者精神ゼロ、功名心ゼロの、なんで冒険者やっとんのかよくわからん奴じゃというのはよく心得ておる」

 

 面と向かって言われると少し傷つく。

 事実だが。

 

「これだけ釘を刺しておけば大丈夫じゃと信じておるよ、この件に関してはな」

 

 信じていない件があるということだろうか。

 ……女性についての話なのだろうなぁ。

 

「そんなわけで、お主に頼みたいことがある」

 

 いきなりジェラルドさんが話を突っ込んできた。

 

「前後の脈絡がまるでないのですが」

 

「なんじゃい、お主のためにアレコレと手を尽くしてやった儂の頼みが聞けんということか?」

 

 手を尽くしたといっても、ご老人のやったことは新たに噂を流したことと、自分への誹謗中傷を我慢することだけでは?

 などとは口が裂けても言えない。

 今回の件に限らず、この人には何かとお世話になっているのだ。

 

「……分かりました」

 

「おお、引き受けてくれるか!」

 

「とりあえず、話を聞くだけです」

 

 私の返事に、ギルド長はワザとらしく肩をすくめた。

 

「ツレないのぅ、まあいい。

 頼み事はの、新しく来た<訪問者>についてのことなんじゃ」

 

「また東京から人が来たのですか。

 ……ああ、つまり頼み事とは」

 

「そう、新人の教育係じゃの」

 

 そういうと、ジェラルドさんは二カッと笑った。

 

 

 

 

 

「ほれ、この先の会議室に新人を待たせとる」

 

「……分かりました」

 

 ギルドの廊下をジェラルドさんにに連れられながら、私はこの話をどうやって断ろうか、思案に暮れていた。

 

 教育係。

 冒険者ギルドでは通例として、新しくこの世界に来た<訪問者>には最初の一時期、教育係を付けて冒険のいろはを教えることにしている。

 あくまで<訪問者>に対してのみである。

 この世界の住人が冒険者になった際には、そういう制度は無い。

 

 理由は2つ。

 一つ目は<訪問者>にとってウィンガストは異世界であり、何の勝手も分からない場所である、ということ。

 元々この世界に住んでいた人達よりも、冒険者になるハードルが高いのだ。

 二つ目は、前にも話したが、<訪問者>がほぼ例外なく優れた冒険者適性を持っている、ということ。

 冒険者ギルドにとって<訪問者>は有望株であり、大切に育てたい人材なのである。

 

 その教育係だが、同郷だから話しやすいだろうとの理由で、同じ<訪問者>が任せられることが多い。

 かくいう私も一度、柿村さんの教育係を務めたことがある。

 

 務めたことはあるのだが―――どうにも私はこの教育係が苦手で仕方がない。

 まず、教育係をしている間、通常の業務は行えない。

 当然、業務――魔物掃除によって得られる賃金も手に入らないときている。

 一応、ギルドから手当金は貰えるのだが、魔物掃除で得られるお金に比べれば雀の涙だ。

 次に、教育係の仕事は当然新人を中心に据えた仕事であって、自分のペースで仕事ができない。

 さらに言えば、新人の言動に対して、臨機応変に対応する必要もある。

 ――――他人に合わせて臨機応変など、私には無理難題な言葉だ。

 

 柿村さんの時は、お互いに知己であったことや、柿村さん側からも色々とフォローが貰えたため、どうにか教育は成功したが。

 ………いや、あれを成功したなどと言っていいものか。

 教育中は色々と失敗をやらかして、散々彼に迷惑をかけてしまった。

 つまり、柿村さんが私の教育を成功に導いてくれた、が正しいと思う。

 

 そんな風に私が悶々としていると、

 

「何をそんなに不安そうな顔をしておる」

 

 私の様子を察したのか、ジェラルドさんが話しかけてきた。

 

「大丈夫じゃ。

 お主は初めてやることはまず間違いなく失敗するヘッポコじゃが、2回目以降はきっちり軌道修正できるじゃろ」

 

 褒めているのか貶しているのかどちらだ。

 

 とはいえ事実であるから否定できない。

 私は初めてやること、想定外のことに大して非常に弱く、それに遭遇すればまずミスを犯す。

 今までのお話の中ですら、色々やらかしているので、納得頂けるはずだ。

 ………なんで私、そんな性質だというのに冒険者をやってるんだろう?

 

「ほれ着いたぞ、早速ご対面といこう」

 

 悩んでいる内に目的の会議室に到着してしまったようだ。

 結局、断る理由をまとめ切れていない。

 とにかく駄々をこねまくれば、ご老人も折れてくれるだろうか。

 

「…………!!!!!!!!?!?????」

 

 ―――そんな考えは、扉があいた瞬間、全て吹き飛んだ。

 目の前に、天使が居た。

 

 会議室の中には、大きなテーブルが一つ。

 そこに一人の美少女が座っている。

 

「………お、おお……!?」

 

 つい、呻き声を出してしまった。

 

 その少女の容貌が、もう凄まじいのだ。

 まず、金髪碧眼。

 短く揃えられたショートカットの金髪は、彼女が少し動いただけでさらさらとなびいている。

 見るからに触り心地が良さそうだ。

 自らの美しさを強調させるやや切れ長な瞳は、しかし可愛らしさや愛嬌も損なっていない絶妙さ加減。

 唇は瑞々しく、女性の色気を醸し出してさえいる。

 一つ一つのパーツだけ見ても極上の一品であり、それらが全て完璧に調和して彼女の顔を形成している。

 平たく言えば、絶世の美少女。

 

 街を歩けば、すれ違う男10人中18人は振り返るだろう。

(※一度は全員が振り返り、その内8人はもう一度振り返る、の意)

 顔を見ただけだというのに、私の愚息がもう興奮し始めている…!

 

 この美貌、100点満点で言えば……

 

「……1000点だ」

 

 どこかで聞いたことのあるフレーズを思わず口にしてしまった。

 

 こんな子の、教育係…!?

 つまりほぼ四六時中一緒にいられるわけで―――

 

「ギルド長…」

 

「なんじゃい?」

 

「私は、貴方の事を誤解していたようです」

 

 あの流れからして、絶対面倒な人の教育を押し付けられるのだとばかり思っていた。

 それがこんな……こんな……!!

 

「お主が何を言わんとしてるのかよく分からんが、引き受けるということでいいんじゃな」

 

「引き受けまくりますですよ」

 

 興奮したせいか言葉遣いがおかしい。

 

「そ、そうか。

 それなら話が早く済むのぅ」

 

 ジェラルドさんが私の態度に少し引いているようだが、そんなことすら気にならない。

 そんな私たちに、少女が声をかけてきた。

 

『――なぁ、そいつがオレの教育係ってヤツなのか?』

 

 お、おれおれオレおれオレっ娘だとぅ!?

 口調はどうも荒々しい感じだが、声自体は外見通り可愛らしい。

 このギャップが却って彼女の魅力に新鮮さを伴わせている。

 

『うむ、待たせてすまなかったのぅ』

 

 ギルド長は、彼女と同じく『日本語で』そう返した。

 

 今まで特に必要が無かったため説明していなかったが、ウィンガストの住人たちは別に日本語で会話しているわけでは無い。

 こちらでは、『グラドオクス大陸共通語』という言語で会話をしている。

 私もまた、その言語を喋っていたのである。

 ウィンガストへ来た<来訪者>はまずこの言語を習得することになるのだが――

 どうやって習得するかは、この後解説することになるだろう。

 

『こちら、お主の教育係を担当する――』

 

『初めまして、黒田誠一と申します』

 

 紹介を受け、自己紹介する。

 

『黒田誠一……黒田でいいか?』

 

 いきなり呼び捨て。

 今日初めて会った、明らかに年下の美少女に呼び捨てとは―――親し気でいいじゃないか。

 誠一と名前で呼ばれたい位だ。

 

『はい、構いませんよ』

 

『サンキュー。

 オレは室坂陽葵(むろさか ひなた)だ。

 よろしくな!』

 

 大分日本人離れした外見なのだが、名前は日本人名――ハーフだろうか?

 

『室坂さん、ですね』

 

『陽葵でいいよ』

 

 いきなり名前呼びしてもいいのですか…!

 

『では、陽葵さん、と。

 こちらこそよろしくお願いします』

 

『おう!』

 

 にっこりと笑いながら、陽葵さん。

 やばい、笑うともう可愛すぎる。

 今すぐ結婚を申し込みたい。

 もしくは養子にしたい。

 何らかの深い関係を築きたい。

 

『さて、お互い挨拶も済んだようじゃし、後は任せてええか?』

 

『ええ、大丈夫です』

 

 後は若い人たちに任せて、ご老人はご退去下さい。

 そんな失礼なことを考えながら、部屋を後にするジェラルドさんを見送る。

 

 私は陽葵さんの向かい側の席に座ると、早速新人教育の第一歩をスタートする。

 

『えー、それでは色々と説明を始めたいと思います。

 ちなみに、ギルド長からはどの程度話を聞いておられますか?』

 

『ここが地球とは違う世界で、この町はウィンガストってところで、そこにオレは召喚された……ってところまでかな』

 

『そこまでで何か腑に落ちない点はありませんかね?』

 

『特には……いやさ、最初は異世界とか何言ってんだって感じだけど、あの爺さんいきなり魔法使いだしたし。

 明らかに人間じゃない人達まで連れてきてくれたからさ。

 納得せざるを得ないというか…』

 

 ふむ、そこまでしっかり教えてくれていたか。

 ならば、話は早いかもしれない。

 

 ここで私は、陽葵さんの全体像を確認する。

 女性にしては背が高く、165cm前後といったところだろうか。

 衣服は、上がタンクトップにジャケット、そして下がショートパンツ。

 タンクトップからちらりと見える鎖骨が色っぽい。

 パンツから覗かせる太ももの色気がもう堪りません。

 腰つきもいい形にくびれており、まだ見ぬお尻への期待感が高まる。

 ただ、服の上から確認できる胸は小さく……というか、割と平坦な感じ。

 

 とはいえ、そこまで完璧だと私は彼女を崇拝し始めかねないので、却って丁度よいのかもしれない。

 私の理性を留めるのには。

 

『ああ、そういや、オレが召喚された理由とかってあんの?

 やっぱアレか、魔王を倒す勇者とかそういうの?』

 

 まずそこから来るか。

 

『端的に言ってしまいますが、<訪問者>――ああ、ここでは東京から来た人間を<訪問者>と呼んでいます――が、この世界に来た理由は分かっていません』

 

『そうなの?』

 

『はい。

 陽葵さんがこの世界に来た時、最初に居た部屋を覚えていますか?

 そこに大きな水晶があったでしょう』

 

『ああ、なんかあったな、そんなの』

 

『あれが私達を呼んだ召喚機です。

 あの召喚機が東京に居る人間――特に、生命に危険が及んでいる人間をこの世界に召喚しているのです』

 

『あー……そうなのか』

 

 何か思い当たる節があるのだろう、視線を斜め上に上げて思案しながら(可愛い)、陽葵さんが返事をした。

 彼女に何があってここに来たのか、気になるところではあるが、それをここで聞くのは余りにデリカシーに欠ける。

 

『しかし、理由も無しにいきなり呼び付けるなんて、随分と無茶苦茶だな』

 

『それに関してはご容赦下さい。

 別にこのウィンガストの住人もそれを望んで行っているわけでは無いのです』

 

『え?』

 

『召喚機を造ったのは、ウィンガストの住人ではなく――魔王なのですよ』

 

 魔王。

 どのような人物だったのか詳細は分からない。

 ただ、突如この世界に現れ、超常の力を振るって世界中に災厄を撒いた存在であることは、広く世に知れ渡っている。

 

 召喚機はその魔王自身が造ったものであり、当然魔王の思惑など余人が知る由も無く、ましてや制御などできるはずもない。

 しかし、壊すのも気が引ける。

 壊して何が起きるか分からないし、しかも定期的に冒険者として有能な人材を提供してもくれる。

 そういう理由でウィンガストの住人達は、召喚機には下手に手を出さす、召喚機と『上手く付き合っていく』ことを選択したのだ。

 

『そんなわけで、召喚された人達がスムーズにこの世界に馴染んで貰うべく、教育係を始めとした色々な制度も作られたわけです』

 

 この点、ウィンガストの人々の倫理観の高さも垣間見える。

 異世界から来た――つまり、この世界においては何の関わりも、何の権利も無い人間。

 やろうと思えば、非人道的な扱いをすることも容易であったはずだ。

 しかし、この世界の住人はそれを良しとしなかった。

 

『へー、いいねいいね。

 なんか雰囲気出てきた!

 魔王の作った召喚機で呼ばれた人間が魔王を倒すとか、カッコいいじゃん!』

 

『ええ、仰る通り今から7年前、この世界へ最初に現れた<訪問者>を含めた5人の勇者によって、魔王は討伐されたわけですが――』

 

『ちょっと待て』

 

 陽葵さんが待ったをかける。

 

『なんですか?』

 

『魔王、倒されちゃってるの?』

 

『倒されてますよ、7年前に』

 

『誰に?』

 

『いやですから、5人の勇者の手によって』

 

『―――じゃあ、何でオレ呼ばれたのさ!?』

 

『魔王が造った召喚機がそのまま残ってしまっているからですってば』

 

 彼女の頭の中では、別の物語が進行していた模様。

 人の話はちゃんと聞きましょう。

 

『えー……じゃあオレ、何やればいいのー?』

 

 可愛らしく眉をひそめ、不満顔をする陽葵さん。

 

『はい、それをこれから説明します』

 

 魔王は勇者達の手により倒れた。

 しかし、それで何もかも解決したわけでは無かったのだ。

 魔王が齎した災厄は今もなおこの世界に残っており……

 その最たるものの一つが、ウィンガストにある<次元迷宮>である。

 

 ウィンガストの町は元々、魔王の居城であった。

 勇者と魔王の激突により城は吹き飛んだそうなのだが、爆発の中心地に<次元迷宮>への入口が現れた。

 ―――前に、この町の地形をクレーターに例えたことがあったが、それはここに所以する。

 

<次元迷宮>は、放っておけば中から無限の魔物が這い出てくる。

 元々ウィンガストは、<次元迷宮>の監視をするために造られた町なのだ。

 そして冒険者ギルドも最初は、魔物討伐を目的とした組織だった。

 

 しかし時が経つにつれ、<次元迷宮>から希少な鉱物や薬草等が採取できること、魔物からも魔晶石や素材という有用な資源が手に入ることが分かってきた。

 そうなると、それを求めて様々な人々がウィンガストに集まるようになる。

 僅か数年で、ウィンガストはこの世界でも有数の都市に発展した。

 

 町は<次元迷宮>で手に入る物資の交易によって多大な利益を得るようになる。

 冒険者ギルドも、魔物討伐から迷宮探索へとその目的を変えていった。

 

 ただ、町が発展し、取引する物資の量が増えていくにつれ、一つの問題が出てきた。

 ――冒険者の人手不足だ。

 物資への需要は高まるばかりだが、それを供給する冒険者の数が圧倒的に足りていない。

 

『そこで陽葵さんに提案です』

 

 彼女の美しい眼を見つめながら、告げる。

 

『冒険者をやってみませんか?』

 

 この世界に来た<訪問者>の選択は、大まかに分けて2つ。

 冒険者となって<次元迷宮>を探索するか、一般人となり普通に暮らすか、である。

 

 冒険者を選ぶのであれば、冒険者ギルドからのバックアップを受けることができる。

 一般人を選んでも、無一文で放り出されるというわけではないが、援助は最低限に留まる。

 

『ですので、私としては一先ず冒険者になる道をお勧めします』

 

 私のように、冒険に出ずに暮らす冒険者もいるわけで。

 冒険者となっても、割と自由に生活できるのだ。

 

『うーん、なんか思ってたのと大分違うんだけど…』

 

 おそらく、魔王討伐の冒険やら世界を救う旅やらを思い描いていたのだろう。

 その気持ちは分かる。

 私も最初はそういう展開になるのかなと思っていた。

 

『ま、いいか。

 なるよ、冒険者』

 

『その選択に感謝します』

 

 一般人を選択されたら、私はお役御免になってしまう。

 こんな美少女とこれっきりと言うのは、寂しすぎる。

 

『あ、そういやさ、元の世界に戻るってのはできないのか?』

 

『……今のところは、現代社会に帰る方法は見つかっていません。

 或いは、<次元迷宮>の奥にその手段があるのかもしれませんが』

 

 それを目指して探索を続けている<訪問者>もいる。

 

『なるほどねー。

 それで、冒険者ってのにはどうやってなるの?』

 

『それはこれから案内いたしますよ』

 

 私は彼女を連れて、会議室を後にした。

 

 

 

 第四話②へ続く

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