① 陽葵さんと朝から
「今日はまず商店に行きましょう」
「―――え?」
私は今日の予定を陽葵さんに告げる。
「ローラさんとボーさんのお店は紹介しましたが、どちらも専門店ですからね。
冒険者に必要なアイテムを全般的に扱う商店も教えておこうかと思いまして」
「―――いや、ちょっと」
陽葵さんはなんだか戸惑い気味。
確かに、彼からしてみればいきなり予定を変更されたのだから、無理もないか。
「急な話で申し訳ありません。
元々は<次元迷宮>に行ってからその商店へ立ち寄るつもりだったのですが、今日は少し朝が遅くなってしまいましたから」
「朝遅かったのはお前が色々やってきたせいだろ!……って、そうじゃくてな」
一拍間を置いてから、陽葵さんは口を開く。
「――お前、なんでいきなり風呂に入ってきたの?」
私を睨みながら(相も変わらず可愛い表情だ)、そんな疑問を呈してきた。
そう、ここはお風呂であり、陽葵さんは現在入浴中であった。
昨日やったプレイの名残がところどころ落ちきっておらず、朝風呂に入ることになったのである。
とはいえ――
「ここは私の家ですが」
私の家の風呂に私が入ることに対し、いったい何の不都合があろう。
そんな自明の理に、陽葵さんは異を唱えてくる。
「自分の家だったら人が入ってても風呂に来るのかよお前は!!」
「何か問題でも?」
あっさりと答えた私に、陽葵さんは頭を抱えて蹲ってしまった。
「ああああああ……こいつ変態すぎるぅ……」
そんな、今更。
悩める陽葵さんは一先ず置いておき、私はここに来た目的――つまりは入浴をするため、湯船に足を入れた。
朗らかに笑いながら、陽葵さんに話しかける。
「まぁまぁ、男同士、裸の付き合いも偶にはいいものでしょう」
「………お前、昨日あんなことになったからって調子に乗ってねぇか?」
そんなことは無いですよ?
ジト目な陽葵さんを適当に受け流しつつ、私はお湯に浸かる。
私の家の風呂はかなり大きく造ってあるため、二人同時に入ってもそう不自由しないのだ。
「――はい、失礼します」
「何の躊躇もなく入ってきやがったな……うわっ!?」
陽葵さんが急に大きな声を上げた。
「どうしました?」
「……あ、と、その……お前、すげぇ身体してんのな」
目を大きくして私の身体を見る陽葵さん。
そういえば、陽葵さんの前で全裸になったのは今が初めてだったか。
とはいえ、そんなにジロジロ見られると少しその―――興奮してしまう。
「そうですか? これ位普通だと思いますけど」
それ程多くの男の身体を見てきたわけではないが、私の体格はまあ平均程ではなかろうか。
「普通、腹は割れねぇよ……腹筋が6つに割れてるやつなんて初めて見たぜ。
腕や足もがっしりしてるし――お前、本当に<魔法使い>か?」
「冒険者をやっていればこれ位になるんじゃないですかね」
確かに、陽葵さんに比べれば筋肉質かもしれない。
無駄な肉などどこにもついていないのに柔らかい肢体、きめ細かい肌。
女性と見紛う――いや、女性以上に艶めかしい。
正直なところ、陽葵さんに比べればどんな男でも筋肉質と言っていいのではないだろうか。
「……オレもその内そんな風になれるのかな?」
「陽葵さんは無理でしょう」
「なんでだよ!?」
何となく。
陽葵さんはどうやっても今の女性らしさを失わない気がする。
失って欲しくないという願望もある。
「そもそも、陽葵さんはマッチョな男性になりたいのですか?」
「そういうわけでも無いんだけどさ……なんつうか、男として筋肉への憧れはあるわけで――っておい」
話の途中でつっこみを交えてきた。
今度は一体なんだというのか。
「どうしました?」
「白々しい返事すんな!
お前、何おっ勃ててんの!?」
これはまた変な質問である。
「陽葵さんとお風呂に入ったのだから興奮するのは当たり前でしょう?」
こんなお色気まみれの裸を見て、勃起しない男などまずいないと断言できる。
「不思議そうな顔すんじゃねぇよ、このホモ野郎!」
「いえいえ、私はホモじゃありません」
寧ろホモな人は陽葵さんを見ても欲情しないのではないだろうか。
実質、女の子みたいなものだし。
「まあ、ちょうど陽葵さんは私の身体に興味を持ったわけですし、そう邪険にせずにゆっくり観察して下さいよ」
見せつけるかのように股間を動かしてやる。
すると、
「変なもんこっちに向けんなって!…………うぐっ、で、でけぇ……」
突き出した私の股間を、なんだかんだ凝視してしまう陽葵さん。
ごくりと喉を鳴らしてから、
「よ、よく入ったなこんなの……」
「お褒め頂いて恐縮です。
こんな私のモノをしっかりと咥え込んでくれた、陽葵さんの穴も絶品ですよ?」
「んなこと言われても全然嬉しくねぇよ!」
でも顔は赤らめてしまう陽葵さん。
まったく、素直でない人だ。
「さて――っと」
私は湯船の中を動き、陽葵さんのすぐ横に座った。
「……何故オレに近寄る?」
「お気になさらず――よっと」
横にいる陽葵さんの腰に手をまわし、そのままぐいっと持ち上げた。
「―――――あ」
ナニをしたいのか勘付いたのだろう。
……私が風呂場に来た時点で覚悟はしていたのかもしれない。
陽葵さんは一瞬身体を強張らせる……が、特にこれといって抵抗はしてこない。
これはもうOKサインとして受け取っていいだろう。
私の体の前に、陽葵さんを座らせる。
ちょうど、私が彼の身体を後ろから抱え込むような体勢だ。
「お、お前な……昨日やったばっかだろ」
「昨日したからと言って、今日してはいけない理由にはならないでしょう」
陽葵さんの身体を後ろへぐいっと引っ張って、私へもたれかからせる。
私と彼の身体が密着し、すべすべのお肌を体全体で感じられるようになった。
湿ったブロンドの髪が私の顔にかかり、陽葵さんの放つ雌の匂いが鼻腔をくすぐる。
腰に回した手には、華奢だが柔らかい陽葵さんの肉感がよく伝わってくる。
股間に当たる陽葵さんのお尻は、モチモチの弾力で私を楽しませた。
このまま彼の尻肉に私の愚息を挟んで、尻コキするのもいいかもしれない。
これぞまさに裸の付き合いである。
「おい、変なもん擦り付けんなっ」
恥ずかしそうな顔で私に抗議してくる陽葵さん。
どうやら無意識のうちに実際やってしまっていたらしい。
「すみません、陽葵さんのお尻を見ていたらつい…」
「ついじゃねぇよっ―――だからやめろって、気持ち悪いんだから」
むむ、このプレイは陽葵さん的にお気に召さない様子。
では――
「やはりこっちの方が良いですか」
「……うっ、あっ――」
肉棒の先で陽葵さんの肛門をつついてやると、途端に彼の身体が反応しだす。
「コレがそんなに欲しかったんですね」
「あっあっ……変な言い回しするなっ……うっあぁ……さっさと済ませちまえよ」
「―――欲しいことは否定しないんですね」
「っっ!?……ば、バカ野郎!!」
怒鳴りはするが拒否はせず。
見れば、陽葵さんの股間も勃起している。
身体は正直なものだ。
「ではいきますよ。
さ、力を抜いて下さい」
「……んおっおっ……おっおおっおっ……あぁああっ!」
陽葵さんの穴をこじ開けると、嬌声が風呂場に響いた。
慣れたせいか、昨日よりも幾分か楽に私のイチモツは陽葵さんに埋まっていく。
「……よし、全部入りました。
どうですか陽葵さん、私のモノの感想は」
「……う、あっあっ……デカいし、太いし……あぁぁ……熱いっ……くぅうっ……」
うっとりとした口調で私のイチモツについて語ってくれた。
お世辞も入っているのだろうが、嬉しさがこみ上げてくる。
「そこまで褒められては流石に照れますね。
お礼に、思い切り感じさせてあげますよ」
私は陽葵さんの細い腰を掴み、彼の身体を上下に動かしていく。
等身大のオナホで自慰をするかのように……これは例えが悪いだろうか?
もっとも、陽葵さんの尻穴による締め付けは、オナホではとても太刀打ちできないが。
「んぉおおおおおっ!?……い、いきなり激しいってのっ……あっあぁああっあああああっ!」
表現の不適切さは横に置いて、陽葵さんも気持ち良くなってくれているようだ。
彼の動きで浴槽の水もばちゃばちゃと跳ねている。
「おっおっおっおっおっ!……これ、やばいって……おぉおっおおっおっおおおおっ!」
さらなる刺激を与えるため、そしてさらなる快楽を得るために、私は自分の腰も動かしだした。
二人が動くことによって、それまで届かなかった場所にまで愚息が行き着く。
「あぁああああっ!? やばいってホントっ……あぁああっお、おおぉおおおっ! ……も、イク……」
もう陽葵さんは絶頂してしまうようだ。
私の方はと言えば、陽葵さんの尻の締りは素晴らしいものの、流石にまだオーガズムには至らない。
もっと一緒に楽しみたいのだが―――そうだ!
「おぉおおおっ!?……ちょっお前、何を……んぉおおおおっ!!」
私は<念動>を発動させ、陽葵さんの男性器の根元部分へと力を加える。
神経を集中し、的確な位置をぎゅうっと締め付けていった。
すると、何が起こるか。
「んぁあああああっ!……もぅ、イク、ぞ……おっおっおっおっおぉぉおおおっ!」
陽葵さんは絶頂するため、身体を弓のようにしならせる。
だが――
「おっおおっおおぉお……っ!?……な、なんでっ……んくっうあぁあああっ!……い、イケな、いっ!?」
悶えながらも、疑問を口にする陽葵さん。
絶頂するには十分な快感を得ているというのに、イクことができないのが不思議なのだろう。
「それはそうでしょう。
今の陽葵さんは射精できませんからね」
「おっおっおっおぉおっおおっ!……な、なんだよそれっ……んぉぉおおっおおっおおおおっ!」
答えは単純。
<念動>で精液の通り道を圧迫されていることで、今の陽葵さんは精液を出したくても出せない。
イキたくても、物理的に射精できないのだ。
「あぁああっあっあっあっ!……なんで、お前そんなことできんだよっ!……ああああああぁぁああっ!!」
「昔とった杵塚ですよ」
何でも覚えておくものである。
こんなスキルの使い方、絶対役に立たないと思っていたのに。
「おおおっおっおっおおおっ!!……んぐっ、イケないっ……あぁああああっあっああっ!……イキ、たいの、にっ」
「そうでしょうそうでしょう。
この技の効果は抜群です。
ほら、こうしたって―――」
私は陽葵さんの男性器を握り、扱きだした。
「んがぁああああっ!?……お前、何をっ!……おおおぉおっ!?」
陽葵さんの喘ぎがさらに甲高くなる。
前と後ろから同時に刺激を与えられているのだから、当然と言えば当然。
副次的な効果だが、彼の尻から齎される締付もまた大きくなる。
私の射精を促すように、イチモツの根元から先端までをぎゅうぎゅうと刺激してきた。
「不思議な感覚でしょう?
こんなこと、そうそう味わえるものではありませんよ」
こんなことを言っている私だが、不思議な感覚というのは何も陽葵さんに限った話でも無い。
後ろの穴からここまでの快感を得られるというのは、私にとっても過去を振り返ってそう前例のない体験だった。
「あぁぁああああっ!……イクッイクッ!……あっあっあっあっあっ!……イクイクッ!……んんんぅうううううっ!」
陽葵さんは射精しようと何度も身をよじるが、その程度のことではこの呪縛から逃れることなどできない。
私は手でのシゴキを速め、腰を大きく動かす。
「んぐぅううっ!?……イク、う、あぁああああっ!……イケないっイケないぃいいいっ!」
度を越えた快楽に、涙を流しながら身体をばたつかせる陽葵さん。
だがまだ駄目だ。
彼にはもっとこの快感を味わって頂きたい。
私は空いている方の手で彼を押さえつける。
「おっおおっおっおぉおおっおっ!! イカせてっイカせてぇえっ!!……おぁあああぁぁああ!……んぐっ!?」
陽葵さんがなおも暴れようとするのを防ぐべく、私は彼の身体をがっしりと抱き締め―――ついでに彼の口も自分の口で塞いでおく。
最後のは、単に私がキスをしたかったからというだけだけれど。
ここまで整った顔立ちが私のすぐ側で喘ぎ続けているのだ。
放っておけるほどの忍耐を私は持ち合わせていなかったのである。
「んむぅううううううっ!! んんっんっんんんんっ!! んんんぅううううううっ!!」
私は股間で陽葵さんを尻を堪能しながら、舌で彼の口内を味わっていた。
意図したものではないだろうが、私の舌に陽葵さんの舌が絡まってくる。
彼の尻穴も私自身を今までに無い程握りしめ、私を絶頂へと導く。
「んんっんんんんぅっんんんぉっ!! んんんぅぅううっ!! むぅううううっ!!?」
そろそろいいだろう。
私もまた射精感が十分に高まった。
腰と手の動きをさらに加速させる。
「んんむぅぅうううううっ!!? んっんんっんっんぁっ!? んんんんぉおおっ!!」
そして、<念動>を解いた。
「っっっっっっっっっっっっっ!!!!!」
声にならない悲鳴を上げる陽葵さん。
身体がピンっと伸び、硬直する。
「んっんっ!!! んっおっおっ!! おっおおっおぉっ!!」
陽葵さんの性器から白濁した液体が流れ出てくる。
私もまた絶頂に達し、彼の中に精液を流し込んでいる最中だ。
彼が痙攣をおこす度に中が脈動してくるのだが、それがまた精液を搾り取ってくる良いスパイスだった。
「ふぅ……最高でしたよ陽葵さん。
貴方の方も楽しんで貰えましたか?」
彼の唇から口を離し、話しかける。
……だが、陽葵さんから返事がない。
「………陽葵さん?」
どうしたものかと思い、よくよく彼の顔を見てみれば。
「……はひゃぁ……あへぇ……」
顔をだらしなく弛緩させながら、陽葵さんは失神していた。
「………最悪だ」
横で歩く陽葵さんがぼそっと呟いた。
「そうですね。
もっと早い時間に商店へ出向く予定だったのですが、昼近くになってしまいました」
私もそれに同意する。
当初の予定が狂うのは、余り気分の良いものではない。
今、私達は朝予定していた商店訪問のため、ウィンガストの町を進んでいた。
「ちっげぇよっ!
そっちの話じゃなくって……ていうか、そっちの話にしたって全部お前のせいなんだかんな!?」
私を睨みつけながら、陽葵さん。
……まあ、朝から少々楽しみが過ぎた感は否めない。
「では、角兎に刺されたところがまだ痛むとか?」
あえて具体的に刺された場所は口に出さない。
流石に往来の真ん中でそんなことを言いふらされては、彼の名誉に関わってしまう。
「それも違うっ!
や、確かにそこはちょっとじんじんするけど……これだってお前のせいだろ!」
少し顔を赤くするところが実に可愛い。
……うん、やりすぎたことは反省しているのだ、本当に。
「それでも無いとすればいったい…?」
「…………」
陽葵さんが押し黙った。
顔を俯かせてから、小さい声で――
「………ふぁ、ファーストキスだったのに……」
――そう、答えてくれた。
「ああ、そんなことですか」
「そ、そんなこととか言うか!?
ショックだったんだぞ!
初めてが――あ、あんなだとか!!」
ところどころ考え方が女性的な人だ。
違和感は全くないが。
私は彼を安心させるよう、説明する。
「前も似たようなことを説明しましたよね。
男同士でそういうものはカウントしません、と」
そういうことにしておかないと、ファーストはおろかフォースやフィフスくらいまで全て私が奪ったことになる。
それでは流石にあんまりだろう。
「……そんなあっさり割り切れるかよ」
「ならば人口呼吸か何かだと思ってみては。
私が言うのもなんですが、それ程深く考えることでもありませんよ」
「………むぅうう」
難しそうな顔をして考え込んでしまう陽葵さん。
こういうのは開き直ったもの勝ちだというのに。
――私とキスをしたという事実を否定しない辺り、本当に男心にぐっとくることをしてくれるお方だ。
そんなやり取りをしていると、向こうから見知った顔が歩いてきた。
「おや、ローラさん?」
「うぇっ!?」
私の言葉に、何故か陽葵さんが反応する。
ローラさんの方も私に気づいたようだ。
「あら、クロダさんにヒナタさん。
こんにちは……こんなところで、珍しいですね」
「こんにちは、ローラさん」
「……こ、こんにちは」
挨拶をかわす私達。
どうしたことか、陽葵さんはおどおどとした態度。
ローラさんと目を合わそうとしていない。
そんな彼を不思議に思いつつも、私はローラさんと話を続ける。
「今日は商店に――セレンソン商店に陽葵さんを連れて行こうと思いましてね。
ここに居るのはそんな理由です」
「そうだったんですか。
……では、今日は早めに探索を切り上げたんですね」
ローラさんは今日もまた黒いドレス姿だ。
普段着としてはやや豪奢と言えなくもないが、ローラさんの落ち着いた雰囲気や長く美しい黒髪と合わさって、違和感を感じさせない。
身体の凹凸を余り隠せていないその服装に、道行く男性の目が集まっているのを彼女は気づいているのだろうか。
………男の視線を集めるという点では、陽葵さんのショートパンツ姿も負けていないが。
本人にとっては甚だ不名誉とはいえ。
「いえ、探索には行っていないのです。
今日は午前中、所用が発生してしまいまして」
「所用、ですか?」
ローラさんの発した疑問に答えたのは私では無かった。
「あ、ああ、今日はちょっと勉強会というかね?
黒田にこの町のこととか冒険者のこととか改めて色々聞いてて!」
ちょっと早口に捲くし経てる陽葵さん。
「……いえ、別にそういうことは――っと」
陽葵さんの言ったことを訂正しようとしたところで、彼に背中を叩かれた。
「………いいから、話を合わせろっ」
「………はあ?」
ローラさんに聞こえないような声で、陽葵さんが私に告げる。
そんなやり取りに気づかず、ローラさんは喋りかけてきた。
「そうだったんですね。
ヒナタさんもまだ来てからそう日が経っていませんから、色々不都合も多いんじゃないですか?」
「う、うん、慣れないこと多いけど、なんとかやれてるよ。
クロダとかリアとかに助けられてるけどさ」
「それは良かったです。
困ったことがあれば、私にも相談して下さいね。
どれ位役に立てるかは分かりませんけど…」
「はは、ありがと、ローラ。
頼りにさせてもらうよ」
陽葵さんの言動からぎこちなさが消えてきた。
私が把握できていない何かしらの問題が解決したのだろうか。
「これからお会いになるアンナさんもきっとヒナタさんを助けてくれると思います。
凄く優しい人ですから」
「え?」
思わぬ言葉に私はつい声を上げてしまった。
「どうしました、クロダさん?」
「すみません、その……アンナさんは商人として高い手腕を持つ方ですし、まあ悪い人というわけでも無いですが……
親切な人、というのは……」
「あら、そうですか?
私にはいつもよくしてくれますけど」
「それは初耳ですね。
私にはよくよく値をふっかけてくるし、物を売ろうとすれば値切ってくるし、頭おかしい発言はするし」
実のところ、あまり彼女にいい思い出は無い。
「えっと、それはその……アンナさんに気に入られている、とか?」
「気になる相手に意地悪を、というのは子供の発想ではないかと思います」
アンナさんの精神年齢が幼児レベルではないとも言い切れないが。
寧ろローラさんが彼女に気に入られていると考えた方が自然だろう。
「あのな黒田、話聞く限り、なんでお前はそういう人をオレに紹介しようとしているんだ?」
訝し気な顔で私に尋ねる陽葵さん。
これから会う人に対して悪い印象を持たせてしまったか。
私は弁解を試みた。
「商人としての腕は確かな人なのですよ。
お金さえ払えば大抵のものは手に入りますから」
ちなみに、私が装備しているミスリルクロークも彼女に頼んで購入したものだ。
「いい人だと思うんですけど…」
遠慮がちにローラさんが付け足してくる。
「むむぅ、とりあえず、会ってから考えるかな」
「それがいいでしょう」
コネを持っていて損は無い人なのだ。
「きっとヒナタさんも仲良くなれますよ―――あら?」
そこでローラさん、何かに気づいたように、
「ちょっとごめんなさい」
陽葵さんの方へ思い切り顔を近づける。
「え、え、何、何だ?」
急に近寄られてどぎまぎする陽葵さん。
彼をしばし観察(?)してから、ローラさんは言った。
「………ヒナタさんからクロダさんの匂いがする?」
「あーーっ! そうだ黒田、お前この後暇だったよな!
ローラさんのお店に行って買い物とかしたらどうだ!?」
何やら緊張した面持ちで急に話を変えてくる陽葵さん。
……そんな風に対応したら、ナニかがあったことを公言するようなものだろうに。
そんな彼をとりあえず置いておいて、ローラさんの呟きに解答してみる。
「ああ、昨日は陽葵さん、私の家に泊まったんですよ」
「…………そうでしたか」
おや? おかしいな、ローラさんの瞳からハイライトが消えたような。
きっと太陽との位置関係で光の反射がこう――あれやこれしてしまったのが原因だろう。
「………ヒナタさんとはいいおトモダチなれると思ったのに」
「行け黒田! いいからローラさんのお店に行け! 絶対に行け!
オレのことは気にするな!
むしろオレのことを気にするなら行け!」
再び発せられたローラさんの言葉に、冷や汗でも流していそうな様子で慌てる陽葵さん。
彼の迫力に気おされるような形で、私は頷く。
「わ、分かりました。
今日はこの後、ローラさんのお店にお邪魔させて頂くことにしましょう」
「あら、そうですか?
では、お待ちしていますね、クロダさん」
一転、満面の笑みを浮かべるローラさんである。
まあ、少なくなってきた備品もあるので、彼女のお店に行くこと自体には何の問題も無いのだが。
「――と、道の真ん中で流石に長話が過ぎましたね。
私達は一旦失礼します」
「はい、クロダさん、また後で。
ヒナタさんも、また今度、ちゃんとお話ししましょう」
「お、おう……そ、それじゃあな、ローラ」
ローラさんから陽葵さんへの言葉に何か含みがあったような――いや、気のせいか。
そんな別れの挨拶をしてから、私達は一路、セレンソン商会へと向かったのだった。
第九話②へ続く