「魔族の受精率は非常に低く、同族同士かつ危険日であっても、1回の性交による妊娠確率は10%を下回ると言われています。
違う種族との混血も可能ですが、その場合は確率はさらに低下し、0.1%未満であると主張する文献もありますが、何分魔族の生態に関する研究は相手が相手だけに余り行われておらず、信憑性については怪しいですね」
「……ローラさん?」
ここは<次元迷宮>内。
私の隣で突然語り出したローラさんを、私は呆然と見つめる。
「きゅ、急にどうされたのですか?」
「いえ、なんと言いますか、説明しなくてはいけない気がしたんです。
ほら、私は治療係として勧誘されたわけですけれど、これまでその役割を務める機会が無かったじゃないですか。
ですので、偶には治療に関する学術的知識も披露しておこうかと思いまして」
「そ、そうですか……」
そういう考えならば仕方ない。
魔族の妊娠に関する知識が今この場で必要かどうかは置いておいて。
ローラさんも、自分本来の仕事がやれず、不安だったのだろう。
自分の仕事が無い、自分の仕事が全うできないという状況は、本当に辛いのだ。
――本当に辛いのだ!(熱弁)
とはいえ、そう遠くない内にローラさんには活躍して貰うことになりそうなのだが。
私は遠くで戦闘を繰り広げている『2人』を見ながら、内心でそう呟く。
「……お2人とも、かなり厳しそうですね」
ローラさんもまた、同じような感想を抱いたようだ。
ここは、高い草木が茂る森のような階層だ。
どういう理由か、上からは陽光まで差している。
太陽が出ているわけではないのに、不思議なものだ。
この階層には食べることのできる植物も自生している上、出現する魔物は食用に調理可能な『素材』を落とすため、冒険者にとっては非常に貴重な場所となっている。
魔物が比較的多い階層であるにも関わらず、ここを探索の拠点にする冒険者もいる程だ。
もっとも、陽葵さんとリアさんは『青の証』によるワープ機能があるおかげで、食料を気にする必要が無い。
つまり彼らにとって、この階層はただ魔物が多いだけの厄介な場所というわけで。
「流石のリアさんでも、黄色区域の魔物はそう簡単には倒せませんからね」
ローラさんの呟きに返事をする。
そう、ここは既に黄色区域。
初心者用の白色区域、場慣れした冒険者用の緑色区域、それよりもさらに奥深く。
出てくる魔物も、仕掛けられた罠も、これまでの区域より格段に危険なモノになっている。
それでも、リアさん一人であればなんとでもなったのだろう。
何せ彼女は昔、赤色区域にまで足を運んでいたのだから。
だが、陽葵さんのフォローもこなしながらとなれば、話は別だ。
彼もこれまでの探索でレベルアップしてはいるが、如何せんまだ黄色区域での戦闘をこなせる程ではない。
となると、リアさんの負担は激増し――
「――あー、もう!
面倒くさいったらっ!!」
リアさんの愚痴がここまで聞こえる。
彼女は自分の周りに群がる巨大な羽虫のような魔物に対し、武器である
だが羽虫は素早く飛び回り、なかなか攻撃が当たらない。
「クロダさん、今リアさんの周りにいる魔物は?」
「あれはキラーインセクトですね。
耐久力は大したことないのですが、とにかく回避能力が高い魔物です。
熟練の冒険者であっても、攻撃を当てるのは至難の業かと」
だがそこはリアさん、2,3回に1回はしっかり攻撃を当て、キラーインセクトを撃墜している。
「――おっと」
気付けば、羽虫が何匹か私達の方にも向かってきた。
私は矢を<射出>で飛ばし、その全てを一斉に撃破する。
「……なるほど、まるで説得力がありません」
「そうですかね?」
私の説明に、ローラさんは納得いかないようだ。
まあ、実際に戦わなければ、その辺りの実感は湧かないだろう。
「あ、リアさんがまた別の魔物と戦いだしましたよ」
「そのようですね」
ローラさんの言葉に、私は再度注意をリアさんの方へ向ける。
今度は多足甲虫のような魔物に取り囲まれていた。
「んがーっ!!
か・た・いっ!!
さっさと落ちなさいっつーの!!!」
文句を言いながら、ザクザクと鎌で甲虫を削っていく。
だが魔物達はお構いなしに彼女を襲う。
動きの遅い甲虫の攻撃など、リアさんは華麗にかわしているのだが――ともかく、なかなか倒れないことに苛立っているようだ。
「あちらの魔物は何と言うんですか?」
「はい、グレイブビートルです。
キラーインセクトとは逆に耐久力に特化した魔物ですね。
硬い甲殻に加え、生命力自体も高く、倒すのには相当時間がかかります」
魔族であるリアさんの巨大武器による攻撃でもなかなか倒れないのだ。
そのしぶとさは推して知るべし、である。
「――む」
話している最中、数匹の甲虫が私達を襲ってくる。
私は赫い脚鎧を装着した足で群がる甲虫を蹴り潰していった。
――説明を省いていたが、私は<魔法使い>用装備ではなく、金属製の籠手と脚鎧を纏った射式格闘術専用装備へと装いを変えている。
私としても、
「……ひょっとしてクロダさん、自慢してたりします?」
「はい?
何をですか?」
「――い、いえ、そんなわけないですよね!
忘れて下さい!」
「は、はぁ……?」
どうにも要領を得ない。
ローラさんも<次元迷宮>探索による心労が溜まっているのかもしれない。
陽葵さんやリアさんだけでなく、彼女の体調にも気を配らなければ。
「……それで、クロダさん。
ヒナタさんなんですけれど――」
「彼は彼で大変なことになってますね」
「――あの、アレは助けに入らなくていいんですか?」
「まだ大丈夫ですよ。
『欲情の呪符』がありますから、命の危険だけは無いですし」
「何度聞いても酷い名称のアイテムですね……
まあ、クロダさんがそう言うのであれば大丈夫なんだと――思い込むことにします」
なかなか正直な意見が、少し心に刺さる。
実際問題、私も『欲情の呪符』の存在が無ければ今すぐにでも助けに飛んでいくところではある。
要するに今、陽葵さんがどうなってるのかと言うと。
「くそっ! くそっ! くそっ!
あっち行けよっ! このっ!!」
自分に集ってくる
リアさんが“意図的に”多くの魔物を引き付けているものの、全てが彼女へ向かっているわけではなく。
そしてリアさんは自分の周囲に群がる魔物の対処に追われる関係上、残った魔物は必然的に陽葵さんが何とかしなければならないわけだ。
ショートカットのブロンズヘアを振り乱し、へそ出しタンクトップと尻出しホットパンツの姿(ついでにジャケットも羽織っているが)で踊る陽葵さんの様子は、ちょっと――いや、かなり艶めかしい。
肢体は黒のボディースーツで覆われているのだが、肌とは違う質感のソレが、これまたマニアックな淫猥さを漂わせていた。
それもこれも、陽葵さんが男とは思えぬ肢体を――というより、女として見てもほぼ完璧な肢体をしていることが原因だ。
まあ、おっぱいこそ無いものの、あの身体の柔らかさや華奢さ、腰から尻、太ももにかけてのラインの美しさはそれを補って余りある。
これで顔は超絶美少女だというのだから、彼を見て男だと思えというのが難しい。
それはそれとして。
「ぜ、全然当たらないっ!?
どうなってんだよ、こいつら!!」
何度やっても、陽葵さんの攻撃はまるで当たる気配がなかった。
魔物は余裕で陽葵さんの攻撃を掻い潜ると、彼の身体へ攻撃を仕掛ける。
ただ、その『攻撃』はリアさんに対するものとは少し異なり……
「だからっ! 寄ってくるなって!!
てやっ! たぁっ!
う、くっ―――――んぁっ!」
陽葵さんの声が色を帯びる。
「や、め――んんぅっ!
あ、う、あっ!――離、れろっ!!
――あんっ!」
嬌声が混じり出す。
……彼に張り付いた羽虫が、肢体を弄りだしたのだ。
「んっやっあっ――!
変なとこ、触るなっ!!
あっ! んぁああっ!!」
羽虫の脚が、陽葵さんのタンクトップの中に入り込み、ショートパンツの中に挿し込まれる。
そして、執拗に彼を嬲りだした。
「はぁっ――んんっ――あっ――!
やめろっ――やめろぉっ!!
んぁっ! あっ――あぅっ!!」
これが『欲情の呪符』の呪い――もとい、効果である。
魔物達は陽葵さんに種付けをしようと、彼の肢体を責めているのだ。
「ああぁ……あ、あんっ!
胸、いじるなぁっ……あぅっ!!
あっあっあっあっ――――んんっ!?
ダメっ! そこはっ!!」
身を捩って羽虫を振り落とそうとするも、その程度では魔物はまるで動じない。
虫達は無感情に、淡々と陽葵さんを孕ませようと『作業』を行う。
「は、ひっ――ああ、うっ――!
っ!? な、なんだよ、それっ!?」
陽葵さんが驚愕する。
彼のお尻にくっついている一匹の羽虫が、自分の体から産卵管を生やしたからだ。
これで陽葵さんの“中”に卵を産み付ける気だろう。
「――!!
やだっやだっやだっやだっ!!
離れろっ! 離れてよっ!!
このっ! このっ!――――あぁああっ!?」
なんとかその羽虫を取ろうとするも、他の羽虫に乳首を――ボディスーツの上からでもはっきりと見える胸の突起を責められ悶えてしまう陽葵さん。
そうしている間にも、産卵管は彼の尻穴に迫り――
「――?」
――ここで、羽虫が戸惑いだす。
陽葵さんの穴に産卵管が入らないからだ。
それもそのはず、彼の身体はボディスーツでぴっちりと包まれている。
しかもそのボディスーツは市場販売されている装備の中では最上級の代物。
産卵管で少し突いた程度では、破けはしない。
「んんっ! ん、おっ! お、おぉおおっ!
――は、入んないっ! そんなの、入んないっ!!
諦め、ろよっ! おっ! おおっ! おおっ!!」
入らないまでも、“入り口”を小突かれるのはかなり堪えるのか、喘ぎが激しくなる。
「――! ――! ――!」
羽虫はやっきになって、陽葵さんの後ろの穴へ『管』を刺し入れようとしていた。
それを見た他の羽虫達も、それをサポートしようと一斉に彼の下半身に集まる。
――それが、隙になった。
「――んんっ――お、おぉっ――あ、うっ――
い、今だっ!! 『クサナギ』!!!!」
羽虫達が動き、身体が自由になった一瞬を見計らって、陽葵さんは『クサナギ』――<
彼を中心とした渦状の衝撃が周囲に放たれる。
「「「―――!!」」」
彼の身体に密着していたキラーインセクト達は、逃れる暇なくその衝撃波に巻き込まれる。
高い回避能力の代わりに強度の低い羽虫は、次々と斃れていった。
陽葵さんの大金星である。
「……やった。
へへ、やったぜ!!」
自分の成果に、満面の笑みを浮かべて悦ぶ陽葵さん。
やばい、今すぐ抱きしめたいほど可愛い。
<次元迷宮>から帰ったら、徹底的に相手をして貰おう。
ちなみに補足しておくと、陽葵さんは私との新人教育終了以降、ほとんどスキルを増やしていない。
スキルの多様性を<
故に、得られたスキルポイントはスキルのレベル上げに使用している。
幾らキラーインセクトの装甲が弱いからとはいえ、黄色区域の魔物を一撃で倒せたのにはそういうカラクリもあるのだ。
――だが。
今度は陽葵さんが隙を見せる番だった。
陽葵さんは、勝利の喜びで目を曇らせてしまったのだ。
油断なく周囲を警戒していれば、自分の背後に忍び寄る
「――ひゃあっ!?」
彼が大声を上げる。
突然、背後から甲虫に伸し掛かられたのだ。
「今度は、こいつかよっ!!
あー、油断したっ!!」
甲虫を剣で突き刺そうとするが、硬い甲殻に弾かれてしまう。
そんな陽葵さんの攻撃を意に介さず、甲虫は陽葵さんの身体を這って移動し――彼の『股』部分に張り付いた。
「う、あっ!?
あ、あぁぁああああああっ!!」
途端に、陽葵さんの口から艶のある声が飛び出す。
完全にぴったりと彼の股間から尻にかけて密着しているため、甲虫が“何”をしているのか視認できないが――あの魔物もまた、陽葵さんに自分の子種を植えようとしているのだろう。
「あひっ!? あっあっあっあっあっ!!
や、止めろぉっ!! そ、そこ、いじるなぁっ!!
――んおぉおおおおっ!!?」
悶える陽葵さん。
グレイブビートルはただ彼の股でわしゃわしゃと動くのみ。
いったい、何処をどう弄っているのか。
「おお、おっおっおっおっおっ!!
んぅぅうううううっ!!」
陽葵さんの表情が見る見る蕩けていった。
甲虫の責めで感じてしまっているのだ。
羽虫によって、事前にある程度“出来上がっていた”ことも原因だろうか。
「あ、くぅ――あ、あぁああっ!!
く、そっ! 離れろ! 離れろよ!!」
快感で足元が覚束なくなっているが、それでも甲虫目掛けて剣を突き立てる陽葵さん。
先程と同じく弾かれるが、何度も何度も繰り返す。
傍からでは自分の股間に剣を刺そうとしているようにも見えるため、ちょっとアレな絵面ではあるが、しかし。
――ある一撃が甲殻の隙間に上手いこと滑り込んだ。
「よ、よしっ――――うあっ!!?
あぁあああっ!! あぅっあぅっあぅっあぅっ!?」
その直後、陽葵さんの艶声が激しくなる。
剣を自分の身に刺さり、甲虫も焦ったのだろう。
遠目で見ても魔物の動きは早くなり、今まで以上の責め苦を陽葵さんの下半身に課していった。
「ん、お、おぉおおおおおっ!!?
お、おっおっおっおっおっおっおっ!!
やだ、やだやだっ!! ちんこ扱くのやめてぇっ!!」
絶叫するも、それで甲虫の動きが止まるわけがない。
「――あっ!!?」
一際大きい叫びを上げると、陽葵さんの身体が硬直した。
そしてビクッビクッと震えだす。
「あっ! あっ! あっ! あっ!
は、入って、くる!? 入ってきちゃう!!
ん、ぐぅうううううっ!!」
“異物”の侵入を堪えるように、歯を噛み締める陽葵さん。
甲虫が彼の尻穴に“何か”を挿入しようとしているのだろうか。
魔物の動きを止めようと、陽葵さんは刺さった剣を我武者羅に動かす。
「う、あっ!!? あっ! ああっ! あぁあああっ!!!」
だがそれは、魔物の責めを加速させるだけだった。
「あぁああああああっ!!
はひぃいいいいいいいっ!!」
甲虫による猛烈な股間への刺激に――いや、虫が“ナニ”をしているのか分からないので、あくまで想像だが――陽葵さんはただただ喘ぐのみ。
瞳からは涙が流れ、口からは涎が垂れている。
「おおっ!! おぅっ!! おぅっ!! おぅっ!!
ほじられてるっ!! けつ穴、ほじられてるっ!!?
おおぉおおおっ!! おぉぉおおおおおおおおおっ!!!
い、イっちゃうっ!! オレ、イっちゃうぅっ!!
んお、んいぃいいいいいいいいいっ!!!?」
そろそろ絶頂を迎える様だ。
それを知ってか知らずか、甲虫はただ機械的に股間を弄っていく。
「やだ、やだやだっ!!
こんなのにイカされたくないっ!!
イカされたくない、のにぃっ!!
ああ、あぁぁあああああああっ!!!!」
最後の抵抗に、剣を甲虫へと深く差し込む。
――しかし、その行為はただ“それだけ”で終わった。
魔物には何の変化も無い。
「うぁああっ!! あっ!! あっ!!
出るっ!! 出るぅっ!!
あっあっあっあっ――――あぁぁあああああああああああっ!!!」
身体を小刻みに震わせながら、陽葵さんは身を弓なりに反らす。
魔物に――虫による責めで絶頂させられたのだ。
「はっ――はひっ――はっはっはっ――」
肢体を硬直させて、小刻みに息を吐く陽葵さん。
強制的にイカされたことで、白目を剥きかけている。
「あっ――あっ――あっ――――――――」
ふらふらと2,3歩歩いた後、仰向けに倒れる。
そのままゆっくりと目を閉じ、動かなくなった。
気を失ったようだ。
――しかし。
「おぉおおおおおおっ!!?
おっ!! おぉおっ!? おぉおおおおっ!!!」
突如、彼は目を見開きけたたましく叫んだ。
いったい何が起きたというのか。
……理由は明白だった。
甲虫が激しく蠢きだした。
同時に陽葵さんのお腹がぼこぼこと膨らみだす。
つまり――産卵が始まったのだ。
彼は今、虫の卵を産みつけられている。
「おごぉおおおおっ!!!?
うぐっ!! んぐぅっ!! お、ご、あ、あぁああああああっ!!!」
“下”から卵が入ってくる苦しみに、悶える陽葵さん。
手で甲虫の殻を掻き毟り、口からは泡を吐きだした。
「おっ!!――おおおっ!!!――おぉぉおおおおおおおっ!!!!!」
喉が張り裂けるのではないかという程の雄叫び。
肢体はまるで壊れたロボットのようにビクンッビクンッと大きく痙攣している。
……そして。
その叫びが消えた頃――陽葵さんの腹は大きく膨らんでいた。
「ヒナタぁっ!!!」
ここに来て、ようやくリアさんが駆けつける。
彼女の周りに転がる大量の魔物の死骸を見るに、これでも素早く片付けた方だろう。
「こんのっ!!」
鎌を大きく振りかぶり、未だ陽葵さんの股に張り付く甲虫へ振り下ろす。
……断末魔をあげることもなく、魔物は絶命した。
「ヒナタっ!! ヒナタっ!!
しっかりしてっ!!」
「――――あ、あう。
――――あ、ああ」
彼を抱きかかえ、揺さぶるリアさん。
しかし、彼からの返事は無い。
完全に気をやってしまっているようだ。
死んだ甲虫は陽葵さんから剥がれ落ちている。
張り付いていた“跡地”は――彼の下半身は、ホットパンツとボディスーツが股の部分だけ綺麗に引き裂かれていた。
そこからは、精液と謎の液体(虫の体液か?)でトロトロになった小柄なペニスと、今なお引くついている淫靡な菊穴が顔を覗かせている。
そろそろ出番か。
私はローラさんを抱くと、<射出>で宙を飛び彼らの近くへと降り立った。
「うわっ!? クロダ!!?」
私達の出現に、リアさんが素っ頓狂な声を出す。
驚きすぎて、陽葵さんを心配するのも中断させてしまったようだ。
「どうも。
脱出装置が参りました」
「……いや、話は聞いてたけど。
本当に後ろからついてきてたのね」
「ええ」
実のところ、リアさんには私が尾行していることを伝えてあった。
私達の存在が陽葵さんにバレそうになった時には、彼女にフォローを入れて貰う手筈だったのだ。
「さて、早速ですがローラさん、陽葵さんを診て頂けますか?」
「は、はい。
任せて下さい」
抱えたローラさんを地面に降ろす。
彼女はすぐさま陽葵さんに駆け寄り、彼の身体を診察しだす――その前に。
「――――」
「――――」
リアさんとローラさんが互いに見つめ合う。
しばししてから、
「初めまして、ローラ・リヴェリと申します」
「え、あ、こちらこそ、初めまして。
リア・ヴィーナ、です」
挨拶をかわしだした。
……あれ?
「――お2人は面識がないのでしたっけ?」
「ええ。
買い出しの時に行き会ったことはあるんですけど。
魔族なんだと聞いて、凄く驚きました」
「あたしも。
あんたや陽葵から名前は何度か聞いたことあるなー、ってくらい。
あのキョウヤが認める程、腕のいい薬師だったなんて知らなかったわ」
「そ、そうでしたか」
当然のように互いに知っているものと思ってしまっていた。
考えてみれば、ローラさんとリアさん、2人一緒に会ったことは無かったかもしれない。
なんということだろう!
この物語が始まって大分経つが、メインどころの2人がこれまで出会っていなかったとは!
……ちゃんと顔合わせの機会を作っておくべきだったか。
「えーと、自己紹介しておいた方がいいでしょうか?」
「え、いや、今はいいんじゃない?
ある程度はクロダから説明されてるし。
もうちょっと落ち着いた機会にやりましょ。
今は、ヒナタの治療を優先しないと」
「それもそうですね。
でも、その前に一つだけいいですか?」
「うん、なに?」
「――リアさんて、クロダさんの何なんですか?」
氷点下の声であった。
一瞬流れた和やかな雰囲気を吹き飛ばし、ローラさんは真剣そのものな顔。
「え? あの、それ、どういう――?」
「クロダさんの何なんですか?」
戸惑うリアさんへ、ローラさんは再度問いかける。
リアさんは言い難そうにしながらも、根負けするような形で口を開く。
「………………あの、その。
に、肉便器」
「――へ?」
ぼそっと呟かれた答えに、今度はローラさんが戸惑った。
「肉……え?
肉便器?」
「そ、そうよ、肉便器よ」
聞き返すローラさんに、もう一度(若干ヤケクソになって)言うリアさん。
「……………ご、ごめんなさい」
ローラさんは深々と頭を下げた。
「なんで謝るの!?」
「そ、そんな深刻な事情があるなんて露知らず。
あの、気を悪くしないで下さい」
「どうしてそんな憐れんだ目で見るの!?」
「だ、だって!
肉便器だなんて、そんなの――クロダさんに、弱みを握られているんですか?」
おやおや。
どうしてそうなるんですかね、ローラさん?
「そんなの握られてないって!!」
「じゃ、じゃあ、クロダさんから大金を借りているとか?」
「違うっ!
あたしはこいつに何の負い目もないの!!」
「そ、それでは――リアさんは、特にこれといった理由もなく、クロダさんの肉便器になったと?」
「え――いや、まあ、そういうことになる、かな?」
ローラさんの言葉のニュアンスに少し首を傾げながら、リアさんは肯定する。
それに対してローラさんは、
「………………ごめんなさい」
また頭を下げた。
「だから何で謝る!?」
「い、いえ、何でも……世の中には、色んな人がいますからね」
こくこくと頷いて、彼女は自己完結したようだ。
リアさんも納得いかないものの、これ以上話をしても泥沼になると感じたのだろう、それ以上何も言わなかった。
「あ、あのー、ローラさん?
早めに陽葵さんを診療して頂けると助かるのですが……」
おずおずと手を上げながら、私はローラさんを催促した。
気のせいか、陽葵さんの腹がもぞもぞと動いているような気がする。
素人考えだが、急いで処置した方がいいのではなかろうか。
「あっ、そ、そうですね!
すいません、ぐずぐずしてしまって!
今すぐ診ますから!」
私の言葉に、慌てて彼女は陽葵さんの診察を開始するのだった。
第二十話③へ続く