① 黒の焔亭で夕食を
今日も今日とていつも通りに迷宮掃除の仕事をこなし、帰り道でいつも通りのお店で売買をし。
そしていつも通り黒の焔亭へ食事に来た私である。
ジャンさんに『掃除屋』と呼ばれていることを教えられてから、私は自分の仕事を掃除と表現することが多くなった。
私は<次元迷宮>を『探索』などしていないし、『魔物退治』という言葉よりも『迷宮掃除』の方がしっくりくるからだ。
人からの評価というのは、なるほど、言いえて妙である。
閑話休題。
黒の焔亭の入口の扉をくぐると、早速ウェイトレスさんが――リアさんが声をかけてくれた。
「ああ、いらっしゃい、クロダ。
今、客少ないから好きなとこ座っといて」
「こんばんは。
はい、そうさせて頂きます」
「ぐぇぇええええええ………」
客入りがピークになる時間帯よりも早いせいだろう、リアさんの言う通り、店内は大分空いている。
ウェイトレスの数とお客の数が大して変わらない位だ。
私は目についたテーブル席に座った。
席につくなり、リアさんが水の入ったコップを出してくれる。
彼女の動きに合わせてサラサラと流れるセミショートの茶髪が、なんとも美しい。
制服によって強調された、形の綺麗なおっぱいも最高だ。
ミニスカートから伸びる素足は、男の目を惹きつけてやまない。
「はい、お水」
「ありがとうございます」
「ぐぇぇええええええ………」
コップを受け取りつつ、軽くメニューを眺める。
それと同時に、リアさんのスカートの中も<屈折視>で確認する。
今日は、白のショーツ。
清潔感のあるいい下着だ。
ただ、少しサイズが小さいようで、お尻の割れ目に食い込み気味。
リアさんの美しいお尻をより堪能できるので、見る分にはそちらの方が好都合なのだが。
そんなことを私が思考していると、彼女が再び声をかけてくる。
「今日は、何にする?」
「そうですね。A定食でお願いします」
「オッケー♪」
「ぐぇぇええええええ………」
「…………」
………いい加減、スルーするのも辛くなってきた。
正直余り触れたくは無いのだが、私はリアさんに尋ねる。
「あの、リアさん?」
「何?」
「そのですね、今手に持っていらっしゃるソレは…」
「ああ、コレ?」
言いながらリアさんは、持っているソレを高く持ち上げた。
「ぐぇぇぇえええええええええ………」
『ソレ』が、さらに大きな呻き声を上げる。
「コレはねぇ、鏡を使ってあたしのスカートの中を覗こうとした、バカよ」
「ぐぇぇえええええええ………」
リアさんに片手でネック・ハンギング・ツリーを極められているソレ……壮年の男性は、さらに苦しそうに呻く。
顔色が青を通り越した、土気色になっている。
かなりやばい。
「……余計なお世話であることは重々承知しているのですが、その人、そろそろ死んじゃいませんか…?」
「そうねー」
私の進言に、少し悩む素振りを見せるリアさん。
「そろそろ、お放しになっては如何かと愚考いたします」
「――ま、いいか。
このお店で死人が出るのも物騒だし」
そう言って、掴んでいる人物を下に落した。
……死人が出る、というか、リアさんが犯人なわけですが。
無論、私は死にたくないのでそれを突っ込む気はさらさらない。
「おうぅぇえ、ごほっ! ごほっ! ごほっ!」
盛大に咳き込む男性。
私はその人の背中をさすりながら、話しかける。
「だ、大丈夫ですか、セドリックさん」
「ごほっ! ごほっ! あ、ああ、クロダ君か……助かったよ」
さっきまでリアさんに吊るされていたその男性は、セドリックさん―――ローラさんのお店の常連さんだった。
何度もお会いしたことがある、顔馴染なおじさんだ(老人とは呼んで欲しくないそうだ)。
「セドリックさん……いい歳をして、何をしておられるのですか」
「止めてくれクロダ君。
その言葉は私に効く」
つい口に出てしまった言葉に、深く傷ついた様子のセドリックさん。
――自分も覗きをしていたことについては、横に置いておく。
「……お孫さんの誕生日、そろそろでしたよね」
「止めてくれクロダ君。
ちょっと涙が出てきた」
近々誕生パーティを開くそうで、私も誘われている。
「……別居していたご家族と久々に会えると、喜んでいたではないですか」
「よし分かったクロダ君。
殺してくれ」
奥さんには10年程前逃げられたらしい。
――そんな事情があって寂しいのは分かるが…
「どうでもいいけど、そろそろ金払って出て行ってくれない?
他に客はいないけどさ、正直邪魔」
私達の寸劇に、凍えつくような声色で口を挟むリアさん。
制裁の対象に入っていない私でさえ、恐怖に慄いてしまう迫力がある。
「ち、血も涙も無い言葉だね、リアちゃん!?」
「文句あんの?」
「ははは、あるわけがないじゃないか。
お金、ここに置いておくね」
「はーい、毎度」
リアさんのマジな目に本気で怯えながら、セドリックさんは逃げるように帰り支度をする。
「それじゃあね、クロダ君。
今度、落ち着いたところで一緒に飲もうじゃないか」
「お疲れ様でした、セドリックさん。
そうですね、いつでも声をかけて下さい」
私と挨拶を交わした後、彼は店を後にした。
席に座りなおして、一息つく。
そんな私に、リアさんが話しかけてきた。
「………あんたってさ、今の奴と言い、妙に色んな人と仲いいよね?」
「そうでしょうか?
私は極々一般的な交友範囲しか持っていませんよ」
リアさんが変な質問をしてきた。
一所で長く暮らしていれば、それなりの人と交流を持つのは自然なことだと思う。
「この店の客とは大体顔見知りだし」
「それはまあ、常連ですから」
黒の焔亭に関しては、リアさんが働きに来るよりも昔から通っているのだ。
この店に通う人への顔の広さに関しては、まだリアさんより上だと自負している。
「店長もあんたにやたら馴れ馴れしいし」
「そこもまあ、常連ですから」
店長――ゲルマンさんとはウィンガストに来た日からの付き合いになる。
私にとって、この町で最も親しい人物と言ってもいい。
「――最近、可愛い子と一緒に食事してること、多いし」
「ああ、その人は………?」
何だろう、この一言だけ、他とニュアンスが違うような?
リアさんの目が、少し鋭くなった?
気のせいだろうか。
「……その人は、何?」
「え、ああ、はい。
その人はエレナさんと言って、最近お付き合いのある新人冒険者パーティーの一人なんですよ。
冒険者をやっている期間が長いだけの私を不思議と慕ってくれて、色々話を聞いてくるのです」
「ふーん、そうなんだ。
まああたしには関係ないけどさ。
……で、なんでそのエレナって子だけうちの店に来るの?
他にも人いるんでしょ、そのパーティ」
関係ないと言いつつ、興味ありげに尋ねてくるリアさん。
「エレナさんが<魔法使い>だからですよ。
同じ<魔法使い>同士でアドバイスがしやすいというか」
「へー、そうなんだ。
……あんまり興味があるわけでも無いんだけど、そのエレナのパーティーって他はどういう人たちなの?
全員女の子とかじゃ……」
興味が無いと言いつつ、深く突っ込んで聞いてくるリアさん。
そういえば以前、冒険者という職に興味があるというような発言をしていた。
その時は店長によって有耶無耶にされたが、彼女の中にはまだ冒険者になりたい欲求があるのだろうか。
「エレナさんのパーティーで、女性はエレナさんだけですよ。
他は幼馴染の男性で――」
「幼馴染の男?」
リアさんが、私の言葉が終わるより先に反応を返す。
「幼馴染の男とパーティー組んでるわけね、その子は」
「え、ええ、そうです」
彼女の勢いに少し押される私。
どうしたというのだろうか。
「なんだなんだ、幼馴染同士のパーティーか、そうかそうか。
うん、もうこの話はいいや」
何やら、リアさんの中で決着がついた様子。
私には何が何やら分からないが…
「納得頂けたようなら何よりです」
「うんうん。
それじゃ、注文伝えてくるからちょっと待っててね」
そう言うと、彼女は店の奥へ――店長がいる厨房へと歩いて行った。
お尻をフリフリっと揺らしながら。
ミニスカート姿でもその仕草は堪らないというのに、<屈折視>で中を覗いた日にはもう…!
繰り返してしまうが、本当に良い形の尻をしている。
セドリックさんが覗きたくなる気持ちも分かるというものだ。
程無くして、
「お待たせー」
リアさんが、頼んだ料理を運んできてくれた。
「おや、早いですね」
彼女が厨房に向かってから、まだ然程時間は経っていないというのに。
「なんか店長、クロダが来店したのが分かった時点で料理作り出してたみたいよ。
あんたの注文は大体予想がつくって。
気持ち悪い位ツーカーよね、あんた達」
「気持ち悪いたぁなんだ、気持ち悪いたぁ!
男同士の熱い友情だっつぅの!」
厨房の方から声が店長の声が響いた。
リアさんの言葉は、店の奥まで届いていたらしい。
熱い友情は否定しないが、実際のところ、私が毎日頼んでいるパターンを覚えているのだろう。
「うわぁ、聞こえてたんだ店長」
「今は客も少ないですからね。
その分、声もよく響いたのでは?」
「あー、そうかもね。
店長の悪口言うときは気を付けないと」
……悪口を言わない方向で気を付けられないものだろうか。
まあ、私がとやかく言うことでも無いので、早速定食を頂くことにする。
せっかく店長が気を利かせてくれたのだから、冷めない内に堪能しよう。
「あっるぇ、先輩じゃないっスか!
チワーッス!」
私が食事を味わっている(流石、美味い)ところへ、声をかけてくる男が居た。
「おや、柿村さん」
「ウッスウッス。
お久しぶりッス」
男は私の前に来ると、丁寧に頭を下げて挨拶してきた。
彼の名前は、
歳は私よりも2つ下で、確か24歳だったはず。
名前から分かる通り、私同様に現代社会から来た<訪問者>だ。
やはり私同様に、冒険者をしている。
言葉振りや外見はちょっと軽い感じだが、これでなかなか芯の通った好漢である。
「ええ、お久しぶりです。
迷宮探索から戻られたのですね」
「いっやぁ、今回はチョッチ長く潜っちゃいまして。
すぐ美味い飯食いたかったから、走ってここまで来たんスよぉ。
……あ、相席いいスか?」
言うや否や、私が返事をする前に隣の席に座る柿村さん。
私としても特に拒否する理由は無いが。
「それは大変でしたね。
どうでした、探索の成果は?」
「へっへっへ、聞いて下さいよ先輩。
自分、今回の探索でCランクに昇格したんス!」
柿村さんはそう言いながら、冒険証をかざして自分のプロフィールを見せてくる。
そこには、確かにCランク冒険者であることが表記されていた。
「おお、おめでとうございます。
これでもう、冒険者としては一人前ですね」
「いやー、どうもどうも。
これも先輩の指導のおかげッスよ」
「私は別に大したことをしていないじゃないですか。
ランク昇格は柿村さんの努力の賜物です」
柿村さんがウィンガストに来てから2週間ばかり世話をしただけだ。
彼は未だに義理堅くそのことを感謝してくれる。
「いやいや、先輩あってこそ自分スよ。
……あ、先輩の方こそ最近どうッスか?
迷宮、行ってます?」
「いつも通りですよ。
初心者用区域で小銭を稼いでいます」
「うっはっ!
まだあんなの続けられてるんスか!
やっぱ先輩パネェッ!」
彼が私へ尊敬のまなざしを向ける。
Cランクへ昇格した彼に比べれば、全く持ってしょうもない冒険者生活を送っているのだが…
こんな風に無条件で自分が持ちあげられると、むず痒さを感じてしまう。
「柿村さん、私をおだてても何も出てきませんよ?」
「何言ってんスか!
先輩がやってることなんて、他の奴らじゃできないッしょ?」
「初心者用区域で魔物掃除をしているだけなんですが」
「先輩の場合はスピードがパナイんですよ。
先輩が一日で回ってるルート、結構上の方のパーティーでも2、3日はかかるッスよ、回りきるのに」
「まあ、そうかもしれませんが…」
それはあくまでも私が初心者用区域だけを延々と潜り続けて、探索の動きを最適化した結果である。
他の冒険者も、私と同じようにやれば同じ結果が得られると思う。
新しい場所を行く、新しい物を発見する、という冒険者の本懐から盛大に外れた行為なので、誰もやらないだけで。
そんな風に談笑していると、リアさんが注文を取りに来た。
「いらっしゃーい。
ご注文は何ですか?
………てなんだ、あんたか」
後半、露骨に嫌な顔をするリアさん。
「おおっとー?
マイエンジェル・リアちゃんじゃないッスか!
今日もお美しいっ!」
逆に、テンション上げ上げになる柿村さんである。
「はいはい。
で、注文は?」
「C定食で!
……でもね、一番注文したいのは、リアちゃん、キミなんですよ?」
言って、リアさんの腰に手を回そうとする柿村さん。
彼女はその手をバキッと肘打ちで叩き落としてから、
「はい、C定食ね。
ちょっと待ってて」
すげなく、注文を店長へ伝えに行った。
残された柿村さんは、殴られた(払われた、というほど可愛い代物ではなかった)手を摩りつつ、
「あいつつつ……相変わらずリアちゃん、激マブッスね!」
文句を言うでもなく、彼女の後姿を目で追っている。
……あの手、赤く腫れ出してるけれど、折れてたりしないだろうか?
「柿村さん、今もリアさんにお熱なんですか」
「勿論じゃないッスか!
あの美しい立ち姿に綺麗な声、可愛らしい笑顔、もう、最高ッスよぉ!」
さっきのやり取りで、リアさんは一度も彼に笑顔を見せていなかったが。
どうも柿村さん、リアさんに一目惚れしてしまったらしく、この店に来てはモーションをかけている。
最初のうちは客だからということで丁寧にあしらっていたリアさんなのだが……
最近は見ての通り、そっけない扱いだ。
「めげないですね、貴方も」
「当然ッスよ!
別に拒否されたわけじゃないッスからね。
押して押して押し切ってやるッス!」
あの対応をされて『拒否されてない』と思っているのか…!
しかし彼の真っ直ぐな瞳を見て、その想いを否定する気にはなれない。
――このポジティブシンキング、私も見習いたいものだ。
「そうだ、自分なんかのことより、先輩どうなんですか?
上手く行ってます?」
「……上手く?」
急に何のことだろう?
「とぼけっちゃって、もー!
ローラさんですよ、ローラさん!」
「何故ここでローラさんの名前が?」
柿村さんの話の展開についていけない。
「何故って……付き合ってるんでしょ、先輩とローラさん」
「………は?」
何を勘違いしているのだろう。
「いえいえいえいえ、私と彼女はそういう関係ではありませんよ」
「そんなこと言っちゃってー。
あんだけ親しくしてて、何も無いなんてこと無いでしょー?」
柿村さんの勘違いは続く。
「本当に何も無いんです。
余りそういう話をしないで下さい、変な噂が立ったらローラさんに迷惑がかかってしまいます」
「ローラさんに迷惑なんてぜっっったい無いッスよ!
彼女こそ先輩にべた惚れしてるじゃないッスか!」
「またそういうことを…」
「本気で気づいてないんスか!?
傍から見たらバレバレですよ?」
自らのの見解を力強く述べる柿村さん。
全く、的外れにも程がある。
大体、相手が惚れてるだのなんだのは、男側からの一方的な思い込みなのだ。
「ローラさん、先輩からの一言を待ってるんですよ!
『自分と一緒になろう』って言葉を!」
「あんまり私をからかわないで下さい…」
確かに私はローラさんをよく抱くが。
それは彼女が『迫られたら断れない』性格だからだ。
彼女からしてみたら私など、彼女の身体に群がる幾多の男の一人に過ぎない。
「………先輩、結構ガチに鈍いんすね…」
そんな私の思いを知ってか知らずか、がっくりと肩を落とす柿村さん。
まだまだ誤解をしているようなので、それを解くために私が口を開こうとしたところで、
「はい、お待たせ、C定食」
リアさんが料理を運んできた。
「おお、早いっすね、リアちゃん。
……はっ、これはもしかしてリアちゃんの愛の力…!?」
「んなわけないでしょ。
店長、あんたが店入ったらすぐ料理始めてたのよ。
注文は大体予想できるって。
なんかもう……気持ち悪いわ、あんたら」
「気持ち悪いたぁなんだ、気持ち悪いたぁ!
男同士の熱い友情だっつってんだろ!」
「おお、店長!
久しぶりに来た自分のことをそこまで想っててくれたんスね!」
奥から聞こえてくる店長の言葉に、感激している柿村さん。
……どこかで聞いたやり取りである。
ひょっとして店長、常連の皆に同じこと言ってるのか?
この男たらしさんめ。
「それじゃごゆっくりー」
手をひらひらしながらその場から去ろうとするリアさんに、柿村さんが追いすがった。
「待った待ったリアちゃん。
今自分ら以外に客いないじゃないッスか!
ちょっとお話していきましょうよぉ!」
「はぁ?
なんであたしがそんなことを…」
必死な柿村さんに対して、リアさんは冷たい。
「せ、先輩、先輩、ヘルププリーズ!」
「……そうですね、私も偶にはゆっくりリアさんとお話ししてみたいです」
柿村さんからの要請に、とりあえず私からもお願いしてみる。
こんな言葉でリアさんの考えが変わるとは思えないが。
すると、リアさんは深くため息をついて、
「はぁ……まあ、クロダがそういうなら」
意外にも、柿村さんの提案に乗ってくれるらしい。
言ってみるものだ。
リアさんは私達のテーブルにある席に座った。
「……で。
話するって言っても何を話すの?」
いきなり絡みづらい台詞をぶっ放してくるリアさん。
もう少し歩み寄りの姿勢は期待できないものか。
「そッスね、じゃあ自分が今からリアちゃんへの愛の言葉を――」
「さ、お仕事お仕事」
「待ってぇぇえええ!!
じゃ、東京!
東京の話しましょ!」
「トーキョー、かぁ。
それなら、聞いてみてもいいかな」
柿村さんの方へ向き直るリアさん。
一応、彼女の興味を引くことには成功した模様。
「二人とも、そこに住んでたんでしょ?」
「そッスよ」
「鉄でできた馬……ジドウシャが走ってて、別の所の風景が映るテレビっていうのがあって」
「そッスね」
「魔物とか強盗とか居なくて治安は凄くいいんだよね。
ユウエンチとかスイゾクカンとかドウブツエンとか、遊ぶところもいっぱいあって」
「…えっと、あ、ハイ…」
「すっごい高い建物も多いんだってね。
最近じゃ、スカイツリーっていうのが一番高い建物なんだっけ?」
「……仰る通りで」
おいおい、この人尽く話題を潰しにかかってきているぞ。
ウィンガストの町には東京から来た<来訪者>がそれなりの人数いるので、この町の住人は結構東京について詳しかったりする。
ファンタジー世界の住人と思って舐めてかかってはいけない。
「あの、逆にですね。
リアさんが何か知りたいことは無いですか?」
あんまりな流れに、助け舟(になるか分からないが)を出す私。
「知りたいことねぇ。
………そういや、あんた達って向こうでも知り合いだったんだっけ?」
「そ、そうッス!
自分と先輩は学生時代からの仲で!」
喋りやすい話題になって、俄然やる気が出る柿村さん。
今彼らが言った通り、私と柿村さんは同じ高校の出身で、部活も同じだった。
彼が私の事を『先輩』と呼ぶのは、これが理由である。
高校を卒業してからも彼との付き合いは続いたのだが……まさか異世界に来てまで縁があるとは思わなかった。
「へー、どうだったの、学生の頃のクロダって」
「そりゃ先輩は学生の頃からパネェッスよ。
喧嘩ふっかけてきた他の学校の奴らに自分らを率いて殴り込みかけに行ったり、女の子にセクハラする嫌味な教師をボコボコに追い詰めて辞めさせたり。
他にも、近所迷惑な暴走族を鉄パイプで――」
「あの、柿村さん?」
私の黒歴史を暴くのは止めてもらいたい。
何か、他に無かったのだろうか、人様に教えても問題ないような話は…!
「……クロダ、前にあんた、自分がつまらない奴だって言ってた気がするけど」
ジト目で私を見つめながら、リアさんが告げる。
「いや……ウィンガストでならともかく、東京ではこれ位日常茶飯事ですよ?」
「そうなんだ――あたし、トーキョーってもっと平和な町だと思ってたわ」
私の(苦し紛れの)説明に、リアさんは納得してくれたようだ。
「ああ、勿論先輩の武勇伝は学生時代だけじゃ無いッスからね。
何年か前にも、トラックに轢かれそうになった女性を助けたり――」
……………
「あー、柿村さん?
さっきから私のことばかり話してますよ?」
リアさんに自分をアピールしたいのではなかったのか。
「ああっ!?
しまったつい先輩の話ばっかりを!
チョッチ待ってリアちゃん、今から自分のスゲェ話を――」
柿村さんが話題の修正を行おうとした矢先。
「おーいリア!
話し込んでるとこ悪ぃけど、仕込み手伝ってくんねぇか!?」
「あ、はーい」
店長からお呼びがかかり、あっさりリアさんは行ってしまった。
「………あぁぁぁぁ……」
がっくり肩を落とす柿村さん。
「元気出して下さい、次がありますよ次が」
「……そッスよね!
よっしゃ、戻ってきたら何の話題で…!」
私の励ましであっさり回復する柿村さん。
本当に彼のポジティブ思考は羨ましい。
とはいえ、周りを見ると少しずつ客の入りが増え始めた様子。
リアさんが戻ってきても、お喋りをする余裕は無いかもしれない。
さて、私の方は食事も済ませたので、そろそろ帰る準備を―――と思ったが。
「あ、すいません、ちょっとお手洗い行ってきますね」
「ションベンッスか?
どうぞどうぞ、行ってきて下さい」
突然尿意が襲ってきたため、私は帰る前にトイレへ向かうことにした。
第三話②へ続く