『ヌォオオオっ!?』
龍の足元で、大規模な地崩れが発生した。
バランスを崩し、『
「はっはぁっ!! 神様も足場崩されりゃ転ぶってか!!?
いやぁ、まだまだ現役いけるかな、俺もよぉっ!!」
巨大な大剣を大地に突き刺したまま、豪快に笑っている。
「て、店長っ!?」
予想外の登場に、私は素っ頓狂な声を上げてしまう。
アンナさんが協力者を募っているのは知っていたが、まさか店長だとは!
「おう、クロダか!
お前なぁ、こういうことはちゃんと説明しとけよ!!」
「す、すみません!?
しかし、こんな危険な場所へ立ちいらなくとも!!」
「なぁに言ってやがる!!
ダチの
それに、役に立つだろう、俺は!?」
確かに。
あのゲブラーの行動を妨げてくれたのだ。
値千金の仕事である。
というか、ここまで店長は強かったのか!
「っていうか、アチシが渡したドーピングアイテムのおかげなんだけどにゃー」
「おいこらアンナぁ!!
いきなりネタ晴らしするんじゃねぇよ!!」
「自分の手柄みたいに言われると不愉快なんだにゃ!?
ゲルマンちゃんにあげたアイテム、総額幾らになると思ってんの!?
全部消耗品だからもう戻ってこないし!!」
横から急に説明するアンナさんと、怒鳴り合いする店長。
な、なるほど。
マジックアイテムの中には、一時的に身体能力を増加させる物もある。
店長はそれを使っているらしい。
しかも、アンナさんの反応を見るに、相当高価な品のようだ。
――と、その時。
『ヌゥウウウウウウッ!!?』
龍が雄叫びをあげた。
攻撃のためのものではなく。
その逆。
ゲブラーが、攻撃を食らっているのだ。
無数の『黒い刃』が、龍に襲い掛かっている。
「ふむ、傷を負った様子は無し。
……まあ、驚かす程度のことはできるか」
「――カマルさん?」
私のすぐ傍らに、黒の焔亭で最近働き出した女魔族――カマルさんが立っていた。
こちらの方は見ず、今しがた使ったスキルの戦果を確認している。
「貴女も、手助け頂けるのですか?」
「
そう言ってから、カマルさんは私の方を向く。
「クロダ・セイイチ。
一つ、取引がある」
「何でしょう?」
今の状況、協力して貰えるなら何でもするが。
「お前の、子が欲しい」
「はい?」
私に子供などまだ居ないが。
たぶん。
「言葉が足りなかったな、某にお前の子を産ませて欲しい」
「理由を聞いてもいいでしょうか」
「某は、強い雄と子を儲けたいのだ。
ゲルマンの所へ居ついたのも、それ故のこと。
あの男の種で孕もうと考えていたのだが、“勇者より強い雄”がすぐ傍にいるなら話は別だ」
強い視線を私に送るカマルさん。
「そうでしたか。
分かりました、その話、お受けしましょう」
即、了承する。
寧ろ、願っても無いことだ。
何人だって孕ませてあげよう。
「なんか、ひっでぇ会話をしてるにゃあ。
今がシリアスな場面だって分かってんのかにゃ?」
ぶつぶつとアンナさんが呟くが、私もカマルさんも無視。
「契約成立だな。
では、某も微力を尽くす」
「よろしくお願いします」
会話が終わると、カマルさんは懐から青色の飲み薬を取り出した。
それをぐいっと一口で飲み干す。
すると、彼女の身体から、目に見えて強い魔力が――黒い靄が発された。
その“靄”を凝縮させて刃と為すと、ゲブラーに向かって投げつける。
「ふっふっふ。
カマルちゃんも何の惜しげもなくアイテムを使ってくれるにゃあ……
アレ、一本幾らするか知ってるのかにゃあ、知らないんだろうにゃあ……」
横で泣いている猫には、取り合わない。
アイテムによる
店長とカマルさんは散開し、それぞれ遠距離攻撃スキルを用いて龍へと仕掛けていく。
それを援護するように、商店の皆さんが射撃支援を行う。
『――小賢しい!!』
だが、それで時間を稼げたのは、最初だけ。
すぐにゲブラーは、彼らの攻撃を意に介さなくなる。
不意を突かれたからこそ動揺しただけで、奴にとっては蚊に刺された程度の威力でしかないのだろう。
龍の口に再び光が濃縮されていく。
阻止すべく全員が攻撃していくが、ゲブラーは止まらない。
『終わりだ』
――
巨大な、赤い光の塊が、私達を飲み込むように迫ってくる。
そこへ、
「<
「<
今度は、2つの声が。
光塊の進行が止まり、その場で拡散していく。
しかし、拡散されて弱まった“光”でも我々を砕くには十分である。
そこへ、私達それぞれの前に光輝く障壁が生まれた。
障壁は、ゲブラーの光を悉く遮る。
このスキルは――
「やっほー!!
クロダの旦那、まだ生きてるぅー!?」
「ふざけてる場合じゃないでしょ、サン。
敵は六龍なんだよ?」
見覚えのある2人が現れる。
一人はサンさん――もとい、三下さん。
もう一人はミーシャさんだ。
彼らが居るということは。
「――借りを返しに来たぞ、デュスト!!」
そんな雄叫びをあげながら、ゲブラーへ突っ込んでいく一つの影。
幾らなんでも今のゲブラーに接近戦は無謀……
「うぉおおおおおおおおっ!!!」
『ぬぐっ!? なんだ、お前は!!?』
……斬っていた。
兄貴さんは、刀身が輝く刀を手に、ゲブラーを滅多切りにしていた。
凄まじい速度で動き回り、龍の腕や尾による攻撃を全て掻い潜っていく。
<
速度だけなら、デュストのそれに勝るとも劣らないのでは!?
「生き生きとしてるなぁ、兄貴。
まるで水を得た魚のようだぜ。
こいつぁ、血の雨が降っちまうぜぇ?」
「これだけ大量のブーストアイテムを、お金のこと気にせず使える機会なんてそう無いからね。
さっき、手酷く負けたばかりの相手ってこともあるし。
アーニーも、大分昂ってるんでしょ」
丁度良く、2人が解説してくれた。
アレもまた、アンナさん提供のマジックアイテムによるものらしい。
ちなみに、ゲブラーは非実体なので、仮に斬れたとしても血は出ない。
「だぁああありゃぁあああああっ!!」
さらに斬りまくる兄貴さん。
彼の斬撃でも龍に変化は見られない。
しかし、他の攻撃を無視しているゲブラーが、兄貴さんへは注意を払っているところを鑑みるに。
身体へちょっとした負荷はかけられているのだろうか?
単に周囲をうろちょかれてうざったく感じているだけ、とは考えたくない。
考察をしている横で、アンナさんと三下さんが話しだした。
「……少しはお金のことも気にして欲しいんだがにゃあ。
誰が出資してると思ってんの?」
「おお、アンナの姉御!
この度はあっしらの治療ありがとやんした!
へっへっへ、頂いた給金分は働きやすぜ!」
「にゃ? あちし、君に給料は払ってないはずだがにゃ?」
「そういうこといきなりバラすの止めてよぉ~!
あっしが善意で働いてるのが皆にバレちゃうじゃーん!
あっしが仲間を傷つけられたことへの怒りと、クロダの旦那への友誼で六龍との戦いに赴いた正義の勇士だってことがバレちゃうじゃ~ん!!!」
…………。
いや、実際、そうなのだろうけれど。
色々台無しだよ、三下。
「クロダ」
アンナさんと三下さんとが話し合い(?)をしている中、ミーシャさんが私に話しかけてきた。
「身体がまだ治ってないみたいだね?」
「ええ、ポーションでの回復はスキルよりも効果が遅いですからね」
返事をすると、ミーシャさんは私の身体を抱きかかえてきた。
「――何を?」
「大丈夫、じっとしてて。
君は僕が治すから――ね?」
口を近づけ、耳元でそっと囁くミーシャさん。
私の身体を擦りながら、熱い眼差しを向けてくる。
私は、何となく察した。
「ええ、お願いします、ミーシャさん」
「任された。
だから――
「ええ、
楽しみにしていて下さい」
「――うん」
そこでミーシャさんは顔を上げた。
大きな声で、三下さんへと話しかける。
「サン!
僕がクロダを治療するから、その間、龍の攻撃が来ないようにして!!」
「うっしゃあ、任されたぜ、ミーシャ!!
お礼はデート一回とかでいいのよ!?」
「考えとくよ!」
「おお、思ってた以上に色よいお返事!!?
頑張っちゃうぜ、あっしはぁ!!」
俄然やる気になって、龍へと向かっていく三下さん。
とはいえ、兄貴さんのように接近戦を挑むわけでは無い。
<
本来はスキル発動を邪魔する<盗賊>の暗技なのだが、スキルを一切使用しない龍に対しても、『龍の吐息』等の“技”の効果を減じる形で影響が出るらしい。
これは、かなり嬉しい誤算だった。
「なんだかドロドロとしたやり取りを見てしまった気がするにゃあ。
どうなってんだよ、クロダちゃん周りの男女関係」
アンナさん、深い詮索はしないで頂きたい。
戦闘は膠着した。
こちらの攻撃はほとんど成果を挙げていないものの、ケブラーからの攻撃もどうにかこうにか凌げている。
少しでもバランスが崩れれば一瞬で崩壊しかねない状況を、『膠着』などと表現していいかどうかについては議論の余地があるか。
当然、怪我人も次々と出てきており――
「怪我した人は、一旦後ろに下がって治療するんだにゃー!」
アンナさんはそんな指示を飛ばしたものの。
「人手が足りねぇにゃあっ!?」
すぐ頭を抱えることになった。
無理もないことであった。
こちらの人数も、そう多くは無いのだ。
この戦いの目的が“龍の打倒”などという大それたものであることを考えると、寧ろ極少人数しか集まっていないとすら言える。
スキルでの治療を専門としているのは、<
「あの、私もお手伝いをして良いでしょうか?」
そんなアンナさんに声をかけたのはローラさんだった。
「私は<
他の人が使うより、アイテムの効果を高められます」
「……うん。
ありがとにゃ、ローラちゃん!」
アンナさんは少し悩む素振りを見せたが、ローラさんの申し出を快諾した。
「よし! じゃあ、オレも!!」
「ヒナタちゃんは後ろに下がっててにゃあ」
「…………」
ローラさんに続いた陽葵さんは、あっさり断られていた。
仕方ない。
彼が前に出ると、
ローラさんが加入して、癒し手の問題はかなり緩和された。
<錬金術師>は、アイテムの効果を高めるだけでなく、それを複数人に作用させたり、遠方の相手へ効果を及ぼしたりと、アイテム関連スキルに特化した職業だ。
潤沢にマジックアイテムが揃えられているこの状況では、下手すれば高ランク冒険者よりも役に立つ。
「
そちら、スピードアップをガードアップを飛ばします!!
「待って! 待ってにゃ、ローラちゃん!!
そんないっぺんにアイテム使わないで!!
もう少し惜しんで!! お願いにゃから!!!!」
猫の心労は多少酷くなったが、そこは我慢して欲しい。
それに、一応持ち直しているものの、それはあくまでアイテムの大量消費によるもの。
補給されない以上、どんどんアイテムは無くなっていく。
いつまで、戦線を保てるか……
「ざっけんじゃないってーの!!!」
突如、大声が轟いた。
リアさんだ!
彼女も、来てくれたか!
次の瞬間、黒い雷を纏った
自我を持つかのように動き、龍を切り刻んでいく。
「あー、もう!! あー、もうっ!!!」
またリアさんの声。
前線で戦い者達の頭上に、暖かな光が降り注ぐ。
彼らの傷が、瞬く間に治癒された。
攻撃と回復、両方を一気に済ませたのか。
凄いぞ、リアさん!
「クロダぁっ!!」
戦場に現れた彼女は、私を名指しで呼びつけた。
「なんです?」
「なんです?、じゃない!!
なんで、なんで説明してくんなかったのよ!!!
おかげで、あたしは、あたしは――!!」
怒りの形相で私へ糾弾するリアさん。
はて、何かあったのだろうか?
「ううぅぅうう、とんだピエロに――!」
リアさんが、下を向いて頭を掻きむしりだした。
どうしたというのか。
「とにかく!!
これ、終わったら話があるから!!
怒りたいこととか、怒って欲しいこととか、色々あるんだからね!!!」
「え? はい、分かりました……?」
どうにも要領を得ないが、今は気にしている場合でも無い。
リアさんはリアさんで、言うだけ言ったらすっきりしたのか、ゲブラーの方へと視線を移す。
「<次元迷宮>の探索で鍛えられたあたしの実力、見せてあげるんだから!!」
……うん、それは元々、陽葵さんを鍛える目的でやっていることなんだけれどもね。
結果オーライではあるが。
「いや、リアちゃんもブーストアイテム使ってるから本来の実力と違う――まあ、いいんけどにゃ」
隣で諦め交じりのため息を吐いて、アンナさんがぼそぼそと愚痴を零していた。
戦いは続いた。
六龍という、とてつもない敵を相手に。
ほとんど寄せ集めに近いメンバーで。
なんとか、戦いを続けられていた。
ゲルマンさんと三下さんの会話が聞こえる。
「おう、どうした兄ちゃん!!
早く<術理妨害>を使え!!」
「おぇっぷ、も、もう無理っす。
アレ、基本一日一回だから。
特殊なポーションで回数増やしてるんですが、もうお腹の中たっぷんたっぷんで。
これ以上飲めないっす」
「何言ってやがる!!
お前のソレはこっちの生命線だろうが!!
意地でも飲むんだよぉっ!!」
「止めて!! 止めて、おっさん!!
そんなに入らないのぉっ!!」
決して怪しいことをしているわけでは無い。
ローラさんとミーシャさんの会話が耳に入る。
「……治療するのに、そこまで密着する必要がありますか?」
「あるよ」
「そんな話、聞いたこと無いですけれど」
「君はまだ
浅はかな知識で判断して貰いたくはないね」
「…………そうですか」
あ、ローラさんの額に青筋が浮かんだ。
アンナさんとカマルさんが私達を指さしている。
「あそこの2人に、さっきのカマルちゃんとクロダちゃんのやり取りを聞かせてあげたら面白いことになりそうだにゃあ」
「止めてやれ、武士の情けだ。
某としても、障害が多いとヤり辛い」
そうして頂けると助かります。
兄貴さんとリアさんの会話が……
「うぉおおおおおおおっ!!」
「てぇええええええいっ!!」
……この2人は、一切互いに会話せず、龍を斬っていた。
いや、貴方達はもう少し会話した方がいいのでは?
最前線のツートップなのだから。
不思議と息があってるので、無理強いはしないけれど。
『――貴様ら』
突然、ゲブラーの声が、周囲に響いた。
怨念の籠った、重い声。
『我を“舐める”のも、そこまでしろ!!!』
頭の中身が揺さぶれるような、大音量の絶叫。
ローラさんや陽葵さん、商店の人々など、戦闘に熟練していない人々が立ち竦んだのが見えた。
と、同時に、ゲブラーの
いかん、これまでの『吐息』とは規模が――!?
「ぜ、全員退避にゃー!!!」
アンナさんの号令。
それを合図に、その場の誰もがゲブラーから離れた。
だが、離脱は間に合いそうにない――?
「<
「<
ミーシャさんとリアさんの声が重なる。
聖と魔、2つの属性の障壁が、全員を包み込む。
遅れて、龍の赤光が迫る。
それは視界を赤で染めていき――
綺麗に更地となった街に、ただ一匹、ゲブラーは立っていた。
誰もが倒れ伏しているのを見渡して、呟く。
『ふん、所詮はこんなものだ、人間など――』
「それはこちらの台詞だ」
リアさんとミーシャさんのスキル、そして『戦神の鎧』のおかけで、私の被害が最も少なかったようだ。
直前まで治癒を受けていたのも良かった。
それでも無傷とはいかないが、動くことに問題はない。
私は、ゲブラーへと言葉を投げつける。
「こんなものだ、六龍の力など。
お前は、未だに誰も殺せていない」
『……そのようだな。
だが、だからどうした?
死ぬのが数秒遅くなるだけだ』
私の台詞に、奴は認識を改めた。。
そう、まだ死んでいない。
アンナさんの素早い合図が功を為したのか、傷の程度の差はあれど、皆生きている。
「
今のお前に」
『とうとう頭がおかしくなったか、クロダ・セイイチよ。
虫の息となった者を殺すなど、造作も――!?』
そこで、ようやくゲブラーは察したようだ。
自身の異変に。
爪の先が、尻尾の先端が、少しずつ崩れ始めていることに。
『これは――!!』
「お前は、私達がただ闇雲に戦っていると思っていたようだな」
といっても、この現象を起こしたのは、我々の攻撃によるものではない。
ゲブラーに、私達の攻撃は通用しない。
それは、
ならば何故、無駄と知りつつ戦闘を続けたのか。
元々、ダメージを与えることを目的としていなかったのだ。
私達は、ただ“戦闘を長引かせること”を目的に、戦っていた。
「私達は、お前の力に、依り代であるデュストが
ゲブラーは強い。
仮にも神なのだ、強いという言葉が陳腐に見える程、強い。
まともにやり合えば、勝ち負け以前に勝負にならない程、力がかけ離れている。
しかし、六龍が世界に干渉するためには、依り代の存在が必須。
そして先述した通り、龍の力を完全に発揮できるのは、陽葵さんの身体だけなのだ。
デュストでは、依り代として不十分なのである。
そんな身体で、龍の力を使い続ければ。
人の形態ならばともかく、龍の形態となり、膨大な力を振るい続ければ。
デュストの身体が限界に到達するのは、火を見るよりも明らかだ。
事実、龍の内部に浮かぶ彼の身体には、あちこちに“罅”が入っていた。
『そんな、貴様、まさか、まさか――!』
わなわなと震えるゲブラー。
これで、奴は終わりだ。
依り代を失っても完全に無力化されるわけではないが、これ程の干渉はもうできまい。
後は――
――そこで、気付いた。
困惑しているとばかり思っていたゲブラーは、嗤っていた。
醜く顔を歪ませ、私を嘲るように嗤っていたのだ。
『まさか、
「――何ッ!?」
直後、ゲブラーが飛んだ!
巨体に似合わぬ速さで、一直線に飛んだ!
目標は、遥か後方の陽葵さん――!?
『馬鹿め!
デュストの限界など、とうに把握していたわ!!
こやつの身体が崩壊する? 何の問題がある!
ここには、室坂陽葵が居るのだから!!!』
迅いっ!!
思えば、奴は龍の形態となってから、大きく移動はしなかった。
それは、私の油断を誘うためだったのか。
自分のスピードを私に把握させぬよう、敢えて動きを制限していたのか!
いかん、陽葵さんは、先程の攻撃によって気絶している。
彼を逃がすことも、できない!!
ここに来て、私の方が出し抜かれるとは!!
『はは、はははははぁっ!!
残念だったな!!
我はこれより魔王の息子を依り代とする!!
こやつがいれば、もはやデュストなど用済みよ!!』
陽葵さんの傍らに降り立つと、ゲブラーの光がデュストから抜けていく。
そして、一際眩しい光が彼の身体から出現した。
おそらく、アレがゲブラーの『核』。
六龍の、存在の根源。
ソレは、ゆっくりと陽葵さんの身体へと近づいていき――
『――ア?』
“止まった”。
まるでデュストの身体から離れるのを拒むように、
「そう、つれないことを言うな」
“デュスト”が喋った。
離れた私にも聞こえる声で、もう身体が崩れかけているデュストが喋り出した。
『デュスト!?
貴様、まだ意識があったのか!!?』
「7年も、一緒に過ごしたんだ。
もう少し、付き合っていけよ……!!」
デュストは、核を掴んでいた。
必死の形相で、何としてでも離すまいと。
彼は、顔を私に向ける。
精一杯に声を張り上げ、私に檄を飛ばしてきた!
「今だ、クロダ・セイイチ!!!
やれぇえええええっ!!!」
「心得たぁ!!」
ここが、勝機!!
「うぉおおおおっ!!」
前方に、手をかざす。
<射出>の精密操作を始める。
――風の檻を展開。
――分子の無限加速、開始。
――分子衝突によるエネルギー、発生。
私の目の前に、膨大な雷光が現れる!
『何をするかと思えば!
今更、“
ゲブラーの嘲りは、そこで終わった。
私がその雷光の中に、
分子衝突で発生したエネルギーが、『戦神の鎧』に――その脚部へと吸収される!
『おおおおおおお――っ!?
それは――!!? それは――!!?』
莫大なエネルギーが、右脚へと凝縮される。
――
黄金色に輝き、雷光を迸らせる、右脚。
その状態のまま、私はゲブラーに向かって“跳ぶ”!
空中で身体を捻り、跳び蹴りの姿勢に体勢を固定。
そして――<射出>!
己の身を、奴に向かって<射出>させる!!
一度の<射出>では終わらない!
<射出>の力場で加速した身を、さらに<射出>で加速させる!
まだまだ<射出>!!
激突の瞬間まで、自身に<射出>を使い続ける――!!
<射出>!
<射出><射出>!
<射出><射出><射出>!
<射出><射出><射出><射出><射出><射出><射出><射出><射出>――!!
「ううぅっ、おぉおおっ、りゃぁああああああああっ!!!!!!!!」
我が身を光の矢と化し。
ゲブラーの核へと、突き立てる。
奥義之壱、“爆縮雷光”
奥義之弐、“風迅”
――
決戦奥義、“疾風迅雷”
ウィンガストの街に、天空を貫く雷の柱が現れた。
その中心には、“赤い光”が鎮座している。
『…………な、に、が』
“光”が、言葉を発した。
『――疾風迅雷だぁっ!!!!』
怒号が、周囲の空気を震わせる。
“光”は明滅しながら、言葉を続けた。
『殺せると思ったのか!!!
人の身で、六龍を!!!
殺せるなどと、思いあがったのかっ!!!』
言う割に、“龍の身”を保てぬほど、消耗したようだが。
しかし、“疾風迅雷”で止めを刺せなかったのも事実。
とはいえ。
まだ、
『――ア、ウッ!?』
“光”が、呻いた。
『な、なんだ、
“赤い光”の表面に、“青色の文字”が浮かびあがっている。
私は、そこで“光”に話しかけた。
「それが何なのか。
お前が、一番知っているはずだ。
何せ――
『クロダ・セイイチ!!』
私の存在に、向こうも気づいたようだ。
だがそれより、ゲブラーは“文字”が気にかかるようで――
『――これは、ケセドの“契約文字”!?』
「その通り」
早々に答えへ辿り着いた。
いちいち私が説明するまでも無いのだが、一応解説してやる。
「契約の内容は、こうだ。
“六龍が魔素によって歪められた時、その“神格”を消去し、存在を浄化する”」
『――な、に?』
“光”が狼狽しだした。
自分がどうなるのか、想像できたのだろう。
ケセドによる契約の力は絶対だ。
それは、ケセド自身すら覆せない程。
“疾風迅雷”とは、『戦神の鎧』に
『ふざけるな!
消える!? 消えるだと!?
我の存在が、消えるというのか!?』
「六龍が消えるわけではない。
お前が――現在、ゲブラーと名乗っている思考パターンが消去されるだけの話だ」
『それは、消えると同義だ!!』
「魔王の息子にやろうとしたことと、同じだろう?」
『違う!!
同じなわけがあるか!!
我は六龍だぞ!!
遥か昔よりこの六龍界を守護してきた神なのだ!!
1人の人格が消えるのとは、その重さが違うのだ!!』
「同じだよ」
寧ろ、私にとってはゲブラーが消えることの方が重要度は低い。
仲間と敵の価値など、比べるべくもない。
『そも、何故、貴様がこの“文字”を使える!?
これは、ケセドにしか使用できぬ、権能のはずだ!!』
「少し考えれば分かると思うが?」
『――!!』
考えが及んだのか。
“赤い光”は強く明滅し出した。
『う、裏切ったのか、ケセドォっ!!!!!!』
怨嗟の叫びが辺りに木霊した。
まあ、好きなだけ泣き喚けばいい。
もうすぐ、終わるのだから。
「――そろそろのようだな」
“赤い光”から感じる
感じられる力は変わらないが、刺々しさのようなものが消えていく、と言えばいいのか?
『あ、あ、嫌だ。
消えたく、無い。
我が、どれほど永き時を生きたと思っている――?
消えたくない、今更、消えたくなど、無い――』
「散々生きて、好き放題してきたのだ。
もう、終わっていいだろう」
『嫌だ、嫌だ、嫌だ。
消えたくない、死にたくないのだ。
死にたく――死にたくな――――――――』
それを最期に、ゲブラーの声は聞こえなくなった。
後に残ったのは、ただ純粋な“赤き光”。
“光”はゆっくりと移動し――遠く離れた場所で倒れる、陽葵さんの身体へと吸い込まれていく。
大丈夫だ、これは問題ない。
六龍の力で陽葵さんの人格が壊れるというのは、あくまで龍の“神格”によるもの。
それが消えた、ただの“力”を仕舞い込む分には、陽葵さんに悪影響は無い。
「――という、触れ込みだったのだが。
本当だろうな?」
まあ、信じる他ない。
そのまま放置するには、危険極まりない存在なのだから。
「さて。
まずは……早急に、皆さんを治療しませんと」
意識がある人もちらほらと居るようだが、自分で動けるのは私だけのようだった。
痛む身体に鞭を入れると、覚束ない足で歩き出す。
ともあれ。
赤龍ゲブラーとの戦いは、こうして終了を迎えた。
第二十四話 完
(――ここは、どこだ?)
デュストは、暗闇の中に居た。
ここが、どこなのか分からない。
自分がどうなっているのか、分からない。
(――クロダ・セイイチは、大丈夫だろうか?)
龍を、己に巣食ったゲブラーを、倒すことができたのだろうか。
いや、ゲブラーだけではない。
他の勇者に取り付く龍達とも、彼は戦わねばならないのだ。
容易な道のりではないだろう。
その手助けをできない自分が、実に情けない。
……そんな時、声が聞こえた。
「デュスト」
「……キョウヤ、様?」
聞き違えるわけが無い。
あの人の声を、デュストが間違うわけが無いのだ。
姿は見えないが、キョウヤはすぐ傍に居る。
「……キョウヤ様。
僕は、貴方のお役に立てたでしょうか?」
デュストは、どうしても聞きたかった質問をキョウヤへ投げかける。
相手の位置が分からないので、ただ声を出しただけだが。
しかし、返事はしっかりと返ってきた。
「ああ、赤龍ゲブラーは斃れた。
お前のおかげだよ。
……ありがとう、デュスト」
それは、デュストにとって至上の喜びだった。
キョウヤから、お褒めの言葉を頂けるとは。
「――ああ、光栄です、キョウヤ様」
良かった。
胸のつっかえが取れた気分だ。
それはきっと、後に残る者が、成し遂げてくれるはず。
(キョウヤ様なら――クロダ・セイイチなら――きっと、やってくれる)
デュストは、最期にそっと微笑んで。
満足げに、その生涯へ幕を下ろした。
完