「……で、結局どうなったの?」
「青果の定期購買のお願いだった」
さて、今回は特別にエンシェイさんのお宅に招待してもらっています。
とはいっても、ここは東京キングダム内にあるエンシェイさんの仮拠点らしい。
周りにある無数の魔界産植物がここが東京キングダム内だということをいやが応にも主張してくる。
「どうやら、娼館で出す食べ物のクォリティを上げるためにも、うちの果物は使いたいんだって。
露店でこまごまと出す量じゃ足りなくて、もっと大々的にうちの果物を店内で扱いたいらしい。
いままでは何とか魔界のゲートを使って、ごまかしていたらしいけどそろそろ限界らしいんだ」
「ふ~ん、ノマドに呼ばれたって聞いたときはどうなるかと思ったけど。
案外、大丈夫そうね」
さて先日ついにあのラスボス所属の東京キングダム最大の組織【ノマド】に目をつけられてしまった。
が、その結果は非常に穏やかなものであった。
一応、その求められた量がトンレベルを3日に1度など個人経営者に求める量ではないが、その程度の無茶をどうにかできるのがチートのいいところ。
金さえ払ってくれるならきっちり仕事はして見せます。
「あ~、でもちょっとだけ件のエドウィン・ブラックに会えるかな~とか思ったけどね。
交渉相手は別にイングリッドでもない、名も知らぬ普通の魔族のおっさんだったよ。
内心ちょっとだけ、噂の最強吸血鬼を見てみたかったけどね。」
「何をバカなことを言ってるの。
あいつから流れてくる情報はどれも本当にろくでもないわよ?
魔界で平和に過ごしている種族全員拉致して改造、虐殺したとか。
暇つぶしのためだけに魔界の大貴族にケンカを売って皆殺し。
わざと一番強い一人だけ残して遊んでるとか。
関わるだけで絶対ろくなことにならないわよ」
どうやら、対魔忍シリーズのラスボスこと【エドウィン・ブラック】は想像以上にヤバい相手のようだ。
確かに【ノマド】ほどの組織が魔界にないかと言われればそんなことはない。
そして、【エドウィン・ブラック】より強い魔族が存在しないかと言われればそんなことはない。
けど、【ノマド】ほど巨大な組織を持ちつつ本人も強力で、かつどこにでもちょっかいをかけるほど動きが激しい上位魔族は【エドウィン・ブラック】しかいないとのこと。
要するにキ〇ガイに刃物ってことだ。
「でもま、あなたの無事祝いにこれをプレゼントするわよ」
そういってエンシェイさんはこちらに1本の植物の苗を渡してくる。
「……これは?」
「この間、あなたから買ったマンゴーの苗を少し品種改良してね。
より病気に強くより大きな実を実りやすく、いくつかの魔界の植物と掛け合わせてみたわ」
そう渡された植物がシュルシュルとこちらの方につたを伸ばしてくる。
そして、まるでなつくかのようにつたの先端をこちらの指に絡めてくる。
植物なのに勝手に動くのは、流石ファンタジーといったところか。
自分の能力で木は無限増殖みたいなことはできるとはいえ、素直にこういうのをプレゼントしてもらえるのはうれしいものだ。
大切に育てよう。
「……にしても、やけにこの子私の体に絡んでくるね。
やっぱり、意識をもってたりする?
なんか小動物みたいでかわいいねぇ」
「ええ、その通り。
特にその子は女性の愛液が好物だから。
夜のお供にも最適よ」
手に持つ鉢を思いっきり窓に向けて投げ飛ばした。
そんなこんなでエンシェイさんと仲良くしたり、某娼婦と仲良くなったりなど脱出のために日々情報収集へ勤しむのであった。
残念ながらノマドへの情報収集はあまりうまくはいってなかったが、それでも良好な関係を続けられていると思っていた。
実際、果物の搬入は1度たりとも失敗したことないし、トラック1つ寄越さず急な大量発注などの無茶もかまされたことはあるが、どれもぬかりなく解決した。
むしろ、そういう大変な注文の後はボーナスがもらえるならこちらとしても万々歳であったのが本音だ。
そうしていい感じにお金が溜まり、東京キングダムからの脱出がかなり現実的になった時、それは訪れた。
「くくく!ノマドに入りたくば、俺様の愛人となれ!
俺の直属の配下となれば、権力、力、金が思いのままだ!
どうだ?悪くない話だろう?」
何を言ってるんだ、こいつは。
それはそこそこお金がたまり、東京キングダムでもそれなりの金持ちと知られるくらいになった時の出来事である。
以前からノマドには東京キングダムの外への伝手について頼んでおいたのだが、ついにそれについての目途が立ったと報告があったのだ。
なのでその夜、ほいほいとノマドへの呼び出しに応じたのだが、その結果がこれだ。
「いえいえ、私程度の女が魔族の中でも一流と呼ばれるあなた様に仕えるなど。
とてもとても恐れ多いです」
「ふはははははは!まぁ確かにかつて私の一族はあのエドウィン・ブラックに仕えた高位魔族に仕えた一族。
私はその中でもエリート故、このように城一つ任されているほどの猛者!
あの対魔忍すら手玉に取る私の下につくのは確かに恐れが多いかもしれん。
だが貴様にはその体を合わせれば多少俺の目にかかるくらいの価値はある、誇るがいい!」
社交辞令ってやつだよ!察しろよ!
それにその自慢、毎度毎度思うけど親戚の親戚がすごい奴ぐらいの説明に聞こえてあんまりかっこよくないぞ!
そう言いだしたい気持ちをぐっと抑え、仕方なく話題を転換する。
「……それより、今回はここ東京キングダムの外に目立たずに出る方法があると聞いてきたわけですが……」
「ああ!我が部下となれば、それなりの功績を示せばいい。
我が組織ノマドはすでにいくつかの外への侵入ルートや国外へのルートを確立している。
そして、この俺に役に立てば、本州遠征部隊へとお前を推薦してやってもいい、悪い条件ではないだろう?」
いや、それ悪い条件だから。
そもそも魔族と偽ってはいるものの、自分は普通に人間だ。
なので、ここからは目立たずに脱出することが目的であり、別に魔界の地上侵略とかそういう目的で東京キングダムから出たいわけではないのだ。
その他いろいろなことを考えてもこいつの話に乗るメリットは微塵も感じられなかった。
「……すいませんが、今回のお話はご縁がなかったということで……」
「貴様ぁ!!俺に逆らうつもりか?」
沸点低いな、おい。
「いえ、そういうわけでは……」
「なら、貴様との青果の継続購買の契約を切ってもいいのだぞ!」
「……なら、仕方ありませんね。
いままでお世話になりました」
「は、はぁ!!」
件の男魔族が困惑と驚愕の声を上げるが、こちらとしては渡りに船であった。
そもそも最近はこちらは自分の能力の使いこなしが順調に向上してるのだ。
おそらく、そう遠くないうちにこのたっぷり貯めたお金と自分の能力を使いこなせれば、
と、なるとむしろ脱出する際に足がつくであろうこいつらとの繋がりは逆に枷に近い。
むしろいつ契約の停止を言い出そうか迷っていた位だ。
「おい!おまえら、ちょっと相手しろ!」
自分が席を立ち帰ろうとすると、件の男魔族がぱちりと指を鳴らした。
すると、部屋の外で待機していたであろう無数の武装済みオーク達が部屋の中になだれ込んできた。
「……これは、一体どういうことですか?
もしかして、脅しているつもりですか?」
「別に、恐らく十分に体が火照っているはずですからねぇ!
我が娼館が対女性サービスもしていることを教えてあげようかなと!
……まぁ、多少手荒ではあるが、それもサービスのうちだ」
何というべたな展開。
自分の周りにいるオークたちが性欲に狂った眼をしながら、涎を振りまく。
こん棒から拳銃まで様々な武器を持ちながら、ビール瓶並みの股間の一物を見せつけるかのように勃起させている。
上の武器も下の武器も準備万端というやつか。
「げっへっへ!そういうわけだ!悪いなねーちゃん!」
「あの【水蜜】を犯せるとは……噂通り桃みたいなうまそうな体しやがって!」
「ううう!いつも親切に世話まで焼いてくれたキー姉さんに恩を仇で返す……
なんという罪悪感と背徳感!!……うっ!!」
実にオーク、まさにオークである。
ただし、一番最後の奴はうちの店によく来る奴のくせにこれとか、絶対に許さん。
「いくら貴様がそこそこできるらしいといっても、これだけ数相手にはどうにもならんであろう!
それに我慢しているようだが、この部屋に漂っている香のおかげで既に我慢の限界であろう?
いまなら、特別に土下座をすれば、オークではなく俺様が抱いてやらん事もないぞ?」
この部屋に漂うなぞの甘い香りの正体はこれか。
だが残念ながら、こちとら毒の類は効きにくいのだ。
しかし、最初部屋に入った時点でこの罠が発動していたことを考えるに、どうやら向こうは初めからまともに交渉する気はなかったようだ。
ならば、こちらも容赦をする必要がないだろう。
そろりと腕を伸ばし、目の前にある机をべきりとその一部をもぎ取る。
この自分の細腕から出たとは思えない剛力に一瞬周りが硬直する。
その隙に、その机片を握りしめ【ゴミを木に変える能力】を速やかに発動する。
「なっ!貴様抵抗を……うぼあぁ!!」
その瞬間、部屋が樹木に埋め尽くされる。
ありえない速度で成長する樹木が部屋を縦横無尽に広がり、その枝や蔦で周りにいる件の男魔族を含めたオーク共の動きを拘束する。
もちろん、ただの拘束ではオークの怪力で破壊される可能性があるのでうまく関節を決めつつ、武器を取り上げる。
自分の能力の使いこなしもなかなかのものになったようで、一瞬の最低限の能力の使用で部屋にいた全部の敵の動きを止めることができた。
さて、あとは残った件の男魔族だが……
「こ、降参だ!!おれが、俺が悪かったから!!
ゆるしてくれ、許してくれ!!」
驚くほど変わり身が早いな、おい!
樹木に埋もれ、体を拘束された魔族の男がそう叫ぶ。
パワーはないようで、この一応はただの丈夫な木材レベルの拘束を破れていない。
「……まぁ、別に命までは取らないし、ノマドとは無駄にいざこざを起こすつもりはない。
だけど、先に契約を切ったのはそちら。
ゆえに以降、互いに不干渉、いいね?」
「わ、わかった!わかったから!!
そ、それでいい!それでいいから!!」
ここで下手に追撃や恨みを買って、変な因縁をつけられるのも馬鹿馬鹿しい。
こちとらさっさとここ東京キングダムから足を洗い、元の平穏無事な生活に戻りたいのだ。
こうして自分とノマドの関係は多数の金銭のやり取りをした後、驚くほどあっさりと短く終わったのであった。
そのいざこざから数日後に……
「あなたが、【水蜜】の魔族、キーですね。
あなたが無数の殺人や人身売買、対魔忍の調教奴隷化及び人々への魔改造に関わっていた事実は既に把握済みです。
この七瀬舞、直々に成敗してあげましょう」
なんと、対魔忍から刺客が送られ、命が狙われるのであったとさ☆
……なんでや!!!
よく考えたら、オーク以外の男も大体死んでるかザーメン出してるかだった