えー、前回の更新でなんかスイッチ入ったのか、それともそんな時期だったのか、なんとか書けました。
しかし、楽園は失われたは全5話の予定だったのですが、今回予定の部分までいけませんでしたので、急遽全6話に変更です。申し訳ない。
あと、元々楽園シリーズはえろ書きたさに考えた話ですから、1話につき1エロは書きたかったんですが、予定のとこまで進まなかったもんで書けませんでした。ちくそう。
まあ、そんな感じですが、ではどうぞ。大体しーたんの脳内日記④に対応している話です。
シスイが妊娠した。
その報を聞くなり、イタチはその場から飛び出し、木の葉病院へとその足で向かう。
母であるミコトと共に木の葉病院へと向かったことは判明しているのだ、そこにいる確率が最も高いだろう。たとえ入れ違いになっていたとしても、急ぎの用件も抱えていない今は気にならなかった。
それまでは瞬身の術を使用して病院までの道程時間を短縮していたわけではあるが、それでも病院内でまでそんなものを使うわけにはいかなかったため、病院内に入るなり、イタチは他者に迷惑にならない程度の早歩きに切り替えて、病院の受付へと向かった。
「すみません、本日検診を受けに来たうちはシスイはまだこちらにお世話になっているのでしょうか」
その言葉に、看護師らしき中年の女性は「うちはシスイ……って、ああ、あの子ね」と呟いた後、こう言った。
「あの子なら緊急検査中です」
「何?」
確かに最近シスイは体調が悪そうではあったが、緊急検査とは、なんとも穏やかではない。妊娠したというだけではなかったのか。
「なんでも診断中に気を失われたとか。他にも問題がありそうでしたし、このまま検査入院となるそうですから、今は面会謝絶中となっています」
その言葉に少しだけ考え込むようなそぶりを見せた後、少年は相変わらずの年齢に似合わぬ落ち着きと物腰で次のことを訊ねた。
「そうですか……お手数おかけしますが、シスイのこと宜しくお願いします。ところで、彼女の付き添いで今日来ていた母……うちはミコトはどちらでしょうか?」
「ああ、ミコトさんなら……」
そういって看護師に案内され、イタチはシスイの検査室の前の待合の椅子で母ミコトと再会した。
イタチを見つけたミコトは少し動揺しているような顔をしながら、息子を見つけるなり立ち上がり、小声で話しかけた。
「イタチ、シスイちゃんが」
「ああ、聞いている」
それに落ち着かせるような声で冷静にイタチは返すが、寧ろそんな我が子の態度にミコトは疑問でもあったらしい。なんとも言えない顔をしながら、それでも話を続けた。
「あの子、妊娠2ヶ月ですって……」
「そうか……」
そこでふと、イタチは口元にうっすらと笑みを零す。
その笑みの意味に母としての勘でか気付いたのだろう、ミコトは目を見開きながら、どこか震えるような戸惑うような声で言葉を漏らした。
「イタチ、貴方、まさか……」
「ああ」
母には先に話しておくべきか。シスイの妊娠について少し何か誤解をしているようでもある。そう思ってイタチは真っ直ぐにミコトに視線を合わせてそれを言い切った。
「シスイの腹の子の父親はオレだ」
その言葉に思わずミコトはかける言葉を失う。
イタチとシスイの間に子供が出来る事を期待していなかったかといわれればそれは嘘になる。それは確かだ。けれど、シスイはともかく、イタチはまだ12歳なのだ。
確かに、昔から早熟で酷く大人びた子であった。それは我が子ながら接しづらいと感じる時がないとは言えぬほどに、子供らしさからは最も遠い子供だった。たった1年でアカデミーを卒業し、10歳で中忍、其の半年後には暗部入りという異彩を放つ経歴も、我が子としての誇らしさよりも先に本当にこの子は子供なのだろうかとミコトをしても思わせるものがあったのだ。
それを思えば12歳であろうと、性知識に問題があるとも思えないし、とっくにイタチを大人扱いへと切り替えてきていた自分達夫婦が言えたものではないのかもしれないが、それでも“12歳”とは本来子供なのだ。
あまりに、早すぎる。
シスイを妊娠させた相手が、弱冠12歳の少年であると誰が思うというのか。
故に、シスイの妊娠の報はシスイが診断室で倒れ、緊急検査に切り替えられてミコトが診察室を退出後直後に、彼女自身の手によって一族へと伝えられたわけであるが、まさかイタチが妊娠させたのだとは思っていなかったものだから、「悪漢に孕まされた」かのように情報は伝達されている。
「……結婚前に手を出すなんて思っていなかったわ。あの人、カンカンよ」
夫のフガクは気難しく、感情表現が下手で不器用な人なためわかりにくいが、それでも息子の婚約者であるシスイのことは、彼女が忍びとして優秀だったことを差し引いてもそれなりに気に掛けていた。それは第三次忍界大戦で両親を失ったシスイに、息子の婚約者という立場を与え後見人となったことからも伺える部分だ。
まあつまり、実の娘とまではいかずともそれと似たような感情をシスイに抱いている。
それが妊娠したと聞き、その婚約者たる息子はまだ12歳となれば、誰か第三者に襲われたと考えてしまってもおかしな話しではなかった。
「そうですか」
その辺りはイタチも理解しているのだろう、静かな声と顔で頷く事でわかっていることを示す。
そんな息子にため息をついて、気が抜けたようにミコトは備え付けの椅子に座った。
「それで誰がシスイを妊娠させたかについてだが……」
その晩、緊急会議として開かれた一族の会合で真っ先に話しに上がったのは当然のように妊娠してしまったうちはシスイについての話だった。
いや、正確にいうなら、シスイを妊娠させた男は誰なのかという話というべきか。
たかが小娘1人の妊娠に大げさなと思うかも知れないが、これはそれほど簡単な話ではない。
何故ならうちはシスイは「瞬身」の異名を持つ写輪眼を開眼したうちは一族の人間だからである。
元々写輪眼というのはうちは一族でも一部の家系のものしか開眼しない血継限界の1つであり、全てのうちは一族の人間が開眼出来るとは限らない能力なのである。
故に貴重。
写輪眼を持つ者ならその血を残すのは義務のようなものであり、優秀なものであればあるほど其の責務と期待もまた重い。
うちは一族総纏めを務めるうちはフガクの息子で麒麟児たるうちはイタチと、その祖父は2代目火影の千手扉間に重宝されていて、本人もまた瞬身の異名を取る幻術使いのうちはシスイが婚約者となったのも、その辺の事情を鑑みれば当然の成り行きでさえあったくらいだ。
彼女の妊娠については寝耳に水もいいところだったが、出来たというのなら、その子供についてのほうが一族としては余程重要だ。
孕ませた相手が同じうちは一族ならばまだいい。それなら子も血継限界を持ち合わせて産まれてくる可能性が高い。
しかし、これがどこの馬の骨ともつかぬ輩ならまた別なのだ。貴重な血を無駄にするなんてそれこそ一族としては考えられぬ愚行であるのだから。
勿論、孕まされた時の状況にも因るが、シスイにとって不可抗力の末に暴力によって孕まされたのであれば、一族の威信にかけて相手の男に仕返しを果たし、シスイには悪いが腹の子も潰す。
逆に自らの意志で、どこの馬の骨ともわからぬ輩と交わった末の妊娠だったのならば、一族に泥を塗った代償を彼女自身に払って貰うことになる。それは最悪……子を産む機械となる未来か、命でもって償ってもらうということだ。
一族の承諾も得ずに子供を作るとはそういうことなのだ。
そんな中話し合いははじまった。
「悪漢に襲われたんじゃないのか?」
「しかし、それほどシスイは弱くはないだろう。あれでいて忍びとしての力量は折り紙付きだ」
「けど、シスイちゃんだぜ? 任務中はともかく、普段は結構抜けてるっていうか、人疑わないとこあるからなぁ……騙されてヤられても不思議じゃないと思うけどな」
そんな大人達の会話を、離れた場所でイタチは内心不快感を持て余しながら聞いていた。
イタチはシスイの婚約者である。
とはいえ、同時にまだ12歳の少年でもある彼は、話題の中心がシスイについてであるにも関わらず、今回の件に関して関わりは薄いとして遠い席へと追いやられていた。
同じような席に配置されている周囲の女性陣からは、まるで「恋人を寝取られた哀れな少年」みたいな同情の視線を向けられている。
本当は今すぐにでも、シスイを孕ませた相手とは自分であると暴露したかったのだが、それを言える雰囲気でもなく、またその発言権をまだイタチは与えられていなかった。そして其の空気が読めないほどイタチは子供でも自己主張が激しい性分でもない。故に今は黙っているしかなかった。
そう思う間にも大人達の勝手な会話は続く。
数年前に流れた売春をしていたという噂は本当だったんじゃないのか説をあげる人間もいれば、実は内緒で付き合っている男が居てそいつに捨てられたんじゃないのかという男もいた。
そんな中それらの無責任なうわさ話に対し、耐えていたイタチに対して、フガクは「皆の意見はわかった。ところでイタチ、お前は何か知らないのか」と待っていた言葉を彼に投げかけた。
勿論、そこで言うべきタイミングを誤るイタチではない。
彼はすっと背筋をピンと伸ばしたかと思えば、皆の視線が集まる中、いつも通りの沈着冷静な声でそれを告げた。
「そのことでみなさんに話があります」
その子供らしからぬ落ち着き払った雰囲気と言葉を前に、知らずまわりはイタチの存在感に飲み込まれる。
そんな、言葉の効果が最大限に発揮されるだろう中で、イタチはそれを告げた。
「シスイの腹の子の父親はオレだ」
その言葉に、一瞬何を言われたのか理解出来なかったのだろう、周囲は言葉を失った。
そんな一族のみんなの顔を見渡しながら、イタチは殊更ゆっくりと、今度はきちんと皆が理解出来るように再度繰り返しそれを口にした。
「オレが彼女を孕ませました。間違いありません」
その言葉に、集会場にざわめきが戻る。
まさかの僅か12歳の少年による告白に、大人達に動揺が走っていた。
「ほ、本当にしたのか?」
まず、始めにイタチに比較的近い位置に座っていた10代後半の少年が問う。それにイタチは「はい」と完結に答え、質問の内容を肯定する。けれどだからこそ信じがたい気持ちのほうが高かった。
確かに12ともなれば精通は来ている確率のほうが高いだろう。自分達が12歳の時のことを思えば、出来ないとはいわない。
なにせこの年頃というのはそういう興味が強くなる頃でもあるし、戦場に立っていれば闘争本能への刺激から子孫を残す本能もまた強く機能する。戦いのあと女を無性に抱きたくなるのと同じだ。増して、イタチは幼くして大人と同じ道へ入り、今は暗部として常に働いている。したいと、そう思ったとしてもそれは自然の成り行きではないか?
しかし、12歳とは本来子供なのだ。普通の子供は、12歳で相手を孕ませたとしてもその責任なんて取れないだろうし、性行為が子供を作るための行為であることを認識出来ているかさえ怪しい。寧ろ、快楽のための行為としか思っていない可能性が高い。膣内射精することさえ、「ただそのほうが気持ちいいから」と後先考えずの行為である場合が殆どであろう。そう、この年齢ならば。
しかし、今この少年は、相手の女を孕ませてしまったことについて、全く怯えることもなく、恥じることもなく、ただ単に事実を言っているという口調で、自分が腹の子の父親であることを告白した。
異常だ。
いや、元からイタチは普通の子ではなかったが、これほどとは思いたくなかったのだろう。見苦しくも別の男もそれに類する質問を続ける。
「シスイちゃんのほうから誘ってきたのか?」
普通に考えれば、12歳と19歳が交わったとなれば、年上である女のほうから誘ったと思うほうが通常である。故に出た質問に対し、しかしイタチは変わらぬ冷静な声で言葉を返す。
「いえ、オレの意志で抱きました」
そのあまりの気負いのなさが、逆に真実を語っていて、それでも尚信じられず、また別の男が問うた。
「本当は抱いて欲しいって言われたんじゃないのか」
「いいえ」
そこから2、3の似たような質問が続いたが、イタチが出す答えは全て同じだった。
そしてイタチは言った。
「オレがシスイを抱いたのは一時の気の迷いではなく、孕ませるつもりでした。子供を作るつもりで、オレはあいつを抱きました」
それはとてもじゃないが、12歳の子供の宣言とは思えないものだったといえるだろう。
それでも、その言葉には真実の響きがあった。故に、それまで黙って成り行きを見ていたうちはフガクが立ち上がり、イタチの元に向かっていることに止める者もまた誰もいなかった。
「……今言った言葉に、間違いはないな? イタチ」
「……ああ」
次の瞬間、フガクの容赦ない拳がイタチの右頬へとめり込み、まだ軽い少年の体は衝動で吹き飛ばされた。
受け身を取れなかったのではなく、受け身を取らなかったらしい。周囲を巻き沿いにしながら吹き飛ばされたイタチは、殴られた頬を庇うでもなく、まっすぐに父親を見ながら、見苦しくないよう体を起こした。
それと同時にフガクの怒声が鋭く飛ぶ。
「まだ、籍も入れていないうちから手を出すなど何事だ!」
「……」
「確かに婚約者だったとはいえ、やっていいことと悪いことの区別がつかぬほどお前は愚かだったか! そもそもいくら暗部とは言え、年齢的にお前はまだ子供だ。子供が子供を作るなど以ての外だ!」
その後続いた言葉の全てを、イタチはただ粛々と受け入れた。
「まあ、でもイタチで良かったんじゃないのか?」
とりあえず、30分以上に及ぶフガクのイタチに対するお叱りの言葉と制裁を見ていて冷静を取り戻したらしい、比較的年長の男がポツリと呟く。
イタチの年齢が年齢故に腹の子の父親とは思われず、問題となったが、よく考えたら元々シスイとイタチは婚約者という関係であり、あと数年もすれば婚儀も行われる予定となっていた。
それに、19歳といえば妊娠適齢期である。歳を取ってから子を作るよりも若いうちに作れるなら作っておいた方が良い。腹の子の父親がイタチとなれば、イタチの年齢以外の問題など元からこの2人にはないのだ。
「まあ、優秀な一族の男女に子が出来たなら、めでたいことだな」
「よし、今日はお祝いだ」
「挙式はいつにする?」
そんな風に最後は祝い事モードで其の日の会合は終わった。
イタチにとって、シスイの懐妊は嬉しいことだった。
元よりそれを狙っていたのだ。自分の子供を身籠もってくれたことは嬉しい。これで家族となれる。一族にも腹の子の父親が己であることを認めさせることが出来た。
残る問題といえば自分の年齢ぐらいのものだったが、それでもそんなものは時間が解決してくれることなのだからそこまで気に止めるものでもないだろう。
最も……籍を入れる前に手を出してしまったことについては、父の言葉のほうが正論だと思ったからそのままそれを受け入れたが、あの時手を出したことについてはさほど後悔はしていない。
寧ろ、あの時手を出さなかったらあいつらに彼女があんな目にあわされていたということに対する事実の発覚も遅れただろうし、最悪、もしかしたらシスイを妊娠させた相手はあいつらになっていたのかもしれないのだ。それを思えばゾッとする。
一族は孕ませた男達を許しはしなかっただろうし、同時にたとえ脅されていたのだとしても3年も彼らに屈した彼女の事もまた許さなかっただろう。自分もまた、事件の詳細を知らなければ赦せたかは少し怪しい。
だが、あの事件のことはイタチと三代目を除けば殆どのものが事実を知らない。
シスイがあのような目にあっていたことを、うちは一族を含め周囲のものに話すつもりはイタチにはない。だからこれでいいだろう。あんなことを知られ、精神的にも辱められていくシスイなど見たくないし、愛しい女をそんな目に合わせる気もない。
あれは、自分達の胸にしまっておけばいいのだ。
彼女には何も起きなかった。
シスイを抱いたのは、婚約者である自分だった。
だからただ、予定を前倒しにしただけ、それでいい。
そうして式の日を迎えた。
「シスイ、大丈夫か……?」
「…………」
だが、問題は簡単には済みはしなかった。
妊娠してからというもの、シスイは痩せ憔悴していくばかりだった。
理由はイタチにはよくわからない。
医者が言うには悪阻が酷いからとのことだが、悪阻だけで果たしてこんな風になるものなのだろうか? イタチには彼女の身に起きた現象は精神的なものが大きいように見える。
痩せ衰え、食事すら碌に摂取できない其の様は、妊婦と言うよりも重病人のようにしか見えない。
妊婦とは言え、シスイは妊娠初期である。例え妊娠していたとしても、この時期なら元気に動く妊婦などいくらでもいるし、実際元気な者なら妊娠出産直前まで働くものもいるだろう。大体暗部でも妊娠6ヶ月くらいまでは普通に任務に就いているものも多い。
妊娠したことで出る症状は千差万別であり、症状の重い者と軽い者を同列に扱うのは愚行ではあるが、それにしてもここまで妊娠したというだけで酷いことになるとはイタチは思っても見なかった。
だが、実際問題としてシスイの症状はかなり深刻なため、最初に検査入院したあの日から彼女は休暇の取り扱いとなっている。
でもそうして何もしていない「出来ていない」ということも、彼女の心には負担となっているらしい。フラフラの体のまま家事を手伝おうとしては母であるミコトに止められている。だが、そうして止められる度に、罪悪感と自己嫌悪に満ちた顔をするのだ。
それは、元気だった昔の彼女を知っているからこそ、余計に痛ましい姿だった。
元々シスイは大抵のことは自分でなんでもやったし、人に頼ることは殆どない人間だったのだから、こんな風にたとえ体調が悪い事が原因だろうとただ気遣われ、世話されること自体がなんとも耐え難いことのようだった。
だからといって、あんな危うく、食事や睡眠さえまともに取れない人間を1人で放り出せるわけがないし、あんな状態でなにかしらの仕事や手伝いを頼めるわけがない。そんな悪循環が成立していた。それをどうにかする術をイタチは持っていない。
下手をうてば、彼女か、腹の子か、どちらかの命が簡単に失われるだろう。そう確信させるには充分過ぎるくらいにシスイは弱っていたのだ。
どうして、縋ってはくれないのだろう。
(オレはそんなに頼りないか……)
助けて、その一言さえ、イタチは聞いた事がない。
それはあの、初めて抱いた日のことさえそうだった。
嫌だと、止めろとそうは言ったくせに、助けてとは一度も言わなかった。
夫婦となったのに、何度も体を繋げたのに、なのにあまりにもこの溝は遠い。
やがて妊娠5ヶ月を迎え、精神的にもより一層不安定になったシスイはなんでもないことでも、急に怯え、泣き、軽いパニックを起こして、時には自分の髪を掻き毟るなどの自傷行為が見受けられるようになってきた。
腹こそ膨らみを帯びているが、他の部位については逆に痩せていくばかりで、手首の細さなど折れそうなほどだ。
それでも、パニックを起こしても物や人に当たらないあたりがシスイらしいといえばシスイらしくはあったのだが、寧ろだからこそまずいのかもしれないともイタチは思う。
引きつけを起こしたシスイを押さえようと、彼が彼女の体を抱き締めれば、シスイはイタチを傷つけないようにだろう、涙をボロボロ零して泣きじゃくりながらも、それでも指先を丸めて、自分の掌に爪を食い込ませて暴れそうな自分を抑えていた。
そうして彼女の白い手が血まみれになるのを、イタチは彼女が収まるまでただ待つしかない。自分に八つ当たりすることさえ取り上げてしまったら、それこそ彼女の心に行き場がなくなると悟ってしまっていたからだ。
(オレに当たればいい)
そう、心底思う。
別にシスイに爪を立てられたくらいで大したダメージでもないのだ、それぐらいイタチならなんともない。行き場がないというのなら己に吐き出してくれればいい。そのほうがこっちも安心する。けれど、実際はどんな状況になろうと、シスイがイタチの肉体になんらかの傷をつけることはなかった。寧ろ傷つけたくないと萎縮する有様だった。
そんな姿、見せられるほうが痛い。
傷ついた彼女の手を治療する。
「ごめん」
そう言ってシスイは俯く。
「ごめん」
それは何度も。
「ごめん」
ずっと、ずっと。
「ごめんな、イタチ」
自分を責めて謝り続ける。
止せ、と何度も言ってきた。でもシスイが謝るのを止めたことはない。だからそれをイタチが止める事も出来ない。
まるで壊れた……アンティークドール。
けれど、ある日、シスイのパニック症状は唐突に終わりを迎えた。
どうやら母のミコトとなにかしらを話した結果らしいが……それが良い事なのか悪い事なのかすらイタチにはわからない。
無気力で、生きている気配が希薄な其の姿はあまりにも儚かったからだ。
浮世離れしている姿は、幽霊みたいだと、サスケはぽつりと呟いた。
目を離したら次の瞬間消えてしまいそうだと……その意見をイタチは笑えない。
彼女は本当に自分の隣にいるのだろうか。
そして、其の日が訪れた。
其の日は一族の会合の日だった。
当然の如く、イタチもその父であるフガクも出席だ。先月まではイタチの母であるミコトはシスイが放っておけないからと長く会合を休んでいたが、その当の本人であるシスイに「たまには顔出しなよ」と笑って送られては断れなかった。
会合自体はそれほど長い時間だったわけではない。いつも通りの集まりだ。
だけど、それでも妙に胸騒ぎがして落ち着かない。
嫌な予感がする。だから、1時間で会合を切り上げて、イタチは父と母に断りを入れるなり、自宅へと向かった。そこにいたのは修行から帰ってきたらしきサスケの戸惑う姿だけ。彼女の姿もチャクラも見あたらなかった。
「兄さんっ」
「サスケ、何があった」
イタチはいつも通りの冷静沈着な態度で弟に話を聞く。だが、サスケは戸惑ったまま、困ったようにこう答えた。
「わからないよ。ただ……帰った時にはシスイさん、既にいなくて、履き物もなくて、玄関が開いたままだったんだ」
「……!」
その言葉にイタチは一瞬目を見開いた。
シスイがどんな状態だったかなどこの家に住むものなら皆知っている。
本当に妊婦なのか疑わしいほど酷く弱っていて、精神的にもかなり滅入っていた。顔色は常に蒼白で、子が流れないのが不思議なくらいの状態だった。そんな彼女が自分の意志で出て行くとも考えがたい。いや、そんな体力、彼女にはなかったはずだ。しかし、これまで通ってきた道で彼女を見かけることはなかった。
「イタチ、何事だ?」
やがてイタチに遅れる形で我が家についた父フガクに訊ねられ、少年は沈着冷静な態度に僅かの焦りを瞳に宿して、自分の推測を口にした。
「父さん、急いで木の葉警務部隊に連絡を取ってくれ」
息子のその言葉にフガクの目が見開かれる。
「シスイが消えた。最悪……誘拐などの可能性もある」
「何?」
そしてその予感は的中した。
「シスイッ!」
里外れにある此処何年も使われていない倉庫の中で、その男は股下から血を流し気を失っている彼女の体を、ハァハァと飢えた犬のような荒い息のまま一心不乱に犯していた。
その男を掴み、有無を言わさず投げ飛ばした後、シスイの状態を確認したが、顔は殴られたのか痣だらけで、そのほかにも腹やあちこちに殴られ蹴られた形跡があり、其の体は抵抗できないようにだろう、縛られ、目も見えないようにか幻術をかけられないためにか、大きめの分厚い布で目隠しをされていた。そして……誰がどう見ても母子共に危険な状態だった。
「……!? これは」
一歩遅れて入ってきた木の葉警務部隊と父に向かって、イタチは急ぎ言葉をかける。
「そこの男を確保して下さい! 犯人です。オレはこれから急ぎ彼女を連れて木の葉病院に向かいます」
それだけ早口で申し立てると、イタチは彼女の体を抱きかかえて、瞬身の術で木の葉病院に急ぎ向かった。
……そしてその選択を迫られる。
思った通り、母子共に危険な状態だったシスイは緊急手術室へと急ぎ、運ばれた。その際に、被害者との関係を聞かれ、夫である事、腹の子の父親であることを告げると、医者はこう言ったのだ。
「生憎今の状態ですと、お腹の子供か、彼女。どちらか片方しか助ける事は出来ません。そして時間もありません。酷なようですが、今すぐ決めて下さい。助けるのはどちらにしますか?」
「……」
(オレは……)
子供を望んでいた。
だから、シスイが妊娠したと聞いて、嬉しかった。
これで、本当に家族になれると、そう思った。
今は無理でも、いつか、子供が出来たら、産まれたらその存在が彼女を癒してくれるのではないかと、また微笑ってほしいと、そう思っていた。
いつか……それは近い未来であると、そう思っていた。
いつか、笑ってくれたなら。
家族になれたのなら。
そうであればいいと思っていたのに。
それは長い一瞬だった。
思考は、現実ではほんの刹那ほどの時で終わった。
けれど、この罪を忘れるわけにはいかないだろう。
「……シスイを」
それは自分こそが背負うべき罪なのだろうから。
「彼女を、宜しくお願いします。
自分で望んだ自分の子を、この日イタチは切り捨てたのだから。
元より無表情じみていた玲瓏たる美貌から本当に感情の色が抜け落ちる。
それを気の毒と思わないほど医者もまた非人間でもなかったが、それでも決まった方針を持ち帰るため、そのまま若き父親だった男を置き去りにして、手術室へと戻っていった。
言葉にならない、涙は出ない、それでも確かにこの日イタチは泣いていた。
続く