今回の話は、活動報告のほうでもちょいとプロットってた「もしも楽園は失われた1話でイタチさんがしーたんを抱いたりせずあのまま立ち去っていたら」IFエピソードになります。
今回の話は濡れ場ありませんが、次回はHシーンもあるよ。
因みに余談ですが、「楽園は失われた1話でイタチが取るべき行動の中で、最もしーたんの精神に負担をかけず、彼女を傷つけずに共存できる答えはなんでしょうか?」の答えは「イタチが心の底からしーたんを軽蔑したと態度で意志表示した上で、「償え」と「贖罪に子を産め」と命じること」だったりします。
あやつは自我こそ強いですが、尽くし系マゾ属性持ちでもありますので、それが罪滅ぼし前提の命令なのであれば寧ろほっとして従順に従うタイプです。これが逆に命令ではなく懇願やお願いだったら全くいうこと聞いてくれませんけどね!
でも償い理由に命じられたらお掃除フェラだってパイズリだって騎乗位だってなんでもしてくれると思うな。子を産むのも、「それがお前が受けるべき罰だ。借り腹としての役目くらい果たせ」という言い方さえしとけば、本人が望んでいなくとも発狂せず大人しく従ってくれると思う。
が、イタチさんの性格からして、好きな女をいたぶって性奴隷に貶める真似をすることに悦を覚えるタイプとは思えねえから、そんな態度いつまでも続くとも思えないし、なにより実際にんな真似したらしーたんはそれでよくても、「好きな女を性奴隷扱いするなんて」と周囲から非難囂々苦情入ること間違いなし(筆頭はイタチの両親)だからどっちにしろ共存は無理という罠。
楽園は失われた1話分岐ストーリー前編
「イタチのせいじゃない」
詫びようとシスイの家に赴いたとき、逃げ怯え泣きながら、それでも「……オレのことが、それほど嫌いになったか」そう訊ねたイタチに対して彼女が返した回答がそれだった。
「イタチが悪いんじゃない……ごめん……本当、ごめん。だけど……無理なんだ……」
頼りなく震える細い肩。苦しげに顰められた眉、ボロボロと涙を流すその顔、全てが痛ましくて、それは今すぐにでも抱き締めてやりたいような姿だった。
だけれど……。
イタチは思い直す。彼女はたった今自分は悪くないとそう気持ちを吐露したが果たしてそれは本心なのだろうか?
シスイは昔から己を大事にしていた。彼女にとっておそらく最も大切な相手はイタチだったといえるだろう。だけれど、この前己は自分の勝手な気持ちを押しつけて、泣いて嫌がる少女を力で持って抱いた。……いくら頭に血が上っていたといえど、あれは最低な行為だ。
彼女は己は悪くないと回答したが、それは自分を庇ってくれているだけなんじゃないのか?
なら、果たして自分は、あの男達同様シスイを傷つけた者の1人である自分は、彼女を抱き締めるような資格があるのだろうか……?
そして震える少女にもう一度視線を落とす。
泣いたことによって目元だけなら紅潮しているが、顔色の悪い青白い肌に怯えた小動物のような姿。
(時間を置いてやったほうがいいのかもしれない……)
きっと今、何を言ってもシスイには届かないような気がした。
だからイタチは「また来る」そう言葉だけ残して、去っていった。
……その自身の行動を後に彼は嫌というほど後悔することになるのだが、今は知る由もない。
そんな風に自分から少年の遠離っていく気配を感じながら、シスイはほっと内心で安堵を覚え息を1つついた。
(嗚呼……良かった)
……アイツはちゃんと、オレを見限ってくれたんだな、と。
それでいいさ。幻滅されるには充分過ぎるほど、己は醜い存在なのだから。
また来るとか言っていたけど、きっとあいつは優しいからそう同情で言っただけなんだろう。
だからこれで良い。これで良かった。
これで漸くオレは、夢の障害を取り除く事だけに全てをかけられる。
この命全てを使い捨てに出来る。
もし未練があるとするならば、お前の成長をもう身近で見る事が出来ないことくらいだけど、でもそんなの自業自得だ。
それが寂しいなんて、アイツを謀ったオレがいう資格なんてない。
(オレにとっては、この世界でお前が一番大好きで大切だった)
オレはお前の側から消えよう。離れよう。
けれど、それでもそんな資格なんてないかもしれなくても、お前の幸せだけはこれからも願うよ。
だから、安心して忘れてくれれば良い。
こんなゴミ屑のような存在など、お前の汚点にしかならないのだから。
嗚呼、でもどうしてかな。嬉しいのに、悲しいや。胸が潰れてしまいそうな、この想いはなんだろう。
「……でも、さよなら、だ」
そうだ、次に会えたら、お前に贈りものをしよう。
こんな碌でなしの自分だけど、それでも捧げられるものは全て捧げよう。
そんなのは贖罪にすらならないかもしれないけど。
それでもオレはきっと、お前にオレの持てる力と、第四次忍界大戦など起きない未来を贈るよ。
そんな決意だけを胸に秘めて、シスイは其の日、自分が居た痕跡全てを家中から消していくと、静かにひっそりと木の葉の里を抜けた。
……次の日、イタチは嫌な予感と共に目を覚ました。
何故だろう、虫の知らせというべきだろうか。酷い胸騒ぎと共にシスイの家に向かった。
……本当はこんなにすぐに会いに行くつもりなどなかった。
彼女に必要なのは時間だと思ったし、傷つけた張本人の1人たる自分が会いに行くのはシスイの胸の傷をより広げる行為だと思った。だから一旦家に帰ったのだ。しかし、どうしようもなく取り返しのつかない事態になっているのではないかと、そんな第六感だけを頼りに、イタチは彼女の家に向かった。
そして、それと向き合う。
「……シスイ?」
彼女の気配は、その家の何処にもなかった。
ドンドン酷くなる胸騒ぎを頼りに家の中へと踏み込む。けれど、家の奥へ踏み込めば踏み込むほど違和感は大きくなっていく一方だった。
何故なら……その家からは、シスイが暮らしていた痕跡がかき消えていた。
彼女の使っていた衣服、タオル、歯ブラシ、愛用の湯飲みから全て、まるで最初っから無かったようにどこにもなかった。それだけではない、匂いさえ無い。
美しく整備されているだけで、それは無人の廃屋を思わせた。
「……!」
嫌な予感は確信へと変化していく。けれど、まだ決定打でないと信じたいかのように、イタチは奔走する。
「母さん、シスイを見なかったか!?」
「え? シスイちゃん? 見てなかったけど、どうしたのイタチ。そんなに慌てて……って、イタチ!?」
そんな風に母とやりとりを交わしたあとも、イタチはシスイの動向について情報を収集していった。
その結果、彼が下した判断。それは……。
「うちはシスイが、里抜けしたじゃと……?」
「は、おそらくは間違いないかと……」
それはシスイが抜け忍になったという、ほぼ間違いないだろう事実だった。
それを三代目に報告しながら、しかし涼しげな美貌の裏側でイタチは苦悩する。
……里抜けは重罪だ。
誰かに示唆されてや暗示をかけられて……などの理由がつくのならをうける情緒酌量の余地があるとして軽罪で済む場合もあるが、自分の意志で行った……それもシスイのような幻術に優れた上忍がとなると、庇う余地もほぼ無いに等しい。
そもそも何故忍びの里抜けが重罪であるかといえば、忍びはその存在そのものが守秘義務の塊のようなものであるからだ。
その肉体だけ見ても、その忍びの体には自分が育った里での術の特色や秘伝が刻まれている。その為忍びの体であれば死体でも利用価値が充分に高い。それが血継限界持ちなら尚更、その秘伝が他里に分析研究されてしまう危険性を秘めている。
次に情報面だ。里を抜け、故郷を捨てる忍びが果たして、他里に自分が属していた里の情報を漏らさないと何故言える? 情報とは時に黄金や命よりも尊いのだ。情報1つで戦争や暴動の切っ掛けとなることや、里内で不和を産む元凶となることも無いとどうしていえようか。情報とはそれほどの力を持っている。
であるからこその重罪。
情報漏洩を防ぐため、里を守るためにも抜け忍は自里で抑え込み、他里に渡らないようにしなければいけない。それがどの国も共通して抱いている抜け忍という存在への認識である。
抜け忍になった理由など、生きて自里で裁判にかけられるわけでもない限り、関係はない。
だからこそ、シスイが抜け忍となった可能性がほぼ間違いないと確信した時点で、イタチはそのことを三代目に報告したのだ。
そしてその報告を受けて、この年老いた里長は、痛ましい顔をしてため息を1つつくと、ぼやくような声でこう言った。
「やはり、先日の件が元凶かの……」
そういって示すのはシスイが巻き込まれた性犯罪事件について、だった。
イタチからの報告により三代目はシスイもまたその性犯罪被害者であることを知っている身ではあったが、イタチの懇願と彼女の名誉を想って、シスイもまた被害者の1人であったことは公表せず、その事実を伏せた。それが逆効果として現れたかと、そう言いたいのだろう。
それに苦渋に満ちた顔と声でイタチも言った。
「……申し訳ありません」
「いや、おぬしのせいではない。これは婚約者だからという理由でお前に全て押しつけた儂の責任じゃよ」
そうは言いつつも、気が晴れるものではない。
シスイが先の事件の被害者の1人だということは未だ伏せられたままであり、彼女が抜け忍になった本当の理由がそれだったとしても一度隠蔽した以上公表するわけにもいかない。
故に先の悲劇を知っていた身としては、気が進まないことではあったが、三代目は抜け忍となった、元木の葉隠れが上忍うちはシスイを、抜け忍として……つまりは犯罪者として記帳、書類提出するのであった。
そして、その「追い忍」として指名されたのは、彼女の婚約者でもあったイタチだった。
……とはいっても、イタチ自身暗部の部隊長に最近指名を受けたばかりの忙しい身であり、シスイを追うことは決してイタチに対する最優先使命というわけではない。要するにイタチを指名することによって、他の忍びが彼女を狩る可能性が低くなるようにとの、三代目の配慮に過ぎないだろう。
それに、抜け忍となった理由は今の所彼らの推測でしかないし、そもそもこれまでのシスイの在り方からして、抜け忍になったからといって彼女が里に害することを選択するとも思えなかったのもあり、まずは話を聞きたいと三代目火影猿飛ヒルゼンは思った。それだけのことだった。
勿論、彼女が里の情報を漏らすことを始め、里の害悪になるような犯行を一度でも行ったのならば、其の時点で正式な追い忍も放つし、CランクからAランクに犯罪者登録ランクも引き上げることになるだろうが、先の事件で同情を覚えている身としては、そこまではしたくなかった。
シスイが抜け忍となったことは大々的に知らされることはなかったとはいえ、うちは一族の殆どは木の葉警務部隊に所属しており、彼らには暗部とはまた別ルートの情報会得手段がある。
次の日には、シスイが正式に抜け忍と為ったことや、追い忍にはイタチが指名されたことも一族中に知られることになった。
「嘘だろ? シスイちゃんが抜け忍になるなんて」
「イタチ、本当なのか」
その言葉にイタチは「本当だ」と答えるしかなかった。
「……そんな、どうしてあの子が……」
そういって一番落ち込んでいたのは、イタチの実の母であるミコトだった。
元々ミコトはシスイのことは気に入っていたのだ。息子の婚約者ということを抜きにしても、素直で自分を慕ってくれるシスイのことは、実の娘みたいに思っていたらしく、彼女のことをミコトは可愛がっていた。
シスイの髪を切っていたのはミコトだったし、初潮が来て戸惑い縋る彼女に、月のものの対処法と女の体のことについて教えたのもミコトだ。彼女の料理の師匠だってミコトだったし、一生懸命な生徒でもあった彼女の有り様を微笑ましく思っていた。
それは柔らかく見えて実は結構頑固なところがある子だとは思っていたし、クーデター論が取りざたされていたとき、真っ向から対峙して一歩も引こうとしなかった彼女の有様を思えば、見た目によらずかなり自我が強く自分を曲げない子だとは知っていたわけだが、それでもミコトにとっての印象は素直で明るくて争い事を嫌うような可愛い良い子だったのだ。
それが里抜けなんて大罪を犯すなんて夢にも思わなかった。
ホワホワしていて頼み事をされたらそれを断れなさそうな雰囲気と見た目と違って、誰かに唆されてそれをそのまま聞くほど意志の弱い子ではなかったはずだが、でも誰かに唆されたわけでもないのに里抜けをするなんて、そんなのありえるのか。
そうやって悩む母や一族の人間を前にして、イタチは厳かにさえ聞こえる声音でそれを言った。
「おそらく……アイツが里抜けした原因は、オレだ」
そして宣言した。
「だから、オレがアイツを連れ帰る」
その言葉に異論を挟むものはいなかった。
けれど、シスイを捕まえることは容易ではなかった。
そんなのは元からわかっていたことだ。
元々シスイは戦闘能力に長けた忍びではなく、潜入や暗殺、サポート技能といった方面に特化した忍びであり、自分が強いとも思っていないからこそ、弱点をなにより認識して任には当たり、必要とあれば逃げ出すことすら躊躇しない、そういうくノ一だったのだ。
火力や防御力、攻撃範囲に恵まれていない代わりに、高度な逃げ足と幻術による攪乱能力に長けた彼女が、本気で逃げと潜伏に徹してしまえば、並大抵の忍びでは痕跡を見つける事さえ困難となる。幅広い忍術知識を修めているわけではないが、初歩的な医療忍術や毒草に薬草などの知識もある彼女は1人で生きていくのに障害も殆どないといっていいだろう。それこそ変化の術で一般市民に紛れてしまえば、正体の露見は難しい。
だから、きっとおそらくはイタチ以外の人間が追い忍に指名されていたとしても、早々シスイのことを捕まえる事は出来なかった筈だ。
そのことをわかっていても、イタチはそれを喜んでいいのか、哀しめばいいのかわからない。
(……シスイ)
婚約者であった彼女のことを想う。
……酷くあどけない笑みの似合う人だった。いつだって姉ぶって、イタチを気に掛けてコロコロと表情を変えながら嬉しそうに日々を過ごしていた。自分を曲げぬ人だったが、同時に脆い人でもあって、そんな彼女を支えたいと、そう彼は思ったものだ。
けれど、結局己がしたのは、その守りたいと想っていた
彼女の危機にも自分は気付く事が出来ず、復讐を果たそうとそれは今更過ぎたのだろう。そう思う。
本当にシスイを傷つけたのはきっと自分だった。
だからこそ、彼女は里抜けなどしたのだろう。
そして例え想い人であろうと、それでもイタチは木の葉の忍びであり、火影直属舞台である暗部の分隊長だ。それがイタチの立場というものだ。
イタチの使命は彼女を木の葉に連れ帰ることだ。それがシスイの心に沿うものでなくとも、公私混同するわけにはいかない。だから、もし彼女が、シスイが抵抗するのなら手足を折ることや、最悪その命を奪う事も視野に入れなければならない。
最悪の場合の覚悟はついている。
それでも、苦い感情は止め処なく溢れるばかりだ。それを無理矢理イタチは飲み込んだ。
そして……―――――結界のように張り巡らされた精巧な幻術の罠の先でイタチは半年ぶりに彼女と再会する。
「……シスイ」
漏らされた少年の声に反応するように、想い人たる女性はゆっくりと振り返る。
森に溶け込むような緑色のコートに黒い装束を纏った小柄な体、女性らしい曲線を描く体のライン、白い肌にかかる癖の強い黒髪を無造作に赤い紐で結い上げて、彼女は其所に立っていた。
その姿は半年以上前の以前とほぼ変わらず、シスイはキョトンと1つ黒い眼を瞬かせると、ついでフニャリと破顔してこう言った。
「あー、イタチ、久しぶりー」
そういって脳天気にニコニコと笑う顔は、最後に見たあの泣き顔ではなく、以前の自分に懐き寄っていた時代の彼女が見せていたもので、そのことに……嫌な胸騒ぎと共に違和感をイタチは覚えた。
「ひょっとしてまた背伸びたか? おっきくなったなあ」
そういって微笑ましそうに嬉しそうに笑う姿は、この場においてあまりに不釣り合いだ。
だから、重い口調でイタチはそれを告げた。
「シスイ。お前は抜け忍として、正式に指名手配されている」
その言葉にキョトンとあどけない表情を見せながら、彼女はイタチの言葉を聞いた。
「そのことをお前はわかっているのか」
「知っているよ。それぐらい」
当然だろ、何を言ってるんだといわんばかりの声で苦笑しながらシスイはそう言う。
それに対し、なら何故わかっててその態度なのだと糾弾しそうになる自分を抑えて、イタチは言った。
「お前が、里を抜けたのはオレのせいか」
苦渋に満ちた顔で、少年は言う。
それを見て、少しだけ雰囲気を変え、やがて静かな春の凪のような態度と声音でシスイは答えた。
「違う。
(オレ……?)
その声と態度に強い違和感を抱く。その合間にも彼女は落ち着いた声でこう続けた。
「オレはまだそれをなしてないから捕まるわけにはいかないんだ」
(まただ)
何故お前は、自分のことを「オレ」などと呼んでいる?
イタチは、一見態度が変わっていないはずのシスイの言動や態度をそう訝しむ。
確かに、シスイは元々少々ボーイッシュな物言いをするところがあり、あまりオシャレとかにも興味を示さない女だった。それに焦ったり混乱すると一人称が「オレ」になるという特徴も持ち合わせていたわけだが、こんな風に平素から当たり前みたいに自分のことを「オレ」などと称する女ではなかったはずだ。
それに口調こそボーイッシュであったが、別に中身までそうだったわけではなく、寧ろイタチから見た彼女は平均的な女子より余程お淑やかで女の子らしいヒトだった。少なくとも彼から見た印象の彼女はそうだ。いや、イタチでなくとも、綺麗好きで家庭的で細かいところに気が利いて笑みを絶やさないシスイのことを、男っぽいとか男勝りみたいに評するような奴はいなかっただろう。
この世には男に憧れている女子とか、男みたいに振る舞う女子もいることはいたが、それらとシスイがイタチの中でイコールになったことはない。だからこその疑問だった。
何故当たり前のように、男のような物言いをしているのだろう、と。
それをひょっとしてイタチは、見た目以前通りに振る舞っているだけで、あいつらや自分につけられた傷からの逃避行動なのではないかと疑う。
自分が「女」だからあんな目になったのなら、女を捨ててしまえばいいと考えたのではないかと。
本当にそんな理由でこんな物言いをしているのだとしたら、それは痛ましいとしかいえないけど、そう疑った。
そんな風に内心で思考を展開させているイタチに対し、シスイは殊更脳天気な口調でこう言い放った。
「あ、そうだ、イタチ。オレさ、お前にプレゼントがあるんだ。受け取ってくれよ」
そう言って彼女は綺麗に笑う。それは見ているほうが見とれそうなほど、穏やかな微笑みで、けれどそれに対してイタチが覚えたのは悪い予感を通り越した危機感のみだった。
そして彼女は、自らの右目に指を添え、自らの目を―――――刳り抜こうとした。
「……ッ!」
その凶行を、瞬身術によって一気に間合いをつめながら、間一髪でイタチは止める事が出来た。そしてそのまま彼女の手を掴んだ反動で、シスイごとに地面へと落ちる。
そうして彼女の上に乗り上げる格好になったイタチは、其の切れ長の目に隠しきれない怒りを宿しながら、すぐ真下にあるヒトに向かって怒鳴りつけた。
「シスイ、お前は一体何をやっている!」
そのイタチの怒りや、その裏に隠された悲しみや苦悩を理解出来なかったというように、シスイはキョトンと不思議そうな顔をして「なんで止めるんだ」と聞いた。
イタチにはその言葉のほうが余程わからなかった。
どうしてシスイがそんな言葉をいうのか、あんな行動に出ようとしたのかわかりたくなかった。
「お前こそ何をしている」
そう、焦りと悲哀の混じった声でイタチは再び問いただす。
それに対し女は、「んー」と脳天気な顔をして、台詞の内容に似合わぬほどの明るい声でこう語った。
「いや、だってなんの成果もなく帰ったらイタチ怒られるだろ?」
(……何を言っている)
「それにさ、オレの目けっこー凄いんだぜ。今まで誰にも言わず内緒にしてきたけどさ、オレ実は万華鏡に目覚めてたからさ……この目きっとイタチの役に立つと思うんだ」
(何を、笑って言っているんだ)
万華鏡に目覚めていた? ああ、そうとも知らなかったさ。
今まで自分はそんなこと知らなかった。
そしてイタチは万華鏡写輪眼の開眼方法だとて知っている。それは愛するものを手酷い形で失うことだ。例をあげれば、写輪眼開眼をはたしたうちは一族の人間が自分にとって心底大事な親友をその手にかける。とか、酷い精神的ダメージを情深い一族の人間が受ける事によって開眼する。万華鏡写輪眼継承者とは、つまりは同胞殺しの証のようなものだ。
そんなものを背負っていた、それをこんな場面で、こんな時に何故オレに言う、とイタチは思う。
……いや、もう気付いている。理由などわかっている。だが、その理由を認めたくなどなかったのだ。
そんなこちらの想いを置き去りに、相変わらず無邪気そうな笑みで笑いながら、シスイが言う。
「受け取ってくれよ。まだやることはあるから今は片目しかあげらんないけどさ、そっちはきっとオレの用事が終わったらお前に殺されに帰ってきてやるからその時やるよ」
「シスイ……」
「あ、それともやっぱオレみたいな薄汚れた畜生が使ってた眼なんて嫌か? まあ、気持ち悪いよな、どう考えても。でもそこは我慢してくれよ。代わりに差し出せるもんなんてオレは持ってないし、お前への贈りものを考えたんだけどさ、やっぱこれが一番いいと思ったんだ」
「……シスイ!」
「オレなんかに関わるのは嫌だろうに、こんな屑のために手間かけさせちまってごめんな。イタチ」
そういって穏やかに微笑む姿にイタチは狂気を感じ、言葉を失った。
……元々歪なヒトだったことくらいは知っていた。自分嫌いで、脆く弱く、そのくせ酷く行動力ばかり有り余っているそんな人だった。けれどここまで壊れてはいなかった筈だ。
(オレが、お前をそうしたのか?)
あの日、お前を置いて出ていったオレにお前は何を思った? 見捨てられたと思ったのか。そうして自分は本当にこの世で一番の屑だと、そう思ってしまったのか。
オレがお前を壊したのか?
そんな風に元婚約者だった少女の、静かな変貌と垣間見えた狂気を前に、イタチはゾッと背筋に怖気を走らせ、一瞬動きを止めてしまった。その隙を逃すことはなく、シスイはノーマークだった左目をすかさず自分の手で抉り出し、イタチから一瞬で距離をとると、それを懐にあった容器に移してイタチへと投げ渡した。
「……シスイ!」
麻酔もなくえぐり出された左目があった場所からは、空洞だけが残り、そこからボタボタと血を流しながら、それでも彼女は微笑んで「じゃあ、イタチ、またな」そんな軽快な声と共に走り去っていった。
伸ばした手は届かず、声も届かず、後ろを振り返る事もなく少女の姿が消えていく。
その手に抉ってよこした目玉の瓶詰めと、血痕だけを残して、彼女はこの手をすり抜けた。
「……!」
ダンッ。
感情のままに振り下ろした手を、そんな音を立てて地面だけが受け入れる。
そのやり場無い苦渋に満ちた少年の顔を見ているものは誰もいなかった。
続く