えー、今回で完結するかなーと思っていた、楽園は失われた1話分岐IFストーリーですけど、ぶっちゃけ濡れ場シーンにページ割きすぎちまいまして、更に分割することになっちまいましたよ、こんちくしょう! というわけで、本格的な濡れ場は次回です。
なんか色々すみません。その代わり次回は話の7~8割ぐらいが濡れ場シーンだけで構成されてますよー。エロ大好きデスとも。
あ、あと活動報告のほうでロリショタ時代のにょたしーたんとイタチさんイラスト絵に関するリクエスト募集も現在してるんでなんかありましたらそちらもどうぞ。
―――――シスイが里抜けした日から6年程の月日が経った頃、ある日彼女はこう言った。
「嗚呼、そうそう今度サスケちゃんも出る中忍試験だけど、イタチ、音隠れの里から眼を離すなよ」
それはいつも通りの年に数度の邂逅の中の一幕。
「それと、『暁』にもな……」
「……」
そう彼女は言葉を残すと、またも風のように去っていった。
これが木の葉隠れ暗部隊長うちはイタチと、元木の葉隠れ上忍にして抜け忍うちはシスイの在り方だ。
馴れ合っていると、人が言うなら嘲笑っていうのかもしれない。
でも既にこれにもう慣れてしまった。
シスイに、イタチの言葉が届く事はない。きっと疾うに彼女は狂っていた。
イタチが彼女を見つければ、出会い頭はいつだって嬉しそうに、けれど少しだけ申し訳なさそうな女の挨拶からはじまる。
そして何度話しても、何度戻ってくるようにいっても、それが出来ないならせめてお前がしようとしていることはなんだか答えろと問い詰めても、彼女が返す言葉は自分を卑下する言葉と、曖昧な言動ばかりだった。
イタチとシスイの会話が噛み合う事はなかった。
それでも、時折彼女は、ポツポツと木の葉に有利になりそうな、他里や犯罪者組織などに対する情報も置き土産とばかりに断片的に語っていった。
それら全ては、イタチの口から三代目火影へと報告されていく。
そして大抵に置いて彼女の情報にフェイクなどはなく、寧ろ彼女が断片的に伝えてきた内容は情報班が集めた情報の裏付けとなるような証言であることも珍しくはなく、だからこそ、三代目もイタチもより苦悩を高めたといっていい。
うちはシスイは抜け忍だ。けれど、彼女は里へと情報を流している里外の情報源の1つとなっている。彼女がその目的を語ったことはないが、それでもその目的が里に害を与えるものとは思いづらかった。寧ろ、そうであるのだとしたら、情報を流し、イタチに再会する度嬉しそうにする理由のほうがわからない。
ならばもう、「抜け忍というのは嘘で実は極秘任務につかせている」ということにしたほうがいいのではないかと、近頃では猿飛ヒルゼンは考え始めているようだ。しかし、彼女が目的を口にしない以上、シスイに例え里を害する意志がなかろうと、そんな甘やかすような判断を下すわけにもいかないのだ。
それではケジメがつかない。
けれど、どうするべきなのか。
実は……殺すだけならば100通りほどのパターンを思いついている。シスイを殺害することは、イタチならば難しいことではない。だが、三代目もイタチも、シスイを殺すつもりまではないのだ。そして殺す気がない以上致命傷を与えるような攻撃を加えることは出来ないし、純粋な速力だけならシスイはイタチ以上だ。だからこそ最後には彼女に毎度逃げられるという結果を残している。
うちはシスイは抜け忍である。抜け忍とは、里への裏切り者という意味に等しい。
けれど、実際の所、彼女が為していることは里に益をもたらす行為だ。
あまりにもちぐはぐ、なんて矛盾。これがスパイ命令を受けたなど極秘任務が故の里抜けならいざしらず、彼女はそうではない。だが、自分の行動が如何に矛盾しているかシスイは気付いてはいないだろう。
だからこその狂人。そもそも、目的があると語りながら、自らの片目を抉って渡してきた時点で正気ではなかったのだから今更な話である。
流石にそのままにしておくわけにはいかないと思ったのか、二度目の再開時以降は義眼を嵌めているが、あれはあくまで通常の義眼であり、写輪眼を開眼している右目とは性能に天と地ほどの差がある。その差は視力低下などの弊害として現れてもおかしくないのだが、実際の所はアンノウンだ。
それだけで、元より戦闘能力には長けていなかった彼女の忍びとしてのランクが下がってしまったことは想像に難くない。なのに、シスイはイタチに眼を渡したことを全く気にしていないようだった。
そして、笑う。
笑って、まるで世間話のように情報を流す。
それを、どう処置すべきか、泳がせておいたほうがいいのか、そろそろ捕まえてしまうべきか、暗部隊長としてのイタチは未だ答えを出せなかった。
それでも、そうしてたまの邂逅を、1人のイタチというただの男としてなら彼は心待ちにしていたのだ。
彼女との邂逅は決して喜べるものではない。
けれど、それでも如何に狂ってしまったといえど、それでも惚れていた女が怪我1つなく、無事に生き延びた上で自分に笑いかけてくれることは嬉しかったのだ。そのかつてとは違い過ぎる肩書きさえ忘れる事が出来たのなら、まるで昔のようなやりとりには郷愁さえ抱いた。
否、惚れていた女ではない。イタチは今も、彼女を愛していた。
けれど、だからこそ暗部隊長として彼は苦悩するのだ。
そしてその年の中忍試験で、大蛇丸率いる音隠れの里と砂隠れの里が手を組んで、「木の葉崩し」事件が起こった。元より、シスイの忠告もあっていつも以上に万全の体制であったことと、イタチの活躍により事件の規模のわりには大した被害もなく終わったわけだが、それが切っ掛けに、新しい任務がイタチには下された。
「うちはシスイを懐柔し、知っていることを洗いざらい吐かせろ、と」
お前には簡単な任務だろう? との言葉と共に与えられた其の任を、イタチが拒否することはなかった。
だが、シスイは周囲が思うほど簡単な女ではない。
寧ろ真逆だ。
いつも柔らかくフワフワと笑って温厚な態度を取っていたから皆誤解していただけで、その実彼女は頑固で強がりで、言うべきことこそ隠し通すような人だった。
確かにシスイはイタチに懐いていた。それが誰の眼から見てもそうだったろう。懐かれていたイタチ自身とてその自覚があるのだから相当だ。だが、懐いているからといってその胸の内をほいほい語っていたかといったらそれは大きな誤りだ。シスイは全く言わなかった。だからこそ、3年もの間被害にあい続けていた性犯罪事件について隠しきっていたのだ。
懐柔などしたところで無駄だ。
けれど、そのことについてイタチが忠告することはなかった。
この任務はイタチにしてみれば、シスイを殺害する事に対する罷免状を貰ったようなものだ。知っている事を洗いざらい吐き出させるまで、殺害を免除されたということだ。そしてシスイが全てを語ることはないだろうと思っていた。
だが……どうしてか。
木の葉崩し事件が終わり、次期火影候補の1人にイタチの名が上がった頃からか、彼女はそれまで以上の情報を色々とイタチに語り始めた。
それは、犯罪者組織暁の目的が尾獣集めであることや、暁メンバーの個人情報、弱点に至るまで、そして暁を裏で牛耳っている存在がありそいつこそが先代水影を操っていた本人であり、仮面を被りマダラを名乗る男であること。そいつの正体はある火影の弟子だった男であること。そしてそいつの部下が大陸のあちこちに根を張っているため、うかつな話はするなと、しかし雨隠れの里について調べろと、それらの情報を3年かけて少しずつ、誰にも聞かれないよう幻術世界の中でシスイは語った。
懐柔して情報を引き出せ、と言われた途端、相手から語られ始めたそれらを前に困惑を覚えなかったかといえば嘘になる。もしかして己に課せられた任務について知っているのではとさえ疑った。
だが、多分彼女にとってイタチに回している情報は、彼女にとってはどうでもいい或いはイタチに知っていてほしい情報であって、未だ全てを明かしているというわけでもないのだろう。と、そうも思う。
ただ、里にとって欲しい情報と、シスイがイタチに知っていて欲しいと思った情報がたまたま一致していただけ。多分これはそういうことだ。
けれど、一体彼女はどこからそれほどの情報を得ているのだろう。一体何をするつもりなのか。
一応、察しはついている。
多分、おそらくだが彼女が目指すところは、暁の解体、それに関わる何かであるのだ。自力でどうにも出来ない部分を木の葉になんとかしてほしいと、そういうことなのだろう。個人としてならともかく、忍びとしてはああ見えて合理的な判断も出来る人である。これはそういうことだ。自分に出来ることと出来ないことの差は充分に知っている、自分が惚れた女性はそういう人だった。
……そして自分に出来る可能性があると断じたことについては、出来る限り自分で果たそうとする人であることも、長い付き合いだ、知っていた。
そして、やがて各里に置いて、暁による尾獣集めを目的とした襲撃事件が起き始める。それにシスイが流した情報が随分と役だったのは確かだった。
そうして最後に現れたペイン長門による木の葉襲撃事件。
情報はあるといえど、相手は輪廻眼を持つ六道仙人の生まれ変わりが如き相手だ。そう簡単に片付くというわけではなく、被害もそれなりに甚大だった。が、最後には弟弟子であったナルトとの和解により、長門は自分の命と引き替えに自らが殺したものを蘇らせる術、輪廻転生の術を使用する決意をし、結果として長門の命と引き替えに里人の命は失われずに終わった。
そして今、イタチはあの時シスイが残した情報をヒントに雨隠れの里へと潜入していた。
暁を裏で牛耳る人間がいると彼女は答えた。ならば、ペインが死ねば動くだろうとイタチは考えた。マダラと名乗る男は、火影の弟子だ、その言葉から既に仮面の男の正体はうちはオビトである可能性が高いとイタチは悟っている。
火影の弟子というのなら、シスイ自身の祖父であるうちはカガミもそうだったが、カガミよりはオビトのほうが可能性が高いだろう……というのは、強い根拠があるわけではないのだが、オビトとカガミ、二人の火影の弟子だったうちは一族の男の死亡時の状況を比べてみても、死が偽装だったなら死体が戻って来ていないオビトのほうが、マダラを名乗る男の正体である可能性が高いだろうことから、ほぼ確信には至っている。
そして、この頃には、大体においてシスイの目的も掴めてきていた。
おそらく、彼女の目的というのは……マダラを名乗る男の抹殺だろう。
やがて、其の場所にイタチはたどり着いた。
ひっそりと隠すようにあったそこは、ペイン長門の本体が眠りし墓標。彼のためのゆりかご。だったはずなのに、そこはなんらかの戦いの爪痕が大きく残り、瓦礫だけを残して破壊し尽くされていた。
それは酷く痛々しい光景で……そんな中、廃墟の上に1人の女が蹲っている。
そのチャクラを、姿を、気配を見違える筈がない。
酷く弱々しく、脆いその姿は、まるで17年前のあの日……イタチに縋るように抱きつきながら「守れなくてごめん」とそう泣きながら謝罪を繰り返していた、あの日の彼女とよく似ていた。
「……シスイ」
女の名を呼びながら、その実際以上に小さく見える体に向かって近寄る。
すると女は、ボロボロとその右目から涙を流しながら、イタチに縋るような眼差しを向け、言った。
「どうしよう……イタチ、どうしよう」
ガタガタと体を震わせながら、シスイはしゃくり上げながらも、弱々しくけれど必死な声で次のようなことをイタチに語った。
「輪廻眼は潰せたのに、あいつに渡る前に潰せたのに、あいつを逃しちゃった」
そういってペタリと力なくうなだれながら泣きじゃくる姿は、哀れな程に無力なただの女だった。
「オレ、あいつを倒せなかった。うちはオビトを、あいつを殺せなかったんだ。このままじゃ、第四次忍界大戦がおきちまうのに……どうしよう……どうしたら、どうすれば」
そう嘆くシスイの左腕は肘から先がなく包帯だけが先端に巻き付けられていた。腹も出血こそ止まっていたが急所を外して抉られている。おそらくは先の戦闘によってオビトにつけられたものなのだろう。
……しかしシスイには医療の知識があったはずだ。それで応急処置はきちんとすませたようだったが、それでも忍びが片腕を無くすというのは大きなハンデとなる。そもそも余程卓越した忍びでない限り片手で印など結べぬのだからそれは当然だった。そしてシスイはそういう意味ではあまり優秀な忍びではない。
彼女が片手で使える術があるとすれば、幻術や血止めなどの初歩的な医療忍術に限られてくる。もう忍者の基本である分身の術や変化の術を使うことは出来ないだろうし、うちは一族にとって基礎中の基礎と言われている火遁・豪火球の術などの忍術の使用も不可能となったことだろう。
これが意味するところは、つまり……もうくノ一として彼女は本格的に終わりだということだ。
望むにしろ望まぬにしろ、もう彼女は戦いからは身を引くしかないのだ。
それを自分でも理解してしまっているのだろう。
「どうしよう、オレもうアイツを殺せない」
だからこそそう言ってシスイは嘆く。
自分にもう殺す事を望んだ相手への対抗手段がないのだと知ってしまったから。
イタチは痛ましくそんな彼女の様を見下ろし、思う。
……こんな彼女の姿を見るのは、一体いつ以来となるのだろうか。
義眼をはめ込んでいる左目はひび割れ、本来のものである右目の目元も隈が出来て憔悴しており、涙を流しすぎたが故か腫れぼったく赤い目尻も痛ましい。碌に手入れもしていないのだろう、ザンバラに伸びるに任せた黒髪もパサパサで、その身体には裂傷や傷があちこちについている。それだけで彼女が自分の身を労ることもなくここまで来たことを伺わせる。
傷ついて傷ついて、それでも目的を果たそうとしたのに、それを果たす力さえ失った、そんな哀れで脆く弱い女だけがそこにいた。
泣き顔を隠す事も出来ず、弱音を殺す事も出来ず、目的を消失してしまった彼女は、うわごとのような声でボロボロ落ちる涙と共に弱々しく呟き続ける。
「どうしよう、オレ、オレ……どうしたら」
「……もう良い」
そんな彼女が見ていられず、イタチはその体をそっと抱き締め、そうシスイに声をかけた。
……昔と比べてみても、それはあまりにも細く頼りない肩だった。
脆くて、ちょっと力を込めただけで折れてしまいそうなこの体で、一体どうして9年間誰の庇護も受けず、目的だけを胸に立ち続けることが出来たのか。柔らかで丸みを帯びたその体から、匂うのは血の臭いに紛れた彼女の体臭だ。こんな風に抱き締めるのも、シスイの体温と匂いを身近に感じたのも……9年ぶりだった。
そのせいだろうか。胸に抱いた体温を前に酷く切なく心が締め付けられる。
思えばなんて遠くに来たのだろう。
かつてはあんなに近かったのに。
(けれど、もう良いだろう)
もう傷つかなくていい。お前は頑張ったのだから、だからもう後はオレに任せておけばいい。
そうイタチは思う。
何故、シスイがマダラを名乗る仮面の正体がオビトであることを知っていたのか、何故あの仮面の男が第四次忍界大戦を起こそうとしているのかを知っているのか、など疑問は山ほどある。
だけど、それでも敢えてイタチは別にいいだろうと、そう思った。
別にいい。
結局のところ、やはりシスイは里を裏切ってはいなかった。たとえ狂っているのだとしても、それでも彼女が里を抜けてまで目指したものは、木の葉に破滅をもたらすものの、平和を乱すものの排除であった。
ならもう、いいではないか。
……あとのことは、イタチの仕事だ。
ダンゾウはそれで納得しないだろうし、拷問にかけてでも情報を全て引き出せというかもしれないが、それでも女1人くらいは守って見せよう。
だから……。
「もう良いんだ、シスイ」
「ふ、く……ぅあああ」
そうあやすように背をポンポンと叩きながら、抱き締めつつイタチが放った台詞を前に、女は子供のようにボロボロと大粒の涙を流して、声を上げ泣き出した。
その小さく傷だらけの背を優しく擦る。それに反応するように、シスイはヒクヒクとしゃくり上げながら、「ィタチ、イタチ」と青年の名を呼び、その目の前の体に泣き縋った。
大丈夫、そう言う代わりのようにイタチは、その大粒の滴を舌で掬い取り、その小さい背中を優しくなぞる。
(……小さな身体だ)
そう思う。
昔は見上げなければいけなかったこの人は、もう自分の腕に収まるほどに小さくひ弱だ。その頼りなく震える肩も、自分だけを見ている黒い眼も、ボロボロと痛々しげに流れる涙も、傷だらけの心と体も、縋るように自分の背中に回された右手も、全てが傷ましく愛おしかった。
……思えば、本当の意味で彼女が自分に縋ってきたのはこれが初めてとなるのだろう。
今までシスイは本当の意味でイタチに縋ることはなかった。
それくらいなら、傷だらけでも自分の両足で立つ人だったから。
脆く弱いくせに、自分こそ甘やかさない人だったから。
そんな彼女をずっと……支えたいと思っていた。
苦しい顔で耐えるくらいなら、泣き縋って欲しいと何度思ってきただろう。
重荷をわけてほしいと、苦しいのなら苦しいと吐き出してくれたらと、そんな風に思っていた。
それを思えば、自分の願いは叶ったのだろうか。
そんな不謹慎な想いが脳裏を過ぎる。
けれど……。
(どうでもいい)
今の彼女には自分しか映っていない、なら……それでいいではないか。
全てを無くした彼女が、それでも縋る相手は自分だった。それだけで充分だ、そうだろう。
慰め、労り、ドロドロに甘やかして、そうして彼女の心の傷を少しでも癒せたなら、それがいい。この誰よりも愚かな人に、新たな存在意義を与える事が出来たなら、自分は無価値などではないとわかってもらえたら、それでいいんだ。
愛おしいはかなしいで、かなしいは愛おしい。2つは同じものだ。
なら、伝えたいものはそれだけで充分だろう。
キスの雨を降らす。
「?」
初めは目元、次に頬、鼻、額、耳元に触れるだけのキスを落とす。
そのイタチの行動の意味がわからないというように、ボロボロと涙を流したままの彼女は、パチクリとあどけない顔をしてイタチの動向を見つめ、「……イタチ?」と不思議そうな声で呟いた。
その背中を抱き締めたまま、イタチはシスイの喉元に唇を落とし、チュッと音を立てて彼女の首元に赤い花びらを咲かせたところで、漸くシスイは、イタチが涙する自分を慰めるためにどういう手段に出ようとしているのかということに気がついた。
だからこそシスイは、再びボロボロと流れる涙はそのままに、「嫌だ」と首を振ってイタチがやろうとしている行動に拒絶の意志を示すと、弱々しく抵抗ともいえぬ抵抗を示しながら、こんな風に叫んだ。
「やめろ、放せ! お前が穢れる」
「穢れない」
その言葉をどう受け止めたというのだろうか。イタチは寧ろもう二度と離したくなどないと言わんばかりに、益々強くシスイの身体を抱き締めてきた。それはまるで愛しい人をその腕に漸く捕らえたかのような態度で、何故この美貌の青年がそのようなことを自分に仕掛けてくるのかもわからなくて、混乱と自己嫌悪を覚えながらもその衝動のままに再び彼女は声を張り上げる。
「オレは汚物だ! ゴミ屑以下の廃棄産物なんだよ! そんなこと、お前だって知ってるんだろうがッ!!」
だからこそ、お前はあの夜オレを置いていったのだろう?
自身の名ばかりの婚約者が、如何なる存在か知ったのだから。
そんな風に言葉と目で訴えながら泣き喚くシスイを、優しくあやすように背を摩りながら、イタチは彼にしては優しい声を出そうと努めつつこう言った。
「オレはお前のことをそんな風には思っていない」
その言葉の意味が、シスイにはわからなかった。
どうして、そんな風に優しい手つきで触れるのか、そんな言葉をいうのかも理解出来なかった。
以前は結論が出たのに、その答えがわからない。
(お前にとって、オレはなんなんだ……)
裏切り者の幼馴染み。そうだろう。お前は優しいからこんな碌でなしのオレにまで気にかけていてくれて、その優しさに漬け込んで、情報提供を理由にして縁を続けた。それだけの関係じゃなかったのか、と。
嗚呼、確かに以前イタチは己に惚れているらしきことは言っていたし、そう行動でも示してきた。しかし、その後真相を知った事によって自分は幻滅されたはずだ。それだけでない、あれからもう9年になる。人の気持ちは移ろいやすい。だから、もうそんな感情消えていたっておかしくない。
いや、消えているべきだろう。と、そうシスイは思う。
そんな感情、消えていないといけないのだ。
(じゃあ、どうしてお前はそんな顔で、オレに触れている……?)
理解が出来ない。
意味がわからない。
どうして、そんな愛おしそうに己のような薄汚れた犯罪者を見ている。
嗚呼、そうか……。
(結局のところ、お前にとってオレはただの無力な「女」でしかないのか……)
そうだ、忘れていた。失念していた。
お前はもう思春期に入ったばかりの潔癖な少年ではなく、酸いも甘いも知った成人を迎えた男で、男が女を慰める手段といえば、成る程確かに「それ」は妥当なのだろう。
シスイが男だった前世での人生において、己は例え何が理由でも恋人以外の人間と寝るなどといった行為は恋人への不義であり、最低の裏切り行為であるという意識から恋人以外の人間と寝ようとすら思ったことはないし、不貞なども許せなかったから、女友達はいても、自分は歴代ガールフレンド以外の人間と一線を越えたりはしたことがなかったわけだが、それでも酒を飲んだ勢いやら、失恋を慰めているうちに誰々と寝ることになっただのの経験談は友人や回りの人間からよく耳にしていた。だからそれが男女間では別に珍しくないことの認識くらいなら持っている。
明日死ぬかもしれないこの世界では、それはより顕著だろう。
だからこれはつまり、イタチにとってはそういうことなのかと、シスイは思った。
けれど、よりによって己が相手など……悪趣味すぎる。
(お前は知っている筈なのに……)
この身体が、今までどれだけおぞましいことをしてきたか。
自己保身のためだけに、脅されるがままに碌に知りもしない男達に散々股を開いてきた、そんなアバズレの体だ。性病にかかっていなかったことが奇跡なくらいこの肉体は汚れきっている。
……自分でも、気持ちが悪くて反吐が出そうなこの体。
なのに、どうしてお前はこんな肉体に口づけているのだ。そんな慰めなどいらなかった。それよりもう、触れないで欲しかった。
「……嫌だよ、お前をオレは汚したくないよ……」
止まない、体中に落とされるキスの雨を前に、弱り切った声でそう呟きながらシスイは涙する。
「お前は汚れてなどいない」
そんな彼女の涙を舌で拭いながら、イタチはキッパリとそう言い切った。
けれど、それをシスイは信じていないのだろうと青年は思う。
無理もないだろう。元々シスイは自分嫌いだった。それが輪にかけてここまでおかしくなったのは、あの日の己の選択も多いに関係していることだろう。
捨てるつもりなどなかった。ただ、時間を置いたほうがいいと思った。その選択の結果、お前が「捨てられた」と思ったと言うのなら、それは言うべき事を言わなかった己の罪過だ。
故に続けて、長年胸に秘めてきたその言葉を告げる事とした。
「ずっと、言うべきだろうとは思っていた。今更だと諦めていたオレがいたことも事実だ。本当ならあの日いうべきだったのだろうと今ではそう思う」
9年前のあの日。
まだ子供だったのにそれに気付いていなかったあの頃、自分は子供ではないという思い込みと、見当違いの嫉妬が大切な人を傷つけた。後悔したところで過去が戻ってくるわけではないけれど、それでも言うことで解決することもあるのなら、きっと言葉を惜しんではならなかったのだろう。
「言わずともわかるとそう思ったあの頃のオレの自惚れがそうもお前を追い詰めたのなら、もう遅いかもしれないがそれでも言わせて欲しい」
そうして積年の想いを言葉として、贈る。
「シスイ、オレはお前を愛している」
その言葉を、真っ直ぐに彼女の唯一残った肉眼たる右目に視線を合わせながらイタチは告げた。
シスイは一体今何を言われたのか理解出来なかったと言うように、イタチの言葉を聞くなり固まったが、それでもイタチがシスイのもつれた髪に口づけを落としながら、真剣な目はそのままに彼女の返事を待っていたからか、自分が何を言われたのか漸く理解が追いついたらしい。
隻眼の女は信じられないように目を見開きながら、震える声でそれを告げた。
「…………馬鹿じゃないのか」
信じられない。そんな想いと葛藤がつまった女の発言に対し、イタチはあくまでも極真面目な顔をして言葉を返す。
「お前がどう変わろうと、その事実は変わらない」
「馬鹿だ、イタチ。お前は」
そう弱々しくシスイは呟いて、顔を右手で覆った。
傷だらけな上涙でぐちゃぐちゃに歪んだ顔は見られたものじゃないはずなのに、それでもそれを美しいとイタチは思う。
そして再び繰り返し、その言葉を贈る。
「シスイ……愛している」
「…………もう、言うな」
そう小さくシスイは呟いた。それを最後に彼女の体から抵抗の意志が消える。
だからこそ、イタチはそれが許しだろうと思った。