今回の話は、前回言ったように、第2話「連続膣内射精」と対の話で、あの話のしーたん視点の話です。なので後半部分は台詞とか第2話と共通している部分が多いですが、イタチ視点としーたん視点では大分認識とかに差があるのでかなり印象が変わるんじゃないでしょうか?
しーたんはなんだかんだいってイタチのことは大好きなんだけど、でも大好きだからこそ困っちまうんですよねー。困るってレベルじゃないけど。
そんな感じですが、どうぞ。
―――――ずっと、弟のように思ってきた。
それ以上の関係になることなど想像すらしたことはなかったんだ。
お前の隣に居るときがオレにとってこの世界での救いだった。
けれど、それも罰だったのか。
オレが悪かったのか、そうでないのかさえもうよくわからない。
あんなに側にいて気付いてやれなかったことに対する罪悪感もある。
ただ、それでもこの日オレにとっての楽園は消えた―――――。
朝の5時半頃、夜明けの気配と共に、微睡みの中からシスイは目を覚ました。
予定よりも多少寝過ぎてしまったような気もするが、それでも疲れは取れ切れていないのか昨日酷使した腰や顎のあたりが少し重い。だが、こんなことも慣れてしまったし、これでも昔に比べればマシになったほうだ。
シスイはノソノソと布団から体を起こすと、気分を入れ替えるために腕を伸ばし、それから布団を畳んでタオルを持って洗面所へと向かい、冷たい水で顔を洗う。
「ん……」
それから両手でパンと軽く顔を叩いて、タオルでしっかり顔を拭った。
チラリと鏡を見る。
……本当は、自分が今女であることを嫌でも思い知らされるから彼女は鏡が苦手であったが、それでもこうして3年前から奴らに呼び出された翌日は必ずといっていいほど数秒鏡で自身の顔を確認するようになった。
「大丈夫だな……」
昨日の痕跡は残っていない。それを確認すると、彼女は笑みを作った。
そこに映ったのはいつも通りの笑みを浮かべた己の姿だ。
「大丈夫だ、オレは笑える」
その言葉は自己暗示のように静寂な家の中に響く。
それから彼女は気持ちを入れ替えて、寝間着から部屋着に着替え、更に衣類タンスの中からなんの変哲もない割烹着と三角巾を取り出すと、それらを身につけ、バケツに水を汲んで雑巾を取り出した。
「さて」
そんな自分に発破を掛けるための言葉を徐に呟くと、はたきで部屋の隅にたまった埃を落とし、雑巾を硬く絞って廊下の掃除を始めた。
彼女に両親はいない。2人とも第三次忍界大戦で亡くなった。以来、この家にはシスイ1人しか住んでいない。イタチの家ほど大きい家ではないが、それでもそれなりに広い家だ、掃除1つとっても中々の重労働であったが、それでも彼女は任務で余程忙しい時以外は出来るだけ毎日のように早朝は掃除をすることにしていた。
元々その魂はこの世界の人間ではないシスイであったが、それでもここは18年(体感としては15年だが)彼女が育ってきた家であったし、実の両親といっていいのかは微妙ではあっても、それでもこの世界の父や母も少女にとっては第二の両親として慕っていた相手だ。たくさんの想い出が詰まったこの家に愛着もあった。
イタチの父であるフガクなどは、うちで一緒に暮らさないかと言ってきたことも過去あったし、それは善意からの申し出だとわかっていたが、それでも断った。今でもただでさえ入り浸っているというのに、丸ごとお世話になるのは申し訳ないのもあったが、自分が去ればこの家が無人の廃屋となるのは目に見えているので、気が引けたというのもある。
出来るだけ綺麗な状態を保っていて欲しい。そう思うからこそ丁寧に隅から隅まで雑巾掛けをする。とはいっても、なんだかんだいって前世でも数年間1人暮らしだったくらいだし、現世でももう10年近い月日1人暮らしなのだ、慣れているし、その手際に無駄はない。朝の6時を少し過ぎるくらいには大体の掃除は終わらせた。
「よし」
やはり綺麗になった姿は見ていて気持ちいい。そう思って何度か頷くと、続いて箒とちり取りを持って彼女は玄関口に向かう。
朝の澄み渡る風が心地よい。竹箒がザッザッと音を立て落ち葉や塵を絡めるように集めていくこの音がシスイは結構気に入ってたりする。
なんていうか、掃除機で吸い取ったりする現代日本の掃除法のほうが楽といえば楽だが、こういうアナログのほうが自分の手で綺麗にしているという達成感があっていいよなーなんてことを思いながら、玄関口から家の外にある街道のほうにまで箒を這わせていく。あまりに良い陽気なので、思わず鼻歌を口ずさんでしまいそうだ。
「~~~♪ ~~~♫」
なんてことを思っていたら気付いたら本当に唄っていた。
「って……はは……」
思わず苦笑して、ちょっと顔を赤らめながら頬を掻く。どうにも気分が良くなると歌を唄う癖があっていけないいけない。多分昔前世で妹が幼い頃、寝る時によく歌をせがまれて唄ったり、中学時代の頃毎日のように友人とカラオケに行ったり、高校時代友人と組んで内輪でバンド活動をしたり、現世でも幼少期イタチを寝かしつけるのに歌唄ったりしてたのが原因だろうが、ちょっとこれは恥ずかしい。
前世では夢とかなりたいものとかは無かった身ではあるが、それでも数少ない趣味の1つが歌と楽器だったというのもあるのだろう。
まあ、とはいっても下手の横好きっていうか、別にプロになれるような腕はなかったが、それでもあの頃仲間と一緒に馬鹿やって、歌ったりギターを弾いたりするのは楽しかった。1番最初に出来た彼女などは学園祭での高校バンドが切欠で知り合ったのもあり、よくオレのギターを弾く姿や声が好きだといってくれたものだ。もう彼らの顔は思い出せないけど、それでも歌はきっと自分にとっては幸福だった時代の象徴なのだ。
そんなことを思いながら、自分の家の前だけでなく、ついでに隣の家の前の道路も掃いていく。
と、隣の玄関から30歳後半ほどの女性が出てきた。元木の葉の中忍で今は専業主婦である隣の奥さんだ。
「おはようございます」
挨拶は人間関係の基本だ。シスイは手を止めるとペコリと軽い会釈をして、笑顔で朝の挨拶をかけた。
そんなシスイに対し、隣の奥さんは微笑ましそうに笑いながら言った。
「あら、シスイちゃんおはようさん。今日もご苦労様。若いのにいつも偉いわねー」
「いえいえ、自分などまだまだです。それに先週はありがとうございました。任務でいない間、うちの掃除をしてくださったとテウチさんから伺いました。また後日改めてお礼に行かせてもらいます」
「やぁね、相変わらず生真面目なんだから。いいのよ。それにこういうのはお互い様じゃない? それに先日差し入れしてもらったカボチャの煮付け本当に美味しかったわ。こちらこそありがとう」
「本当ですか、ありがとうございます!」
パァァと顔を輝かせながら、それでも照れ交じりにはみかみつつ明るく礼を言うシスイに対し、隣のご婦人はクスクスと笑いながら、彼女の頭に手をやって軽く撫でた。
「わ……」
普段はよく子供の頭を撫でるが、撫でられる側になることは滅多にないシスイは、この歳が一回り以上離れた女性に対し、やや照れくさそうに頬を掻くが、嫌がることもない。そんなシスイを笑って見下ろしながら、30歳後半ほどの落ち着いた女性は言った。
「ふふ、本当に良い子ね。うーん、シスイちゃんがフリーだったらうちの嫁に来て欲しいくらい。ああ、でも駄目ね。うちの馬鹿息子には勿体ないか。それにシスイちゃんにはイタチくんがいるものね。ちょっと惜しいけど、おばさん断念するわ」
「? えーと……」
嫁にしたい云々はお世辞と冗談にしても、なんでそこでイタチ? なんてことを思いながらも、シスイは隣の奥さんを見上げるが、そんなシスイの耳元にこそこそと口元を近づけて、彼女はこんなことを言った。
「ところでシスイちゃん、貴女イタチくんと何処までいったの?」
「へ?」
「いやぁ、ここのところイタチくんもすっかり大きくなったじゃない? かっこよくなったというか、元々大人びていた子だったけど、最近は暗部の分隊長への昇進も検討されているっていうし、早熟っていうか、下手な大人よりも大人びているし、うちの息子より5つも年下には見えないし。こう、側にいてときめいたりとかしない?」
「はぁ……ときめきですか」
といわれてもなあ、とシスイは思う。
シスイにとってイタチは一応名目上は婚約者となっているが、弟のような存在だ。
可愛いなあと思っているし、大事だし、なにかあれば守ってやりたいとも思っているが、それはそれ、これはこれで恋愛感情とは別物である。
そもそも、彼女は今こうして『女』として現世では生まれ育ち、世間でも『女』として通っているが、その精神も人格も前世のままの『男』だ。27年も男とし生き、大学中退するくらいまでは彼女もいて、性的な意味でも女と寝たこともある記憶も持つ『彼』としては、今がいくら女であるとはいえ、男を異性として見ることなど到底出来なかった。男と肉体関係を持っても、だ。
よって、そもそもイタチに限らず男にときめくという感情が理解出来そうにない。
逆に女の子にときめくことならあるが、しかし前世でも死ぬ数年ほど前から女の子への欲求が大分低下していた身だったし、現世では一応は体が女なので女性ホルモンの関係なのか女の子へのそういう感情は大分ソフトになっているし、それに第一シスイはうちは一族以外の女性には嫌われまくっていたので、ときめく場面自体が少なかった。
……まあ、銭湯で女湯に入ることは結構慌てることが多かったが。なんていうか精神は女じゃないのに女風呂に入るなんて自分がいけないことをしている気がして罪悪感から目を反らしまくって風呂自体を楽しめた試しがない。女湯に入ることは男のロマンという輩も確かに世の中いることはいるが、少なくとも前世からして自分は覗きは犯罪という意識を持っていたので、女性の裸に興味はあっても覗きには嫌悪感と抵抗感があった。
彼女じゃない女の裸で見て良いのは、AV女優とか自分の裸体を売り物にしている女性だけだ。まあ、全く違う意味でなら、幼い女の子を風呂に入れるとき見てしまうくらいなら別にいいと思うが。幼い子供なんて別に見たところで何かを感じたりとか興奮したりとかすることもないし。ちんこついているかついてないかくらいで別に子供なんて男も女もそう変わらないし。というか、子供の裸を見て興奮したらそいつは変態だ。
そんな彼女にとってイタチにときめかないのかといわれても、多分この先イタチが大人になってもそれはないだろうと思うわけで、しかしそんなことを一応世間的には『女』である自分がいうのはどうなのか。あとでイタチの耳に入ったらそんなに自分には魅力がないのかと傷つけてしまうかもしれない。別に異性として見たことなんてないし、これからもないだろうが、イタチが傷つくのは嫌だなあ、とそうシスイは思った。
まあ、確かに最近は特にかっこよくなったんだろうなと思う。昔から大人びているやつだったが、背が伸び始めたのもあって最近は特に大人っぽい。あの落ち着きといい顔立ちや雰囲気といい、とてもじゃないがまだ若干12歳には見えない。多分外見年齢だけなら自分と同じ歳くらいに見えるんじゃないのか?
イタチは同性から見ても充分かっこいいと思っている。自分にないあの落ち着いた物腰は少し焦がれるものがあるくらいだ。だが、こう幼少期から知っている身としては、やっぱりなんだかんだ子供だなーと思える部分もないわけじゃないし、やはり可愛い弟のような存在にしか見えないというか、オレの癒しというか……一緒にいて落ち着く相手というか。
自分が天才だと遠巻きにされていることとか気にしているみたいだし、そういうとことか見ると世間で言われるほど大人でもないよなーという気もしている。実の両親にさえまともに子供扱いされていないみたいだし、実際まだ12歳なんだし、自分くらいは子供として扱ってやりたいなーと彼女としてはそう思っているわけで、だから出てきた結論はこうだった。
「私から見たらまだまだあいつは子供ですよ」
その言葉に、隣の奥さんは苦笑しながら言った。
「うーん、これは流石にイタチくん気の毒ねえ」
「はい?」
なんでイタチが気の毒? なんてことを思いながら笑顔にクエスチョンマークを浮かべたままシスイが首を傾げると、30代後半の婦人は益々苦笑を深める。
「あの子、あんなにシスイちゃんのこと好きなのに」
「? 私もイタチのことは大好きですよ」
「天然もここまで来ると罪よねー……」
そんなことをしみじみ言うが、一体なんだというのだろう? が、まああまりシスイは気にしないことにした。そもそも頭の良くない自分があれこれ考えても無駄だろうという考えもあった。
「はぁ、天然ですか。あ、ゴミ持って行くならついでですし一緒に持って行きますよ。そこ置いといてください」
だからシスイはそう声をかけて話を切り上げた。
朝の7時半になった。シスイは汗と埃を落とすため、シャワーで体を流し、また昨日の痕跡を稚拙な医療忍術や薬を使って丹念に消していくと、洗濯物を洗濯桶に突っ込み、外出着に着替え、上から調理用のエプロンと三角巾を取り付け、冷蔵庫の中身を物色した。
今日はイタチとたまたま非番の日が重なったこともあり、9時か10時くらいにイタチの家に行くことになっている。イタチの父でありうちは警務部隊の隊長を務めるフガクはまだ仕事だし、イタチの弟のサスケはアカデミーで授業を受けている。いつも家にいるイタチの母のミコトなどは、昨日から数人の女友達と共に2泊3日の温泉旅行に出かけている。思えばこうしてイタチと彼の家で2人っきりになることは久しぶりだった。
昼飯も一緒だが、天気も良いし、たまにはピクニックも兼ねて一緒に修行に行くというのもいいのかもしれない。多分一部の能力を除いて既にイタチに大抵の能力において負けている気はするが、それはそれとしてイタチがどれくらい上達したのか見るのは楽しみだし、ここ数年は色々あってまともに修行が出来ていないから、久しぶりにこういう健全なことで汗を流したい。
となると、昼飯には弁当を用意したほうがいいのかもしれない。なので、今日は朝食と一緒にイタチと自分2人分の昼飯を作るつもりだった。
自分はイタチの母であるミコトほど料理が上手いわけではなかったし、美味しいと他人に褒められても世辞だろうなあとは思っていたが、それでもイタチは自分の料理を「美味い」と「好き」だと言ってくれていた。
あいつは冗談や世辞を言う奴ではなかったので、きっと本心なんだと思うが、そうやってイタチに料理を褒められるのは照れくさくて嬉しかった。
いつもは無表情に近いのに笑みさえ浮かべて「また食べたい」なんてことを言ってくれるこの弟分がなんだかとても可愛くて、嬉しくて、それを聞く度「よっし、にいちゃんが今度はもっと美味いもん食わせてやるからな」という気分になってついつい新しい料理を研究したり、ミコトさんに新しい料理を学んだりしているうちにやたらと料理のレパートリーだけは増えていった。
味は普通だと思うが、これでもちょっとは上達しているはずだし、作れる料理の種類だけなら多分そんじょそこらの主婦にだって負けない自信がある。大した腕じゃないけど、それでもイタチが喜んでくれたら嬉しい。
そうして冷蔵庫を物色してメニューを決める。
「よし」
決まると、ざっと食材を並べた。
弁当にはイタチが好きな昆布にぎりと一口サイズのロールキャベツ、厚焼き卵、プチトマトのサラダにデザートには先日作っておいた梨のコンポートというメニューをチョイスした。朝食は弁当用の厚焼き卵を多めに作っておいてその残りと、豆腐の味噌汁、ワカメとじゃこで作った自家製ふりかけご飯といったメニューだ。因みにシスイは味噌汁はダシから取る派で、カツオダシ派である。
コトコトと良い匂いが台所に広がると共にトントンと軽快に野菜を切る音があたりに響く。
料理は良い。余計なことを考えず目の前のことに専念出来るから、色々と気が楽だ。多少疲れているが、これを食べたときのイタチの顔を想像するだけで疲れも吹っ飛ぶというものだ。
ミコトさんに比べたら稚拙な料理だけど、少しでも喜んでくれたら嬉しい。
「~♪ ~~~♫ ~~♪」
そんなことを考えながら前世でよく聞いた洋楽を口ずさむ。音楽は好きだ。高校バンドでは仲間に合わせてジャズ系の音楽をよく歌ったり弾いたりしたものだが、『彼』の好みとしては、日本やアメリカの音楽ではなく、よく欧州の……とくにアイルランドとか北欧系のちょっと落ち着いた感じの音楽を前世では好んで聴いていたため、今でも歌うときは大抵そのあたりの曲が口を突いて出た。
ケルト音楽って良いよね。イギリス民謡とかも好きだけど。まあ、この世界に西洋はないのでもう聞けないだろうあたりがちょっぴり寂しくて、忘れないように定期的に歌ってしまうわけだが。
とそんな風に歌っているうちに弁当も朝食も完成した。
「ん、良し」
2人分のおかずを弁当箱につめ、赤と緑の色違いである風呂敷に包みこむ。イタチは大食漢ではなかったが、成長期なのだしと思って、彼の分はやや大きめの握り飯にしておいた。
「イタチ、喜んでくれるかなー」
喜んでくれたら嬉しいなと思う。修行したら汗をかくのでレモン水と着替えも用意しておこう。イタチはどれくらい強くなったのだろう? やっぱり暗部だし、分隊長への昇進も検討されているらしいし、相当強くなったんだろうなあ。手合わせ楽しみだなあ。
そんなことを思いながら、洗い物をすまし、先に洗濯桶につけていた洗濯物を1枚1枚丁寧に洗い、庭で干した。
今日は良い天気だ。夕方から夜にかけては雨が降るかもしれないが、帰ってきた頃にはよく乾いているだろう。
そんなことをしているうちに時刻は9時をまわり、シスイは最後に戸締まりと点検を済ませると家を出た。
そしてイタチへの家の道を歩きながら、顔見知り(といっても、一族は全員顔見知りなのだが)の顔を見つける度に笑顔で挨拶を交わす。
「おばちゃん、おはよー」
「あーら、シスイちゃんお弁当もって今日どこかにお出かけ?」
「へへ、久しぶりにイタチと休暇重なったから、修行にでも誘おうかと思ってるんだ」
「そう良かったわね、気をつけて行ってきなさいね」
「よぉ、シスイちゃんまた綺麗になったんじゃないかい」
「あはは、そんなことないですよ。それよりおばあさんは大丈夫ですか? この前腰痛めたって聞きましたけど」
「そうなんだよ、聞いてくれるかいシスイちゃん……って今はそんな暇ないか。すまねえな引き留めて。またな」
そんな会話を繰り広げながらイタチの家に行くと、彼は既にシスイの気配を感じていたからなのか玄関先に立って出迎えていた。
端正な横顔が見える。切れ長の目をして通った鼻筋と綺麗な形をした唇、深いほうれい線が印象的で、自分には決してない真っ直ぐで綺麗な黒髪を横に分けており、長い髪を赤い髪紐で1つに縛った細身の大人びた少年だ。
会うことは数週間ぶりで決して久しぶりと呼ぶほどではなかったが、それでも昨日の後だとどうにも懐かしさと安心感が先に出て、またこうして会えたということがどうにも嬉しくて、シスイは感情のままに駆け出し、イタチに抱きついた。少年の体が一瞬固まる。
「イタチ、おはよう!」
イタチの葛藤にも気付かず、シスイは自分とさほど身長の変わらない(ややイタチのほうが背が高い)少年の体をギュウギュウと抱き締める。勿論抱き締める際に自分の胸だの太ももだのが彼に押しつけるかのように当たっていることには気付いていない。
ただ、嬉しくて、また日常に戻って来れたんだと漸く実感出来て、安心と感動のあまりの行動であったわけだが、しかしされたほうとしてはたまったものではなかった。
イタチは彼女に負担をかけないように力加減をしながらその体を引き離すと、言った。
「シスイ……往来で、いや往来でなくともそういうのはもう止めにしてくれ」
「え……イタチは嫌だったのか?」
思わず拒否られた、嫌われたのかも知れないとショックを受けた顔をして見返すシスイに向かってイタチは言った。
「そうじゃない。ただオレももう子供ではない、だからそういうことを容易にするな」
その言葉にははんとシスイは考えた。
(子供じゃないなあ……?)
つまりイタチもそういう風に大人ぶる時期が来たってわけか、と彼女は思った。子供であればあるほど、「自分は子供じゃない」なんて大人ぶるものだ。最初は嫌われたのかと思ったけど、なんだ微笑ましいじゃないか。
そんなことを言われると、近頃大人っぽくなってきたかなー? と思っていたイタチが尚更に背伸びし始めた子供に見えてくる。全く可愛い奴だなあ。
クスクス笑いつつ、そんなことを思うシスイに対し、その心を読んだのかイタチはむっとした顔を一瞬だけ見せて「忠告はしたぞ……とにかく、上がれ」といって背を向け、そのまま玄関口に向かって歩き出した。
その後を追って彼女も「お邪魔しまーす」と一声かけ、綺麗に靴を揃えながらその勝手知ったる他人の家に上がる。
イタチの家は相変わらず広かったが、とりあえず弁当とレモン水を入れた竹筒を台所にひとまずは置いた。
本当はイタチに会ったら真っ先に修行に行くことをきりだそうと思っていたが、どうやら自分は想像以上に近頃疲れていたらしい。癒しだ、癒しが足りないのだ。イタチに構ってたわいない会話をしたくてたまらなかった。
「とりあえず、オレの部屋に来るか」
だからイタチがそう切り出したときも「行く!」と一も二もなく答えた。そんな彼女を見て、イタチは頭が痛そうにハァとため息を1つ漏らし、「何故お前はそんなに無防備なんだ……」と呟いたが、意味が分からない。
「?」
イタチ相手に警戒することなんて何もないだろうに、何を言うんだろうと思いながらそれでも後ろについていった。
部屋につくと、少年は座布団を2枚取り出して、1枚をシスイに手渡すと、ついでお茶も取り出して彼女に渡した。
「ありがとう」
そういって茶を受け取り啜る。まったりとした空気の中ポツポツと話題を見つけては話し続けた。
「それでさー、この前アカデミーでサスケちゃんを見かけたんだけど、その時にさー」
なんの変哲もない会話。殆ど喋るのはシスイ一辺倒で、イタチはほぼ相槌をうちながら聞いているだけだったが、そうやって静かに聞いてくれるのもイタチなりの優しさだと知っている。だから彼といたら癒されたし、イタチの側はあったかい。段々と心の奥底に淀んでいた気持ちが癒されていく。
そういうところが昔からイタチは変わらないなと思う。
「へへ……」
それがなんだか嬉しくて、シスイはゴロゴロと猫のように擦り寄り、イタチの胸板のあたりに顔を寄せてギュウとまだ華奢なラインを描く少年の体を抱き締めた。
「……おい」
それにイタチにしては焦ったような声が響く。けれど、それすら気にならず、シスイは自分の感情の侭にギュウギュウと彼を抱き締め、目を瞑ってうとうととその暖かさに微睡んだ。
「シスイ、止めろ」
「……ヤダ」
本当にイタチが嫌だと思っているのなら、朝抱きついたときみたいに引きはがす筈だ。それをしないってことはイタチだってなんだかんだいってスキンシップが嫌いじゃないってことなんだろうとそうシスイは結論を出していた。
イタチの焦りの意味を彼女はやはり気付かない。
「オレはもう子供じゃないと言った筈だ」
「お前は子供だろ」
ポロリと何も考えず、反射だけでシスイは穏やかな声でそう答えた。その時イタチがどんな顔をしていたのか、目を瞑りただ暗闇とイタチの体温に心預けていたシスイは知らない。
なんで子供の体温ってこう暖かいのか。
その温かさに、疲れた体と心に眠気が襲う。
(それにしても疲れたな……)
やはり長期任務から帰ってきてすぐ、一服する暇もなく奴らの慰み者として呼び出されたのは痛かったのかも知れない。それでも、クーデターに心が傾きかけていたうちは一族を説得しつつ、その裏で奴らに呼び出される度にその遊びに付き合い、イタチの任務を代行していた頃に比べると天地の差だが。
昔ほど過激なプレイはされてないとはいえ、それでもフェラに手コキに、バイブ咥えさせられたり、ケツで2本咥えこんだりと、一般から見ればこの時点で充分過激と言えば過激だろう。しかもそれが奴らが満足するまでこっちの都合お構いなしに続くわけだから本当に勘弁してほしい。慣れたからといって疲れないわけじゃないのだ。
益々子猫が親猫に擦り寄るようにしてイタチに体を預けながら彼女は思う。
ほんの少しだけ、少しだけで良い。
今だけでいいから、この微睡みの中で何もかも忘れていられたら……。
しかし、そのシスイの感傷と願いは次の少年の言葉と行動で覆された。
「……いい加減にしろ」
―――――その変化は突然だった。
「イタチ……!?」
突如イタチは、先ほどまでその顔に浮かべていた筈の無表情に近いながらも落ち着いた顔をかなぐり捨て、切れ長の目に強い感情を宿してシスイの両手を掴んだかと思うと、トンとそのまま壁まで追い詰めた。
そして掴んだその手はそのままに歯と舌を使って器用にシスイの着ていた上着を下着ごと胸の上まで押し上げるや否や、乳輪を口に含み、ぐりと舌で刺激するように乳頭に舌を押し当て、ピチャピチャと音を立てながらシスイの豊満な胸を舐めまわし、時に強く吸い付いたりの動きを繰り返す。
「ひゃっ……! ぁう、ちょ、なんで、止め、ヒッ」
なんでこんな目に合っているのかわからず混乱に陥りながら、シスイはビクビクと肩を震わしつつ、抵抗にもならない抵抗を繰り返す。そんなささやかな抵抗を繰り返すシスイの足を嘲笑うように、イタチは自身の足で彼女の両足を押さえつけ、相変わらずシスイの腕をその手に掴み封じたまま、ずっとシスイが弟のように思ってきた少年は一言。
「……お前が悪い」
チュッと音を立て、プックリと膨らんだピンクの先端から唾液を滴らせながら唇を離したイタチは、そういつも通りにさえ見える顔をして口にした。
わけがわからぬままに何故そんなことを言い出したのかその真意を少年に尋ねようとしたシスイであったが、それより早くイタチの手がシスイの両の手を頭上で1つに纏め、片手で束ねた後、空いたもう片方の手で彼女のその一般より大きな……といっていいシスイの胸を揉みしだき出したのに驚き、当初の予定と違う言葉だけが彼女の口からは漏れだした。
「ひ……ンっ、や、ヤダ」
シスイの胸はイタチの手に揉まれる度、柔らかくむにゅむにゅと形を変えていく。そうして弟分の手によって己の胸を揉まれる度、ムズムズした感覚が腰を通って駆け上がって、身悶えるようにシスイは動かない体を必死に動かそうとした。そんなシスイの耳たぶをカリと甘噛みしながら、イタチは言った。
「散々人を煽るからだ」
言われたシスイは何をイタチが言っているのかがわからない。煽った? 自分が? 一体なんのことだ?
そう思う間にもイタチの手はテキパキとした動きで進む。イタチは自らの髪に手を伸ばし髪紐を掴んだかと思えばそれでもってシスイの両の手を縛り付けた。
「……イタチ!?」
驚きの声を上げる合間にも、両手が自由になったイタチは、素早い動きでシスイの体を痛みも与えずに床の上へと押し倒す。そしてイタチは自分の着物に手をかけ、それを脱ぎ始めた。
細身であるというのに、しっかりと筋肉が乗った少年の体が顕わとなる。一切の無駄のないそれは見る者に美しささえ感じさせるものではあったが、今生では女とはいえ、意識までは女として染まり切れていないシスイにとっては動揺を誘うものでしかない。
いや、最初にイタチに胸をまさぐられた時からまさか、とは思っていたのだが、出来れば彼女は信じたくないから目を反らしていたというのに、逃げ場を失った心境とでも言えばいいのか。
「……シスイ」
そうして己の名を呼ぶイタチの声に僅かな男の情欲を感じた。
そのことに彼女は衝撃を受けた。
イタチは好きでもない相手を襲うようなそういう奴じゃないことくらいわかっている。自制心が強い彼は一時の性欲や興味本位などに負けるような精神の持ち主じゃない。誰より真面目で厳しいけれどこいつは誰よりも強く優しい子だったのだから。
だから、つまりこの状況は……。
(お前……オレのことが好きだったのか…………?)
その可能性に初めてシスイは気付いた。
一体いつから、などきっと今更問うても意味はないのだろう。だが……。
―――――ずっと、弟のようには思っていた。血は繋がっていなくても、弟だとそう思っていたのに。それは自分だけだったのか。
イタチのことはずっと大切だった。だけど……たとえ今は女といえど、女として育てられたといえど、それでも心まで女として染まりきり、男をそういう対象として見るなんて出来ない。自分には出来ないのだ。
確かにイタチのことは大切だ。愛おしく思っていたし、守ってやりたいと思っていた。けれど、その愛情の種類は違う。自分の「好き」とイタチの「好き」は決定的なまでに違うのだ。
実の弟のように思っていた。その幸せを願っていた。幸せになってほしかった。原作のような悲劇にあうこともなく、お前がいつか成長して、可愛い花嫁を娶り結婚する姿を見られたなら、その時まで側でお前を見守って祝福してやれたらいいなとそんな風に思っていた。
いつか愛する女を見つけ幸せになってほしいと、だけど……無理だ。初めからイタチの相手に自分が選ばれる可能性など微塵も考えてなかったというのもある。好きな女が出来たなら結ばれて欲しいとそう思っていたのは本当だ。けれど、その相手が自分であったなど……一体どういうタチの悪い冗談だというのだ。
自分はイタチの想いを受け入れることなんて到底出来ない。お前を傷つけたくないのに傷つける結果しか紡げない。弟としては愛せても、女としてなど『オレ』は愛せない。
……たとえお前の願いだろうと、心の底から『女』になどオレはなりたくない。
お前の想いを叶えてやることなど出来ない。
(無理なんだよ、イタチ)
知らず、ポロリと涙が落ちる。
一体己の姿は今他人にどう見えているというのだろうか。イタチの形の良い唇と舌がそれを優しく拭うけれど、それさえ身に巣くった絶望を加速させるだけだった。
「シスイ」
どこか熱っぽい弟分の声が耳に届いて抜けた。やがて、唇が合わせられる。その誰も知らない絶望も悲鳴も、唇に飲み込まれて消えた。
「ん……ふ、ァ、ン……ぅ」
まるで他人事のように自分の喘ぐ声が聞こえる。
男に体を弄られることはもう慣れてしまった。だからこんなものはただの生理現象で、そこにシスイの感情など入る余地などない。意味もない喘ぎ。それに自分の汚らわしさを感じる。
弟のようにしか思っていない相手に、大切だと想ってきた相手にまで感じて反応する己の浅ましさが気持ち悪い。
決して女に心底まではなりきれない自分にはイタチを男として愛することは出来ない。それでもあいつらとの関係のせいでこの体が男に慣れてしまった今、今更肉体を繋ぐ相手としてイタチ1人増えたところで大差ないような気がしなくもなかった。
今まであいつの想いに気付いてやることが出来なかった罪悪感もあったのだろう。だから自分はイタチを愛してやることは出来ないけど、それでもこの体を好きにすることで、イタチの気が晴れるのなら、それでイタチの気が晴れるというのなら構わないのではないかと……そう一旦は思いさえした。
だけど、やはり無理だ。
「ヒッ……! ヤダ、ぁ、ッ、イタチッ、止め……ひゥ!」
肌を暴かれ、口づけを重ねられ、愛撫をされる度にイタチの本気を感じて苦しいだけだった。
体だけの交わりならば、こんなもの生理現象なんだと、ただの性欲処理なのだと割り切れば良かった。そういうのを割り切るのは好きではなかったが、どうせ汚れきった体なのだ、今更変わらないだろう。
けれど、イタチの本気が伝わるほど、イタチのことをそういう目で見れないのに体を任せようとした自分への嫌悪だけが沸き上がる。こんなもの余計にイタチを傷つけているだけじゃないか。抱かれて、それからどうするというんだ? どうせ愛せないのに、期待だけを持たせるのか、それで良いはずがない。
きっと、終わった時、自分もイタチも両方が傷つくだけだ。一線を越えればもう元へは戻れないのだから。
熱かった、苦しかった、辛かった。
イタチが本気であればあるほど心が痛くて仕方なかった。
大切だった、だから気持ち悪いとか思いたくなかったのに、本気が伝わってくる度にイタチへの嫌悪も湧いてくる自分もまた気持ち悪かった。女を求められているのだということを突きつけられて、胸が張り裂けそうだった。
「嫌だ……!」
これ以上彼を傷つけることも、こんな視線に晒され続けることも耐えられそうになかった。
けれど、シスイが放った拒絶の言葉にイタチが止まることはなかった。
「嫌だ、イタチ! これ以上は、本当に……」
どうして止まってくれない。お前は相手に無理強いをするような奴ではなかった筈だろう。こんな互いを傷つけるだけの行為はさっさと終いにしなければならないのに。そう思い泣き叫びながら心の底から湧き出した彼女の拒絶の台詞を前にして、イタチは嫉妬じみた声でこう問うた。
「別に好きな男でもいるのか」
「そういう問題じゃ……ひっ」
少年の舌が下着越しに昨日バイブを銜え込んでいた割れ目のあたりをなぞる。そんな光景に衝撃をまた1つ受けた。
(やめてくれ……!)
お前を汚したくなどないんだ、と。お願いだからそんなことしないでくれと、けれど少年は止まらない。
なのに、こんなことイタチにされたくなんてなかったのに、条件反射で感じてしまう自分が呪わしかった。
「ヤ、ヤダ……ひぅ、ぁ、ア」
「オレ達は婚約者、だろう」
そんな風に喘ぎ泣くシスイに向かってイタチはそんな言葉をかけた。
婚約者だからなんだというのだろう、彼女にはわからない。
数秒遅れて、それが好きな男がいるのかという問いの続きだということに気付いたが、そのことについて何も考えたくもなかった。
尚もイタチの行為は止まらず、シスイは下着越しに潮を吹いてイった。
体中がビクンビクンと痙攣して頭が真っ白になる。
けれど少年の手は止まらず、自分の下着に手をかけた気配で彼女は意識を取り戻した。
「嫌だ……お願いだからイタチ、もう止めてくれ」
これ以上耐えられないと、そう思っての涙ながらの懇願は虚しく、イタチは彼女の身につけていた下着を取り外した。
(どうして、わかってくれない)
お前の想いにオレは応えられないのに、こんな行為お前が傷つくだけなのに、どうしてわかってくれないんだ、と。ボロボロと涙ばかりがこぼれていく。
やめてほしい。
「嫌だ……見るな……」
そんな目で見るのはやめてほしい。
そんな熱の籠もった男の目でオレを見るな。どうしろというんだ。オレは女じゃないのに、女になりきれないのに。
なのに、オレなんかに女を求めるな。お前まで女を求めるのはやめてくれと、けれどその心の声が出ることはない。
やがて、数秒の沈黙を経たのち、イタチは徐にシスイの後肛に指を2本突っ込み、それに条件反射のように彼女の口から喘ぎ声が漏れる。
そんなシスイに向かって、イタチは殺気交じりに問うた。
「……誰にやられた?」
それで、ああそっか、お前はこの体が初めてじゃないということに気付いちゃったのか、と思う。
(そりゃそっか。元々聡いイタチがここまで来て気付かない筈がないか)
元よりこの弟分を相手に誤魔化せると思う方が間違いだったのかも知れない。それでも……気付いて欲しくなかったと思う。
イタチが怒る理由がわからないわけじゃない。
シスイには処女崇拝思想はないが、それでも好きな女の初めてが知らないうちに奪われていたというのは、まだ年若い大人になりかけの子供であるイタチにはショックだろう。
自分だって、前世で彼女と付き合っていた時代にもし、自分の彼女が知らない誰かに犯されてたりしたら怒り狂うだろうし、相手の男を殺してやりたいと思っただろうと思う。
オレはイタチの彼女ではないが、オレ達は婚約者だろうとイタチが口にしたことや、イタチが自分を好きというのがどうやら本気であるらしいことから考えて、イタチは少なくともそういう存在と己を定義していたらしい。ならば、やはり相手の男を殺してやりたいとイタチもまた考えているのかも知れない。
否、この殺気から考えてきっと己が口を割れば実際にイタチなら実行するのだろうとシスイはそう考えた。
……奴らに多少の同情はあっても愛着などはない。それは当然だろう。自分を脅して従わせている相手を好きになるやつなど普通はいないし、あの夜の記憶は未だ悪夢の始まりと記憶している。
初めてではないことは知られてしまった、なら今更恥が上塗りされたところで変わらないのかもしれない。だが……それでもイタチにシスイは知られたくなかった。
あの尋常では考えられないおぞましい行為の全てを。あんなことをされながら、心で嫌いながら尚感じてしまって、挙げ句いつしか男に抱かれることに慣れきってしまった己を。必要以上に痛めつけられない為、少しでも妊娠というリスクを避けるためとはいえ、おぞましい媚び台詞を吐きながら自ら誘う男娼のような真似をした己を。
あいつらの手元にはそんなおぞましいシスイの全てが、写真という目に映るわかりやすい形で残っている。ただのレイプとも違う狂宴の全てが残っている。
……どうして話せるというのだ。
絶対に見られたくなかった相手に、どうして……。
だから、首を振ってこう答えるしかなかった。
「言えない……」
と。
「……そうか」
しかし、それを聞いた瞬間ブワリとイタチの身に纏う空気が変わる。
酷く冷たい目をしていた。それにゾッと背筋が凍り付く。
殺気が練り固まり、凝固したような顔と気配は、美しい顔立ちをしているからこそより一層恐ろしい。
こんなイタチは見たことがなかった。
「………………イ……タチ……?」
恐る恐る呼んだ声に答えることもなく、イタチはシスイの股を大きく開かせて固定し、性急に自分の身につけていたズボンを落として、天を向いて聳え立つ男根を掴み出すと、一気に彼女のテラテラと愛液で濡れる膣内へと突き刺した。
「ひゃぅ! ぁ、ヤ」
これより酷いことなんていくらでもされたことがある。シスイの体は自分の中に進入してきた雄を包み込み、それが多少の痛みと快楽という形で彼女の中へと還るが、こんな行為で感じてしまうこと自体が少女の身に巣くう絶望を加速させるだけだった。
若いイタチのペニスの形全てが体内に刻み込まれる。それがイタチらしからぬ乱暴さでパンパンと音を鳴らしながら出たり入ったりと激しい動きで急速に責め立ててくる。
「ァ……イタチ、ヤダッ」
感じたくないのに、感じてしまう、それにどうしようもなく打ちのめされる。
こんな行為、暴力と大して変わらないのに、なのに何故感じてしまうのか悔しくて、その相手がイタチであるということが苦しくて、辛くて、痛い。
その氷のような切れ長の目も、その瞳と相反するような情熱も苦しいだけだ。
(やめてくれ、そんな目でオレを見るのは)
「ヤダッ、ひ、ァ、アゥ……あッ」
喘ぐ自分の声がまるで道化のようだ。なんておぞましいんだろう。こんな声、絶対にイタチに聞かせたくなかったのに、知られたくなかったのに、なのにこうしてかつて実の弟のように思っていた相手に組み敷かれ喘がされているなんて、悪夢だというのなら早く覚めて欲しい。
「ヤダッ、ィタチ止め……ぁアッ」
けれど、イタチが止まることはなかった。
何度も嫌だと言った。
何度も何度も止めて欲しいと。
イタチなら、止まってくれるんじゃないかと、こんなの悪い冗談だと……そう信じていたかった。
けれど、止まらない。
何も、止まらない。
その目に、動きに、指に、若い本物の情熱を見る。
あいつらと同じなんかじゃなかった。
抱かれるといっても、同じなんかじゃなかった。
狂おしいほどの愛情が、全身全霊でオレを愛せとそう告げている。
全ての行為に確かな想いが熱いくらい伝わって、火傷しそうだ。
だが、こんな想いを向けられて、一体どうしたらいいというんだ? どうしろと、いうんだ。
(オレは、お前を愛せないのに)
苦しくて仕方がないんだ。
本当に止めてくれ。
やがて、長い接吻を幾度も繰り返し、唾液の糸を垂らしながら唇を離した後、イタチは言った。
「出すぞ」
その言葉に、意味を理解した瞬間シスイは血の気が引くような思いを感じた。
「は……ヤッ、ひッ!? ヤダッ、中、出すな……ぁああ!」
けれど、止める間もなく、制止の意味もなく、子宮口に叩き付けられるようにしてイタチの若い雄が放たれる。ドクドクと熱い精子が1番敏感な最奥に叩き付けられる感覚に耐えきれず、シスイもまたイった。
体中がビクビクと痙攣を繰り返す。気持ちいいか気持ちよくないかで答えるなら気持ちいいになるのだろうが、それでもこの感覚がシスイは嫌いだった。力が抜けて頭がおかしくなりそうで、嫌いだった。自分の体が女であることを嫌でも突きつけられて、そんな風に感じてオーガズムに達してしまう自分が呪わしいだけだった。
それでも相手がただの肉体目当ての奴ならば、どうせこんなものはただの生理現象なんだと、相手は自分を人間扱いしていないんだから傷つく必要もないんだと、そう自分に言い聞かせておけばそこまで深く傷つくこともなかった。
けれど……弟のように思ってきた相手に中出しされ、己も果ててしまうなどどこまで己は浅ましいのか。
イタチがイくのは理解出来る。彼にとっては己は好きだった女なのだろうから理解出来る。だが、違うのだ。自分は、シスイはイタチを恋愛対象として愛したことなんてない。今だってこんなことをされて尚弟のようにしか思っていないのに、どうして感じてしまうのか。
罪悪感もあった。
一線を越えてしまった以上もうイタチと元には戻れないのだろう。
今まで彼の自分を好きというサインに気付かず、踏み込んで結果こんな自体を招いた事に対する負い目もある。
途中で離れていたら、もしくは婚約者という立場についてもっと真面目に考えてさっさと婚約を解消していたらなら、きっとこんなことにもなっていなかった。
好きな相手に強姦紛いの真似をしたなど、正気に戻ったらきっとイタチは傷つく。
けれど、己は? これから先どうすればいいのだろう。
彼の想いを知った以上、もう決してイタチを今まで通りただの弟分として見ることなど出来ない。イタチを嫌ったり憎みたくもないし、イタチが悪いわけじゃないこともわかっている。それでも、情愛を向けられれば向けられるほど、自分の中の『男』が気持ちが悪いと嫌だとそう叫ぶ。吐き気を覚える。
一体、どうすればいい。
そんなことを思考していると、いつの間にか硬度を完全に取り戻し更に大きくさえしているイタチの一物が乱暴な動きで精子まみれの子宮口を鋭く突いた。
「え……!? ヒッ、ぁう、ア……アッ」
思わず驚いて見返す彼女に対してイタチは無言で彼女の両足を掴んで、中は繋げたまま逆さづりにする。深い角度で男根が少女の敏感な部分を抉り、苦しい姿勢と耐え難いような快楽が同時に少女を襲った。
「なん、で……ひ、ァ、あッ、うァ」
どうしてイタチがこんなことをするのか。ボロボロと涙をそのままに問うと、少年は酷く冷たい声でこう語った。
「あれで終わりなわけがないだろう」
理解した瞬間血の気が引いた。
思わずパニックになり、色々言ったがそれにやはりイタチが答えることはなくて、ただ激しい動きで幾度もシスイを翻弄した。それがイタチの想いの深さを表しているようで、酷く恐ろしかった。
(やめてくれ)
気持ち悪いんだ。
気持ち悪くて仕方ないんだ。
そうこうしているうちにイタチが膣奥へと2度目の射精を果たす。
その瞬間の絶望感をなんと呼べばいいのだろう。
苦しくて仕方ない。
なのに、終わらない。終わってくれやしない。
まるで2回出したのがなかったかのように、未だ硬いペニスが彼女の体を掻き乱す。その唇が、指がシスイの体を暴いていく。
「ァッ、やっ、イタチッ! ヤダッ、ヤダァ」
泣き叫ぶ声に答えは返されない。
感じたくないのに、これ以上イかされたくなどないのに、お前を汚したくなんてないのに、なのに彼女の想いを踏みにじるようにイタチの指が、舌が、男根がシスイの弱点を狙って体中をまさぐっていく。
(やめてくれ……!)
そんなふうに愛おしげに撫でるな。この体がどうしようもなく女だとオレに自覚させるな。オレに女を求めるな。お前が愛した少女などただの幻想の作り物だ。実際のオレは女になりきれないくせに女のフリをして生きているただの紛い物なんだ。よりによってお前が、オレをそんな目で見るなど止めてくれ。
胸が、痛くて痛くてたまらない。壊れてしまいそうだ。
やがて三度目の射精が近づき、たまらなくなってシスイは叫んだ。
「ィタチ、イタチィ! 子供出来ちまうから……! ホントに、それ以上は子供出来ちまうから……ッ! だから、もぅ……止め」
「出来れば良い」
その言葉に信じ消れず目を見開く。
(今、なんて言った?)
子供が出来れば良いと。
つまり、これまで膣奥に出してきたのは、ただの怒りにまかせた暴走ではなく、種付けが目的であったと? 抱くと決めた最初からそのつもりだったと?
その可能性に気付き、シスイはまだ子供だと思っていたこの目の前の弟分の思考にゾッとした。
そんなシスイが至った結論を補強するかのようにイタチが言う。
「オレの子を孕めば良い」
その言葉はまるで死刑宣言のように彼女の中に響いた。
(嫌だ……)
ガリッとまるでナイフで心を削られるように心が抉られていく。それは強姦などより余程彼女の心を打ちのめした。
「シスイ」
その声の熱が恐ろしかった。
愛していると、そう言っているかのような雄の匂いを感じさせるその声が何より怖かった。
ガタガタと体が震えていく。無意識に首を左右に揺らす。
そんな彼女を許さないというように、怒りで紅く染まり巴模様の浮いた瞳がシスイを射貫く。
「孕め」
「…………嫌だ」
震える声で言葉を漏らした。
そんなシスイを許さないとばかりに鋭い動きで子宮口をイタチの膨張したペニスが突き上げる。
「オレの子を孕め」
こんな恐ろしいイタチは見たことがない。それでも是と答えられるわけがなかった。
(嫌だ、本当に嫌なんだ。……イタチ、オレは『母親』になんてなりたくないんだよ……)
自分が妊娠した姿を想像するのでさえ目眩と吐き気を伴うくらい苦痛なのに、出来るわけがない。なれる筈がない。子供は好きだけど、それでも……自分『が』母親になるなど耐えられるはずがない。
(無理なんだ……イタチ本当に無理なんだよ)
どうしてこんなことになったんだろう。
何が悪かったんだろう。
オレはただお前の側にいて、お前を守ってやれたらそれだけで良かったのに。
「お前は、オレのものだろう?」
らしくない泣きそうな顔でイタチが言う。
あんなに守ってやりたかった相手をオレが苦しめている。
苦しくて苦しくて仕方なかった。
(オレが悪かったのか)
お前の幸せを願っていたそれだけは真実だったのに。
「この髪も、この胸も、この肌や、この瞳、唇、此処も」
(……ごめんな、イタチ)
「オレのものだ。他の男になどオレはお前を渡す気はない」
(お前がいくらオレを愛しても、それでもオレはお前を愛せない)
この先も、イタチを異性として見るようになる日はきっとない。
だから、そんな返らない愛情を求めるのは止めてくれ。
―――――幸せになって欲しかった。
叶えることが出来るなら、お前の望みは全て叶えてやりたかった。
それでも、たとえお前の望みだろうと、オレは……女にだけはなりたくない―――――。
「オレは……もう子供ではない。だからシスイ、2度とオレを裏切るな」
その言葉を最後に、彼女の意識は暗闇へと沈んでいった。
* * *
「…………ぁ……」
あれから一体何時間経ったのだろうか。気付けば夕日が部屋に差し込んでいた。
酷使された体は重くだるかったが、きちんと清められているのか不快感は少なく、服は元通りキチンとされていた。まるで見た目は何もなかったようだ。
……あれが夢だったらいいのに、とシスイは思った。
イタチが自分に恋愛感情を抱いていたことも、自分が清らかな体ではないことを知られたことも……イタチに抱かれたことも、全部全部タチの悪い夢で、また元のような関係に戻れたらいいのに。
「……ッ」
けれど、起き上がると共に、股の間からどろりと太ももを伝って何かが落ちてくるような感触を感じて彼女はゾッとした。
これだけ綺麗に清めておいて、此処だけ忘れましたなんて筈がない。
つまり、「孕めばいい」とあれはイタチの本気だったのだ。
「う……ぐ」
それに思い至った瞬間、吐き気がこみ上げる。
しかし、その時「ただいまー」と少年の声が聞こえて、シスイははっとそんな自分を取り繕った。
サスケだ、どうやらサスケがアカデミーを終えて帰ってきたらしい。
イタチの姿は無い。よく見ればシスイが眠っていた場所のすぐ側に「急な用が入った」と書き置きが残されていて、彼女は思わずグシャリとそれを握りつぶし、なんでもない風を装ってサスケがいるだろう玄関のあたりに向かった。
「サスケちゃんおかえりー、お邪魔してるよ」
「あれ? シスイさん1人? 兄さんは」
いつも通りの笑みさえ取り繕っていうシスイだったが、家にシスイがいることは珍しくもないので、サスケは慣れた様子で不審に思うこともなくそう兄の行方を尋ねた。それに、どうやらバレていないらしいとほっとしながら、「なんか急用が入ったんだってさ」と答えると、サスケも慣れているのか「そっか……兄さんに修行見て貰おうと思ってたのに」とそんなことを呟いた。
「で、兄さんはいないけどシスイさんはどうするんだ? 夕食食べてくのか?」
「うーん、ちょっと体調が悪くて、今日は止めとく。ごめんな。本当はミコトさんいないし夕食作っていってやりたいとこだけど、また誘って」
そういってクシャリとサスケの癖の強い髪を苦笑しながら撫でると、サスケは「子供扱いするなよ」と怒りつつも、ふと先ほどの体調が悪いの話を思い出したのだろう。心配そうな顔で言った。
「なぁ、あんま調子悪いんならうちに泊まれよ。シスイさんなら父さん嫌な顔しないし」
「心配してくれてありがとな。でもそんな帰れないほど酷くはないから。と、あ、ごめん。ちょっと荷物があったんだ。纏めてくる」
そういってシスイは笑ってサスケに背を向けた。
そんな少女を見ながら、首を傾げつつサスケはポツリと呟く。
「なんかシスイさん、変だったな……」
しかしその違和感の正体に気付けないまま、サスケは自分の部屋に向かった。
……台所には、今朝用意していた弁当と水筒が2つ分そのままポツンと残されていた。誰の手もつけられていない。
何故起きたときイタチがいなかったのかは知らない。
忙しい立場なのだ。急な任務への呼び出しだったのかもしれないし、そうではなく、冷静になって考えてみると他の男に肌を許しただろう自分が顔を見るのも嫌になったという可能性もあるのかもしれない。
……シスイ自身は、恋人が自分と付き合っている間は自分だけを見て、浮気せずにいてくれるのなら、別に処女かどうかとか、男性経験があるかどうかとか気にすることはなかったが、それでも世の中には処女でないと嫌だという人種もいることは知っていたし、憧れの人や好きな人が非処女だと知ったらその瞬間冷めるという男も世の中にはいることくらいは知っていた。
幻滅、させたのかもしれない。
なにせこの体は、弟のようにしか思っていない相手にだろうと浅ましくも反応するそういう体だ。
けれど、もう一体何に傷つけばいいのかすらわからない。
(知られたくなんて、なかったのに、な)
最中のイタチのことは思い出すだけで身震いがするほど、恐ろしかった。
本気だと、本当にアイツは己が好きなんだと思い知らされる度、心が抉れた。
もうどんな顔をして会えばいいのかわからない。
ただ、それでも淡々と荷物を纏め、足早にシスイは自分の家へと向かった。
「…………ただいま」
誰もいない家が出迎える。
それは今朝と変わっていないのに、どうしてこうもの悲しいのだろう。
台所にコトリと弁当を2つ置く。
食欲は正直無かったけど、赤と緑の弁当のうち、少しだけ大きい赤い包みのほうを剥がして、弁当の蓋を開ける。出てきたのは昆布にぎりと一口サイズのロールキャベツ、厚焼き卵、プチトマトのサラダに梨のコンポートという今朝詰め込んだメニュー。そのうち、イタチの好物の昆布にぎりに手を伸ばし、それを口に含んだ。
咀嚼する。時間が経ちすぎたそれは少し硬かった。
「う……ぐ…………う、ぁ……あ」
気付けばボロボロと涙がこぼれた。
グシャグシャと顔を歪ませて、子供のように泣きながらボロボロと味のわからなくなった弁当を口に詰め込む。
誰にも食べられることがなかった弁当が、もうイタチと元通りになれる日は来ないんだということをまるで象徴しているみたいだとそう思った。
やがて、ポツポツと雨が降りしきる。ああそうだ、洗濯物を取り込まなきゃと思うけれど、そんな気力さえもうない。
まるでシスイの心をそのまま映しだしているかのように、真っ白だったシーツや私服がドロドロと雨に打ち付けられ、濡れ汚れていく。その様をただガラスのような瞳で彼女は見送った。
この日、彼女にとっての楽園は消えた―――――。
了