※この作品はR-18です。

楽園は消えた   作:EKAWARI

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ばんははろ、EKAWARIです。
今回の話は前回に引き続き、楽園シリーズのしーたん視点の話で、しーたん17歳~18歳の時の話です。今回で本編軸に事件が追いつくと思いましたが微妙に追いつけませんでした。
尚、案外今回の話はイタチに発覚前でありうちは事件収束後なので比較的明るめのテンションですが、次回からガクリと落ちていきます。
それではどうぞ。


しーたんの脳内日記②

 

 

 4月19日。

 オレは漸く上忍としての仕事に慣れてきて、今も相変わらずの生活を送っている。相変わらずとはいっても、うちは一族の問題が片付いたのと、奴らに呼び出される回数が何故か去年から少しずつ減ってきたおかげで、睡眠時間が平均2~3時間から3~5時間に増えたのは素直にありがたいことだと思う。過激なプレイや呼び出し回数が減った理由についてはよくわからないが、飽きたのかも知れない。だったらさっさと捨てて解放してくれ、と思うんだがそうも上手くいかないんだよな、世の中って奴は。

 ま、奴らに呼び出される回数が減った分、その時間を修行や来たるべき日のための準備に費やさなきゃいけないんで、オレが暇になることはないけどね。

 それと、イタチが中忍になってから半年以上の月日が経った。

 加えて少し前に暗部入りを果たしたイタチは忙しそうで、サスケが寂しそうな顔をすることが増えたような気がするし、オレ自身も以前と比べればイタチと共にいる日々が大分減った。

 正直に言えばオレもちょっと寂しいけど、それでもイタチが出世してみんなに認められるのは嬉しいことだ。でもいくら大人びていて、下手な大人よりよっぽど強いとはいえ、イタチもまだ11歳になるかならないかの子供なんだし、あんまり無理はしないでほしいなとも思う。

 任務中はともかく、せめて家族やオレの前でくらいは少しくらい弱音を吐いてくれたっていいのに。まあ、弱みを見せないのもイタチの美徳の1つではあるけどさ、でも頼られないのはちょっと寂しい。

 オレにとってイタチがそうであるように、イタチにとってもオレが安らげる相手になってたらいいのに。

 

 

 6月 9日。

 今日はイタチの誕生日だった。

 だけど、肝心のイタチは任務で帰宅は深夜になるらしい。もしかしたら日付をまたぐかもしれないとそうミコトさんは言った。

 そのことにサスケはションボリとしてて元気がないようだった。折角誕生日プレゼントも用意してたのに、本人に当日会えないんだから、そりゃ落ち込むだろうなと思う。

 オレだって少し寂しい。

 でも、小さなサスケがそうやって落ち込む姿はなんだか見てて酷く胸が痛んだ。

 サスケやイタチのためにオレに出来ることって何かないんだろうか。

 

 

 

 8月 7日。

 今日もまたイタチは任務でいない。サスケは寂しそうだ。

「修行に私が付き合おうか?」

 と、そう尋ねるとサスケは「兄さんが良いんだ」そういって顔を伏せながら走り去っていった。

 悪いことを言ってしまったのかも知れない。

 なんでオレはこう駄目なんだろう。

 イタチにもサスケにも笑っていてほしいのに。

 

 

 8月25日。

 今日もまたサスケは1人だった。

 1人で、いつかイタチに教えられた手裏剣術を練習しながら、「兄さん……」と寂しげに呟く姿が見ていて心苦しかった。

 オレに出来ることって本当にないんだろうか。

 

 

 9月12日。

 オレはある決心をして三代目火影猿飛ヒルゼンのいる部屋へと向かった。

「おお、どうしたのだ、シスイ」

 そういっていつものように煙管を咥えて、好々爺のような人好きのする笑みを浮かべながらオレを出迎えてくれた。そんな三代目に向かって、オレはすっと頭を下げ、殆ど土下座に近しい体勢を取りながら、オレは話を切り出した。

「お願いがあります」

 そうしてイタチの仕事をいくつかオレが肩代わりするからイタチにもう少し休暇を与えてやってほしいと、そうオレはこの里を纏める長に向かって懇願をした。

 それに、三代目はやや厳しい堅い表情をして、何度も「それでいいのか」と尋ねた。それに「構わない」とそう答えた。

 そして……最終的にその懇願は聞き届けられた。

 その時三代目が言った「おぬしはその矛盾に気づいておるか?」という言葉の意味はオレにはわからなかった。ただ、自分の切って捨てられてもおかしくなかった申し出を受けてもらえたことが嬉しかった。

 

 

 11月 8日。

 何故か其の日の任務帰り、見知らぬ派手な格好をした女を中心に数人の女に囲まれた。

 何を怒っているのか、ピリピリしていて中心にいた女は特に睨み殺さんばかりの顔でオレを見ていたが、そりゃ元から今生では女に嫌われてきたけど、なんで囲まれたのかどうしてそんな顔をしているのかわからず困惑するオレを前に女は「この売女!」と叫んで、オレにビンタを食らわせようとした。

 そんな迫り来る女の一手をつい反射的に避けてしまった。

 そもそも彼女に殴られる理由に心当たりがないので殴られる義理もないと思ったオレだったが、彼女はそんなオレに益々腹を立てたようで、何事かヒステリックに叫びながらブンブンと手を振り回しながらオレに迫ってきた。わけがわからない。

 そんな彼女を支援するように、彼女が共に連れてきていた同じくらいの年齢の女達数人がこれまたオレに「最低ッ!」「自分がやったことわかってないの」「酷い!」「謝りなさいよ」とか言うけど、本気で意味わからないんですけど……ていうか、なんで知らない女にそんなこと言われて殴られそうにならなきゃいけないんだよ? オレが悪いの? いや、でも本気で身に覚えないんですけど。

「あの……なんのことかわからないんですが。というか初対面では?」

 と、いうと更に罵倒は酷くなったが、何度殴りかかってもオレが避け続けるということがわかったからだろう、彼女達はヒステリックに叫びつつも、途中所々脱線が多かったとはいえ、一応は説明してくれた。

 なんでもオレはこの鬼みたいな形相でビンタしようと迫ってきた女の好きだった人を取った泥棒猫で、将来自分と結婚するはずの男はオレがいるから彼女を見てくれないんだとかなんとかで、お前が誘惑したから彼は自分を見てくれないんだろう。人の男に色目使うなんて最低だ、とかそんな言い分だったらしい。

 で、後ろの彼女達はそんな『好きな人を取られた』可哀想な彼女に同情して、他人の好きな男を誘惑して横から掻っ攫うような、そんなふしだらで最低な女は制裁しなきゃとついてきたんだそうな。

 ついでに、初対面かと思っていた彼女だが、実は初対面じゃなくて、アカデミー時代くノ一クラスでオレのクラスメイトだった相手らしかった。言われてみればそんな奴もいた気はするし、どうやらオレに嫌がらせをしてきていた子達の1人だったみたいだけど……いやいや、顔変わりすぎだろ。

 厚化粧過ぎて誰か気付かなかったぞ。そもそも再会自体約10年ぶりだし。あたしを忘れたのかとか言われてもわかんねえよ。

 あと当たり前みたいにオレがいなきゃその好きだという男が自分に振り向くみたいなこといってるけど、男にも選ぶ権利あるだろ……なんかこいつらの言い分おかしくない? 少なくとも、オレだったらこういうヒステリックな女はたとえ美人だとしても嫌だなあ……平凡でももっと落ち着いた子がいい。なんかこんなのに惚れられた男に同情する。

 んで、更に話を聞いて、オレが誘惑したとされるその『好きな男』について彼女達が語った内容をまとめてみたら、どうやらそれはオレが1週間ほど前に告白してきたので振った相手のことを言っていたらしかった。

 

 因みにそいつもアカデミー時代のクラスメイトだった相手だ。

 このやたらと怒り狂っている女のことはともかく、そいつのことはアカデミーではイマイチ親しい人間が少なかったオレでもよく覚えている。

 アカデミー時代、なんでか女子に嫌われまくってたオレはよく服を破かれたり教科書を燃やされたり、靴を隠されたりとかを日常的にされていたんだが、まあ女子はほぼオレを嫌っていたので、くノ一クラスでの授業の時はいつもオレは教科書は無しだったし、教科書を見せてくれるような生徒もいなくて、オレはいつも先生に「忘れました」と誤魔化していたが、まあ内心わりと参っていたのも事実で、そんな時そいつは男女混合の授業ではよく隣の席になり、「教科書を忘れた」というオレに対して教科書をよく見せてくれる生徒だった。

 年齢はオレより2つ年上で、将来医療忍者になって実家の小さな診療所を継ぐのが目標といってただけあり、子供子供した子が多いアカデミー生の中でもちょっと大人びた雰囲気のしっかりした奴だった気がする。

 正直当時は女子による連日の嫌がらせで精神的に結構参ってたもんだから、毎回教科書を見せてくれるこの生徒に対しては「良い奴だなー」とホロリと感動して好意的に見てたんだが……まさかアカデミーを卒業してから約9年、久しぶりの再会で告白されるなど想像もしていなかったので、あれはかなり吃驚した。真面目で大人しい奴という印象だったので余計驚いた。

 しかも「ずっと昔から好きだった」とかいうもんだから、え? マジか……と真面目に真摯に言っている相手に対し失礼なのはわかっているけど、内心少し引いた。

 いや、だって知り合った頃っていうか、クラスメイトだった頃ってオレが6歳か7歳で、こいつが8歳か9歳くらいの時だぞ……それでその時から好きだったとか、え? 嘘だろ。前世でオレがそのくらいの年齢の頃は女なんて興味なくて男友達と遊ぶこととか妹の面倒を見ることくらいしか興味なかったのに、早熟すぎるだろ、お前、とか色々思ったが、元々あまり性的なものを感じさせるやつじゃなかったせいか、それともあまりに真摯に言われたからなのか、いつもの告白ラッシュほどは不快感を感じなかったのは不幸中の幸いだったのかもしれない。

 男に告白されて気持ち悪さを覚えるのは生理的なものだからオレにはどうしようもないわけだけど、別に相手が悪いわけではないんだし、こいつは良い奴なんだから、出来れば気持ち悪いとかそういう風に思ってやりたくはないんだよな……生理的な反応とはいえ、真面目に告白してきた相手に気持ち悪いとかかなり失礼な態度なわけだし。

 なので、割とオレにしては冷静な態度で「悪いんだけど、私はそんな目で見たことないし。婚約者がいるから受け入れられない」とそう告げると、男は「そっか」と口にして、「婚約者がいるのにこんな話してごめん。聞いてくれてありがとう」そうペコリと頭を下げて去っていった。

 ……時々マトモだと思っていた相手でも、振るとその瞬間に豹変してくる相手もいたから内心やや警戒していたオレだが、そんなオレが思わず拍子抜けするくらいには男はあっさりと去っていった。

 だけど、その堅く握りしめていた右手は震えていたし、向けられた背中も寂しげで、多分口にするほど想いを昇華出来ていないんだろうと思ったら少しだけ可哀想で、ちょっとだけ罪悪感が湧いた。だけど、ここで下手に希望を持たせる方が残酷なんだろうとも思ったのでオレは結局そいつの背中を見送っただけだった。

 それから1週間が経ったが、そいつは未だオレの前に顔を出していない。

 

 ……で、この目の前の女はそいつにどうやらアカデミー時代からずっと惚れてて、オレに嫌がらせをしていた原因の1つもそいつがオレのことを好きなことを知っていたからだったそうな。……そんな昔から好きだったとはマセガキだらけだな、アカデミー。年齢一桁で愛だの恋だの信じられん。

 で、元からその時からオレのことは気にくわなかったらしいけど、それに加えて、2年くらい昔から流布され始めたオレが金出されたら誰にでも股を開くといった類の噂もあり、あいつが自分に振り向かないのはオレが誘惑したからで、「あんたが全部悪いのよ! 人の好きな男取るなんて最低!」となったんだそうな。

 ……なんだそりゃ。

 え? え? これ逆恨みじゃね? オレが悪いの? いやいや、嘘だろ。だって、オレ普通に奴のことちゃんと振ったぞ!? ていうか1週間前に告白されるまで奴がオレのこと好きだったなんて知らなかったっての!

 オレにとって奴は教科書を忘れたと言い張るオレに対し、自分の教科書を見せてくれるイイ奴なクラスメイトって認識だったし、それ以上でもそれ以下でもなかったし。そもそも男を恋愛対象として見るなんてオレには無理だし、アカデミー卒業してからほぼ会ってなかったし、誘惑したとかなんて無茶な言いがかりなんだ。

 なので引き攣る笑顔と戦いながらオレは彼女に向かって言った。

「あの、オ……私、誘惑なんてした覚え微塵もないんですけど。それに告白されたのは確かですが、きちんと断りましたし」

「嘘を吐きなさい! アンタみたいなのが彼に告白されるわけがないのよ! アンタが彼のことを誘惑したんでしょ! そうじゃなきゃ彼がアンタなんかに熱を上げるわけないじゃない。そのでかい胸でたぶらかしたんでしょ、この淫乱!」

 ……吃驚するくらい思い込み激しいな、おい。

「していません。そもそも、私には婚約者いますし、他の男に声をかけるわけがないでしょう」

 思わず冷めた声でそうオレは答えた。

 ……こういう時、いつも婚約者(イタチ)を断りの口実に使っちゃうのは罪悪感があるが、これ以外に世間的には女で通っているオレが男を受け入れられない説得力のある理由が思いつかないから仕方ないよな……うう、イタチすまん。

 そんなことを思いながら告げたオレの言葉を前に、彼女は益々般若のような人相で怒り狂いながらヒステリックにキンキンとした高い声で叫んだ。

「煩い、婚約者がなによ! 言い訳ばっかりして! んなもん居ようがあんたが男にだらしのないビッチに変わりないでしょ! 人の男を誘惑しといて、少しはあたしのこと可哀想だとか申し訳ないとか思わないの!?」

「思いません」

 っていうか、他人に責任転嫁ばかりして話を聞こうともしない女を可哀想とか思う思考は、流石にオレにもない。女だったら何を言っても許されると思っているんならとんだ甘ったれだろ……そんなに好きなら直接本人にアタックすりゃいいのに。なのになんでオレが悪いってことになるんだ……女はよくわからん。

 ていうか、性別をいっそ逆にして考えてみることにするが、男が惚れた女の好きな男に対し「お前が悪い」とかいって攻撃したりしたら普通にマジキチ扱い受けると思う。

 なんていうか、この場合だと自分の実力で女を振り向かせて見せろよ、それが出来ないんならそんな女さっさと忘れて次の恋に行けって話になるだろ。少なくとも惚れた女が振り向いてくれないから……という理由で惚れた女が好きな相手を傷つけようとするような男の味方などしてくれるやつなど普通はいない。余程の理由がない限りはまずない。

 と、性別を置き換えた場合で考えるとそうなるのに、女は違うらしい。彼女の取り巻きらしき女達はキンキンとした金切り声でしきりに、「酷い」「謝りなさいよ」コールをしながらオレを取り囲み始めた。

 正直言って結構これは怖い。

 手上げるわけにはいかないし、多分このくらいの相手だったら別に負けない気はするが、それとは別問題として集団になった女って本当怖い。話の通じなさがヤバイ。

 なんていうか『オレが悪い』以外の結論をはじめっから拒否している感じがするっていうか、最初っから答えは決まってて、オレがそれ以外の回答をすることを許さないって感じだ。で、オレがそれを言うまで帰さないといわんばかりだが……ふざけんなよ、オレは謝らねえぞ。そもそも謝る義理もねえのに、恫喝されたくらいで男が易々と頭下げられるか。いや、今のオレの体は女だけどさ。

 とは思うけど、この「謝れ」コールは地味に堪える。うう……くじけそうだ。でも敵でもない女に手荒なまねはしたくないしなあ。

 そんな時だった。

「何をしている」

 そうよく知った少年の声がかかったのは。

「イタチ」

 どうやら同じく任務帰りらしきイタチがそこにいた。どうやら騒ぎを聞きつけて何事かと飛んできたらしい。イタチはオレと女達をスッと写輪眼で赤く染まった目で交互に見やると、オレを庇うようにして女達の前に立ちながら、静かな声で「……オレの婚約者に何をしている?」とそう尋ねた。

 女達はオレを前にした態度とは一転、戸惑うような感じで狼狽えながらヒソヒソと「どうする」とかそんな言葉を口にして相談を始める。

 そんな彼女達に向かってイタチはもう一度凛と張った声で言った。

「もう一度聞く。オレの婚約者になんの用だ」

 それに女達は狼狽えた。圧倒されているといった感じだ。

 オレからはイタチの背中しか見えていないが、イタチが今どんな顔をしているのか手に取るようにわかった。嗚呼、全く、お前は大した奴だよ。

 眉目秀麗、才色兼備を絵に描いたようなイタチは怜悧にさえ見える美貌の持ち主でもある。けれど、容姿が整っているからこそ、その一睨みは迫力が凄まじく、加えて気性やイタチ独特の空気も相俟って、真剣な顔をして吐かれた言葉には重みと酷いプレッシャーがある。それに耐えられなくなったのだろう、女達はしどろもどろにオレに吐いた説明と似たような言葉を(オレが売女云々は置いておいて)話し始めた。

 イタチはその言葉をオレを庇った姿勢のまま真剣に聞いていく。

「ならば、シスイではなくその男に直接尋ねればいいだろう」

 そしてそれがイタチの出した答えだった。いや、まあある意味当たり前の答えだよな。

 けれど先ほどまで鬼の形相でオレに迫っていた彼女はそれが嫌だったのか、「え……それはその……出来れば内緒にしてほしいんだけど」とかしどろもどろに言うが……先ほどまでのオレに対する態度と随分違うな、おい。猫かぶりすぎだろ。

 それにイタチは「当事者抜きで話を進めてどうする。その男の言い分も聞かねば本当のことはわからないだろう」そう答えて、口寄せした烏を飛ばした。

 それから10分と経たず、その男はやってきて、イタチから説明を受けると青ざめた顔をしながらオレに謝った。そして例の女に対して、「僕は君を愛していないし、君に好きだと言われた覚えもない。それと妙な思い込みで関係のない彼女を巻き込む君を愛するようになることもこの先ない。言いたいことがあるのなら何故僕に直接言わない。君のことは友人だと思っていたのに……軽蔑したよ」そうはっきりと告げ、それに女はショックを受けてエグエグと泣き出し、他の女は気まずげな顔をして互いの顔を見合わせた後、女を置いてこそこそと逃げていった。

 しかし……いい気味といえばそうなのかもしれないが、泣かれるとちょっと可哀想な気もしてくるなぁ。涙は女の武器って言われてるくらいだし、今回の件でオレが悪いとは思わないけど、なんていうか罪悪感が……うう、胸がチクチクする。

 しかし、それにしても今回はイタチに助けられちまったな。

 多分オレ1人だったら今でも囲まれて途方にくれていたし、助けに来てくれたこと自体は嬉しいんだけど、年上としては複雑だ……なんていうか年下に守られるなんてオレかっこ悪い。年上としての威厳ねえよな……なんか助けられたのは嬉しいけど、弟分相手に格好付かないし、自分が情けなくて恥ずかしい……。

 でも礼は言わないとな。

「あのさ、イタチ……その、助けに来てくれてありがとうな。嬉しかった」

 照れくささと気恥ずかしさと情けなさでごちゃ混ぜになって顔を真っ赤にしながら、そうなんとか言葉にすると、イタチは「別に……たいしたことじゃない」そういってフイと視線を横に逸らしたが、一見その顔はいつも通りの無表情に近しい表情にさえ見えたけど、よく見れば耳が赤かった。

 あれ……ひょっとしてこれってもしやイタチも照れてるのか?

 うわ、珍しいもん見ちまった。イタチがこんな風に照れるなんてレアだぞ、レア。

 大人っぽくなったなあとか、格好良く育ったなあとかさっきはちょっと思ったけど、こうしてみると結構イタチも子供だな! 全く可愛い奴め。

「シスイ、帰るぞ」

 そういってイタチはオレの手を掴んでグイグイと進んでいった。手を繋いだのははぐれないようにか、それともさっきのようなことがまた起きないようにか。背中を向けて進むのは照れ隠しか。どちらにせよ、なんだか微笑ましくて、オレは「うん」と答えてその背を追った。

 繋いだ右手は温かかった。

 

 

 11月 9日。

 日付を越えて少しした頃、オレは奴らに呼び出された。

「う……ふ、ぅ……んん……ぁ」

「オラッ、休んでんじゃねえぞ!」

 プレイ自体は強制排泄をさせられたり、その手の薬飲まされたりとかしていた昔に比べると内容自体は過激ではないが(いや、3Pや玩具を使う時点で世間的に見れば充分過激だけどな?)、それでもなんだかいつも以上に今日の奴らはねちっこくて正直少し参っていた。

 もう何時間経ってると思っているんだよ。全身リップとかしてんじゃねえよ、キモいなあ。ていうか、人が折角意識飛ばしてたってのに、水ぶっかけて起こすんじゃねえよ。最近オレマジで寝てねえんだよ。今日はようやく3日ぶりに寝れると思ってたのに呼び出してネチネチネチネチと人の精神と体力削りやがって……いい加減にしねえとオレ永眠するぞ。冗談抜きで。

 なんてことを内心考えずにはいられなかったが、それにしても、奴らが変なことをいうのはいつも通りといったらいつも通りだが、「『婚約者』のチンポの味はどうだったよ」「寝たんだろ、感想言えよ」とかやたらイタチを引き合いに出してくるのは一体なんなんだ……。寝てねえよ、イタチをテメエらと一緒にしてんじゃねえよ、ふざけんなボケ。あとオレを寝かせろ。いい加減解放しろ。してください。

 なんなの? こいつら本当になんなの、クソ。

 まるでこの口ぶりとかやり口、イタチに嫉妬しているかのように聞こえるぞ。

 ……いや、まさかな、うん。

 こいつらはオレのこと玩具にしているだけでオレを好きなわけじゃねえし、好きでもないただのダッチワイフ代わりの関係者に嫉妬とかキモ過ぎる。いや、元からキモい奴らだったけどさ、流石にそこまではないだろと思いたいというか、思わせて下さい。

 嗚呼、それにしても本当しつこいなぁ……てか、ん? 「あの医者野郎とも寝たのか? それともコナかけたのか? ああ?」って……オマエラ昨日の現場見てたのかよ。かけてねえっつの。あの女といい、こいつらといい、いい加減にしろ。好きこのんで誰が男と寝るかよ。

 あ、ヤベ意識飛ぶ。

 あとはもう水ぶっかけられても、ケツひっぱたかれても3時間は目が覚めなかった。

 

 

 4月30日。

 オレは今年の春から3人のアカデミー出たてピチピチの忍たまどもの担当上忍となることになった。

 オレが受け持った生徒は、背が高いわりに幻術に高い適性を持つ一方で体力や体術にやや不安のある少年が1人と、医療忍者見習いの穏やかな顔立ちをした少年が1人、それに釣り目がちの活発的な武闘派のくノ一っ子という組み合わせだった。尚、どうやらこの中では紅一点のくノ一っ子がリーダー的存在らしく、3人は思わぬ連携力でオレが出した試練をくぐり抜けて下忍の座をゲットした。

 将来有望なお子さんで、まあ喜ばしいような、危険だからあんまり忍びにはなってほしくないような複雑な心境だが、一度下忍と認めた以上、任務で簡単に死なないよう仕込むのは担当上忍であるオレのお仕事なわけで、まあボチボチやっていこうと思う。それと同班として活動するんだ、仲良くするに越したことはない。

「担当上忍のうちはシスイだ。よろしくな」

 そういって笑顔で握手をしてまわった、その時点では多分こいつらとの友好度は悪くなかったような気がするんだが……なんでか意外に武闘派だったりする唯一のくノ一っ子は接すれば接するほど、オレに敵意むき出しというか、不機嫌そうな顔で上目遣いで睨んでくるようになった。

 ……いや、今生では女子に嫌われているとは知ってたけどさ、なんでこんなお子様にまで睨まれてそんな敵意向けられなきゃいけないのか、わけがわからない。オレ、何かしたのか。面倒を見た覚えはあっても、嫌われるようなことした覚えはねえぞ。

 そう思う本日思い切ってオレは彼女に「私、何かしたか?」と尋ねることにした。

 すると、彼女はムスッとした顔のまま(可愛い顔してるのに勿体ないなあ)、オレを見上げ、無愛想に、けれど嫌味っぽい口調で言った。

「シスイ先生は良いよねえ。胸おっきくて。男子なんていちころなんでしょ」

 ……突然何を言い出すんだ? この娘っ子は。ひょっとして胸ないの気にしてるのか?

 いやいや、その年齢で胸なくても気にすることないだろ。これから成長期なんだし。というのは言ったらセクハラになるか? うーん、じゃあ回答はこれでいいか。

「いやいやイチコロって……別に全ての男子が巨乳好きじゃないぞ?」

 ていうか、胸の大小とかわりとどうでもよくね? とオレは思うんですけどね。でかかろうが小さかろうが胸は胸じゃん。女の胸に代わりはないじゃん。大事なのは大きさじゃなくて色とか形とか自分に感じてくれるかとか……って、なしなし。好きな人の胸だったらどんな胸でもそれだけで愛せるものですよ。あと、胸より指が綺麗かどうかのほうがオレ的には気になる。

 ……そういや、イタチは指綺麗だな、男だけど。

「料理だって出来るし……面倒見良いし」

 そういえば、ああ、料理苦手なんだっけ?

「女の子はちょっと料理下手なくらいのほうが可愛いと思うよ?」

 世間的には料理上手な女のほうがもてはやされている気はするが、でもこう……なんていうの? 料理が苦手なのに一生懸命作ってくれたんだろうなとか、努力してくれたんだろうなあと思えるようなバンソウコだらけの指とか、見てて凄く愛おしくならね?

 ちょっと焦げ付いた料理を恥ずかしそうに差し出しながら、「失敗しちゃったんだけど」とか言って不安そうに見上げてくる姿とかすげー可愛いと思う。

 大体苦手なら苦手でいいじゃん。大事なのは努力する姿だよ。それがあったら、どうしても無理だって時は『代わりにオレがやってやるよ』と思えてくるし、抱き締めたくなるだろ。

「なのにそのくせ、変なところで男っぽい喋り方だし。そんだけ女っぽいくせに口調だけ男っぽいなんて絶対変だよ……それわざと?」

「いや、まぁ……」

 ……これでも一応女っぽく聞こえるように口調には気をつけてきたつもりなんですけどね。ていうかオレより口悪い女なんて世の中山ほどいるっぽいからあれくらいなら大丈夫だと思ってたんすけど、え? まずかったの? オレじゃなく私って普段は言うようにしてたし、チンコとか小便とかそういうシモいことは言わないよう、言葉置き換えてきたのに。

 あと、女心などわからんオレが女っぽいってどういうこっちゃ。

「プロポーション良い癖に、全然オシャレしないし」

「あのー、もしもし?」

 あれ? なんか雲行きおかしいほうに向かってない?

「折角可愛いのに、外見磨こうともしないし。まるで表情とか子供みたいだし」

「はい?」

「だっていうのに料理は出来るわ人懐っこいわプロポーション良いわ、スペックは女として完璧だし、化粧っ気ゼロでも可愛くって、女のあたしから見ても凄い女らしいのに、女としての自覚が全然ないし、口調は男っぽいし、天然タラシだし」

「エ」

 て……天然タラシィ!? そんなもん初めて言われたぞ。じゃなくて、ちょ、何言っちゃってんの!?

「お前……何言ってんの?」

「この前作ってきてくれたお弁当凄く美味しかったし! あの子たちみんな先生に夢中だし!」

「もしもーし!?」

「先生の……シスイ先生の馬鹿ーーー!」

「あ、おい?」

 そういうなり、くノ一っ子はダッシュで走り去って行ってしまった。

 え? 結局オレを敵視していたのってなんだったの? 意味分からないんですけど。言われた言葉含めて。

 とりあえず客観的に言われた言葉を整理すると、精神的に男のままのオレとしては酷く複雑ではあるんだが、褒められた……ぽいんだよね。少なくとも罵倒はされてないし、本当にわけわかんないんだけど。

「なんだったんだ?」

 とりあえずよくわからないので、今生では最も親しくさせていただいている女性である、イタチの母であるミコトさんにこの時のやりとりについて説明し相談すると、ミコトさんは苦笑しながら「まぁ、シスイちゃんは天然さんだものね」とか言ってオレの頭を撫でた。

 ……いやいや、天然って……何処が?

「多分その子はシスイちゃんに嫉妬してたんじゃないかしら」

「嫉妬……ですか」

 何故に? 

「話を聞く限り悪い子じゃないみたいだし、多分ただたんにシスイちゃんのことをライバル視しているだけと思うからそこまで気にしなくていいと思うわ」

 はぁ、そんなもんか。

「さ、それより夕食を作っちゃいましょ。今日はうちで食べていくんでしょ? 今日はイタチも早く帰ってこれるみたいだし、御夕飯手伝ってくれる?」

「あ、はい。わかりました。それじゃ手洗ってきますね」

 そういって、笑って気持ちを切り替え、オレはミコトさんと並んで夕食を作った。

 そうしてイタチの家族と共に談笑しながら取った食事はとても温かくて、美味しくて幸せで、ずっと続けばいいのにとそんなあり得ないだろう願望に捕らわれる。

 この場所を、この人達を守りたいと、そう強く思った。

「それじゃお邪魔しました」

 そう声をかけ、一旦家に帰るとシャワーを浴び、1時間の仮眠を取ると、すぐにオレは家を抜け出した。この後幻術で敵の捕虜から情報を聞き出す任務が待っている。

 そうして移動しながらふと、今日の昼間あの小さな黒髪の少女に言われた言葉を思い出す。

『シスイ先生は良いよねえ』

 そうらしくもなく嫌味じみた口調でオレに告げた少女。ミコトさんによると彼女のオレに対する敵視はただの嫉妬なのだという。オレにコンプレックスを感じているだけなのだろうと、そうミコトさんは言った。

 ……別にオレなんかにそんなものを覚える必要なんてないのに。

 

 前世で日本で育ったとき、男の人生より女の人生のほうがイージーモードだから、どうせなら男じゃなく女に生まれたかったという友人がいた。

 ちょっと媚びたら周囲に優しくされてちやほやされるんだから、女は良いよなあというそういう意見だった。

 オレはそれにそうかなあ? 実際女になったわけじゃないんだから、本当に女のほうが楽なのかはわかんないんじゃないかなあと思っていたわけだけど、こうして実際に女として2度目の生を過ごすようになって思ったことは、女の人生のほうがイージーだなんて嘘だ、ということだった。

 寧ろハードモードとしか思えないくらい、正直しんどすぎる。チヤホヤされるとはいうが、自分をチヤホヤするのは男なわけだぞ? 男にチヤホヤされて嬉しいか? いや、別に嬉しくないだろ。ていうか、友人として見ていた相手が軒並み己をそういう対象として見ていたとか知っても背筋寒いだけじゃないか。勘弁してくれ。普通に接しているつもりなのになんでこんなことになるんだ。

 男に襲われそうになる度、そう思わずにはいられなかった。

 あと女の子の嫌な面を、『同性だから』って見せられ続けるんだぞ? 本当やめてくれ。

 あの時の友人……記憶が古いせいか名前は思い出せないけど、女同士だったら女の胸揉みまくりだし、自分の胸も揉みまくりじゃんといった内容のことも言ってたけど、自分の胸揉んで嬉しいか?

 それに、女の胸揉みまくりって、それふざけあえるほど仲が良い親友同士がふざけてじゃれつきながら、とか条件がないかぎり無理だろ。そもそも精神が男のままでどうやって女の子と友人として親しくなれるんだよ。ふざけて胸揉めるほど親しい友人なんて現実は出来ねえよ。寧ろ普通に仲良く話すレベルの友達だって、今は死んだアカデミー卒業して最初に割り当てられた班の女の子くらいしかいなかったよ。

 ていうか、一族以外の女は軒並みオレのことは嫌っているんだよ。なんでか知らないけど、昔から敵意晒されまくりだよ、バリバリだよ、なんなんだよ一体。オレが何したっていうんだ。

 男には欲情されるし、女には嫌われるし、両親は第三次忍界大戦で死ぬし、仕事の関係上人殺しは当たり前だし、一族はクーデター計画したりしなかったりするし、ていうか実際に男に襲われた上に脅されて玩具なるの了解しちまったし、なんでオレこんな世界で女として生きてるんだろう。イタチがいなかったら多分首括るほう選択してたぞ……。ヤダ、この世界……。

 でもほっといたら原作通りになって多くの人が犠牲になるんだよな……それもそれで嫌だなあ。とりあえず障害過ぎるオビトは倒しときたいけど、どうしようか。

 そんなことを思いながら、オレは今日も任務に没頭した。

 

 

 其の③に続く。

 

 

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