今回の話はしーたん18歳~19歳の話です。
尚、序盤のバレ前はやっぱりほのぼのと割と明るめですが、バレ後から一気にしーたんの精神が色々酷いことなってますが、まあ、次回に比べるとこれでもマシだとは思います。
6月 4日。
……最近イタチやサスケの顔を見ていない気がする。
イタチはもうすぐ12歳になる筈で、あの年頃は成長が早いから1ヶ月以上顔を合わせていないだけでも大分変わっているのかもしれない、と思ったら急に会いたくなった。
そんなことを考えていたから悪かったのか、気付けばオレはイタチの部屋の前に立っていた。
……無意識に来るとか本当オレ何やっているんだろう。
しかも今は深夜だ。疲れていたのかも知れないけど、本当ありえないだろう。
まあ、でも来たものは仕方ないよな。顔だけ見て帰ろう。
そう思った矢先、イタチはオレに気付いたのかガラリと窓を開けて「シスイ、どうした」とオレに尋ねた。
正直困った。
顔を見たかったくらいで別に深い意味なんてなかったし、こんな深夜の家他人ち訪ねるなんて非常識ですよねー。うん、ごめん。オレが悪かったから、そんな目で見るのやめてくれ。反省してるってば。
「お前は自分が何をやっているのかわかっているのか?」
そうイタチは言うが、うぅ……アホな行動しているってのは自分でもわかってるってば。
そう思っていると、イタチはちょいちょいとオレに手招きをして、オレを招き寄せた後、目の下をそっとなぞり、「その隈、何日寝てない?」そう訪ねた。
ていうか、こんな暗がりだってのに、寝てねえのバレバレかよ。
「……いやあ、あははは、4日くらいかなー」
そういうと、イタチは呆れというよりは、どこか怒ったような顔をして、眉を顰め、オレの手を握って歩きだし、布団へと押し込んだ。それからイタチは言った。
「あなたは馬鹿だろう」
と、そう。
それからもう一つこうも言った。
「お前は、本来ならオレに回される筈だった任務をいくつも引き受けている、違うか?」
……どうやらオレがイタチの仕事代替わりしてたのはバレていたらしい。出来るだけバレないようにしてきたつもりだったのに、駄目だよな、オレは。痛みに耐えることや睡眠不足なんて慣れているし、大丈夫かなーと思ってたオレが浅はかだったよ、悪かったってば。
でもな、お前が何を言っても後悔は別にしてないんだよ。
だってオレは馬鹿だからそれくらいしか出来ないし。
そんなことを思いながら、背中越しに伝わるイタチの体温と眠気に負けてオレの意識は闇に沈んでいった。
6月 5日。
今日、朝目が覚めたら何故かイタチを抱き締めていた。
髪が長いし、成長期に入ったばかりで肩幅もあまりなくまだ背も低くて、元より細身のイタチは後ろから見ると女の子みたいなので、一瞬知らない女の子を抱き締めてしまったのかと思ってギョッとしたけど、女の子にしては硬いし、昨日のことや部屋の内装とか思っても、よく考えたらイタチだった。
いやー、なんだイタチかー。あー、吃驚した。いやー、焦った。
あれ? でもなんでオレ、イタチ抱き締めてるんだ? 確か昨夜は背中合わせに寝た筈なのに、ひょっとしてこれ寝ぼけてオレがイタチを抱き枕にしちまったの? とか思っていると、イタチもオレが目を覚ましたことに気付いたのだろう、ちょっと不機嫌そうに聞こえる口調で「シスイ……目が覚めたのなら、離してもらえないか」とそう言ってきた。
……よく考えたらそりゃそうだよな。
まだまだ子供だと思ってたけど、イタチももうすぐ12歳なんだし、こういうの嫌だよな。
オレにとってはイタチは男というより、弟分かつ『子供』という扱いだからひっついてもなんも感じないけど、朝目が覚めたら見知った相手とはいえ男に抱き締められてたらまず気持ち悪いし、軽くホラーだ。いや、今のオレは女だけどさ、女だとしてもどれほど親しい相手でも親しき仲にも礼儀ありって話でもあるし。
たとえ仲が良い相手だとしても、好きでもない異性に起きたら抱き締められていましたーとか、嬉しいとか通り越して不快というか色んな意味で迷惑だな……。小学校の頃なら別に気にしていなかったような気がするけど、そりゃ深いこと考えてなくて女にも興味なかったからだし。
しかし、イタチは今11歳。あと数日で12歳。おまけに精神年齢は年相応とはとても思えない優秀な作り。親しくしていたとはいえ、恋人でもない相手に朝ギューとかされたらどう思うか。
……ふつーに嫌だな、うん。オレの場合は精通が中3の頭と他の奴より遅い上に他にも色々遅れてたからアレだったけど、早い奴だったら10歳になるかならないかくらいには精通くるもんらしいし、この年齢だと朝立ちとか起こる可能性もあるから、それを万が一女に見られたりすんのも嫌だろうし、女に一晩中抱き枕代わりにされてたとか人によってはご褒美かもしれねえけど、イタチにとっては寧ろ嫌悪ものだろ。オレだって同じ立場なら恋人以外にされたら嫌だし。
というわけで、「悪ぃ」と声をかけて手を離し、後ろに体を下げると、イタチはオレに背中を向けたままさっと着衣を整え始めた。
うー……本当何やってんだろ、オレ。
ただでさえ深夜に押しかけたり迷惑かけてるってのに、なんでどうしてオレはこう駄目なんだろうか。イタチには悪いことをしちまった。
しかし、朝起きた時の感じからして何時間も前からイタチは起きていたみたいだし、オレが寝ぼけてイタチを抱き締め始めたのも今朝になってから……とかじゃなくて、結構前からっぽかったのに、なんも言わず耐えてたとか……気を遣わせちゃってるよな。
イタチなら寝ぼけて抱きついてきた時点でオレを起こすか、ひっぺがすくらいわけなかったろうに、それをしなかったのって……つまりオレを起こさないようにという配慮なんだよな……。
迷惑だったろうに追い出しもせずに耐えてさ、本当お前はイイ奴だなあ……かっこいいよ、イタチ。その分オレが情けなさ過ぎて涙出そうだけど。
そんなことを思いながら、ホロリとしていたらイタチは正座でキッと鋭い瞳でオレを見上げながら、「シスイ座れ」と言ってきた。
「お前は自分が何をやっていたのかわかっているのか」
と、そうして始まるイタチの説教タイム。いや……オレが悪いのはわかっているし、そりゃ叱られても仕方ないと思うけど、怒り顔のイタチ正直凄い怖いです、はい。
で、それに気付いたのだろう、このすぐあとフガクさんもやってきて、「何をしている」と居なかった筈のオレが居たこと含め厳しい目をオレとイタチ交互に向けると、その直後「父上」とイタチが昨夜から今朝のことについて報告し始めるもんだからあら大変。オレはイタチだけでなくフガクさんにも正座で延々小一時間説教を受けるハメになった。
「イタチも、アナタもその辺りにしたら? これ以上は折角の朝ご飯が冷めちゃうし、あまり言い過ぎるのも可哀想じゃない。シスイちゃんも反省しているわよ」
オレを救ったのはヤンワリとしたミコトさんのその一言だった。一瞬ミコトさんが女神に見えた。天使か。
そしてまあ、そのあとは皆で囲んで朝食を取ったわけだが、サスケは昨夜の騒動を知らないのもあって、朝食の時にはいつも通りだった。
だが、しかしオレはそこで実はミコトさんもオレにちょっと怒っていたことを知るのだった。
「あの……ミコトさん?」
「何かしら、シスイちゃん」
出てきたのは伝統的な和食なメニューだったわけだが、オレに対してだけ、なめこの味噌汁と、納豆の量が他の人の1,5倍だった……。うう……昔から嫌いなんだよ、納豆となめこ……。食べれないことはないけどさ。あのネバネバ感が苦手なんだ……。
「……これ私の分だけ多くないですか?」
「あら? 気のせいじゃない?」
……その笑顔、なんだかとても素敵怖いです。
オレはついチラリとイタチに視線を向ける。それにイタチは口端に不敵にも見える笑みを浮かべ言った。
「好き嫌いは良くないだろう?」
うぐぐ……それをいったらイタチだって肉苦手な癖に、普段は無表情に近いくせにどうしてこんな時ばかり母親のミコトさんによく似た綺麗なスマイルでそんなこといってくるんだ。
は……そういえばサスケも納豆嫌いだったよな。とチラリと今度はサスケに視線を振ると、サスケは巻き込まれたくないと思ったのか「オレ何も見てません」って顔をして、苦手な納豆をお茶でささっと流し込むようにして食べていた。
「ほら、シスイちゃん。サスケも頑張っているんだから貴女も頑張らなきゃ。お姉さんでしょ?」
いや、オレだってサスケと同じくらいの量なら嫌いなりに頑張りますけどね……やっぱこれ多くねえ!?
「シスイ」
横からは窘めるようなイタチの声がかかる。
ええい! ままよ!
……その後食べ過ぎで気持ち悪くなって、胃薬のお世話になったのは此処だけの話である。
ふぐ……気持ち悪い……。
6月22日。
オレに与えられる任務の量が明らかに減った。
どうやらイタチはとうとう三代目に報告したということなんだろう。
そりゃそっか……オレがイタチの仕事いくつか代替わりしていたこと気付かれたし、そのことについて俺自身にも言ってきたんだからそりゃ止めさせるよな。
まあ、仕方ないか。知られた以上イタチの意志を無視するわけにもいかないし。
あと5年で木の葉崩しが原作で起きた年になる。
この世界でも同じ歴史を辿るかはわからないけれど、それでももし同じ歴史を歩んだら不味いし、とりあえず対カブト戦や大蛇丸戦を想定して、とりあえず空いた時間は対策を練ることにしよう。
あと、今のままの薬草や毒草の知識のままじゃ覚束ないので、もう少し本格的に勉強することにした。
幸いというべきなのか、オレの担当下忍の1人は実家が薬屋を営んでいるのもあり、そう言う本は豊富に取りそろえているらしいので、実家の秘薬以外のことについての本については色々借りてもいいことになった。ありがたいことだ。
ついでに何があってもいいよう、薬草他薬や毒の補充もしておこう。備えあれば憂い無しというし、何をするにしても相手が相手だ、やり過ぎになることはないだろう。
7月23日。
今日はサスケちゃんの7歳の誕生日だった。
たまたま非番が重なってたから、直接おめでとうを言いにいき、ついでにミコトさんと一緒にサスケへのバースディケーキやご馳走を作った。楽しかった。
正直にいえば、オレは和菓子は好物だけど、洋菓子のクリーム系は割と苦手だったりするからケーキもそんなに好きじゃなかったりするけど、今回の主役であるサスケちゃんもまた甘いものが苦手なもんだから、ケーキといってもクリーム系じゃなくて、人参などの野菜類と米粉で作った甘さ殆ど無しのパウンドケーキで、ケーキというけど、味としてはどっちかというとあんま甘くないスコーンって感じの味のケーキでちょっとほっとした。
ほんのり甘いかなあ? って感じのパンに近い味なので、多分クリームやジャムをつけずに食べるのなら甘いの苦手なやつでも大丈夫だろう。
因みに余談だけど、その殆ど甘くないケーキに物足りなくなってクリームやジャムを付けて食ったのは結局イタチだけだった。
普段は大人びているのに、クールな顔をしてたっぷりのジャムやクリームを付けたケーキを食べる姿がなんだかおかしくて、子供らしくて可愛くて、つい笑った。
イタチは最初、「何故笑う」と視線で訴えてきたが、そのうちちょっと頬をゆるめて、クリームとジャムのついたケーキを一切れオレに差し出した。
「えっと、イタチ?」
「……いらないのか?」
えっと……オレとしては微笑ましいなあと思ってただけなんだが、それをイタチは食べたいとオレが思ったとでも思ったのか、そう真面目な顔をして訊ねてくる。
えーと……。
……オレにお前のフォークからケーキを受け取れと?
それってどうなんだ……いや、でもイタチも悪気があるわけじゃないんだし、寧ろ善意なら受け取るべきなのか? いや、でもフォークではい、あーんとかハードル高すぎるっていうかたとえ弟分相手でもちょっとええ? って感じっていうか、あれ、でも今オレ女なわけだし、いやでも、それもそれでまずい気がするっていうか、人前だしっていうか、人前じゃなくてもちょ、これってどうなんだ……? 男同士でされたら鳥肌モンだがイタチは子供だし、オレのことを女と思っているわけで……っていうか、本人は善意でしているわけで、あれ? 何が正解なんだ、え? これは断るべき? 受け取るべき? どっちなんだ?
「シスイ」
あー、もう、どうにでもなれ!
そして口に含んだクリームとジャムのついたケーキは、やっぱり見た目通りに凄い甘かった。
……イタチ、オレが言うのもなんだけど、お前甘党過ぎだろ。
そうやって楽しく1日が過ぎていった。こんな日がずっと続けば良いのに。
9月14日
……今日、オレはイタチに抱かれた。
この表現であってるのかも今ではよくわからない。もしかしたら犯されたというほうが正しいのかも知れない。でも碌に抵抗も出来ていなかったという意味では抱かれたでやっぱりあっているのだろうとは思う。
だけどどうしてこうなったのか、何が悪かったのかも、頭がゴチャゴチャでよくわからない。
ただひたすらに怖かった。
アイツがオレのことを好きなんて思っても見なかったし、あんなに側にいたのにそれに気づきもしなかったことや今までのイタチに対する自分の態度を思い出したら、どうして気付いてやれなかったのか、離れてやれなかったのかと罪悪感もあったけど、それでもあんな感情を向けられてどうすればいいのかわからなかった。
だけどイタチに押し倒されたショックよりも、家族愛的な意味とはいえ、あんなに大好きだったイタチに恋愛感情を向けられていたと知って、気持ち悪いと感じる自分に1番ショックを受けていたような気もする。
側にいて誰よりも安心した、癒しだとさえ思っていた相手の指が肌に触れる度、本気を感じる度に、気持ち悪くておぞましくて、そのくせ感じる自分が穢らわしくて気色悪くて吐き気がした。
やめてくれ、とそう何度も思った。
オレなんて、女になりきれない癖に女のフリをして生きている紛い物に過ぎないのに、オレがお前に想いを返すことはないのに、なのにどうしてお前が好きな相手がよりによってオレなんだ。
気持ち悪いなんて思いたくないのに、お前相手に気持ち悪いとそう感じる自分自身もまたこの世の誰よりも気持ち悪い。
そんな熱の籠もった目で見るな、触れるな、声で語るな。
嫌なんだ、嫌なんだよ……どうしてオレなんだよ。
オレは女にも、母親にもなりたくねえんだよ。
お前がイタチだとわかっているのに、お前が可愛いとそう思っていたのに、誰よりもお前が大切なのに、今お前に触れられる度にどうしようもなく吐き気を覚えるオレが、その愛おしげに触れてくる指に恐怖しか抱けないオレがお前の妻になんぞなれるわけねえだろ。
……やめろよ。
どうしてだ……なんで、どうしたら、オレはどうすればよかったんだ。
「オレの子を孕めば良い」
イタチ、きっとお前はオレがその言葉を聞いたとき、どれくらい恐ろしかったのかわかりはしないだろう。
……わからなくて当然だ。そうだ、お前は何も悪くないのだから。
オレが心まで女になりきれてないことなんてオレだけの問題で、強いて言うのなら15年以上女として生きてきながら、なりきれていないオレが悪いんだってことくらいわかっていたよ。
オレがもし心底から女の子だったなら、この行為や言葉も受け入れられたのかも知れないし、イタチほどの相手にそう言われるのはもしかしたら光栄だったのかもしれない。
イタチは優秀だし、眉目秀麗才色兼備で将来も有望視されていて、エリートと言われるうちは一族でも類い希なほどの天才なのだから、そんな奴に子を望まれることはきっと女からすれば羨ましいくらいの状況なのだろうと、そう思う。受け入れるのが女の幸せ、という奴なんだろう。
だけど……怖いんだ。
気持ち悪くてたまらないんだ。
母親になんてなりたくない。
子供を産みたくなんてない。
女になんてなりたくない。
…………やめてくれ。
オレに、そんなものを望むのはやめてくれ。
オレは……お前を受け入れられないんだよ。
……無理なんだ。
「オレは……もう子供ではない。だからシスイ、2度とオレを裏切るな」
どうして、きょうだいじゃ駄目だったのかな。
オレは……お前を生かすためなら目でも命でもやれたのに。
9月15日。
結局、疲れている筈なのに、一睡も出来ずに横になっているだけで朝を迎えた。
体が重い。
だけど、今日も任務はある。いつまでも寝てはいられないからとノロノロと朝食を作って口にした。
腹は減っていないし食欲もなかったけど、何も食わないわけにはいかないから簡易な雑炊にした。
そうして食べているうちに、少しずつ昨日よりは冷静に昨日のことを思い出した。
……オレを、抱いたイタチ。
オレが処女ではないことに気付いたイタチ。
子を孕めばいいとそう言ったイタチ。
そこまで思い出して、気持ち悪くなってオレはトイレまで間に合わず、洗面台で食べたばかりの雑炊を残らず吐き出してしまった。
10分ほどずっと吐いても、吐くものがなくても吐き気は治まらなくて、気持ち悪かった。
それからまたいくつか冷静になった頭で、急用が入った旨の書き置きだけ残して消えていたイタチのことを思った。
アイツは……どうするつもりなんだろうか。
……いや、それよりオレは……次からどんな顔をしてアイツに会えばいい?
オレはアイツとどう接すればいいんだ。
どうしたらいい?
どうしたら……。
答えは見えない。
どうすればいいのかなんてわからない。
ただ、会いたくなかった。
9月17日。
……もう3日連続碌に眠れていない。
眠らなきゃと布団につく度に、見るのはあの日、イタチに抱かれた日の出来事で、恐ろしい顔をしたイタチが「オレの子を孕め」と「オレは……もう子供ではない。だからシスイ、2度とオレを裏切るな」と言ったところで跳ねるように目が覚める。
心臓はバクバクと鳴って煩く、体中から噴き出す冷や汗が布団と寝間着を濡らし、手先はガタガタ震え、またあんな夢を見るんじゃないかと思えば、イタチとまた顔を合わせる日を想像する度に、恐怖で益々体が震えて、己を落ち着かせようとそうしているうちに朝を迎える。そんな日々を繰り返している。
3徹なんて慣れているからバレないだろうとそう自分を騙し騙しいつも通り任務に出ていたが、眠くても寝る時間がないので1日5分くらいの仮眠はとっていたのと、怖くて眠れていないのじゃ同じ眠っていないでも種類が違うのか、担当下忍の1人である、医療忍者見習いの少年は「先生眠れていないの?」とこっそりと訊ねてきた。
その時は笑って誤魔化してみたけど、通じていなかったのか……それとも本当に顔色が酷かったのだろうか、そいつは「あんまり無理しないでよ。これうちの新作睡眠剤。薬自体の効果は2時間くらいだけど嫌な夢も見ずにぐっすりが謳い文句だから良かったら使って」と渡された。
……そうだな。確かにこれ以上長引くようならば睡眠剤を使って無理矢理でも寝たほうがいいのかもしれない。今はまだ良いけど、これ以上睡眠不足が続けば、任務にも支障が出る可能性が高い。
なので今夜から貰った薬を試すことにした。
耐薬訓練を積んでいるのと、3年前から色々な薬を服用しているから本当に効くかはわからないけど、それでもなにもしないよりはマシだろう。
9月18日。
今朝、新聞の見出しで、あいつらのことについて書かれていた。
強姦、監禁、他様々な犯罪で捕まった奴らだが、既にその時奴ら3人中2人は頭がおかしくなっていたとのことで、奴らの被害者とされる女性の中には心が壊れた状態で売春宿に売り飛ばされていた子や、死んでしまった子もいたらしい。被害者の数は9人と乗っておりそして……そこに
イタチだ、と思った。
これをやったのはイタチだと、直感なんてものではなくほぼ確信といっていいぐらいにその記事を見た瞬間に理解した。
オレの前に姿を現さなかったのは、こいつらのことについて調べていたからだと。
……ゾッとした。
知ってしまったのか、お前は。
オレが何をされたのか、何をしてきたのか、知ったのか。
アレを、あの穢らわしいアレを知ったのか。
見たのか、お前は。
オレのあの浅ましい姿を。
気持ち悪くて、吐き気がして、頭が痛い。
クラクラする。寒くて、体の震えが止まらない。
……気持ち悪い。
目の前が、暗い。
呼吸が、苦しい。
ヒュゥヒュゥと喉が鳴るように、息が詰まる。酸素が、足りない。
……駄目だ、倒れたら。
駄目だ、知られたら。
駄目だ、駄目だ、絶対に駄目だ。
病院にでも運ばれたらおしまいだ。
誰にも気付かれてはいけない。
異変を悟られてはいけない。
オレは、いつも通りで、いつも通りに任務にいかなきゃ。
オレがいかなかったら不審に思われる。
「…………ッ、……」
口に両手を当てて、必死に呼吸を整える。
目や鼻からは生理的な涙や鼻水がダラダラと流れているが、それすら無視して必死に整え、震えて碌に動かない指先で必死に鎮静剤を服の間から引き出して、注射した。
……そうやってどれくらい経ったのか。漸く落ち着いて時計を見たら集合時間の10分前になっていた。
オレはさっと濡れタオルで汗と涙と鼻水を拭い、朝食の代わりに栄養剤を口に含むと、家の戸締まりをしてさっと目的地に向かい、担当下忍の3人組と合流する。
……着いたのはギリギリだった。
「もう、先生遅いよ!」
「ごめんごめん」
プクッと可愛らしく頬を膨らませて抗議するくノ一っ子が可愛くて、つい頬を綻ばせながら手を合わせて謝ると、彼女はふと真面目な顔になって、「先生どうしたの?」と尋ねた。それにドキッとした。
「いつも10分前には来るのに変だよ。それにその服、皺ついてる。シスイ先生らしくない」
下忍とはいえ忍びは忍びか……やっぱ、見てるとこ見てるんだな。
「ちょっと、寝坊しちゃっただけだって」
「そういうことにしといてあげるけどさ……先生なにかあったんなら言いなよ。たいしたことは出来ないけど、あたしたちだって話聞くことくらいは出来るんだからさ」
そういって彼女は顔を背けた。
イイ子だよな、本当……オレなんかの部下には勿体ないくらいだよ。
だけど……。
「うん、心配してくれてありがとうな」
……ごめんな、オレが話せることなんて何もないんだよ。
9月20日。
今日唐突に三代目から休暇を与えられた。
……任務には支障を出していないつもりだったが、オレがおかしいと気付かれたのか。
それとも……記事には載っていなくてもやはり三代目にはイタチは話していたのか。昨日火影室を出て行くときの一瞬、三代目はオレに同情するような眼差しを送っていた。
いたたまれない……そういうのはやめてくれ。
……特別なんていらない。寧ろ休暇よりも、何も考えなくて済むくらいに仕事をくれればいい。
けれどそんなもの正面から言えるわけもない。
……どうしようか。
どう、過ごそうか。
急に休暇を与えられてもどうしたらいいのかわからない。
こういう時、イタチの家に行くか毒草や薬草などの勉強しに行くか修行するか武器の手入れをするか家の手入れをするか。オレの選択肢なんてのはそんなもんだけど、どれをしていいのかさえわからない。
イタチの顔は見たくない。
会いに行きたくない。
どうしよう。
もうすぐ一族の会議なのに、会議の時は絶対会わなきゃいけないのに、どうしよう。
……どうしよう。
逃げたい。逃げちゃいけない。
何をするべきなんだろうか。
死にたい? 生きたい? オレはどうしたい?
全部わからない。
いつまでも逃げていられないのはわかっている、でもどう向き合えばいいのかわからない。
オレは……イタチが怖いんだ。
コンコンと戸を叩く音がした。それでオレははっと、気付いた。
……イタチだ。このチャクラ、気配、音と気配を極力消した足運び、間違いなくこれはイタチだ。
どうしよう……足も肩も指先まで震えが止まらない。
「シスイ、居るのだろう」
かつては安堵しか感じなかった声に、怖気を感じた。そこからの反応は反射的なもので、意識するよりも先に足が奥に向かって駆けていく。逃げたオレに気付いたのだろう、イタチが心配気にさえ聞こえる温度でオレの名を呼びながら追う。それすら恐怖の感情を起こす呼び水にしかなっていなくて、声になっていない悲鳴を小さく漏らしながら、オレはただ納屋の奥まで逃げ込んだ。
……それ以上は行き止まりで、どこにも行き場はない。そもそもこの逃亡劇は反射的なものだ。元から計画的に逃げたわけではなかったのだからここで終わるのは当然だったのかも知れない。ただ、オレはその暗い納屋の中で、ガタガタと肩を震わせながら両膝を抱えて座り込んでいた。
……イタチはすぐに追いついた。
そしてそんなオレを見ながら、イタチは言った。
この前のことを詫びようと思ったと。長いこと気付かなくて悪かった、そんなオレからしたら笑いぐさのどうでもいいことを。
気付かなくて悪かった? 馬鹿なことを。
……オレはお前に気付かれたくなかったんだよ。
知られたくなかったんだ。
あんな姿を死んでもお前に見られたくなかった。あんなものをお前に見られるくらいなら、あいつらの玩具になっているほうがマシだった。
止めろよ……謝るな、そんな目で見るな、これ以上オレを惨めにするな。
そんなもんされるくらいなら、軽蔑されて捨てられる方がずっとマシなんだよ!
切れよ、殺せよ、裏切り者と呼ぶくらいなら、オレなんぞをお前の女と思ってたってんなら、他の男に股開いた裏切り者として殺しちまえよ! オレはな、お前に知られたくないただそれだけのために犯人の要求を飲んで、その結果オレで味を占めたあいつらによってオレ以外の犠牲者を増やす元凶となった、そんな最低な奴なんだぞ!
そうだ、わかってるんだよ、ちゃんと。オレのこの境遇は自業自得でオレが馬鹿なのが全部悪いってな。
だから、同情するくらいなら、いっそ殺してくれ。
オレに謝るな、オレに同情をするな、オレの名を……そんな風に呼ぶな。
気持ち悪いんだ。
苦しいんだよ、やめろよ。
オレの名をまるで愛しい女を呼ぶような声で呼んでるんじゃねえよ。
オレはお前を弟分以上に見たことなんてねえんだよ。異性として見たことなんてないし、そう言う意味で愛したことなんてねえんだよ。……止めろよ。
止めろよ、止めろ……オレをこれ以上惨めにすんじゃねえよ。
イタチがオレに触れようと手を伸ばす。ビクリとオレの肩が大げさなくらいに跳ねる。
それを見てだろう。自嘲気味にイタチは言った。
「……オレのことが、それほど嫌いになったか」
嫌いに……? オレが、イタチを……?
「…………違う。イタチのせいじゃない」
そうだ、わかってた。
イタチのせいじゃない。
「イタチが悪いんじゃない……」
たとえ何をされようと、今更お前を嫌いになったりなんて出来ない。
そもそも今回のことは、女として15年以上も生きていながら、お前に女として見られるということを想定していなかったオレが全面的に悪いんだ。
だってオレはあの日まで許嫁の意味も、お前の想いにも気付いていなかった。あんなに側にいたのに。こんなことになる前に、お前と距離を取るという選択も出来ていなかったんだ。あれほど近くにいて、オレは自分のことばかりでお前のことまで見えていなかったんだよ。
ツケがまわってきたんだ。
きっと、これまでの幸福のツケが。
払うべき代償を払うときがきっと来ただけなんだ。
だけど、オレは……。
「ごめん……本当、ごめん。だけど……無理なんだ……」
肩が震えて、涙も鼻水もボロボロと止まらない。呼吸が苦しくて、気持ち悪くて、頭がガンガンして、鼓動が早くて、胸が痛くてたまらないんだ。
「無理なんだよ……」
「シスイ……」
どうしてお前はオレなんかが好きなんだ。
どうしてお前はオレを切り捨ててくれないんだ。
放っておけよ。めんどくさいって、放置して捨てて、今すぐ帰れよ、家に帰れ。
いっそ幻滅しろよ。
みっともないだろ、今のオレは。
かっこ悪いだろ、情けないだろ。
弱っちくて、無様で本当みっともなくて、こんなオレ……こんなやつとは思ってなかったとか言って、唾でも吐いて捨てちまえ。
そしたらオレはオレもまた里を捨てて、大蛇丸やうちはオビトを殺すためだけに生きてやるから、命捨ててやるから。なんの未練もなく、里を捨てれるんだから。こんな命に執着しないですむんだから。そうやって目的のための人形として自分なんて捨てて生きるから。
だからいっそ捨ててくれ。
それが出来ないなら殺してくれ。
「……ヤダッ」
どうしてオレなんかを抱き締めるんだよ、立ち去れよ、立ち去れ、お願いだから立ち去って捨ててくれ。
愛おしげにふれるな、触るな、抱き締めるな。止めろよ、ヤダよ、気持ち悪いんだよ。……重いんだ。
なんでだ、どうして……お前はオレを抱くんだ。
「シスイ」
オレの名をそんな風に呼ぶな。
11月11日。
あれから、イタチは度々オレの家に通い、そして……オレを抱くようになった。
どうしてか、オレはよくわかっていない……ただたんにわかりたくないだけなのかもしれない。
皆が居るときはいつも通りに……以前のオレとして振る舞えているように思う。
だけど、あれからもう睡眠剤がないと夜は眠れないし、薬が切れると悪夢で目が覚めるそんな日々を送っている。
けれど……。
「シスイ……」
「…………ぁ」
イタチと二人っきりになった途端、体が萎縮して、どうやって笑っていたのか、笑い方さえ思い出せなくなっていた。
そしてイタチは、そんなオレを抱いた。
抵抗ってどうやるもんだったのか、それすらわからない、ただ過去に受けた行為をなぞるように何も考えずただ反射的に喘ぎ感じ反応するだけの、笑いすらしない人形のようなオレにどうしてイタチが執着するのか、何も考えたくはない。
……優しさは時に残酷だ。
優しいのだろうと、思う。最初の時のような酷い抱き方をイタチがすることはない。
愛おしげに包み込むように抱くその様は、傷ついたひな鳥を愛撫する様にも似ていたし、そのやり方は愛していると口でいうよりも雄弁に愛を語っていたようには思う。
けれど、そうされればされるほど、心が死んでいくのが自分でもわかった。
それくらいなら……。
「いっそのこと、私のことは道具として扱ってくれないか……?」
「シスイ……お前は、何を言ってる」
コトが終わった後、オレはそんなことを口にしていた。
それはどこまでもオレの本音だったけど、イタチはそのオレの言葉を聞いて、眉間に皺を寄せながら、どことなく戸惑っているようにすら思える指の動きでオレの頬を撫でた。……その視線が、辛い。
「ごめん、馬鹿なこと言った……ごめん」
そうだ、わかっている。イタチはそんなやつじゃないって。
あいつらのようにただの動くダッチワイフとしてオレを使えるような、そんなやつじゃないって。
寧ろそんなやつだと思うなんて、イタチに対する侮辱だ。
だけど、それでもまだただの使い捨ての人形だと思われるほうがオレはマシなんだよ……。
「……ごめん」
どうしてお前はオレを見捨ててくれないんだろう。
12月 3日。
最近睡眠薬が効きづらくなってきた。
これ以上となるともっと強い薬を使わなきゃいけないけど、そうなると副作用が怖い。
どうしよう。
でも、睡眠不足は下手すると死にも関わってくるし、判断力の低下やミスにも繋がる。
しょうがないから、もう一段階強いのにしよう。
これも効かなくなった時のために、更に強い睡眠薬の研究でもしておいたほうがいいかもしれない。
……参ったな。
2月12日。
今日いつも通り任務に行ったら、深刻そうに下忍三人組が顔を見合わせて、それからオレに向かってリーダーである武闘派くノ一っ子がこう言った。
「ねぇ、シスイ先生大丈夫?」
「ん? どうしたの急に」
その言葉にドキッとしつつ、いつも通りの態度と笑みを心がけながら、出来るだけなんでもないように問うと彼女は仲間である医療忍者の少年とチラリと視線を合わせながら「だって、先生なんか……」と口にした。
その続きを聞く前にオレは言った。
「私は、大丈夫だよ」
3月29日。
……最近なんだかやけに体調がおかしい。
食欲がなくてちょっと吐き気がする。睡眠薬がないと眠れないのに眠気じみたものもあって、怠い。
鉄分もちゃんと摂取している筈なのに、貧血もある。
なんだろう。過去に摂取していた薬の副作用か何かだろうか。それとも今までの無茶のツケでも回ってきたんだろうか。
吐き気もする。
オレは一体どうしたんだろう。
4月27日。
あまりに体調がおかしかったからか、ミコトさんに体調が悪いことがバレてしまった。
病院に行きなさいといわれたけど、今までだって充分色々変なことがあっても自分で乗り切ってきたわけだし、慌てて「忙しいですし」といって断ったら、来週の非番の日にちゃっかり病院の予約を入れられた。
うう……どうしよう。
流石に半年以上経っているから、アイツラに弄られていた時代の痕は病院行ってもバレないと思うけど、色々薬を飲んできたことはバレるかもしれない。……あと任務でついたものと多分誤解してくれるだろうから大丈夫だとは思うけど、オレ、アイツラにやられた怪我は外側重視で治してきたから内部は結構おかしな形で残っているんだよな……。結構でかい内出血痕とか1つや2つですまないし。
出来ればやっぱ病院には行きたくないけど、ミコトさんの好意を無碍には出来ないのでしょうがないから承諾しちまったけど、そうしたらなんか当日ミコトさんもついてくるとか言い出した。
……なんて羞恥プレイなんだ。
そう思うオレに対し、ミコトさんは「心配なのよ」とそう言った。あと「体調がこれ以上悪化するときは予約日じゃなくても、お休み貰って受診しに行きなさい」とも。そんな二児の母親らしい優しさがオレにも向けられていることが嬉しくて、ちょっぴり涙ぐんだ。
5月 2日。
この日、オレはミコトさんと共に病院に来た。
吐き気や頭痛、貧血に体の怠さはドンドン酷くなっていくばかりで、薬で誤魔化し誤魔化ししてきたけど、実際にわりと限界だった。出来るだけそれでもなんでもないフリをしてきたけど、顔色の悪さまでは誤魔化せていなかったらしい。ミコトさんには「どうしてこんなになるまで放っておくの」とそう叱られた。
けれど、オレが限界が近いとわかっていたのだろう、ミコトさんはオレの肩を抱いて受付や診療室まで付き添ってくれた。
そして、其の日オレは最も恐れていた台詞を医者の口から聞くことになる。
「妊娠していますね」
「え……?」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。
分かることを脳が拒否していた。
そんなオレに向かって、医者はもう1度言った。
「おめでとう。妊娠2ヶ月です」
「……! シスイちゃん」
オレはそのまま、ミコトさんのその言葉を最後に意識を失った。
其の④に続く。