エリア26
時刻は午後6時43分
瀕死の重傷を負っている比叡は肩で息をしていた。
「……その傷、妙高さんにやられたのかしら?」
「妙高?……」
比叡は辺りを見回し、何かを見付けて駆け寄った。
「こいつこいつこいつこいつがぁっ!!!うひひ!!」
比叡は生首となった妙高の髪を掴んで振り回している。
「……」
神通は願った、このまま何も起きないで時間が過ぎてくれる事を……。
「ど、どうして貴女はこんなにも沢山の人を殺すの?」
「……お姉様の居ない世界は必要ありません……」
初めて比叡の口からまともな言葉が出た事に神通は驚いた。
内容自体はまともとは程遠かったが、神通はこのままスムーズに会話が続く事を願った……が、
「……だぁからぁらぁ!!全て無くしますよ!!ひひぃーひぃー!!」
すぐにイカれた比叡に戻り、妙高の頭部を神通目掛けて投げつけた!!
それは神通のすぐ横の木に当たり、トマトのように弾け飛んだ。
その際に木の方はへしおれてしまった。
「……」
神通は動けなかった、先程の攻撃が外れたのは比叡の左眼が見えない事と辺りがすっかり暗くなり、探照灯の明かりが神通を照らしていなかったからであった。
「……」
神通の膝は今にも崩れ落ちそうなほど震えていた。
目の前で妙高の頭が飛び散る様を見た神通の心は、恐怖に支配されてしまったのである。
「うあぁぁああぉ!!!」
獣の様な叫びを上げながら、比叡は神通に突進する。
「うぅ!?」
神通は驚きすくみ上がり、あろう事かその場にしゃがみこんで目を瞑ってしまった。
「あっはぁー!!」
比叡は容赦無く手刀を振り上げる。
「殺られる!?」
神通はこの後来るであろう、必殺の一撃に怯え縮こまる。
「……?」
いつまで経っても来ることが無い攻撃を不思議に思い、神通は思い切って目を開ける。
「……?」
比叡は神通の前で両手両膝をついて、四つん這いになっていた。
「……うぅぶぇっほっ!」
そして地面に向かって大量の血と吐瀉物を撒き散らしている。
「……あだま……いだい……ぎもぢ……悪い……お姉……ざまぁ」
比叡は涙を流して呻いている。
「これは……まさか」
神通の予想通り、比叡の身体は限界を迎えていたのだ。
左眼を貫通した鶴嘴千本は脳にまで達しており、比叡の命の灯火を確実に弱めていったのである。
「くっ……」
比叡は何とか立ち上がり、再び神通に迫る。
「これなら、負けません!」
神通は釘打ち機を握り締めて構える。
数分後……。
「はぁ、はぁ……か、勝てた」
神通の足元には、顔中に釘が打ち込まれた比叡の死体が転がっていた。
「うっ?」
しかし、神通の右足は比叡の最後の抵抗により、握り潰されていた。
「これで……みんなの所へ……」
神通はすぐさまエリア29の方向へ向き直し、右足を引き摺りながら歩きだした。
「待っていて……響さん、那珂ちゃん……」
エリア25まであと数kmに差し掛かった時であった。
「え?……そ、そんなまさか!?」
神通は懐に忍ばせていた懐中時計をのぞき見て驚愕した。
時刻は……。
「午後……6時55分?」
そして、公園に設置されているソーラーパネルにより、電気を得て動いている時計を見た。
「……7時……丁度……」
神通の首にはめられた爆弾が、けたたましい警告音を発し赤く光っている。
「そんな……」
神通は後悔していた、響の言う通り全員で此処を離れたとしても比叡の死はいずれ訪れていたと言う事実に……。
「まさか、那珂ちゃんにしてやられるなんて……」
神通は達観した様な顔をして、懐中時計を握り潰した。
どうやら何者かによって、懐中時計が5分遅らされていたらしい……。
そして、支給品である懐中時計を含む全ての荷物は、1度那珂に預けている。
「……響さん、気を付けて下さい……那珂ちゃん……頑張ってね?」
そう呟いた数秒後、神通の頭部は跡形も無く吹き飛んだ。
「比叡、暁、神通が死んだぞー?今日中に決着着いちゃうかー?」
待て次回!?
頑張れ響!獅子身中の虫はすぐ側だ!