エリア34
そこは荒れた畑と枯れた水路だけが残る廃墟である。
時刻は7時過ぎ、暁、神通、比叡の死亡報告が放送された。
「神通ちゃん……私達の為に……うぅ」
那珂は大粒の涙を流して泣いている。
「くっ……神通さん、暁……」
「……もう、嫌なのです……帰りたいのです……」
「電っ!しっかりしなさいよ!電がそんなんじゃ……私だって……うわぁはぁーん!!」
雷は電の頭を抱いて泣き喚いた。
響達は、これまでの戦いによって精神的に限界を迎えてようとしていた。
「那珂さん、地図を見せてくれないかな?」
ストレスで張り裂けそうな妹達を何とか助けたいと、響は無理矢理自らを奮い立たせる。
「うん、良いよ〜ちゃんと禁止エリアの時間も書いてあるからねー?」
「Спасибо那珂さん」
響は地図を眺める。
果たしてこのゲームから脱出する事が出来るのか?響はそんな考え等1ミリも考えてはいなかった。
「成程、やはり当初の予定通りエリア29へ向かうのが得策だね?小屋もあるし、道中川で魚でもとって戻る事にしよう」
響は残された1日と数時間を、最愛の姉妹たちと平穏に過ごす事を選択した。
現実逃避……そう思われても反論出来ない事であったが、響も既に限界を超えるストレスで後頭部には小さな円形脱毛症が現れていた。
先程より若干晴れやかであった。
「え?あ、うん、多分大潮ちゃん、荒潮ちゃん満潮ちゃん、睦月ちゃん如月ちゃんと……球磨型の大井ちゃんにぃ、私達だけだと思うよ?」
「睦月ぴょん?」
同型艦の名前に卯月、弥生が反応する。
「あの2人……まだ生きてたんだ……」
弥生の瞳にうっすらと水気が帯びる。
「そうか、駆逐艦の娘達は私達と一緒に来てくれる可能性が高いね?」
「うん!きっと大丈夫だよぉ!」
那珂も響の意見に同意する。
「大井さんだって、改装されてるわけでもないし、1人で私達と戦闘しようとは思わないはず……」
響はこの時、初めて心の底から安堵し、大きなため息を吐いた。
「響ちゃんすごいリラックスしてるねぇ?」
「そうだね、当面の敵はいなくなったわけだし、多少は気を抜いても大丈夫だよ」
気の抜けた表情をする響の両肩を、那珂は力一杯掴んだ。
「うっ?那珂さん?どうしたんだい?痛いよ……」
「響ちゃんは本当にそう思ってるの!?」
那珂は今までで一番の声量で怒鳴った。
雷達は面食らって硬直してしまう。
「な、那珂さんは一体何が言いたいんだい?」
両肩の痛みに表情を歪めながら響は言った。
「当面の敵はいなくなった?そんな筈ないよ!このゲームは1人しか生き残れないんだよ!?」
「……」
「響ちゃんが皆で仲良く死のうとするのは構わないけど、他の娘達はどうなの?」
「……それは……仕方の無いことだ、それとも、那珂さんは私達でまだ殺し合えと言うつもりかい?」
響は少し苛立っていた、自分自身痛い程分かっている事を言われたからだ。
分かってはいるが、解決方法なんて見つかる筈も無い、響は辛く悲しい現実よりも、優しい世界へと逃避してしまいたかったのだ。
「最後まで足掻こうよ!脱出する方法だって見つかる可能性だって絶対にあるよ!!」
「……」
那珂の必死の説得に対して、響の内心は冷めきっていた。
死ぬ直前まで苦労してなんの意味があるのか?助かる可能性なんて、0%に決まっている。
「響ちゃん!?聞いてる?私の言ってる事わかる!?」
「煩いよ!!」
響は思い切り那珂腕を払った。
「響ちゃん?」
突然荒い口調になった響に対して、那珂はキョトンとした表情になる。
「無意味な事をして、最後の最後まで神経をすり減らして、絶望の中で死を迎える?それがアンタの考えか?本当は限界まで消耗した私達を後ろから殴り殺す作戦なんじゃないのかい?」
「響ちゃん……酷いよ!私がそんな事する必要は無いよぉ!!」
「響ちゃん、それは言い過ぎぴょん!那珂ちゃんに謝るぴょん!那珂ちゃんも響ちゃんに謝るぴょん!響ちゃんだって頑張ってるぴょん!」
2人が掴みかかろうとする直前、卯月が2人の間に割って入った。
「卯月ちゃん……ゴメンね響ちゃん、言い過ぎたよ……」
「こっちこそ……あの……ゴメンなさい……私だって出来ることなら脱出したいとは……思ってる」
2人は照れながら握手を交わした。
しかし、響はこの時、言いようの無い違和感の様な何かを感じていたが、その正体には気が付いていなかった。
待て次回!?
仕事を辞めればいいのだ(名案