ぼくの右手は、ドウマエさんの右手の援助なしにぼくの意志のみによって動いていた。ぼくは自分の意志ではないと思いたかったけれど、ぼくが指令を出さない限りぼくの右手は動かないはずだから、いま右手が動いているということはぼくの意志によって動いているということを意味していた。
いくら回りくどく考えてみたところで、免罪符が見つかるわけでもぼくのしていることがなかったことになるわけでもない。
ぼくは上半身裸のドウマエさんに密着された状態で、パンツの上からペニスを扱いている。それが見間違えるはずもない決定的な事実であり、その証拠はいまもヤエさんによって録画されていた。
「おぉ……パンツに染みができてきたよ……。こいつ、こんなふうに見られてるのにシコって先走り汁垂らしてるとか、ほんとクズだね……」
「私のおっぱいじゃなくて、ルカの罵倒に興奮してたりしてね~」
「それ最悪ぅ~」
それに比べたら、マツリさんに彼氏がいるということはあくまでシシドさんたちが話している言葉であり、言葉とは目に見えないものだから、事実かどうかなどわからない。でも、そう思っているぼくの思考もまた目に見えないものだから頼りない存在にすぎない。わかっている。ぼくは認めたくないだけだ。信じたくないだけだ。
「それにしてもなんか勢いが足りないんだよね~」
「嘘だ……」
「え……?」
ぼくは右手を止めて、声をしぼり出した。
「マツリさんに彼氏がいるなんて、嘘だ……」
「はぁ……まだそんなこと言ってるの? めんど~……。ちょっとヤエちゃん、スマホ使うね――。ほら、これだよこれ、その涙でうるんだ目でよ~く見てみ」
シシドさんが差し出したスマホの画面には、ぼくらよりも少し大人びた男性と一緒に一つのチョコレートパフェを頬張りながらピースをしているマツリさんが写っていた。この世のできごととは思いたくなかった。ぼくはなにも見てない。こんなのは嘘だ。
「あ、そうだ、こんなのもあるよ。マツリ、結構いろんな写真送ってくれるんだよね~」
パフェの写真と同じ男性が再びマツリさんと一緒にバストアップで写っていた。そのフレームにおさまっている限りでは、マツリさんたちは何も身に着けていなかった。二人の肌はどこか水けを帯びていて、髪の毛もしっとりしていた。余計に涙があふれてきた。
「だから言ってるじゃん。こんなことで嘘ついてもあたしたちが得になることなんてないし」
シシドさんがヤエさんにスマホを返し、ヤエさんは再びレンズをこちらに向けながらぼくらの茶番を眺めていた。
「はい、そろそろ時間もないしさ、くだらない抵抗してないで早くイっちゃいなって」
「え~い」
ドウマエさんがぼくのパンツを膝のあたりまで勢いよく下ろした。ぼくはもう咄嗟に手で隠す余裕もなく、ただただ呆けていた。
「あ~なんとなく予想してたけど、やっぱこいつ皮かぶってんね~」
「いいじゃんいいじゃん、変態っぽくて」
仮性包茎だと変態なのか? どういう思考回路なんだいったい。
「ほらほら、ルカがマジギレしないうちに早くイっちゃお~よ~」
ドウマエさんの右手が再びぼくの右手を導く。
マツリさんのことでフリーズしていた快楽の回路が再び首をもたげ、フルスロットルで海綿体に血液を送り込んでいった。
「キクすご~い……この変態、もうフル勃起してるよ……」
「はい、シコシコしよ~――はむっ」
「んっ……」
ドウマエさんの大きなふくらみが再びぼくの背中に思いっきり密着してきた。それだけじゃない。ドウマエさんは僕の耳たぶをしゃぶりだした。
「……っ……っ……」
もうやぶれかぶれだった。
「はぁ、はぁ……っ……っ……」
「や~ん、ナガヤマくん、激しい~」
あるいは、自暴自棄になっているということにして、ドウマエさんの誘惑に抗えなかった自分を、マツリさんに操を立てられなかった自分を隠したかっただけなのかもしれない。
「んっ……っ……はぁ、はぁ……んっ……っ……」
「ヤエちゃん、しっかり撮れてる?」
「は、はい……撮れてます……」
射精の兆しがこみ上げてきて、思わず腰が少しだけ曲がってしまう。
「やっと正直になったな」
「ん……んちゅ……私も脱いだ甲斐があったよ~……んっ……んんっ……」
ドウマエさんの唇と舌と唾液と僕の耳が奏でる四重奏は、ぼくを耳まで犯されている気分にさせた。
意志をもった一匹の動物のようにぼくの耳をダイナミックに這うドウマエさんの舌の感触に、思わずだらしなく口を開けっぱなしにしてしまう。
気を違えて叫びたしたくなるくらい不愉快なのに蕩けて立っていられなくなるくらい壮絶に気持ちのいいオナニーだった。
「んっ……で、でます……っ……」
「えっ、ちょっ――」
「はぁ、はぁ……っ……っ……うっっ!!」
今朝マツリさんを思い描いて1回出しているのに、これまで自分一人でしていたときには見たこともないような粘度の高そうな白濁液が放出された。制御できないその迸りは、そのままぼくの正面にいるシシドさんの制服のプリーツスカートと太ももに着地した。
ぼくは人を超えたような妙な達成感を感じていた。それはひょっとしたら、どん底まで落ちて最底辺から高い空を見上げて感じる途方もなさをそう錯覚しただけなのかもしれないけれど。
「うっわ、童貞クソ野郎のせーしかかったんですけどっ!」
「ルカいやらしい~」
「おいっ! お前ふざけてんの!? どうすんだよこれっ!」
「ご、ごめんなさいっ」
でも、出せと言ったのはシシドさんだ。射精後の虚脱感もあってか、恥ずかしさの臨界点を超えたいまのぼくにとっては恐怖よりもシシドさんにひと泡吹かせることができた喜びのほうが大きかった。
「まぁまぁ、とりあえずシャワー浴びてきたら? 私だったらそのままヤっちゃうけど」
「あたしまだそれは無理かも……ちょっとシャワー浴びてくるね……」
「は~い――。さてさて、ナガヤマくん、このあとどうしたい?」
ドウマエさんのお餅はまだぼくの背中にべったりとくっついていた。お皿にこびりついたお餅のように、なかなか離れてくれなかった。
「ほら、ここはもう復活してるみたいだよ?」
「こ、これは……」
いまさらこれは不可抗力だと訴えることほど説得力のない発言もないだろう。ぼくは黙ることしかできなかった。
「ちょっと待っててね~。後ろ振り向いちゃだめだよ、そのまま窓のほう向いてて」
ドウマエさんに言われたとおり、ぼくは窓のほうを向いたままじっと待った。なにも従う必要はないし、ここでヤエさんを突き飛ばしてスマホを奪って逃げだすことも想像した。けれど、怖かった。これ以上の災難があとでやってくるかもしれないと思うと、ここから動かないのが得策だ。政治家もこんなふうに弱みを握られまくってろくに仕事ができないボンクラになっていくのだろうか。
そんなことを考えながらあらためて部屋に用意されている小道具を眺めてみると、その充実っぷりに驚く。バスケットボールの詰まった大きな籠や跳び箱に踏み台、マットにカラーコーンやフラフープなど、目隠しをされて小学生が連れてこられたら、たぶん3年生くらいまでならここが本当の体育倉庫だと信じてしまいそうな臨場感があった。
「ナガヤマくん、お待たせ~」
「なっ……」
ドウマエさんは体操着に着替えていた。下は紺のブルマで、上は首まわりと袖に同じく紺のラインが入ったクルーネックシャツ。絵に描いたようなブルマ姿だった。
けれど、生まれて初めて、現実に間近で見るブルマに対する驚きよりも、ドウマエさんのデザインされたような肢体のバランスにこそぼくは目を見張っていた。ほどよく長い首や高い腰からすらりと伸びている生脚はモデルのようだ。制服姿のときから変わらず履いているルーズソックスが、そんな洗練されたドウマエさんのシルエットにチャーミングなアクセントを加えていた。
「うん? もしかして~、惚れた?」
いくら飲み込んでも生唾は絶えなかった。
「なに、かわい~じゃ~ん!」
「えっ……」と言葉の真意を尋ねるよりも早く、ドウマエさんにばふっと抱きつかれた勢いでぼくは思わずマットに尻もちをついてしまった。目の前には同じく倒れたドウマエさんが、四つん這いでこちらを見つめている。ブラジャーをつけていないのか、豊潤なふくらみの突端がツンとミニチュアのテントを張っていた。
「……ん……んくっ……んんっ……」
「ん……ド、ドウマエ……ひゃん……」
「んんっ……っ……ん……ん…………はぁ、はぁ……ん……ん……っ……ぁ……ん、ん、ん……はぁ……これがキスの味だょ……」
シシドさんにしろドウマエさんにしろ、どうしてぼくが童貞だとか、キスもしたことがないやつだって思うんだろう――と腹立たしく思う気力すらドウマエさんの口に吸い取られていくようだった。なにせ図星だから抗いようがない。
ぼくに覆いかぶさるような姿勢で乗っかっているドウマエさんの全身の感触に溺れてしまいそうだ。
「ん……んっ……はぁ、はぁ……んんっ……ん、ん、ぁ……」
ドウマエさんの迫力に負けぼくは仰向けになり、ドウマエさんはその上に跨った。どうしてこんなことになったんだ。それは疑問ではなく、自分から望んだわけではないという白々しい言い訳のための思考だった。
「……ん、ん……私……ノってきちゃった……ん、はぁ、はぁ……」
「え……?」
苦しさを感じないくらいのほどよい圧迫感とともにナイロンの感触がペニスをからかうように刺激していた。
「ナガヤマくん……下の名前なんだっけ……」
「ツ、ツカサ……です……」
「ツカサくん……私のことも、キクって呼んで……」
「な、なにを――」
「いいからぁ……ん、ん、ツカサくん……ぁ……はぁ、はぁ……んっ、ん……んぁ……はぁ、はぁ、はぁ……ん……ゃ……」
「っ……はぁ、はぁ……」
誰にも言わず大事にしてきたなにかが、音を立てて決壊した。
「キクさんっ!」
「ひゃんっ! ぁ、はぁ、はぁ……ぃぃょ……んっ……」
キクさんを力強く抱きしめ、ふわふわのツインテールを撫でる。
むせそうな臭気はいまでは極上の媚薬のようにぼくの脳を溶解させていた。
「ツカサくんっ……んっ……んっ……」
ぼくらは決して唇と唇をなるべく離さないようにしながらお互いの身体をまさぐる。
キクさんの胸肉はそれを揉んでいるぼくの手からはみ出ていた。
「キクさんっ……んっ……っ……っ……はぁ、はぁ……」
「ん……っ……っ…………っ……ぁ……」
マツリさんの顔が幻のように瞼の裏によみがえる。けれどぼくが夢にまで見たマツリさんの笑顔ではなかったし、マツリさんの横には高校生に手を出すようなロリコン大学生が一緒に映っていた。
いまこの瞬間、ぼくの天使はキクさんだった。
「ひゃぁっ……ちくび、ぃぃょっ……んっ、ぁぁ、ぁ、んっ……私のなか……入れたい……?」
ぼくは無言で頷いた。
「えへへっ……らじゃっ……」
キクさんが弱々しく敬礼をした。手のひらが見えていたし左手だったけれど、その愛くるしい言動にメロメロになったぼくはツッコミを入れずに再びキスをした。
「んしょっ……っと……入ったよ……」
人生に一度しかない儀式的な意味さえ帯びる瞬間を、ぼくはあっけなく迎えた。
女性の膣の構造をよく知らないぼくには、ペニスに絡まりついているこの暖かさがどこから来ているのかわからなかった。もちろん、キクさんの体のなかに入ったのだ。体温の暖かさはある。けれどぼくが感じているのはそういう類のものではなかった。これはなにか、もっと根源的で、終末的な、狂信的な祈りを捧げたものにしか見えない天使による導きの光のような暖かさだ。
だからぼくは夢のなかに入ってしまったかのように、自分を制御できなかった。
「キクさんっ……キクさんっ……」
「ひんっ……ど、童貞おち×ぽっ……激しいっ……」
キクさんはブルマを横にずらしただけで、シャツも含めてなにも脱いでいなかった。
生地がもたらすふわふわやさらさらがぼくの素肌に密着している心地よさをあらためて感じる。
もうなにもかもがこの快楽のために捧げられる糧と化していった。ぼくはキクさんのやわい全身を余すことなく堪能するイメージで、狂ったように我を忘れて腰を振り続けた。
「キクさんっ……ぼくっ……っ……んっ……っ……」
「んん、ん、ん、ん……ぁ、ぁ……嘘……気持ちぃぃ……ツカサくんっ……んっ、んっ、んっ、んっ……もっともっと動いていいよっ……!」
「……っ……はぁ……っ……っ……っ……はぁ、はぁ……っ……っ……っ……」
「ん、キスも忘れないで~……ん、ぁ……ん、ん、ん」
「っ……ふっ……ん……っ……っ……」
「お待たせ~――って、ええええっ!? なに、キク、手ぇ早すぎっ……ヤエちゃん、これ……」
「な、なんかものすごいスピードで盛り上がっちゃってました……」
「ナガヤマ腰振りすぎだしっ……まじ変態だなこの童貞は……」
「キクさんっ……キクさんっ……」
「どう……? ツカサくん……」
「き、きもひぃぃです……」
「んっ……いいよっ……その調子で……なかに……はぁ、ぁ……出してっ……んっ」
「……っ……っ……っ……」
「ぁ……キたかもっ……私もイっちゃう……んっ、んっ、んっ、んっ、んっ……一緒に……一緒にっ……」
「は……はいっ……っ……」
「ぁ、ぁ、ぁ、ぁ、ぁ、ぁ……ん……イクっ……ん、ん、ん、ぃ、ぃい……イっちゃうっ……ぁ、んっ、ツカサくんっ――――んんくぅっっっ!!」「――キクさんっっっ!!」
肉悦のもとに、ぼくのすべてがひれ伏していた。