※この作品はR-18です。

聖ティンティマヌス女学院監禁事件   作:果肉ぬき

1 / 1
001:結末(上)

【ボトルローション(600ml) 22本

 業務用ローション(2L) 7本

 コンドーム(0.01mm/6個入り) 3箱

 コンドーム(0.1mm/12個入り) 2箱

 

 ローター 6個

 バイブ 5本

 ゲイシャボール 1個

 ディルド 6本

 双頭ディルド 2本

 ペニスバンド 4着

 

 使い捨てオナホール 18本

 使い捨てオナホール(フェラタイプ) 4本

 コックリング 1個

 

 アナルローター 2個

 アナルボール 2個

 アナルビーズ 2個

 アナルプラグ 1個

 エネマグラ 1個

 

 貞操帯(男性用) 1着

 貞操帯(女性用) 2着

 

 バラムチ 1本

 ボールギャグ 2個

 アングルワイダー 2個

 リード(犬用/8m) 1本

 首輪(犬用) 2つ

 アロマキャンドル(フレンチバニラ) 1個

 グリセリン浣腸(40g×5個入り) 3箱

 バケツ(10L) 2個

 ゴミ箱(プラスチック/円形/45L) 1個】

 

「見てるだけで吐きそう……」

 

 柊せなは、自分のスマホの画面に映る膨大な量の性的な文字列を見つめて、ひとりぼやいた。それは、きょうから捜査している性的かつ陰惨な事件の証拠品リストの一部だった。

 もっとも、彼女が吐き気を催しているのはファミレスのドリンクバーでコーヒーを10杯も飲んでいるからなのだが、彼女は事件のことで頭がいっぱいでそんなことには思い至らない。

 さて、柊せなは刑事である。性交渉の経験はまだない。

 ただ、警察官に憧れ自身の鍛錬一直線の人生を送ってきたとはいえ、性欲がいかに人を狂わせるかということも、性欲を抑制できない人が一定数いることも、せなは承知しているつもりだった。

 もちろん、自分自身のなかにだって性欲があることを否定するつもりはない。

 学生時代、同級生たちが色恋沙汰に夢中になっている雰囲気にはどうしても溶け込めず、孤立しがちだった――なにが楽しいのか理解できないのだ――が、ときおり女性器が疼くことだってあった。

 なにも、男性と肌を重ねたいと思っているわけではなかったが、ふだんは排尿後にトイレットペーパーで拭くときと、生理用品を扱うときぐらいしか意識したことのない淫部に、なにか棒状のものを入れてかきまぜてみたくなるときもある。26になったいまでももちろんある。だからせなは月に何度か、爪がまったく伸びていない綺麗な指を使って自らを慰める。

 それに、警察官を目指してきたせなだ。むろん、性犯罪についての知見はその辺にいる「善良な市民」よりかは精通しているつもりでいた。

 

「にしても、今回の件はどうだ?」

 

 せなは苛立ちを覚えながら大きなため息を一つ吐き、昼間の事件現場の情景を思い出した。

 2階建てのアパートの1階、その一番奥にある103号室のなかは、素人でもその異様さに一瞬で気づくほど、日常から乖離していた。

 死体の臭いを嗅いでいたほうがマシなのではないかと思ってしまうほどのすえた空気。

 白い壁やフローリングの床にこびりついた血痕。

 敷きっぱなしにされていたと思われるふた組の布団には、黄色や薄茶色のシミ。

 そしてトイレ、洗面台、お風呂が一緒になった3点ユニットバスの浴槽のなかには、生首を抱えて行儀よく正座している首なしの女性の胴体。

 これまで少なくない数の死体を見てきたせなには、その肉塊がつい数時間前まで生命を保っていたことだけはすぐにわかった。

 

(硬直の具合からして、死後10~20時間くらいか?)

 

 せなは頭痛に耐えながら頭のなかで計算した。

 せなの頭痛の種はそれだけではなかった。部屋に所狭しと置かれていたさまざまな性具や避妊具、性的な行為に使用したと思われる日用品は、ここで行われたことが殺人だけではないということを物語っていた。

 

(考えるまでもない、おそらく浴槽にいた女性は個人、いや集団に長期間にわたってレイプされたのだろう。また、性具の数はとてもじゃないが個人で所持するような数とは思えない。ここは乱交パーティの会場かなにかで、もしかしたら原因はそこでの痴情のもつれかもしれない)

 

 せなはそこまで類推した。

 しかし現実は人の想像をたやすく超える。事態はもう少し複雑だった。彼女がその真相にたどり着くのはもうしばらく先のことになる。

 

「そろそろ行ってみるか」

 

 なにも、犯人を捕まえようというつもりはせなにはなかったが、署とせなの自宅のちょうど中間にある駅が現場の最寄り駅だったため、せなは仕事上がりにその駅に降り、現場に行く前にファミレスで事件のことを振り返っていたのだ。

 犯人は現場に戻る。

 危険が一切ないわけではないが、捜査一課に在籍している以上、せなには近接戦に一定の自信があった。それにせなは、犯人が捕まるのなら自分はいくら犠牲になってもよいと思っていた。正義感が人一倍強いのだ。

 

「単独行動ごめんなさい、前島先輩」

 

 前島久司(まえじまひさし)、28歳。キャリア組なのにノンキャリアのせなを見下す素振りも見せず、正義感に引っ張られて先走りがちなせなをいつもサポートしてくれる頼もしい先輩だ。

 

「たしかこの道から行くと早いんだよね」

 

 ファミレスを出たせなは、昼間の記憶を頼りに大通りから薄暗い路地に入った。小ぢんまりとした一軒家やせいぜい2階や3階建てのアパートが並ぶ静かな住宅街を歩いていく。

 

「……っ……っ……ぅ……っ……」

 

 現場であるアパートから40メートルほど離れているところにある公園まで辿り着いたあたりで、せなの耳に聞きなれない音が侵入してきた。

 

(うめき声と、衣擦れの音……?)

 

 いまは風が吹いていないから聞こえたようなものの、少しでも強かったり雨が降ったりしていたら絶対に気づかないようなかすかな音の正体について、せなは必死に想像を巡らせた。

 

「……ハァ、ハァ……っ……っ……」

 

 音は止まない。

 せなの背中に冷や汗が流れる。

 せなは、その冷たさを感知することで自分が冷や汗をかいていることに気づいた。途端、せなの心臓の音が急速に大きくなる。自分の置かれている状況を理解したのだ。

 

(まさか、当たっちゃった……?)

 

 迂闊なことをした焦りと後悔を押し殺すために必要もないのに声を出す。

 そうしないと駆け足で逃げ出してしまいそうだった。

 単なる勘違いであってほしいと願う気持ちと、犯人であってほしいと願う気持ちが戦っているその真横で、動物的な本能が「星はここにいるよ」と不躾かつ的確な主張をしていた。

 

(誰もいない……)

 

 せなは公園に足を踏み入れた。

 幼児が5人も集まればいっぱいになってしまいそうな小さな砂場に、背の低い滑り台と小ぶりなジャングルジム、それに公衆トイレがあるだけの控えめな公園。一見したかぎりでは、人影は見当たらない。

 

(やっぱ開けなきゃだめだよね、どう見ても怪しいし……)

 

 公衆トイレのドアは半開きになっており、光が漏れていた。

 せなは公園の入り口に戻り、肩にかけていたショルダーバッグを塀の上に置いた。そこからスマートフォンとメリケンサックだけを取り出し、メリケンは右の拳に装着した。

 公衆トイレに向けて歩を進める。

 

「っ……ぅ……ぅぅ……ッ……はぁ、はぁはぁ……ぐふっ……」

 

 せなの耳に入ってくる声は次第に大きくなっていった。

 声の主が男性であると気づいたせなの脳裏に、昼間に見た浴槽のなかの生首と首なし胴体が鮮烈に蘇る。

 じわじわとにじみ出てくる生唾を飲み、一歩一歩に力を込めながらトイレに近づく。

 

(前島先輩……!)

 

 スマートフォンの画面をONにし、すぐ前島に電話をかけられるようアドレス帳から彼の項目を呼び出す。通話ボタンに触れるか触れないかというところで左手の親指を固定させる。

 

「はあぁぁぁぁ……ぅぅぅぅ……っっっ……っ……」

 

 トイレの前に辿り着いたせなは、腰をしずませ、左脚を前に出した状態で右脇を締め、右腕が地面と平行になるように拳を腰の位置で構えた。

 省電力モードのせいでOFFになっていたスマートフォンの画面をONにし、前島の番号が画面に表示されていることをあらためて確認する。

 

(柊せな……行きますっ!)

 

 勢いよくドアを開けた。

 

「ひっ……!」

 

 なかでは、ボールギャグとセーラー服を身に着けた少年がこちらを向いて、プリーツスカートの裾から顔を出しているペニスをひっきりなしにしごいていた。

 

「うっ――!!」

「えっ!?」

 

 少年の絶頂を象徴する精液が目の前にいるせなに飛び散った。

 事態を頭で理解するよりも早くせなの左手が前島に電話をかけるのと、少年がせなに突進してくるのは同時だった。

 スマートフォンが音を立てて地面の上で2回跳ねた。

 

「きゃっ!」

「ふしゅーっ!」

 

 ケダモノだ。

 むき出しのリビドーに直に触れたことのないせなの脳は、かつてない不快感を覚えたところでその濁流を受け止めきれず、一時的に活動を停止した。否、脳は必死で動いていたが、せなの身体が動くことを放棄していた。信号がうまく機能していないのだ。

 当然、押し倒された衝撃も尻の痛みも感じる余裕などなかった。

 

「ぐぅ……っ……っ……っ……ぐふっ!」

 

 少年は野獣のようにセナの両腕を片手で地面に抑えつけ、もう片方の手でせなのチノパンを力づくで脱がせた。

 男不潔男不潔男不潔男不潔男不潔男不潔男不潔男不潔。

 動かないせなの身体に引きずられて脳までショートしはじめる。

 恐怖と感じることもないまま淫裂から漏れ出た尿が先週末買ったばかりの花柄のショーツを汚した。

 

「……ひい……ぎ……?」

 

 地面に落ちているスマートフォンから前島の声が漏れる。しかしそれはせなの耳には届かない。

 

「っ……ぐじゅるっ……っ……ぐふっ……」

 

 犯される犯される犯される犯される犯される犯される。

 せなの目は閉じられていない。見開かれている。閉じることができないのだ。だからそこから入ってくる視覚情報は自動的に脳に送られる。しかし、その先で整理された情報はせなの心には届かない。絶えず送られる危険信号を、認知できない。

 

「え、ぁ、ぁ、ぁ……ぅぅぅ――いたいっ!!」

 

 最初に復活した五感は触覚だった。

 26年間守られたせなの処女膜があっけなく散った。

 獣は躊躇うことなく腰を振り出した。

 

「ぇ、ぁ……ぅ……ぃ、ぃたっ、ぁ、ぇ、ぇ……」

 

 せなの瞳から溢れた涙が耳を、側頭部を、地面を濡らした。

 

「っ……ひっ……ぅぐっ……ぐ……ん、ん、ん、ん、ん、ん」

 

 獣の唇に唇を塞がれたせなは、活動することを放棄し、この悪夢が終わるのを待つことにした。

 それがせなの防衛だった。

 自我を損壊させないための、防衛だった。

 

「ぐしゅー! ふんっ……ふんっ……うぐっ……」

 

 獣のボールギャグから垂れ流されている涎がせなの顔を汚した。

 もはや、せなは意に介さない。否、「意」がない。

 そしてそれは獣も同様だった。

 彼のなかでは「そこに入れれば気持ちよくなれるし、そうしないと痛い目にあわされる」というルールだけが駆動していた。

 彼はそれに従っているのみで、せなの姿形も、せなの性別すらもわかっていなかった。

 自分がいまどのような格好をしているのかも当然把握していない。

 快楽と恐怖をめぐるシンプルなロジックだけが彼を動かしていた。

 彼は40分後に前島がやってくるまで腰を振ってはせな精液を噴出させ、せなは40分間その精液を子宮で受け止め続けた。

 前島の到着後、せなはすぐに病院に運ばれた。

 前島は男の子を殴り殺すつもりで、せなのメリケンを使って顔面と胸部と腹部と淫部に3発ずつフルパワーで叩きこんだ。

 少年の前歯がすべてなくなっていたことに気づいたとき、我に返った前島は殴るのを止めた。前島の右手の骨は数本折れていた。

 

 †

 

 一週間後、前島はなんとか話せる状態にまで回復した少年から事の経緯をすべて聞き出した。せなはいまだ抗うつ剤の投薬とカウンセリングを受けている状態だったため、その場には居合わせなかった。

 前島は少年の記憶の正当性に疑問を抱いた――というよりも信じたくなかった――が、鑑識のレポートや現場検証の結果、死体の女性や少年の周辺人物への聞き込みなどと照合することで、それが事件の真相であることを認めざるを得なかった。

 のちに「聖ティンティマヌス女学院監禁事件」と呼ばれるその凄惨な事件の全貌を知った前島は、久しぶりに長期休暇の申請を検討していた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。