見渡す限り一面に広がる砂浜。燦々と照りつける太陽。
赤く燃える太陽の日差しを受けた砂は溶かしたガラスのようにテラテラと太陽光線を反射させる。
反射しきれなかった光は砂に融け込み、高温となって大気中に放出する。
砂浜にはポツン、と私が突っ立っている。
一糸まとわぬ姿で立つ私の肌には暑い日差しが突き刺さり、温められた砂の熱が足の裏を焦がす。
あまりの暑さにぽたぽたと汗が砂に落ちるが灼熱の太陽が跡形もなく消し去る。喉が水を欲する。
――暑い熱いあついあつい!!
このまま日陰に入らず立っていればすぐに干からびそうな程にあつい。
それでも私が動かないのは周りに何も無いから。ではなく、この世界が夢で死ぬ可能性がないからだ。
これが夢であることは薄々勘づいていた。
突然の暗転。理解不能な触手達。理不尽な快楽。
そして、再びの明転。ここまで急速な場面展開が出来るのは夢の中しかない。
大方、雅をいじめた罪悪感とそれでも残る興奮がこの悪夢を見させたと考えられる。
つまり、この悪夢から出るにはベタに強烈なショックを受ければ良いのだろう。
さっきの絶頂でも起きなかったことを考えると、もっと強いショック、すなわち死ねば起きることが出来そうだ。
足元の砂を見れば私の居る場所と目の前の砂には一線が引かれたように黒く色が変わっている。
それはさっきまでそこに波が来ていたことを表すも、近くに波は無い。引き潮だとしても引きすぎだ。
波があった方向を目を凝らして見つめる。
所々で湧き上がる陽炎で視界が揺らぐがそれでも奥を見る。
2・0を優に超える高視力をもつ私はキロ単位でモノを見ることが出来るのだ。
陽炎の中を掻き分け見つめた先には地平線に空の青さと砂の白とは違う黒々とした線がある。
見つめているとそれが徐々に太くなっているのがわかった。
あれが私がさっき欲した水の塊であることに数秒かかった。
―あの波に飲まれたら余裕で死ねるなぁ。
個では微弱な力でも数があればやれる事もある。
私の周りには砂ばかりで遮蔽物は無い。後ろを振り向くも陸地は遥か彼方。
私は高熱の砂の上に足を伸ばして座る。下半身が熱で痛めつけられる。熱で溶け、熱で固まるのが実感出来る。
数秒しか経っていない筈だが波の太さは数十倍に膨らんで想像以上に早く進んでいた事を私に伝える。
それでも私は逃げる気はない。
* * *
あと20秒もすれば波が到達する所まで来た所でふっと、影が私を覆う。
見上げればそこにはなぜか雅が立っていた。
「雅?なんでここに?」
声をかけると雅ははにかみ、照れたように頬をぽりぽりと掻いた。
「ししょーを助けに来ました」
雅が何を言っているのか私には理解できない。色んな仮定が頭を駆け巡るも全て否定される。・・・ここは私の夢の中ではないのか?
雅は手を差し出し私を立たせる。
「じゃあ、ししょーあっちまで行けば助かるので急いで走って行って下さい」
そう言うと雅は波とは反対方向を指さし、私の背中をぐいぐいと押す。
そんな事言われてもまだ解決していないものがある。
「待って、雅。なんで雅はここにいるの?ここは私の夢じゃ無いの?私が逃げて雅はどうするの?」
押す力を避け雅へ振り返り気になっていた質問を重ねる。
すると、雅はちらりと後ろの波を確認する。
その時の雅の目が今まで見たことのないほど真剣で、真面目な面持ちで見ていたものだから睨まれてもいないのに思わず息を詰まらせた。
確認を終え朗らかな顔で私を見つめ直した雅の目にさっきの目つきが被り、私の我が儘に親切に応えてくれようとしているのが分かった。
「ししょー、僕は貴女の為にここにいますし、ここは貴女の読み通り貴女の夢です。あれは僕が何とかするので早く逃げて下さい」
手早い応答でここから逃がそうと再び私を押す雅。
私は雅の手を振り払い、肩を鷲掴みにする。
「・・・何とかって、どうするのッ!!」
もう波がそこまで来ている。頭では分かっているが私の我が儘は止まらない。
雅は肩を掴む私の胸をどんっと押し、離す。
「ししょー、頑張って逃げて下さいね」
雅が一言言うと、黒い塊となった波が雅を襲った。
「えっ・・・!?・・・雅?おいて行かないで雅ッ!!」
「ふみゅっ!?んあ?あ!ししょーやっと起きました?大丈夫です?めっちゃうなされてましたが?・・・っわ~、汗酷いですね。ちょっと待ってて下さい、今タオル持ってきますので」
私に覆いかぶさるようになっていた雅は私の状態を把握するととたとたと寝室から出ていった。静寂なこの部屋はどう見ても私の寝室だ。
・・・んー、っと。悪夢は覚めたみたいだ。で、ここは現実か?それとも妄想か?
寝ぼけた頭でゆっくり考える。やばい、眠くなってきた。
重たい瞼を閉じ、眠ろうとしたとき私の左腕が優しく持ち上げられた。
見ると雅がタオルで私の肌を拭いている。
温かいお湯に濡らしてきたのだろう、ほんのり温かく湿った感覚が心地よい。
「・・・雅」
「なんです?ししょー?」
「左手拭き終わったら、手にキスして?」
「突然どうしたんですか?」
「いいから、キス、して?」
雅は諦めたようにため息を一つして私の左手を口の傍まで持ち上げ唇を乗せてくれた。
―・・・ちゅっ♡
可愛らしい音をたてながら唇を離す雅。
「右手も拭きますね」
「うん、お願い♡」
頷くとベッドを回って右側に移る。
右腕も同様に汗を拭き取りキスをした。
1回1回本格的に目を閉じ、すっとキスしているのが素敵だ。
タオルを変えて片膝をベッドに乗せる。反発性の良いこのベッドは雅の重みで少し傾く。
当然雅に顔が向く。
雅は愛おしそうな目で私を見ると左の頬に手を添え、タオルで額をとんとんと優しく叩き汗を拭いた。
雅は額を拭き終え、今度は耳の裏も拭こうとしている。でも、その前に。
「雅、おでこにも」
「おでこ、ですか?」
「うん、お願い♡」
「♡付けたらなんでもやるわけじゃないんですよ?」
「でも・・・やってくれるよね?み・や・び♡」
いやいや言っても、やはり雅は、私にキスをしてくれた。それがちょっと嬉しかった。