「し~しょ~お~!あっそびに来ましたよ~!」
―――……シーン。
「あれ? 来ない?」
いつもなら呼びかけた途端にバタバタと扉が開くんだけど…?
さては昨日、遅くまで起きてて起きられなくなってるのかな?んも~しょうがない人だなぁ。
こういう時は、ししょーから貰ってる合鍵を使って…っと。
玄関を上がり、リビングへ。
「ご飯は炊けてるけど、よそった後がないなぁ。やっぱりまだ起きてない?」
「にゃ~お。」
―――カツン、カツンッ。
そこには、リビングに取り付けられた猫用の出入り口の前でアルミ皿を叩く猫の姿があった。
「…? ビッケ、餌貰ってないの?」
「にゃお」
猫に人の言葉が分かるのか知らないが、言いたい事を理解したようにビッケは短く返事を返した。
僕は戸棚から『銀のフォーク』を取り出し、ビッケの待つアルミ皿へザラザラと流し込む。
ビッケは入れてる途中に我慢出来なかったようで、皿に頭を突っ込み餌を食べ始めた。
なんで待てないかなぁ…。
ビッケの頭に積もった餌を払ってやりながら、ふと思う。
猫に、いや動物に対して全く愛情を絶やさないあのししょーがビッケの餌も出さずに寝坊している。
……? はっ、ししょーに何かあった!?
僕は急いで立ち上がり、銀のフォークを戸棚にしまって2階にある、ししょーの寝室に向かう。
「にゃーお」
僕が部屋を出るときビッケはお礼というように鳴き声を上げた。 全く猫は呑気なものだ。
階段を駆け上がり、寝室の扉のノブに手を掛け、止まった。
ししょーとはいえ、ここは女子の部屋だ。男子である僕がノックも無しに入って良いものではなかろう。
僕は手を軽く握りノックをする。
―――コッ、……ん?
部屋の中から話し声が聞こえる。誰か居るのか?
よくない予感を感じ、扉に耳を当てる。
―――あっ♡…あっ♡…んっ♡…あっ♡
ししょーの色っぽい声が聞こえ、思わず扉から離れた。ししょー、エッチな事してる?
―――あっ♡…うんっ♡…まって、お願いっ♡…やめっ…ひぅっ♡
ししょーの甘い声エロいな……。
でもなんか様子がおかしいような?
―――だめっ♡…おねがっ…あぁあん♡…ひぅ、ひぅ…
……襲われてる!? だからか、今日のししょー様子おかしかったのは!
でも本当は彼氏とで、朝までやめないからああ言ってるのかも……?確かに僕とししょーは付き合ってはいないけど。もしかして、二人結構ラブラブ♡?
そこに場違いな僕が飛び込んでも……。
なんだろう、この感覚。なんか裏切られたって感じだ。僕とししょーは付き合ってないのに。
―――あっ♡…うんっ♡…あっ♡あっ♡あっ……♡
哀しくて、寂しいのに、ししょーの甘い声が感情の邪魔をする。
…見たい。ししょーのエロい顔、見てみたい。
僕はそっとノブを回し、扉を開けた。
や、ほらっ、ししょーがね、襲われて無いかだけね、見ようと、思うんだ。
部屋に入ると、むあっと湿気の多い甘くて熱い空気に包まれた。 ふぅ、二人の愛の結果か。
部屋には甘ったるい匂いとししょーの甘い声で満ちていた。
ベッドに目をやると掛け布団は二人分の盛り上がりが小刻みに動いている。
上で激しく腰振ってるのは…
「…あっ♡…はっ♡…腰が、腰が止まらないよぉ…♡」
…ししょーか。
男だったら思いっきり殴ってるとこだったのに。
僕は男の顔を見たくてゆっくりとベッドの横に移動した。
キモデブとかじゃあ、ねぇ?
「………?」
…うーん、ししょーの長い髪でよく見えないなぁ。でもこれ以上近付くと気付かれるし…。
「あぁぁ♡…またイッちゃうぅぅぅ♡♡」
ししょーは絶頂でその大きな乳房を揺らし、大きく仰け反った。
ししょーの髪が退き、やっと見えたししょーの相手は…!
「………!?」
そこに居たのは…僕、だった。
―――ボフッ。
ししょーは反りを戻しながら、抱き枕に倒れ込む。露わとなった乳白色の柔和な背中に思わずドキッとときめいてしまった。
ししょー、一人でヤってたの? あとこの抱き枕なに?半裸の僕が映ってるんだけど?ねぇ?
「ししょ、起きて下さい、もう朝ですよ。もしもーし?」
僕は動かないししょーの肩を揺する。ししょーの肌は手の平に吸い付くほどモチモチとしていて、火照った体はまるで風邪を引いた時のように熱かった。
「……? …ふみゅ?」
こっちに首を回したししょー。
目尻は下がり、元々大きかった黒目は涙で潤んでキラキラと輝いている。
「みや、び…?」
右肩を押さえていた僕の腕は柔らかく線の細い指に掴まれ逃げ場を失う。
そして、こちらに向くように寝返りをしたししょーの反対の手の指と僕の左手の指とが絡まる。
そこまでの動きがとても滑らかで接している部分から熱を貰うまで気付くことが出来なかった。
僕がどうするか考えあぐねていると、ししょーは目を開けた。
「…っ! あの、ししょー…?」
大きく開かれた目は指で指を互い違いに合わせる、いわゆる『恋人繋ぎ』と呼ばれるような状態の手を見つめた。
ししょーの指細いよぉ~、温かいよぉ~、柔らかいよぉ~。
「……えへへぇ~♡」
ししょーは目を細め、蕩けたようにニヤける。
え、エロい! いや、それは反則級だよ!離したくなくなっちゃうよ!
「あの、ししょー?離してくれませんか?」
「すぴー……」
寝てる!?この人まだ寝るの!?
僕はししょーの後ろの僕が印刷された抱き枕が目に入った。
「はあ、一晩中やってたみたいだし、寝させてあげるかな」
「ん~…むにゃむにゃ……ぺちゃっ、くちゅ…」
「!?!? ちょ、ちょっ、離して下さああい!」
繋いだ手ごと口まで運んだししょーは、パックリと僕の手の端を咥え、舐め始めた。思わず背筋にぞわっと寒気が走る。
ししょーの舌は、僕とししょーの指の間に順々に入り込み、いやらしく蠢いていく。入ってきた唾液は手の平を熱く濡らしお互いの密着を勧めてくる。
「やっ、Hな事しないでってっ、離して下さい!」
僕の必死の声は届かず、ししょーは舐めるのをやめない。
「ほんとにっ、やめっ」
その時、空いていたししょーの右手が僕の背中に回された。
しゅるしゅると服の中に這入ってくる腕。
背骨をなぞるその腕に背筋が凍りながら僕は
「もう起きろっ、ちかげっ!」
ししょーを呼び捨てに叫んでいた。
「はぃっ!!ごめんなさいっ!!」
ばっと僕の服から腕が抜かれ、舐めていた手から口を離すししょー。
そのまま僕から距離を取り、とても申し訳なさそうに僕を見つめる。
今にも泣きそうなししょーの瞳を見ているとちょっとばつが悪いな。
「はぁ、怒ってませんから大丈夫です。なんでこんな事になったんですか?」
脇に置かれている僕の写真がプリントされている抱き枕を横目に顛末を問いかける。
「あの、その、ごめんね。私、そんな、えっと、Hな事とか、しないように、頑張ってたの。でもね、我慢すればするほど、雅の事が、恋しくなって、胸が締め付けられる感じでね、限界だったの。雅とHしたくてしたくて、もう、襲っちゃうなって。だけど、そんなことしたら、雅、私の事嫌うかもしれないじゃん。私、嫌なの。折角勇気出して仲良くなったのに、ここまで仲良くやってこれたのに、全部無くなっちゃうのがさ。だからね、少しでも距離を縮めるの、出来れば付き合えるまで抑えようって思って、1人で誤魔化してたの。それで誤魔化してきたつもりだったの。でも、でもっ、ううん、いいの。もう、覚悟は決めたの。雅も、嫌でしょ?こんな、女。嫌いになっていいよ。もう、ここに来なくてもいいし…」
そこまで言うとししょーはぽろぽろと大粒の涙を流していた。
そんなししょーに僕は、僕はなんて声を掛ければ…。
「ししょー…、僕は、僕だって、ししょーのことが大好きです。好きで好きで仕方ないです。今だってししょーを押し倒して滅茶苦茶にしたいんです。
でも、それはまだ僕にはしてあげられません。だけど出来るだけししょーが寂しい思いをしないように配慮もします。好きだとか愛してるだとかいっぱい言います。だからどうか、僕と一緒に居て下さい」
こんな恥ずかしい気持ちは出来れば表に出したくは無かったけど仕方ない。だって僕はししょーが好きなのだから。
「……。……」
ししょーは涙も拭わずじっと見つめてきた。
え、なに、どうしたの?変だった?
「……ふふっ。雅、あの時と同じ事言ってる」
あの時…。ああ、出会った時の。
「僕のししょーに対する想いは変わりませんから」
「ん。私も。」
そう言うとししょーは両手を広げて見つめてくる。
何?あの時みたいに抱き締めるの?
―――こくり。
頷くししょー。来いって?行くよ!
僕はその柔らかな肉体に身体を預けるように飛び込んだ。