彼の性癖
―雅君がリビングのソファに座って何やら雑誌を開いてる。
ピンクがかった肌色っぽい色がチラチラ雅君との隙間から覗いている事、それらを見て雅君がニヤニヤしている事から、写真集だと想像出来た。それもグラビア写真集。
別に、浮気とか、雅君がしたいなら、幾らでも、やっても、良いのだけれど。・・・付き合って無いから良いのだけれども!浮気ですら無いのだけれど!(泣
ちょっと、寂しいものがあるじゃない?
私では欲求不満だったとか、興奮させれてなかっただとか・・・。
・・・はっ!私が写真集みたいなコになれば、雅君は私だけを見てくれるのでは!私で興奮してくれるのでは?!
雅君に見せて貰っ・・・待って、優しい雅君の事だから私が写真集のこと気にしてると、私に無理に性癖を合わせようとしてくるに違いない!絶対そうだ!それじゃダメだ。
雅君の好きな私になりたい。雅君が好きな私にはなりたくない。なに言ってるか分かんないだろうけど、お情けで好きになってもらったらそれはなんというか、ダメなのだ!
―そういうわけで、私は後ろからこっそり見ることにしました!
ススス、とキッチンから気付かれないように近付く。写真集は、反射で見えない。
更に近付く。雅君の腕と手が邪魔をして殆ど見えないが写真の中では両手を挙げてるようなものに見えなくもない。
もう少し近付いてみる。当然の事だが、近付けば近付く程、雅君の荒い息遣いがよく聞こえる。私は思わず写真集に嫉妬してしまう。この写真集、雅君のものじゃなかったら破いて棄ててるのに。あれ?雅君のものじゃなかったら嫉妬してなくない?・・・いいや!気にしない!
よく見える所まで近付くと雅君の息も最高潮のようで、耳元で聴いてるかのような位大きく聞こえる。そこで、遂に私は驚きに包まれた。覗き込んだ写真集に載っていたのは・・・―
「ちょっ、ししょー?見えないです。」
私の頭の上から聞こえる雅君の声。
何で見つかったのか不思議に思い声の聞こえる方を見上げると雅君がいた。
そう、私は雅君と写真集の間に頭を出して見ていたのだ。
「そんな事より、雅君!何この写真集!猫の写真集!?なんで!?」
「や、なんでって、猫可愛いじゃないですか」
優等生な雅君、私がテンパって飛ばしたなんでの意味を「なんで興奮してるのか?」とちゃんと理解して答えていた。以心伝心♪
「ししょーこそなんです?突然頭出してきて?今超テンション上がってたんですよ?」
「あ、それはごめんね?私が悪かった」
そうだよ、馬っ鹿じゃないの!?何でそんな体勢になってるのさ!!あり得ない、あり得ない。もう雅君に嫌われたぁぁ!!
「もう・・・。ていうか、ししょーは猫好きですか?」
「うん?猫?大好きだねぇ」
私が答えたときの雅君の嬉しそうな顔は、ゴーヤの事を訊かれた時と全く同じ顔だった。
・・・っよっしゃ!当たりルートだ!落ちた好感度が戻りかけてるぞ!
どう考えても、ここからは雅君の一人談議が始まるから、的確なリアクションを返しつつ、新しい知識を蓄え続ければ私と雅君の関係は元通りだ!
「ししょーも好きなんですか!よかったです!いやですね、僕も大好きなんですよ?猫。はい。猫って良いですよね。犬と違って、忠信心とかないから好感度維持しなきゃいけないし、それでいて可愛がるとちゃんと愛情を返してくれますし!何より色っぽいですよねぇ、雌猫のカラダ♡」
「うんうん、そうだよそうだよ・・・?雌猫のカラダ?」
ん?この話、なんか違和感あるぞ?
「です!あのしなやかな腰周り。すらっと伸びる四肢。凛々しくピンと立った耳。どれを取っても美しく、欲情を誘います!」
「待って待って待って。え?雅君、え?何?もしかして・・・ケモナー?」
「よくそう言われます。」
ケモナーかぁ!ケモナーってあれでしょ?猫耳とかケモミミ類の上位互換でしょ?もうケモノって呼ぶあれでしょ?
「やっぱり、気持ち悪い、ですか?」
「いや全然?私は良いよ?雅君が好きなものにどうこう言えるような程、人間出来てないし。私も猫、好きだし」
雅君は胸を撫で下ろし、にこやかに話し始める。
「ししょーがそう言ってくれて嬉しいです。もし拒否されたら、ししょーの元から消えて無くなろうかなと考えていた所でした。」
え!?私今そんな危ない橋渡ってたの!?あぶな!
「大丈夫だよ、雅君。雅君の事は私が頑張って守ってあげるから、好きなだけ好きにしていいよ!」
「・・・!!・・・ししょー!・・・・・・ちょっと、それは重いです」
あれ、私今結構良い感じのセリフ言った気がしたんだけど・・・。
「あ、雅君?」
「はい?なんでしょうか?」
「好きな人のもの守るのにそれを知らなかったらダメだと思うんだ。だから、ちょっと雅君の好きな事、教えて?」
「かしこまり!です!」
こうして雅君のウキウキ!?ケモナー講習!は幕を開けたのでした。
「こんにちは。ケモナーの雅です」
パチパチパチパチ!
テンションアゲアゲの雅君に合わせて拍手をする。すると、雅君は照れたように頭を掻きながら話を続けた。
「それでは、説明に入りましょう。まず、ケモナーとは何か? これはですね、ケモノが好きな人達を指す呼び方です。ここで注意して欲しいのは、それに対して、ケモミミ女子、ケモミミっ娘のような、人の体に動物の特徴があるタイプのものが好きな人達は単にケモミミ好き等と呼ばれます。ここで言うケモノとは代表的なものは『ログホラ』の『にゃん太班長』や、『ポケモン』の『ミミロップ』などですね。ここは特に間違え易いので、よく注意しておきましょう。」
「はーい!よく分かりました先生!」
「それではここで問題です」
「突然ですね、先生」
「一世を風靡した『けものフレンズ』に出てくるキャラクター達はケモノでしょうか?」
私のツッコミ無視ですか。そうですね。えっと、けもフレは耳とかはあるけど、毛皮とかは無いから・・・。
「・・・ケモノじゃない?」
「大正解です!けもフレはただの動物擬人アニメなんです!ですからイラストを公開するときなど、「お前らケモナーはこんなのが良いんだろ?」って軽い気持ちであげると、思わぬバッシングを受けることがあります」
「まあ、それは当然だよね。ケモノじゃない訳だし・・・」
「それでは次のお題に移りましょう!」
「いや、ちょっと待ってね?でもさ、雅君さっき猫の写真集で興奮してたでしょ?」
「え?ああ、そうですね、興奮してました。はい。」
雅君は恥ずかしいのか顔を赤らめ、頬をぽりぽりと掻いた。
「てことはだよ?ケモナーって猫で興奮するような人種っていうわけ?」
「あ!それは違いますよ?」
え?違うんだ。となると・・・、
「『ケモナーにも種類がある』って事かな?」
「そうです!流石ししょーです!僕の場合は猫好きから派生したケモナーなので、対象が猫に近ければ近い程興奮します。他には、単にケモノがタイプだからっていう人も居るらしいです」
ふむふむ、ケモナーって一口に言っても色々あるんだ。
「それでは、次のお題は、猫のなにが良くて興奮するのか、についてです!」
「あ!先生、それ凄く気になってました!」
「では、猫のエロいポイントをまとめたのでこちらをご覧下さい!」ドン!
―――
猫の性的に良いところ
・可愛い。
・基本裸。
・首輪を付けているのがエロい。
・こちらのテクにより、自ら性感帯を晒す。
なんか机の下からボードが出てきた!?え?何?そんなのあった!?
「はい、それでは説明していきましょう。まずは、"可愛い"ですね」
「それは私も納得です。猫は愛らしくて可愛いですよね!」
「はい、そうなんです。猫は可愛いのです。寝てる姿。歩いている姿。遊んでいる姿。道路に居る猫。屋根に居る猫。港に居る猫。木陰に居る猫。キャットタワーに居る猫。三毛、トラ、ブチ、白に黒、シャム猫からロシアンブルー、スコティッシュにアメショ!痩せてようとも太ってようとも、子猫から老猫まで!この世に居る猫は全て可愛いのです!その可愛いさは世界一。動物界の頂点に君臨する程可愛くて、薄汚くて似合わず着飾って勘違いして調子のって楽しんでる気になっている、気持ち悪い人間なんて比較するまでもなく、それどころか比較なんておこがましい程に猫は可愛いのです!」
はあはあと息を荒く主張し終えた。
やばい。主張の中になんかうっすら雅君の闇が見えた気がする。
「あ、えと、なんか、ごめんね?」
「なんでししょーが謝るんです?ししょーは綺麗で美しくですよ」
「う、うん。ありがとね、うん。つ、次行こっか?」
「あ、それもそうですね」
よかった。なんかやばい気がする。今後この展開は無いようにしないと。
「僕が思う猫のエロさの中で1番エロいと思っているのは、猫って"基本裸"じゃないですか?」
「・・・猫だしね!!」
何?なんとなく予想してたけど、ここまで雅君の頭が凄いことになっていたとは思って無かった。
「いや、考えても下さいよ?全裸ですよ?ZENRA。裸体って訳じゃないですか?エロいじゃないですか?」
「待って、話飛んだ。途中飛んだよ?」
「いや、どこも飛んでませんよ?」
「や、飛んだって!猫が全裸なのは当たり前じゃない!エロい訳じゃないよ!」
やはり、大変だ。雅君、猫に対してこんなエロい目で見てたの!?
「猫が裸なのは、極々自然な事じゃないの?」
「そこです!そうです、猫は裸なのが当然と認められているのです!でも、考えて見て下さい。ししょーは猫と話せますか?」
「いや、無理だね」
「ですよね?猫とは誰も話せないのです!つまり、猫が実は露出狂で周りに裸をわざと見せているという可能性があるわけです!」
「ないよ!」バンッ!
思わず私は机を叩き立ち上がる。
「なんで言い切れるんですか!」ダンッ!
雅君も同じく立ち上がった。
「誰も猫と正確に話した事が無いのに、なんであり得ないと言い切れるんですか!言い切れる証拠があるんですか!?」
・・・うぐっ。なんでか正論じゃない気がするのに上手く反論できない。悔しい。
「ひゃ、百歩譲って猫が全裸なのがわざとだとして、なんで、雅君が興奮してるのさ!」
「・・・それは・・・、・・・大好きなら普通に・・・エッチしたいなぁって思うじゃないですか・・・?」
雅君はさっきまでの勢いはどこへやら、モジモジ恥ずかしそうに答えた。
「あ・・・う、うん・・・私も・・・そう、だね・・・。」
かく言う私もこの手の発言は目の前に大好きな人がいるため恥ずかしく、顔が非常に熱く感じる。いっつも雅君でエッチな想像してるし・・・。
「つ、次行きましょ!次!」
「そ、そだね!次は!」
「はい!次に思う点は"首輪をしている"のです!」
「猫だしね!?」
このツッコミ2度目だね!?
雅君は何を言っているのか?ちょっと今の私にはレベルが高そうだ。
「首輪、エロアイテムじゃないですか?」
「まずその認識改めようか!?」
なんていう、想定の仕方!首輪ってそこまでエロいものじゃないでしょ?
「いや、ししょー?考えても見て下さい?――自分のメスに首輪付けてペットのように扱う――なんて、完全にエロ案件じゃないですか!」
「言い方!ペットだし!ペットの証だし!」
ちょっとだけ、エロいなって思った私が恥ずかしいよ!
「雅君、落ち着いて!そこまでエロくないよ!」
「―――全身を駆け巡る快感に身体をよじって耐えながらも俺のテクに身体が逆らえず、どんどん気持ちが良くなっていく。いつもは誰にも見せない絶対防衛ラインを押っ広げ、俺の手に蹂躙されることを受け入れざるを得ない。気が付けば、なぜ自分が快感を与え続けくれる手を拒否しようとしていたのか分からない程に興奮し、反応するごとに首輪に付いている鈴の音がうるさくなり続け、更なる快感を鳴き求め乱れ続けた。」
「言い方!それただ普通にお腹撫でてるだけだよね!?」
なんで、なんでエロい気持ちにさせる言い方をする!
「ししょーもエロい気分になりました?」
「なったよ!悪かったね!」
「ですよね!やっぱり、猫は良いですよ!背中とお腹の毛の硬さが違うんですよ!」
「でも、お腹って猫って完全に懐かせないと触らせてくれないじゃん!」
「だからこそですよ!いつもは触らせてもくれないのに、気持ち良くさせてくれる人だけには弱点を晒す。そのレア度が良いんです!」
分かる。分かるんだけど、ここで認めたら負けな気がする。
でも、雅君と同じ性癖持っても見たいし・・・。うーん・・・。
「あ!もう帰る時間だ!」
時計を見ると、針は5時を指そうとしていた。
「それじゃ!ししょー、また明日!」
「うん・・・。また明日」
颯爽と支度を終えた雅君は私を見ると、おでこにキスした。
「元気出して下さい。また明日逢いましょう!」
私は顔を真っ赤にして、雅君が出て行くのをなにも出来ずに見送った。
机の上には雅君の猫の写真集が置いてあった。
特になにも考えず、全くの無意識にそれを開く。
仰向けになっている猫の写真が見開きで現れる。
さっき雅君が言っていた話を思い出す。
全裸でエロポーズ。ペットのように首輪を付けられる。曝け出した性感帯。それら全てが脳みそを周り、一つの結論にたどり着く。
「私には、理解できそうにないよおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
私はそれでも、雅君を愛し、雅君の好きなものを守り、大切にしていきたい。