雅と師匠はなんやかんやでデートすることになりました。ハチャメチャな午前を過ごし、お昼を済ませた後のお話です。
※本編でもここまで進む予定はないよ!
師匠とゲーセン!
「やって来ました!らウんドわン!おおいえぇぇ!!」
「ししょー落ち着いて下さい。気持ちは分からんでもないですが、店員さんこっち見てます。あ、すみません、はい。よく言っておきますんで」
店員に謝り、振り返るともうすでにししょーの姿は無かった。
「へ!?ししょー!?」
騒がしい店内。僕はカウンター周辺を探した。2階へ続くエスカレーターと、ベンチ。あと自販機位しかないホールでなんで消えてしまうのか…。まさか、僕を置いてもう中に!?
僕は急いでゲーセンの入り口に近付いた。
「…ひゃん!」
自動ドアが反応する手前で急に、首筋に凍てつくような寒気が襲う。
「雅ったら私を置いていくなんて酷いよ?」
振り返るとさっきまで居なかったあのししょーがお茶が入ったペットボトルを持って立っていた。
「いや、ししょーが居なくなって焦ってたんですよ!」
「私はただ雅にお茶を買ってきただけだよ?」
怒ったように頬を膨らませながら自分のしたことを説明する。しかし…
「ししょーそこの自販機に居なかったじゃないですか!」
ずびしっ!と僕はベンチの横にある自販機を指差す。そうなのだ。さっきまでこのホールには僕と変なのが来たと言いたげな店員さんしかいなかったのだ。なんd――
「だって、そこの自販機○鷹しか無いんだもん。私はオーイ、お茶を飲みたいの」
「そのためにわざわざ店の外に出たんですか!?」
コクコクと頷くししょー。や、コクコクじゃないよ。なに?そのこだわり。
「というわけでほれほれ」
「や、ちょ、キャップ部分で胸をグリグリしないで下さい!」
痛いくすぐったいいたい恥ずかしいいたい!ほら、皆見てますし!店員さんに関してはこいつら死なねぇかな、って顔してるから!店員さん、激しく同意します!もういっそ殺せぇぇ!
「ええい、もう良いですよね!…あ、えと、奢って頂きありがとうございます」
グリグリしてくるペットボトルをししょーからむしり取り、とりあえず感謝を伝える。奢られたら感謝の気持ち大事。大事。
それにしても、ししょーに選ばれたのは綾○ではなくオーイ、お茶でした。ちなみに僕は○右衛門です。あ、いや、わざわざ師匠が買ってきてくれたんだから貰うけどね?
ししょーから受け取ったお茶を夏の暑さでカラカラになっていた喉に衝動的に流し込む。
さすがししょーである。少々暴走気味だが、水分補給のタイミングがいい。多分1番お茶が美味しく感じられる瞬間を分かっているのだ。
「雅って水分美味しそうに飲むから水分渡すの好きなんだぁ♪」
続けてグビグビとお茶を飲む僕にしみじみと言葉をかけるししょー。
「…それって褒めてます?」
「え!?今の褒めてるって捉えないの!?」
なんか昔から言われてるから馬鹿にしているのかと…。
「うーん、雅の闇はまだまだ深いんだなぁ。まあ、それは今は良いかな。さあ、水分補給も済んだし、行こっか?」
「ですね、行きましょう!」
店員さんもイライラし始めてますし!
「じゃあ、レッツらゴー!」
僕の手を取ったししょーは、僕の手を引き自動ドアへ突き進んだ。
これから僕とししょーに待ち受けるものは!
―――ゴガアァアァアァン!!
僕の目の前には開く前に自動ドアに盛大に突っ込んでしまい、おでこを押さえながら屈むししょーの姿があった。
「…なんで!?」
涙目で訴えるししょー。あらなにこの子可愛い。
「あ、この自動ドアボタン式ですよ?」
僕はドアのボタンを押すとウィーンと何事も無かったようにドアは開く。
「ねぇ!前々から思ってたけど手動で開ける自動ドアって自動じゃないよね!?」
「僕に文句言わないで下さい!ほら早く行きましょう?店員さんが限界っぽい顔です!」
ししょーは僕に手を引かれて僕としぶしぶゲーセン内に入ったのでした。
「ほえぇぇ…。音でっかいねぇ…。あ、雅、声聞こえる?」
キョロキョロと周りを見回すししょー。不安そうにこっちを見てくるので、僕は少し可笑しくなって吹き出してしまった。
「大丈夫です。聞こえますよ。ししょー初めてです?」
本来僕もししょーも家ゲー専門の為こういうところに来る事が珍しいのである。
正確に言えば、来たいという思いはあった。あったのだが、友達の居ない僕にはししょー位しか一緒にゲーセンに来るような仲の良い人が居ないのだ。
今回来たのもそんな好奇心であるところが大きい。
そもそも、ゲーセン自体実際、初見殺しな部分が強いと思う。じゃんじゃん流れる爆音。重みのある威圧的なメダル音。遊び方が書いてない筐体。
全てが金の上に成り立つこの空間は人間の欲と野望が混ざり合い、対人恐怖症の僕としては、うっ、ちょっとお腹が…。
「ねぇ…雅…なんか申し訳ないんだけど…帰りたい気持ちが、あるのです…」
「僕も激しく同意です。あと、ししょーが敬語になると読者の方々が混乱するので、普通に話して下さい」
「ん…分かっ、た…」
どこの名無しの片割れでしょうか?
まあ、僕もそんな感じだし気にしませんが。
「し、ししょー、折角来たので、少し頑張ってからにしましょう…」
「…おっ…け…」
それにしても格ゲーの島の圧迫感は果てしないのでは?なんなんですか、あの初見さんお断り感。売り上げさがりますよ~。
「そうだ、クレーンゲームの方に行きましょう。そっちならまだ良いかもしれません」
「………」
「立っているのがきついのは痛いほど分かりますが無言辞めてもらえます?!」
「…めん、ご…」
なにそれ可愛い!
僕は思わず縮こまっていたししょーを抱き締めてしまいました…が、何かドス黒いものを背中に感じすぐに離れました。な、なんなのでしょう?
僕はパッと周囲を見ますが、皆さん真面目にゲームにのめり込んでらっしゃいます。なんだったのでしょう?
不思議に思っていると、くいくいっと僕の袖が引かれました。後ろを見れば、とてもおどおどしながら服を摘まんで、掴んでいました。
「…いこ、クレーン…ゲーム…」
「そうですね。行きましょうか」
僕らはその場から逃げ出すように移動をしました。
クレーンゲームの島では、様々な景品が置かれています。クレーンゲームコーナーはさっきの格ゲーとかとは違って若い女子の割合が高いですね。
確かに可愛いキャラとか置いてますもんね…。
「あ!ししょー、あれなんでしょうグルグルしてますよ!あっちにはボールとかもありますし、なんだこれ!板チョコがタワーになってる!?」
ゲーセンのクレーンゲームはゲームショップに置いてあるそれとは全然違ってエンタメ性が高いんですねぇ。ほうほう。
「あああ!!雅来て!!」
ししょーは先程までのテンションが考えられない程激しく手を振りほどき走り出しました。
手に残るししょーの温もりやら柔らかさやらがぶった切られた事で僕の意識を虜にします。
ししょー、一応女だから、ね。手とか柔らかいから。さっきまでぎゅっと握ってたから。羨ましいだろ。ふへへへ。
いや、それよりししょー追いかけないと!ししょー…はどこに行ったのでしょう。
「ししょー?なにをしているんですか?」
思いのほかししょーは早く見つかりました。
ししょーはクレーンゲームのボタンとかがある飛び出している部分に手をかけ筐体を間近で見つめていました。
景品を見ると、艦これの睦月改ニのフィギュアです。
僕もししょーと同じで睦月艦提督なのでこの景品は欲しいです。ですが…。
「なにって、パンツ見ようとしてるんだよ!」
「いや、なにしてるんですか!?」
一切こちらを向かずに全力で顔をガラスにくっつけるししょー。
いやパンツって…。見たいですけど…。あの…。
「くっ、光の反射で見えん!雅!電気消して!
「無茶言わないで下さい!」
そんな権限持ってません。それより、あの…。
「くぅぅ…、見えないぃぃ…」
「あの…、提案あるんですが…」
「何!?良いアイディア浮かんだの!?」
ししょーは素早く起き上がると僕の肩を掴み、ガクガク前後に僕を振り回しました。
「おら!教えろ!早く!」ガックガック!
「ちょっ、振るの、やめっ!」
僕がやめてと言うとししょーはすぐ動きを止めてくれました。
やめてって言うなり、すっとやめてくれるししょー素敵♡出来れば振るのも辞めて欲しいな♪
「あの、その、睦月、取れば良くないですか?」
ぐちゃぐちゃに混ぜられた脳味噌を直しながら提案します。
「…!? 雅、天才か!!」
いや、これは普通の考えでは?
ししょーはバックから財布を取り出し中身を出そうとしました。
「…?………!」
驚いた顔をしたままフリーズしてしまったししょー。
え?なにがあった?
「ね、ねぇ、みやびぃ…、これ、」
「はい?…!?…そ、それは!」
ししょーが財布から取り出したのは…
「いや、なんで1万円札なんですか!?硬貨は!?」
ぽろぽろと涙を出し始めたししょー。
「…さっき、…使っちゃった」
あちゃーー!
ここで裏目に出るとは!この世なにがあるか分かんないものだね!
「はぁぁ…。ししょー、はい。これどうぞ」
僕は財布から取り出した500円をししょーの財布に入れる。
「へ!?両替してくれるの!?じゃあ、はい!1万円!」
「馬鹿ですか、ししょー?」
「あぅ、雅に怒られた。うへへ…。」
ダメだこの子早くどうにかしなきゃ!
「いや、さっきのお茶のお礼です。それでどうか睦月取って下さい。出来れば僕の分も…」
ししょーは財布に入れられた500円玉を取り出し見つめ、僕に向き直った。
「雅、ありがとうございます。私頑張ります」
ぺこりとお辞儀と共に言われた言葉に、思わずドキッとしてしまった。普段軽い会話をしているだけに、この手の攻められ方は耐性が無い。
僕は出来るだけ平常の心に戻し、
「はい、ししょー、頑張って下さい」
と応援してあげたのだった。
「「はあぁ……。なにしてるんだろ…」」
店から出て来るなりかぶる二人の発言。原因は大体想像出来ることだろう。
そう、クレーンゲームで爆死したのである。
アームの力が非常に弱かったのが主な要因だろう。
開始6回で1箱目はゲットできた。問題はそこからだった。ししょーは僕の分を取りたいと品出し兼両替に一度受け付けへ。
準備が整い2度目の挑戦。硬貨を7枚消費し、ししょーの集中力も擦り切れて来た辺りで僕と交代。3回とも片側は持ち上がるのだが、引っかからない。
体力の戻ったししょーと再び交代。硬貨を使うこと37枚。景品が倒れ、一度店員さんを呼ぶ。その時ししょーがアーム力が落ちていることを口八丁手八丁で伝え、調整して貰うことに成功。その後、追加で硬貨11枚使った頃、僕がまだまだお金を入れようとするししょーを引き止め、ゲーセンから退出したのだった。
「ごめんね。雅。ぱぱって取れなくて…」
「や、ししょークレーンゲーム初見ですし、むしろよくあそこまでよく出来ていたと思いますよ!」
「で、でも…」
「大丈夫です。フィギュアはししょーの家で2人で見ましょう。それと、ししょーと一緒に入れて楽しかったのでよかったんじゃないですか?」
「ほんと!?そうだね!あー!わー!ほんっとなにしてたんだろうな~私」
大きく仰け反るように伸びをする事で強調された大きな胸から目を逸らしながら、微笑みかけます。
「また、デートしましょうね。出来れば、お金がかからない場所に」
「うんうん、そーだねー………え!?またデートしてくれるの!?」
「なんで驚くんですか、しましょうよ」
僕がそう言うとししょーは僕を抱き締めました。
「うん!しよ!いっぱいしよ!地の果てまででもデートしよ!」
「そこは別に普通で良いですよ」
地の果てにデートとか、想像出来ない。
「とにかくっ!約束だよ?指切りだよ!」
「はーい。指切りげーんまん…―。
この日だけは、何故だかゲーセン後の無気力感が襲ってくることは無かった。