※この作品はR-18です。

感度3000倍の世界で非モテは吠える   作:Re鯖

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はい、どの面下げて帰ってきたんだって話ですねすみません。打ち切りエンドみたいなタイトルですがまだ進みます。暇な時にでも読んでくださると幸いです。


第11話 それでも物語は進む

 

 我々は何故これを生み出せてしまったのだ。

 既に施設は研究所としての機能を失っており、私の同僚も皆死んだ。私も数分後には死ぬだろう。

 あれは一体何なのだ?

 何を以てあそこまでの力を得てしまったのだ?

 もしこれを読んでいるものがいるならば、これだけは知ってくれ。

 

 アレを外に出してはならない。

 

『対魔粒子を利用した魔族の生成実験報告書のメモ』より

 

―――――――――――――――

 

「……この情報は本当なの?」

「必ず、とは言えないけれど、9割方間違いないわ」

 

 五車学園の校長室にて、2人の女性が机を挟んで向かい合っていた。

1人は、五車学園の校長を務めるために最前線を退いても尚、対魔忍の中でも最強クラスの呼び声が高い井河アサギ。もう1人は、現役を殆ど退いているものの、アサギに並ぶ実力者とされる水城不知火。それぞれの表情は暗く、それに引きずられるかのように室内の雰囲気も重苦しいものになっていた。

 机の上には書類の束が置かれており、表題には『対魔粒子を利用した魔族の生成実験』と書かれていた。

 そしてその次の紙には『被験者K-16』という名前とともに、幼い頃の京士郎の写真が載っていた。

 

 対魔忍達は、何の原因も無く異能力や異常な身体能力を獲得しているわけではない。彼女達は体内に対魔粒子という物質を内包しており、これによって異能を獲得しているのだ。

 しかし、この物質も無条件で圧倒的な力を獲得できるわけではなく、むしろその根源は魔族のものなのではないかと推察されており、あまりにも異能を酷使すると暴走し、術者を魔族にしてしまうという欠点も存在する。

 その紙に書かれていた実験の内容は、対魔粒子を持つ者の中にある対魔粒子を意図的に暴走させ、魔族化する際にある特定の指向性を持たせて暴走させることにより、通常の魔族よりもより優れた存在に出来るのではないかというものだった。

 その実験における唯一の成功例。それが、水城京士郎という存在だった。

 実験の内容は、おおよそ対魔忍ならば考えたくもないようなおぞましいものだった。体内に存在する粒子を暴走させる。それに苦痛が伴わないはずもなく、この実験を受けた多くの者の死因が痛みによるショック死だった。拷問などにも耐えられるように訓練を受けたはずの対魔忍達がだ。

 そして、そんな人道を外れた実験を行う者達を支援している者のリストの中には、

 

「まさか、政界にもいるとはね……」

 

 日本の政界に身を置いていた者も居た。名は矢崎宗一。元与党の民新党の幹事長を務めていた者だが、選挙の大敗により野党に退いた際に捜査当局から逃れるために亡命したという。そんな男が何故この実験を与党にいた頃から支援していたのか。

 

「大方、支配者が変わった時に甘い蜜を吸いたかったのでしょうね」

 

 それは、この実験の真の目的にあった。

 この実験の本当の目的。それは、この実験によって生み出された強力な魔族によって編成された兵隊を作り上げることだった。確かに、もし実験が上手くいき、京士郎クラスの実力を持った者しかいない軍隊を作ることが出来たのならば、世界すらもその手に収めることが出来るだろう。

 だが、実験は思うようにいかず、この書類が発見された施設の機器の殆どが何かで貫かれたかのような跡を残して破壊しつくされていたという。調査した対魔忍の報告からも、実験は失敗したのだろう。何処かで実験を再開しているという可能性も存在するのだが。

 問題はそれだけではない。

 

「現状、私個人で信用できる者と調査できたのはここまでね、組織全体を動かせれば良いんだけど……」

「いいえ、十分よ」

 

 そう、対魔忍という組織の中にも、この計画に肩入れしている存在はいるはずなのだ。何しろ、不知火やアサギが「京士郎が生きている」とわかった時には京士郎はあまりにも酷すぎる方法で五車の里の地下で縛り付けられていたのだ。そちらに関しては不知火を都合よく動かすための道具として誰かがやったもののはずなのだが、そちらは未だに分からないでいた。

 

「それじゃあ、私はこれで」

 

 不知火はアサギに背を向けて歩き出した。普段の彼女ならば愛想笑いの1つでも浮かべるところなのだが、その表情は依然として真剣なままだった。

 

「待って」

「……何かしら?」

 

 そんな不知火を、アサギが呼び止めた。不知火のその背中に、その表情に、ある種の既視感を感じた彼女は、呼び止めずにはいられなかったのだ。

 

「復讐とか、報復とか、そんな馬鹿な事だけは絶対にやめなさい……そんな事をするくらいなら、京士郎くんを支えてあげて」

「っ……ええ」

 

 かつて想い人を失った者のその言葉は、不知火の心に深く突き刺さった。

 

―――――――――――――――

 

「…………」

 

 エドウィン・ブラックの支配下にある巨大地下都市。ヨミハラ。地下にあるとはとてもではないが思えない町並みの中、ちょうど街を見下ろすことができる建物の屋上に、京士郎は立っていた。その表情は相も変わらずの無表情であり、内心で何を考えているのかは本人以外の誰にもわからない。

 

「やぁ、待たせてしまったようだな」

 

 すると、背後に突如として京士郎より一回り大きい男性が現れた。上機嫌な笑みをその顔に浮かべる彼の名はエドウィン・ブラック。この街の支配者だ。

 突然現れたエドウィンに対しても、京士郎は特に驚くような様子も見せずエドウィンの方を向く。

 

「腕の経過はどうかな……いや、愚問だったか」

「…………」

 

 最後にエドウィンと会ったのはあのアリーナでの出来事が最後だ。実に3年もの時がたっており、そもそも両者の対面などそれが最初で最後であったにもかかわらず、両者の間に気兼ねと呼べるものは存在しない。

 京士郎の右腕は操られた凜子によって断ち切られ、そのままだった。斬り飛ばされた腕は発見された頃にはすでに再びつなげることは不可能となっていた。

 だが、そのことを京士郎が気にしているような様子もない。元からその顔には何の感情も浮かんでいないため、何かを気にしていたとしてもわかるはずがないのだが、それでもブラックには確信に近いなにかがあった。数年前から背格好も大きく成長し、体つきや佇まいだけを見ても京士郎がどれだけ成長したのかはブラックにも用意に伺える。

 だが、こと眼の前の水城京士郎という人物に対して言うならば、そのような外見の変化など些細なものである。

 

「…………何の用だ」

 

 先程まで無言を貫いていた京士郎が初めて言葉を紡ぎ出し、その黒い瞳を赤く染め、左腕全体から赤黒い杭を発生させる。並の者ならば本能でそれが如何に強大なものであるかを否が応でも理解し、その場で死を覚悟するのだろうが、ブラックはその限りではない。むしろその顔に浮かべた笑みをより一層深め、ある種の美しさすら感じさせるその様を見つめる。

 

「素晴らしい。3年でここまでのものになるとは」

「…………?」

 

 京士郎がやや疑問を孕んだ眼差しでエドウィンを見つめる。つい先日オークを引き連れて五車学園の生徒たちを襲撃させたのはお前の引き金ではないのか。言外にそう尋ねる京士郎に対し、エドウィンは再び言葉を紡ぎ出す。

 届かぬとばかり思っていたが、今の彼ならばもしや。

 そんな甘い誘惑に流されるまま。

 

「ああ、先日の件は私の部下によるものだ。何しろ名も知れない有象無象によって作られたものだからな。まさか君の腕一本を取るなどとは思わなかったよ」

「……そうか」

 

 言質が取れたからだろうか、京士郎は杭を生やした左腕をエドウィンへ向けた。その行動に反し、その赤く輝く瞳には敵意と呼べるものは存在しない。ただ、己の周囲を害するものを排除する。そんな機械的な意思だけがそこにはあった。

 

「ここで事を構えるかね? 今の君では、まだ私の命には届かないと思うが?」

「……知るか」

 

 そう告げると同時に、左腕から数十発の杭が射出される。

 

「フッ」

 

 だが、それらの杭はエドウィンがまるで小蝿を払いのけるかのように手を振るだけで失速し、その場に落ち、少しした後に蒸発するかのように消えてしまった。

 京士郎は再びその顔にわずかながらの疑問と驚きの表情を浮かべながら、確認するかのように再び数十発の杭を射出する。今度は先程よりも威力を上げ、それに加えて杭の形状そのものもより鋭利にしたものだ。

 だが、結果は変わらなかった。先程よりも少しはエドウィンに近づいたが、それでも届かなければ同じことだ。

 今度はそれだけでは終わらず、京士郎自らも、体中から杭を生やしてエドウィンへむかって飛びかかった。

 

「っ!?」

「無駄だと言ったはずだが?」

 

 だが、京士郎の足が地面から離れるのとほぼ同時に京士郎の体が押さえつけられるようにして地面に叩きつけられた。京士郎は初めてその顔にほんの少しではあるが苦痛の表情を浮かべた後に、ゆっくりとした動作で以て立ち上がった。立ち上がる頃には苦痛の表情は消え失せており、いつも通りの無表情でエドウィンの事を見据えていた。そしてそんな様子の京士郎を見て、エドウィンは不敵に微笑んだ。

 

「通常の数十倍の重力も不意を突かなければ効果なし、か」

「…………」

 

 まるで新しい玩具を試しているかのような様子のエドウィンに対して、京士郎の様子は変わることはなく、その無表情の裏で何を考えているのかは彼と対面しているエドウィンにもわからない。

 エドウィンの力、重力を思いのままに操る力はとてつもないものだ。重力の大きさ、向き、存在の有無。おおよそ重力という概念において、まだまだ発展途上の現段階ですらエドウィンに操作できないものは存在しない。現在、京士郎の周囲の重力は通常の数十倍となっており、常人ならば立つことはおろか、数分と経たずに死に絶えるであろう環境だ。

 対する京士郎は左腕をだらりと下げ、姿勢を低くし、一見すれば脱力をしているようにも見える、この環境においてはむしろより一層負荷がかかっている体制でありながら、重力による負荷を受けているような様子は一切見られない。

 

「……っ!」

 

 京士郎が駆け出した。エドウィンの能力が本当に発動しているのかと疑いたくなってしまう速度で以てエドウィンとの間合いを詰めた。

 

「フンッ!」

「っ!」

「何?」

 

 先ほどと同じように京士郎に向けて進行方向とは反対方向への重力が叩きつけられ、京士郎はそちらの方向へと吹き飛ばされかけるが、事前に地面に突き刺しておいた杭を足場にすることによって跳び、重力操作の影響から逃れると同時に大量に杭を生やした左手で以てエドウィンへと襲いかかった。

 

「フンッ!」

「んっ……」

 

 だが、エドウィンとてその程度のことにも対応できないような人物ではない。京士郎に向けて先ほどと同じ向きでの重力場を叩きつけると同時に自分自身にはそれと逆方向への重力を与え、京士郎と距離を取った。

 

「フフフ……まさかここまでとはな」

「…………」

 

 エドウィンは喜びの色をより強くにじませた笑みを浮かべ、京士郎は再びエドウィンへ向けて駆ける。

 

「だが、あの夜を使わずにこの私に立ち向かえると思うな」

「っぐ……!?」

 

 次の瞬間、京士郎に今のエドウィンが使役できる最大出力の重力が叩きつけられ、再び京士郎の体が地面に縫い付けられる。今度は立ち上がろうとしてもなかなか起き上がることができない。

 

「ようやっと言葉を交わせそうだな」

「っがぁ……!?」

 

 身動きが取れない京士郎に歩み寄ったエドウィンはどこからともなく取り出した剣で以て京士郎の左腕を地面に縫い止めた。京士郎の口から初めて苦悶の声が上がるが、苦痛に悶えることは許されない。

 

「何をそこまで焦る。以前の君は、ここまで生き急いではいなかったが?」

「……黙れ」

 

 エドウィンからの問いかけに対し、京士郎は解となる答えを持ち合わせていない。それもそのはずだ。京士郎にとって「大切なものを守りたい」という渇望は他の何を捨ててでも叶えたいと願うものなのだ。周りに守るべきものは居ない。そして目の前にいるこいつを消せば自分の身の回りに降りかかる危害が減る。ならば京士郎には目の前のエドウィンを殺すという選択肢以外は何一つとして存在しない。

 それは彼(・)も、京(・)士(・)郎(・)自(・)身(・)ですらも変わることはなく。

 

「そう寂しいことを言うな。私の命に届きうる、そのような存在を、みすみす失うのは惜しいのだ」

 

 その大切なものに、自分自身は欠片もない。

 守りたい。そんな優しい願いのはずの渇望が暴走していく

 お前は俺の大切なものを傷つける。そんな塵屑を生かしておくなど許しはしない。

 

 許さない。許さない。許さない許さない許さない許さない。

 

 

「……黙れよ」

 

 

 許さない。

 

 

 もはや狂気と呼んでも過言ではないそんな意志に従い、あのときと同じように、己自身を枯らし、死森の薔薇が咲き誇る。

 

「Es ist was kommen und ist was g'schehn,(何かが訪れ 何かが起こった)Ist mocht Sie fragen(私はあなたに問いを投げたい)」

 

 だが、それでもなおそれはまだ不完全なのだ。何故なら京士郎には何もないのだから。忠義を尽くすべき黄金の輝きも、唯一無二だった陽光の暖かさも、全ての根源である狂気の愛でさえも知りはしない。

 

「Darf's denm sein?(本当にこれでよいのか)Ich mocht' sie fragen: warum zittert was in mir?(私は何か過ちを犯していないか)」

 

 何故こうなるのだ。一体どうすれば良かったんだ。そもそも俺は何がしたいんだ。一寸先どころか自分ですら見えない暗闇の中でも、ただ一つだけわかることがある。

 

「die Fräulein mag Ihn nicht.(己よ枯れろ。薔薇よ咲き誇れ)」

 

 守りたい。その渇望だけが彼の、京士郎自身の最後の縁である。

 

―――――Briah(創造)――――――

 

「Rosenkavalier Schwarzwald(死森の薔薇騎士)ォオオオオオ!!!!」

 

 地下都市に存在しないはずの月が浮かび、まるで血を吸い赤く染まる花の如く、月もまた赤く染まる。黒く染まった眼球と赤い瞳はそんな赤い月を彷彿とさせ、先程までの京士郎からは考えられない凶暴な獣のような目つきで滅ぼすべき敵を見据える。

 気がつけば重力と剣によって拘束されていた京士郎は消え失せ、その場より2mほど離れた場所に正しく獣のように姿勢を低く保ち、今にもエドウィンに襲いかからんとする京士郎の姿があった。

 

「素晴らしい」

 

 その顔に浮かべる笑みを浮かべる笑みをより獰猛なものにし、エドウィンが剣を引き抜く。エドウィンの体が3年前のそれとは比較にならない脱力感に包まれる。確かに命を奪われている。エドウィンの命を己の血肉にせんと薔薇の夜がエドウィンに牙を向く。それはエドウィンにとって代えがたい快感でもある。

 四方八方から数百発はくだらない赤黒い杭が現出し、それらが腕の立つ者ですら視認できるものはごく少数であろう速度で以てエドウィンへ襲いかかる。

 

「我はぁ……無敵なりぃ!!」

 

 だが、エドウィンはまるで宣誓の如く高らかに吠えると同時に剣を大きく振るう。その剣の軌道に従うかのように、青い炎が乱れ狂い、杭を全て焼き尽くす。。完全燃焼による青い炎などではない。生きているかの如く乱れ狂う業火と完全燃焼が両立するはずもない。

 それは魔界の炎。人間界の法則ではなく魔界の法則によって燃え盛る炎。

 確かに薔薇の夜を発動させることによってより完全な吸血鬼と化した京士郎には吸血鬼として完全すぎるがゆえに、十字架や炎などといった吸血鬼特有の弱点を内包してしまっている。だが、いくら弱点とは言え、通常の炎などでは京士郎を焼き尽くすことなど夢のまた夢。そもそもの格が違うのだ。

 だが、全く別の世界の法則、そしてエドウィン自身の力がその格の差を埋め、薔薇の夜を焼き尽くさんと燃え上がる。

 

「おおおおおおおおぁ!!!!」

「フハハハハハハハハ!!!!」

 

 京士郎は重力場の影響など歯牙にもかけず、エドウィンもまたそんなものを欠片もあてにせず、両者の間合いは一瞬で0となり、剣と杭がぶつかりあう。

 何事もなく終わるはずだったその日、図らずも両者はぶつかり合う事となった。




一応追加の詠唱の元ネタも『ばらの騎士』だったりします。一見最終局面ですが割と中盤です。
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