いやぁ、三周年記念イベントは強敵でしたね。
ここは、地下帝国ヨミハラ。昼夜の概念が存在せず、常に暗闇に包まれ、いっそ毒々しいまでに光り輝く照明が明かりとなっている地下深くに構成された地下都市。吸血鬼の真祖が長を務める企業ノマドによって支配された無法地帯だ。
そんなノマドの深部に存在する闇の宮殿に、彼はいた。
銀色の髪を持ち、誰が見ても美丈夫と言えるであろう大柄の男性。豪奢なスーツを身に纏った彼は、いかにもといった感じの豪華な装飾に彩られた個室にて、ある人物を待っていた。
その男が退屈そうに虚空を見つめて何かを待っているその最中、彼が腰掛けている玉座の隣に突如暗い瘴気のようなものが発生し、そこからピンク色のロングヘアとグラマーな肢体が特徴の美女、イングリッドがスーツ姿で現れた。
「ブラック様、Kの所在が判明しました。やはり、五車の里に隠されていたようです」
「ふむ、ご苦労……そうか。やはり、囚われていた、という表現が正しいのかな?」
「はい、対魔忍の上層部にあれを制御しきれる輩はいないかと」
ブラックと呼ばれたその男性、このヨミハラを統べる王と言っても過言ではない存在、エドウィン・ブラックは、イングリッドの身も蓋もない言い方にほんの少しではあるが笑みを浮かべた。それは、まるでKと呼ばれた何かの持つ力を喜んでいるようだった。
「なら、一度は招待しなければ礼儀に欠けるというものだな」
「……お言葉ですが、あれは元々反乱分子によるものです。無駄な面会はリスクが高いと思われます」
エドウィンがその顔に浮かべた楽しそうな笑みを引っ込めることも無いまま興が乗ったとでも言いたげにそんなことを言うと、イングリッドは若干表情をこわばらせて指摘した。
「別にそのまま事を構えるつもりなど無いさ。私は彼が縛り付けられていた姿しか知らないのでね」
「……では、準備をします」
「頼んだよ」
「失礼します」
イングリッドは、未だに若干苦々しい表情のままだったが、エドウィンが決めたことに逆らうつもりはないのか、すぐに表情をもとに戻した後、一礼して姿を消した。
「……さて、束の間の退屈しのぎにでもなればいいが……」
再び1人になった室内にて、エドウィンは楽しそうに呟いた。
――――――――――――――――――
「ねぇ、京士郎、少しいいかしら?」
「…………何?」
京士郎が自身の能力強化の為に深夜にオークを狩り始めてから約2ヶ月がたっていた。既に殺したオークの数は三桁をとうに超えており、もう京士郎自身でも何人殺したか覚えていない。段々とオークを殺すことに何も感じなくなってきた自分に京士郎自身気味悪さを感じているが、同時に力がついていることも分かっているため、やめるつもりはなかった。
そんなある日の夜。京士郎は不知火に呼び出されていた。ここ最近は休み無しで東京キングダムにオークを狩りに行っているため、若干寝不足の京士郎は若干反応が遅れる。
「私、これから任務で少し遠出しなくちゃいけなくなったの。その間、家事諸々をお願いしたいの。一応、お隣さんにも何かあったら手伝ってもらえるようにお願いしておいたし、洗濯とか掃除とかは終わらせておいたけど、ゆきかぜのこと、お願いね?」
「……わかった」
とりあえず自分のオーク狩りがバレたのではないと知った京士郎は内心で胸を撫で下ろし、頷いた。流石の京士郎も、そんなときにまでゆきかぜを独りにしてオーク狩りに行くつもりはなかったため、家事を自分がやらなければならないということをしっかりと覚えておいた。
だが、京士郎は東京キングダムで対魔忍が堕ちた姿を散々見てきたからか、一抹の不安も抱いていた。
「……母さん」
「ん? 何?」
「……気をつけて」
「っ……ええ、もちろんよ」
不知火は一瞬、ほんの一瞬だが、無表情を貫くはずの京士郎の表情に影がさしたのを見逃さなかった。
京士郎は、この世の地獄というものを知っている。他ならぬ彼自身がその苦しみを、感情も痛みすらも忘れるほどの時間晒され続けたのだ。
不知火は京士郎のその優しさが痛いほどにわかったからこそ、京士郎を抱きしめた。
「大丈夫よ。私は強いから」
京士郎は不安に思っていたことは事実だ。この半年で、京士郎はこの世界での暮らしにもだいぶ慣れてきた。彼の中では、まだ気恥ずかしさの方が勝るのか不知火の事を不知火さんと呼んでいるが、その認識は自分の母ということに間違いない。
子供を得て、半ば隠居気味になっていた不知火にまわってきた任務。元々は井河アサギと並んで最強と謳われていた水城不知火にまわされた任務。当然、並大抵のものではないはずだ。京士郎は嫌な予感を感じずにはいられなかった。
――――――――――――――――
不知火さんが任務に行くらしい。それ自体は別に俺がどうこう言えることじゃないし、不知火さんが俺が心配する必要が無いことくらいは分かる。
けどさ、まぁ、真夜中のオーク狩りで散々任務に失敗した対魔忍を見てきた俺としてはね? 不安にもなるわけですよ。何せ成功例は見たこと無いのに失敗例ばっかり見てきたからね。不安になっちゃったとしても俺は悪くねえ。
「それじゃあ、行ってくるわね。ユキカゼの事、頼んだわよ」
とはいえ、だからって俺に何かできるわけじゃない。というか不知火さんは噂に聞く限りでは対魔忍の中でも最強クラスらしいからいくら俺の能力がチートだとしてもかえって足を引っ張りかねない。
俺の能力は段々強くなってきているけど、俺がオークを狩る手段なんて対魔忍をレイプしている所を後ろからブスリ。複数人いたとしても1人死んで浮足立ってる所をブスリがほとんどだ。まだオークとしか戦ったことがないからよくわからないけど、多分まだ実力者を相手に出来るほどの実力はない。そんな状態で下手に首を突っ込んでもミンチよりひでえ死体にされかねない。俺だって死ぬのはごめんだ。
まぁ、それでも万が一の時のために行き先くらいは聞いてもいいかもしれない。
「……何処?」
「え……すごく、遠い所よ」
むむむ、場所すら教えてくれないのか……これは相当やばい場所と見ていいな。少なくとも俺が現状知ってる中で一番ヤバイ所は授業でも習った東京キングダムだ。それすらも言わないということは冗談抜きで更にやばい所ということだ。万が一にも、俺やゆきかぜを巻き込まないために。
「……いってらっしゃい」
「ええ」
それだけを言い残して、不知火さんは行ってしまった。
今更になって、後悔の念が俺を襲った。いや、今ならまだ間に合う。でもそんな勝手が俺に許されるのか。ああだめだ、今とんでもなく面倒くさい思考回路してるって自分でも分かる。いやでもやっぱり嫌な予感しかしないから居場所だけでも聞いたほうが……
そんな思考回路を俺が繰り広げている間に、不知火さんは行ってしまった。うん、ただのバカだね。
―――――――――――――
「ふぁ……おはよ、京兄」
「……おはよう」
俺がどうするべきかを悩んだまま寝落ちしてしまった翌朝。その日から朝食は俺が作らなければならなくなってしまったため、不知火さんが作り置きをしておいてくれたものと合わせて適当な朝食を用意する。
「あれ? お母さんは?」
「……任務」
「え、珍しいわね」
ゆきかぜからしてみれば、母の不知火さんが任務に出ることはあまり珍しいことではないのか、若干驚いただけで終わってしまった。俺の心配のし過ぎで終わればいいんだけど……
「……何処?」
「んー、お母さんが行かなきゃならないレベルだと、ヨミハラとかじゃないかしら」
約半年の生活の中で、詳細を省略してもゆきかぜに俺が言わんとすることが伝わるようになってきた。なんかこういうのいいよね、以心伝心的なさ。
とはいえ、ヨミハラか……なーんか授業で言っていた気がしなくもないけど授業中なんて大抵意識が朦朧としているからなー、こんな事になるならもっとマジメに聞いとくべきだった。
何にせよ、調べることが必要だ。今日図書館にでも行って調べればあるだろう。まさかゆきかぜでも知っているのに図書館に出ていないなんてことはありえないだろう。
―・―・―・―
「…………」
うん、まぁ、フラグだったよね! 調べるって決意してから数日学校の図書館で調べてみたけど、血気盛んな対魔忍を抑えるためなのか何なのか知らないけどヨミハラは日本某所にある地下深くに形成された地下都市ってことしか分からなかった。冷静に考えたら水城家って不知火さんは言わずもがなだしゆきかぜだって将来有望って言われてたから普通の人が知らないことを知ってても別に不思議じゃないよね……
とはいえ、ゆきかぜにそのことを聞いても場所までは知らなかった。
うーん、大丈夫だとは思うけど、やっぱり不安なものは不安だ。足を引っ張るかもしれないけど、それでも何処に居るかくらいは知りたい。
「…………」
そんな俺は、門限ギリギリまで図書館で調べ物をしていたからか、もう夕方っていうよりは夜の時間帯に帰路についていた。この体のせいかは知らないけど、夜になると昼に比べて当社比三割増しで元気になる感じがする。まぁ、あくまで気がするだけだから先入観とか色々ありそうだけどね。
今日の夕飯は自分が作るのだったか。さて、何を作ろうか。そんな感じで、のんきに考えていた。
自分の身体に突き刺さる、殺気に気がつくまでは。
「っ!!」
長い束縛生活の成果なのか夜になって神経が過敏になっているせいなのかは知らないが、俺は殺気が飛んできた方向を一瞬で見極めてそちらを向いた。既に掌には杭を生成して、いつでも射出可能な状態にしてある。
「ここまで近づかねば気づけないとは、仮にもブラック様に期待されている身なのだ。あの方を落胆させるようならば死より恐ろしい苦痛を与えるぞ?」
そこにいたのは、マントを羽織った騎士姿のピンク色のロングヘアが目立つ女の人だった。この世界基準で言っても美人さんだけど、今はそんな事を言っている暇はないレベルで殺気を叩きつけられている。結構魂を吸収したつもりだけど、だからって喜んで死ぬような性癖は持ち合わせていない。俺は最大限警戒し、目の前の突如現れた騎士さんに意識を向ける。
「貴様が、水城京士郎だな? 一緒に来てもらうぞ」
「…………」
間違いなく、一瞬でも気を抜けば彼女が携えている剣で真っ二つにされる。だからこそ、彼女の一挙一投足全てに注意していると、いきなり何を言い出すかと思えばデート()のお誘いだった。間違いなくこれに乗れば得体の知れない施設に連れてかれてナニカサレルパターンだね。ただでさえ人間やめてるって周りから言われてるのにこれ以上人間をやめるつもりはない。
というかせめて名乗れよ女、戦の作法も知らねえか?
心の中で言いたい事を言った後に、落ち着いて言葉を紡ぐ。
「……目的は?」
「ブラック様がお待ちだ。お前も魔族の端くれならば、その栄誉を喜べ」
いや、だから知らねえよと。こっちはブラック様なんて知らないし騎士さんからしてみればそのブラック様と面会できるのは名誉なことなのかもしれないけど明らかにろくでもない所に連れてかれる気しかしない俺としては罰以外の何物でもない。
というかそれ以前に身体は魔族かもしれないけど俺をあんなレイプ魔集団と一緒にしないで欲しい。
「……断ったら?」
「拒否権などない。力尽くでも連れて行くまでだ」
……まだ断るって断定していないのに臨戦態勢に入られた件について。いやいやいや冗談じゃない。こんな奴が崇拝する奴とか絶対ヤバい奴だって。きっとちょっとでも気に入らないことがあったら雑草むしる勢いで命を奪うような奴に違いない。
さて、一旦落ち着いてここでシミュレーションをしてみよう。
ルート1:このまま大人しく従ってついていき、ブラック様とかいう人に会いに行く。
そのブラック様と面会してわけも分からぬ内にナニカサレルかミンチよりひでえ死体にされる。
ルート2:この場で全力応戦して助けが来るまで耐える。
構えからしてガチなこの人が相手だと多分5分も保たずにミンチよりひでえ死体にされる。
……おかしいな、ミンチ以外の選択肢がない。
いや、まだそのブラック様がそんな世紀末覇者な人だと決まったわけじゃない。そもそもどの組織に所属する人なのかもわからないし、だったらまだそっちについていったほうが……
「……わかった」
「ふん、最初からそう言っておけばいいのだ」
俺はあいにくと主人公のように明らかに自分より格上と分かるような奴に挑みかかるような勇気は持ち合わせていない。頭の中で必死にそう言い訳をして、俺はその騎士さんについていった。
――――――――――――――
というわけで、やって参りました! ヨミハラ!
……って待てコラ! ブラック様が何者なのかは知らないけど思いっきり敵の本拠地じゃねえか! 地下深くとは聞いてたけどなんかめっちゃ速く動くエレベーターみたいなのに突っ込まれて数時間かかるってどんだけ深いんだよここ! しかもヨミハラの中でもいかにもヤバそうな豪華な建物に連れてかれたかと思えばなんかいかにもなVIPルーム的な雰囲気が立ち込める扉の前に騎士さんと一緒に立たされてるってどういうことだよ! ガァチじゃねえか!
と、まぁ端的に言って俺は冷静を失っていた。表情筋が仕事をしていたら敵の本拠地でとんでもない無様を晒していたことは間違いない。
「この部屋にブラック様がいらっしゃる。万に1つも不敬な真似はするなよ?」
「……わかった」
ワンチャンここで俺がそのブラック様を倒せばちょっとは手柄になるんじゃね? とも思ったけどやめた。その後ミンチになることが見え透いているからね。
「ブラック様、Kを連れてまいりました」
「ご苦労、入りたまえ」
騎士さんがノックをすると、中からダンディないい声が聞こえた。騎士さんは扉を開けて、一礼した後に部屋に入った。失礼な真似をすると愉快なオブジェにされるというお墨付きだから、一応俺もそれに倣って礼をしてから部屋に入る。
そこにいたのは、スーツを身に纏った銀髪の美丈夫だった。その整った顔に浮かべた笑みはどこか楽しげで、それでいて何を考えているのか俺にはさっぱりわからなかった。
「イングリッド、君は下がって構わないよ」
「……失礼します」
騎士さん、イングリッドさんはちょっと不満気な表情を浮かべたけど、その後すぐに一礼をして退出し、扉を閉めた。
部屋の中にいるのは、俺とブラックだけになった。
ブラックから放たれているものであろう尋常ではないプレッシャーが俺の身体を包み込んだ。敵意があるわけではない。むしろそれ以前の問題。蟻が像の前に立たされたような、どうしようもない格の差を感じさせられた。
「初めまして、水城京士郎君。ああ、別にそう縮こまる必要はない。今日はあくまで、同類である君をアリーナに招待しただけなのだからね」
ブラックはその笑みを消すこと無く、俺に話しかけた。正直、何で冷や汗をかいていないのかが不思議なほどのプレッシャーだったけど、とりあえずすぐさま俺をどうこうするつもりがないということを確認した俺は一旦力を抜いた。無論、警戒は少しも解いてはいない。
同類。ブラックが吸血鬼なら、確かにそうなのかもしれない。俺の身体が吸血鬼になっているということは、不知火さんから教えてもらった。別に日の光に当たったら灰になるわけでもないし、ニンニクの臭いで死にかけるなんてこともないから、今の所は特に苦労はしていないから気にもしなかった。
けど、こうして敵と同類だと言われると、少し虚しいというか、悔しいというか、なんとも言えない感情が胸の中に広がった。
とりあえず、今は少しでも情報を集めるほうが先決だ。俺は慎重に言葉を選んで喋った。
「……アリーナ?」
「そう、ここの娯楽の1つだ。上質なものとは言えないが、まぁ、退屈しのぎにはなるだろう」
……その退屈しのぎに何故俺が付き合わされなければならないのかとも思ったが、まあ接待ゴルフ的な何かだと考えれば不自然なことではない。
ブラックが俺とどんな関係を築きたいのかは分からないが、とりあえずここはのったほうがいい。俺はとりあえず頷いた。
「ふむ、実際に見たほうが早いだろうね。特等席を用意してある。ついてきたまえ」
そう言って、ブラックは俺に背を向けて歩きだした。ここがどこなのかもわからない以上、俺はブラックについていくしか無かった。
――――――――――――――
いつだって夜のその都市で、京士郎は見てしまった。
京士郎の大切な人が、無残な姿で戦いの場に立たされているのを。
本来なら歯牙にもかけないオーク達に、好き放題殴られ蹴られているのを。
ボロボロになったその状態で、レイプされているのを。
それを見て、観客たちが汚い欲望に塗れた歓声をあげているのを。
自分が、自分でなくなっていくのを感じていた。
視界が赤く染まっていくのを感じていた。
ああ、いつだってそうだ。
あの時も、
あの時も、
あの時もあの時もあの時もあの時もあの時もあの時もあの時もあの時も、
夜は全てを壊してしまうから。
夜は全てを奪っていくから。
夜に無敵となる魔神になりたい。
畜生共の血を絞り出し。悲劇に幕を降ろしたい。
枯れ落ちろ下郎共。
―――――
「
激情と共に、その夜は発動した。
ブラック様の口調わかんない……もう本編の記憶なんて遠い昔の話だよ……
あとエロシーンいつ入れるの……
最後が読みくくてすみません。不気味な感じにしてみたかったんです。あとわかる人にはわかると思いますが、何がとは言いませんが既にズレています。